■ 連載:肢体不自由児向けのICT機器(現代)
■□ 連載:ミシガン大学リハビリテーション見聞録1
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■ 連載:福祉・特別支援教育におけるICT機器~過去から未来へのICT機器の活用を考えてみよう~
第2回 肢体不自由児向けのICT機器(現代)
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肢体不自由者への支援は、ICT機器の発展により大きく進化してきました。これらの技術は、身体の動作が制限されている人々が自立的に学習し、コミュニケーションを取り、日常生活を送るためのサポートを提供しています。以下、具体的なICT機器を活用した支援方法について説明します。
1.入力デバイスのカスタマイズ
(1)スイッチ入力
スイッチ入力デバイス:肢体不自由者にとって、標準のキーボードやマウスを使用することが難しい場合があります。このため、ボタンやレバーなど、身体の動かせる部分に合わせた「スイッチ」入力デバイスが開発されました。手や頭、足、さらには息を使って操作できるスイッチがあり、これらを使ってコンピューターやタブレットを操作します。
※参考 意思伝達装置用スイッチ 国立障害者リハビリテーションセンター
シングルスイッチスキャン(オートスキャン):複数の選択肢の中から1つを選ぶために、スキャン方式を利用する場合もあります。画面上で選択肢が順番にハイライトされ、それをスイッチで選択する方法です。
複数スイッチスキャン(ステップスキャン):画面上で選択肢を一つのスイッチで選択し、それを別のスイッチで決定する方法です。複数のスイッチが利用できると本人の操作ストレスは大きく軽減することが可能になります。
(2)目の動きによる操作
アイトラッキング:眼球の動きを追跡してコンピューターを操作する「アイトラッキング」技術が活用されています。この技術により、肢体不自由者は視線で画面上のポインターを動かし、文字入力やクリックを行うことが可能です。これにより、手や足を使わずにパソコンやデバイスを操作できるようになります。
視線入力:視線入力ソフトウェアは、アイトラッキング技術と組み合わせて使用され、視線を固定することでクリック操作を行ったり、スクロールしたりすることができます。
※参考 ポランの広場 福祉情報工学と市民活動
(3)音声入力
音声認識技術:音声入力システムを使うことで、肢体不自由者は声だけでテキストを入力したり、デバイスを操作したりできます。たとえば、Google AssistantやSiriのような音声アシスタントを利用して、メールの送信や情報検索を行ったり、メニュー操作をしたりできます。特に、WindowsやiOSに組み込まれている音声認識機能を使えば、音声でほとんどの操作が可能です。
2. 環境制御装置(ECU: Environmental Control Units)
スマートホームテクノロジー:肢体不自由者は、家の電気やテレビ、エアコン、ドアロックなどの家電を操作するためにスマートホーム技術を使用しています。これには、音声コントロールやスマホアプリを使って家電を遠隔操作する方法が含まれます。特に、障害者用にカスタマイズされたインターフェースを使用することで、簡単に生活環境をコントロールできるようになります。
リモートコントロールデバイス:環境制御装置に接続されたリモコンやアプリを使用し、肢体不自由者が自分の周囲の環境を自分でコントロールできるようにします。これにより、介助者に頼らずに生活の一部を自立して送ることが可能になります。
※参考 快適生活・暮らしのヒント-近未来生活 スマートスピーカー×ニューノーマル×スマートリモコン
3. 学習支援とコミュニケーション支援
(1)AAC(補助代替コミュニケーション)デバイス
AAC(Augmentative and Alternative Communication)機器:言語によるコミュニケーションが難しい肢体不自由者は、AAC機器を使ってコミュニケーションを補助することができます。これには、文字や絵を使ったコミュニケーションボード、もしくはコンピューターやタブレットにインストールされた専用ソフトウェアが含まれます。音声合成機能を使って、入力された文字や絵を読み上げることで、会話ができるようになります。
**絵カードやシンボルコミュニケーション**:iPadやAndroidタブレット上で動作するアプリが広く使われており、シンボルや絵をタップすることで意思を表現できます。たとえば、「Proloquo2Go」などのアプリは、簡単な操作で言葉を生成し、相手に伝えることができます。
(2)特別な学習ソフトウェア
学習用ソフトウェアやアプリ:肢体不自由者向けに開発されたソフトウェアやアプリケーションを使用することで、学習の機会を提供できます。たとえば、絵を使った学習アプリや、タッチ操作が可能な学習教材を活用し、タブレットやPCを通じて教育をサポートします。また、音声での指示や視覚的なフィードバックを提供することで、肢体不自由者が容易に操作できるように設計されています。
4. リハビリテーション支援技術
(1)ロボット義手・義足
ロボットアームや義手・義足:近年、ロボット技術を応用した義手や義足が開発され、肢体不自由者の運動能力を補助するために使用されています。これにより、物を掴んだり、操作することができるようになり、生活の自立度が向上します。センサーが体の動きを検知して動作する義手や義足も登場しています。
(2)バーチャルリハビリテーション
VRリハビリ:仮想現実(VR)技術を使用したリハビリテーションが行われるようになってきています。これにより、肢体不自由者は現実の世界では難しい動作を仮想空間内で行い、身体機能の回復を目指すことができます。ゲーム感覚で行うリハビリテーションは、従来のリハビリに比べてモチベーションを高める効果があります。
5.遠隔学習と在宅勤務支援
遠隔学習:ICT技術を活用することで、肢体不自由者が遠隔地から学校に参加したり、在宅で学習することが可能です。オンラインクラスやeラーニングプラットフォームを使用し、身体的な制約があっても質の高い教育を受けることができます。
在宅勤務:パソコンやインターネットを利用することで、肢体不自由者が在宅で仕事を行える環境も整っています。特に、特別な入力デバイスや音声認識技術を使用することで、遠隔地からの業務参加が容易になりました。
6.まとめ
肢体不自由者への支援は、ICT技術の発展により大幅に改善されてきました。スイッチ入力や音声入力、アイトラッキングなどの入力支援技術、AACデバイスによるコミュニケーション支援、スマートホーム技術、そしてリハビリテーション支援まで、さまざまな場面でICTが肢体不自由者の自立を助けています。これらの技術の導入で、肢体不自由者はより自由に生活し、社会参加できるようになっています。
◆高松 崇
NPO法人支援機器普及促進協会 理事長
関西大卒。ICT・福祉情報機器コーディネーター。
民間企業のシステムエンジニアなどを経て43歳で独立。2011年、障害児・者の学習や生活支援用の機器を提供するNPO法人「支援機器普及促進協会」を長岡京市に開設した。
現在は京都市教委総合育成支援課専門主事なども務める。長岡京市在住。
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■ 連載:小児リハビリテーションを学びたい!若手リハ医の奮闘記第2回 ミシガン大学リハビリテーション見聞録1
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今回から3回にわたり、2021年4月から2023年3月まで約2年にわたりミシガン大学リハビリテーション科で経験した留学生活についてお話ししていきたいと思います。
Dr. Hurvitzとの出会い
リハビリテーション科医を志した頃から小児リハビリテーションを専門にしたいと考えていましたが、日本では小児リハビリテーション専門医等の資格制度がなく、医局制度の制約もあり、なかなか学ぶ機会に恵まれませんでした。そんな中、夫の留学に帯同することが決まり、「せっかくならアメリカで小児リハビリテーション医学を学びたい!」と思い立ちました。
勇気を出して、ミシガン大学リハビリテーション科の当時の教授であったDr. Hurvitzにメールを送ることにしました。全く面識のない教授へのメールは非常に緊張しましたし、英語も得意ではない私は、翻訳ソフトの力も借りながら何度も推敲を重ね、ドキドキしながら送信ボタンを押したのを今でも覚えています。
驚いたことに、1時間もしないうちに返信がありました。「OK! 給料が出なくて大丈夫ならいつでもどうぞ。家は用意できないけど、簡単なオフィスとPCくらいは用意するよ」という内容で、そのフットワークの軽さとウェルカムな雰囲気に随分と拍子抜けしました。さらに幸運なことに、Dr. Hurvitzは小児リハビリテーション医学、特に脳性麻痺を専門としており、ちょうど新しい研究を始めようとしていたところだったのです。こうしてトントン拍子に、私のミシガンでの留学生活が始まりました。
〇ミシガン大学とアメリカの医師育成システム
ミシガン大学はアメリカミシガン州のアナーバーという都市にあります。北海道の富良野市とほぼ同じ緯度に位置し、真冬には-20℃にもなる非常に寒い場所です。しかし、州のモットー"Si Quaeris Peninsulam Amoenam Circumspice.(美しい半島を求めているなら、あなたの周りをご覧なさい)"にあるように、五大湖をはじめとした豊かな自然に囲まれたとても美しい場所です。
ミシガン大学病院は、人口約1000万人のミシガン州の医療の中核を担う機関です。ミシガン大学リハビリテーション科は80名程のドクターが在籍する大所帯で、そのうち約30名がPh.D(研究専門)のドクターです。日本とは異なり、アメリカでは研究に特化したドクターの存在が一般的です。
アメリカで医師になるには、4年制大学卒業後、4年間のメディカルスクール、1年間のインターン(日本の初期研修医に相当)、3年間のレジデント(専門科研修)を経て、さらに専門分野のフェローに進むのが一般的です。日本では高校卒業後、医学部に直接入学するケースが多いのに対し、アメリカでは大学や専門学校を卒業後、さらには社会人経験を経てから医学部に入学するケースも珍しくありません。
ミシガン大学でも、ダンスや考古学を専攻した後、メディカルスクールに入ったという先生もいました。アメリカの多様性を受け入れる土壌を感じたエピソードでもあります。また充実したフェロー制度により、リハビリテーション科内でも脳卒中、脊髄損傷、頭部外傷、筋骨格系疾患、癌リハビリテーション、小児などの専門分野が細分化されています。ミシガン大学リハビリテーション科では、約10名が小児リハビリテーション専門医でした。
〇外来診療で感じた日米文化の違い
いよいよ留学初日、小児リハビリテーションセンターという外来クリニックを訪れると、アイスクリームのネクタイをした陽気なDr. Hurvitzがビッグハグで迎えてくれました。この温かい歓迎が、私の新しい挑戦の始まりを象徴するものとなりました。
留学中は主に外来診療を見学しながら、研究のために脳性麻痺の患者さんの握力等のデータを取っていました。まず一番驚いたのが、外来時間の豊富さです。ミシガン大学の小児リハビリテーション外来では、新患で60分、再診で30分と1人あたりの診療時間が日本に比べ非常に長く設定されていました。また、「神経筋疾患クリニック」「二分脊椎クリニック」「大人の脳性麻痺クリニック」「ダウン症クリニック」といった疾患名がついたクリニックも特徴的でした。中には「シャルコーマリートゥース病クリニック」のように比較的珍しい疾患のクリニックもありました。
日本では一般的に、外来の部屋に医者がおり、そこを患者さんが訪れるスタイルですが、ミシガン大学では部屋に患者さんが待機しているスタイルです。これにより、例えば筋ジストロフィーなどの患者さんが訪れる神経筋疾患クリニックでは、脳神経小児科医、小児リハビリテーション科医、リハビリテーションチーム(理学療法士、作業療法士、言語聴覚士)、装具士、ソーシャルワーカー(MSW)が、また二分脊椎クリニックでは小児脳神経外科医、小児泌尿器科医、小児リハビリテーション科医、リハチーム、装具士、MSWというように編成を変えて、順番に各患者の部屋をローテーションしていきます。
1回の訪問あたりの滞在時間は長くなりますが、車社会のアメリカで遠方から通ってくる人も多く(車で4時間なら近い!と患者さんが言っていたのが印象的です)また特に通院が難しい方が多いリハビリテーション科の患者さん達には非常に良いシステムだと思いました。
外来診療を見学する中で特に強く感じたのが、患者さん達の自主性です。疾患に対し、いくつかの治療法を提案した時に、最近では多少減ってきたものの日本ではまだまだ「先生にお任せします」や「どうしたらいいですかね?」とたずね返されることは少なくありません。ミシガンの外来診療でも同様に治療法を提案する場面は多々ありましたが、私の記憶のなかで「先生にお任せします」と言われたことは一度もなかったと思います。
小児リハビリテーションでは、痙縮のある子供達にストレッチなどの自主トレーニングを教えることが多くありますが、子供達が10歳くらいになるとミシガン大の先生達が「take your body's ownership」という言葉をよく使っていたのを思い出します。自分の体のオーナーシップは自分でとる、その上でストレッチや自主トレーニングをするメリット、しなかった時のデメリットを伝え、自分で選んだ結果に対して責任をもつ。アメリカの治療に対する自主性を育む片鱗を学んだ気がしました。
患者さん達の自主性は診療場面以外にも感じることがありました。アメリカで学会や研究会に参加すると、これはひょっとするとリハビリテーション科の特徴かもしれませんが、非常に多くの患者さんが参加しているのを目にします。アメリカ脳性麻痺学会に参加した際にポスターセッションでポスター横に立っていると、非常に熱心に質問してくださる車椅子の方がおり、質問内容も非常に専門的であったことからてっきり研究職の方だと思っていたら、脳性麻痺の患者さんで医療とは全く関係ない職についていると知り大変驚いたことがありました。
※アメリカ脳性麻痺学会(AACPDM)にてDr. Hurvitzと
さて、次回は、アメリカのリハビリテーションの制度の部分や学校教育との関わりについてお話ししようと思います。
◆杉山 智子
昭和大学江東豊洲病院リハビリテーション科助教
医師の初期研修終了後、燃え尽き症候となり沖縄三線を片手に放浪。
美容皮膚科医等を経て、自分が目指していた医師像「障害のある方の人生に寄り添いたい!」を思い出し、昭和大学リハビリテーション医学講座に入局。
2021年よりミシガン大学で小児リハビリテーション医学を学ぶ。
■□ あとがき ■□--------------------------
幕張メッセで10月9日から3日間開催された介護・看護EXPOの児発放デイフェアに出展しました。とてもたくさんの方にお越しいただき、脳バランサーキッズとライフスキルについてご説明させていただきました。次回はインテックス大阪で3月5日(水)~7日(金)に開催され、レデックスも出展します。ぜひお越しください。
「こども発達支援セミナー」も後半を以下のように実施します。
10月31日(木)福岡 福岡商工会議所
11月5日(火)岐阜 じゅうろくプラザ
11月6日(水)名古屋 愛知産業労働センター(ウインクあいち)
また、会場に来られない方のためにオンラインこども発達支援セミナーを3回開催します。
11月7日(木)、12日(火)、13日(水)※すべて同一内容
時間はいずれも午前10時から11時45分です。
お申込みはこちらから↓
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現在、子どもの福祉サービスを解説しており、第2回は「児童発達支援の種類と内容」についてお話しします(10月28日公開予定)。ぜひご覧ください。
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