教示以外の「学び」の方法

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2021.05.28

教示以外の「学び」の方法

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■   新連載:デジタル教材の作成テクニックを学ぶ
■□  連載:「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、一人ひとりができることを
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材「デジタル教材の作成テクニックを学ぶ」
                         第1回 教示以外の「学び」の方法を
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0.はじめに
今年5月29日は三宅なほみ先生※1の7回忌で、メモリアルシンポ「学びと教育の未来を拡げる」が開催されます。三宅先生は、AIの基礎となった認知科学※2の研究者で、その領域の重要な領域として「学び」を研究してこられました。

※1 三宅なほみ wikiページ 
※2 認知科学 wikiページ 

三宅先生は、「(真に)分かってこそ、その知識や概念をその人が生活の中で活かせるようになってこそ、学びが実現される」と考えました。「内容を伝えるだけでは不十分で、さらなる工夫が必要だ」と主張されました。そして学びのメカニズムを考えることを目的として立ち上げられたのが学習科学です。

筆者は、三宅先生や佐伯胖先生の研究に啓発を受けながら、学びのデジタル・コンテンツの開発に長年取り組んできました。その経歴から、公的機関等にデジタル教材の審査を依頼されることも多く、その中で数多くのデジタル教材に接したのですが、「教えたい内容を分かりやすく提示したものが教材」と考えている人がほとんどだと感じました。

そこで、筆者が三宅先生から学んだことを、多くの人に知ってもらいたいと、子どもゆめ基金の助成を得て開発したのが、Webページ「デジタル教材の作成テクニックを学ぶ」です。

※3 デジタル教材の作成テクニックを学ぶ 

このWebページでは、学習者が「分かるに近づく」ための、5種類の展開を解説しています。展開とは、学習する場面をどのように作り、そこで、学習者がどのようにふるまうように誘導するのか、といった意味です。1種類の展開につき、それぞれ2つの教材を用意し、さらに従来の教材と比較することで、その展開の意味とそれを実際の場面に応用するヒントを解説しています。

5種類の展開
(1)応答する環境(または内省)
(2)本物性
(3)足場がけ
(4)視点の移動
(5)頭に入る大きさの情報

今回の連載では、この5種類を3回に分けて解説していきます。名称こそ、デジタル教材の作成テクニックとしていますが、教育に関わる人であればどなたでも、学習者と接する際のヒントとして活用していただけるのではと考えています。それぞれの展開を知った後には、ご自分なりの状況で、工夫してみていただければと思います。

1.応答する環境(または内省)
『応答する環境』という概念は、教育や心理学の世界に古くからあるものです。人が何かをしようとして物体や他者に働きかけると、それらの対象は働きかけ方によってさまざまな変化をします。その反応を見られるようにし、何度でも働きかけができるようにすれば、働きかけの意味が理解でき、また、働きかけ方をだんだんと修正していくことで、よりよい働きかけの仕方を知ることが、学びにつながるという考え方です。

言葉だけではイメージを持っていただくことが難しいと思いますので、メルマガの読者の方には下記リンクから教材を実際に操作していただいてから、続きの説明を読んでいただければと思います。

応答する環境(または内省) 

1-1.カラーコーディネート
色の組み合わせによる効果を学ぶ教材です。同じ下絵でも着色の仕方によって印象が変わります。例えば、絵を見る人に、その情景が朝と思ってもらいたいのか、それとも夕方と思ってもらいたいのかによって、使う色の選択が変わってきます。また、一つの色だけでなく、色の組み合わせによっても印象が変わってきます。

そういったことを学んでもらおうと思ったら、一番よいのは、学習者に実際に色を塗ってもらい、それを自分の目で見て、学んでもらうのが効果的なのではないでしょうか?

絵の具で描くと、同じ下絵に異なる着色をすることができません。また、色自体をいろいろ変えるのも簡単ではありません。この教材では、色自体を自由に変化させることができ、自分が作りたい色を作り出すことができます。また、実際に塗ってみて効果を目で確かめることができます。様々な色を使い、色の組み合わせの効果を目で確かめながら、色の使い方を学ぶことができます。

1-2.読点による文意の変更
学習指導要領では小学4年の国語で、読点の使い方を学びます。まずは、次の文を読んでみてください。

例) ここではきものを脱いでください。

「はきもの」を脱ぐのか、「きもの」を脱ぐのか、このままでは分かりませんね。つまり、読点は、文が複数の意味にとれる場合に、どちらかの意味かを明確にするために使うものです。ですが、読点をどこに打つとどんな意味になるのかを想像するのは、たくさんの文を読んだ経験のない子どもには難しいものです。

この教材では、「打てそう」と思える複数の箇所を明示し、そのいずれかに読点を打つことができます。読点を打つと、その部分にスペースが入り、また、その場合のシチュエーションがイラストで示されます。別の場所に打つと、別の情景のイラストが示されます。

このWebページでは、それぞれの教材について、従来の模範的な教え方も紹介しています。いかがでしょうか? 知ってほしいこと、できるようになってほしいことを説明するやり方の他に、学んでほしいことを実際に使ってみられるようにしておくという展開があります。自分だったらこうしてみる、ということが自由に試せ、また、その結果を自分の目で見ながら、やり方を学んでいくことができます。

展開の題名の末後に「または内省」と付け加えています。内省は、英語で reflection。自分の心の中で、いろいろな場合を想定しながら考えてみることです。この内省のやり方を知ることも、重要な学びの目標の一つです。心の中で行うことを外在化(実際に見られるように)することで、内省という学びや理解の方法についても学んでもらえればと思います。

次回は、展開の二番目と三番目の「本物性」と「足場かけ」を解説します。

◆五藤 博義(Hiroyoshi Goto)
東京大学教育学部卒業、学びと発達の支援に40年間、取り組む。
レデックス株式会社代表取締役 主幹研究員


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 ■ 連載:SDGsとは未来を変える目標、一人ひとりにできることとは?(最終回)
                     第5回 「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、ひとりひとりができることを
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4月27日に、中学生から読める書籍『10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること』が発刊されました。著者として、その本に書かれているSDGsについて、ダイジェスト版でお伝えする連載の最終回です。

SDGsを達成するために、「誰一人取り残さない社会」の実現に向け、企業や行政、学生も含めて、たくさんの活動が行われています。今回は、最終回ということで、この本の制作に力を尽くしてくださった監修者の先生方の思いをつづりたいと思います。お2人との出会いがなければ、この本はできなかったのです。

国連でSDGsの策定に携わった本書監修者の井筒節先生と堤敦朗先生は、若者こそがSDGsの担い手であると語っています。

〇SDGsと未来:若者の役割
SDGsができた後、先生たちは、SDGsの実施とその先の未来は若い人たちの手の中にあると考え、大学教員となりました。目標やルールができた後は、それを実施していくのが重要です。そのためにはたくさんの人の力が必要ですから、世界の現状を伝え、世界の目指す未来を実現するための仲間づくりをしたいと思ったのです。

子どもの頃、パソコンも携帯もなかった私たちと違い、今の若者はインターネットで様々な情報にアクセスでき、多様な人や世界を知ることができます。新しいアイデアを出したり、行動したりする若者が大勢います。世界人口の4人に1人が若者の今、未来がとても楽しみになります。

〇「何をすればよいですか?」への 答え
未来や世界のことを考える時に大切なことは、「見えないものに目を向け」、「聞こえない声に耳を傾ける」ことです。人の気持ちや心、思い、積み重ねてきた努力や、文脈・行間は、目に見えにくいものです。そして、一つのアクションが、他者の気持ち、別の分野、外国、未来にどのような影響を与えるのかも、なかなか目に見えません。

例えば、Aというものを使わないようにしようというムーブメントがあった場合、Aによる環境被害は減るかもしれないけれど、代わりに使用するBによる環境被害は短・長期的にないのか、Aをなくすことによる弊害はあるのか、環境以外の分野における影響はどうなのか、傷つく人はいないか、周辺化されがちな人々への害はないかといったことを、エビデンスに基づいて検証することが大切です。

また、情報化社会と言われますが、多くの人々は自分の本当の声を公に発信しませんし、サイレント・マイノリティーの声は意識的に拾おうとしても難しいくらいです。国連の障害者権利条約で「私たちのことを私たち抜きで決めないで」がスローガンとなったように、何かを決める時には、様々な当事者と共に、いろんな声を反映しながら進めて行くことが大切です。

入試でよく出題される小論文では、例えば、「賛成」か「反対」とか、「C」か「D」のどちらかを選んで、論理的に文章を展開する方法を学びますよね。でも、それは論理や説得力のある議論の組み立て方を学ぶためのものです。実際の思考では、どちらかに分けられないことも多いです。なのに、現実社会でも、ついつい一方の立場をとって、別の立場を批判して、自分の優位性を主張することがあります。

実際には、どちらか一方を全肯定する必要も、相手を批判する必要もないと思います。自分と別の立場の人たちの意見を聞き、これまでどのような取組みがあって、どのような成功と限界があり、それゆえ今はこれがベストと考えるに至った歴史やエビデンスをきちんと知らなくては、長きに渡る誰かのがんばりを批判するなど簡単にはできないはずです。
ですから、専門家や実務家、当事者に教えてもらいながら、建設的に、互いに尊重・協力しながら進めて行くことが大事だと思います。

私たちも、意見を求められたら「今の段階ではこれが良いように思うけれど、別のオプションもあるかもしれない」といった答えになることが多いのです。白も黒も踏まえて、バランスをとることが大切ですね。

一人ひとりが、自分と他者の気持ちを大切にして、異国の人々の生活や、未来の人々の夢に想いを巡らすこと。そして、共通の目標に向かって、過去の蓄積や、各々の得意事や違いを生かして、前向きに力を合わせ、アクションに移していくこと。そのきっかけになるのが2030アジェンダとSDGsです。誰かの苦しみを癒すことは、自分にも周りにも幸せを与えてくれることです。そういうことが連鎖していくと素敵だと思います。

たくさんの人にSDGsについて知ってもらいたいと思い、この連載を始めました。
特に、著者である私にも監修者である先生たちにも、これから社会を担う若い人たちにこの思いを伝えたい気持ちが強かったのです。
この連載をきっかけにこの本を読んで自分たちでできることを見つけてくれるととてもうれしいです。

◆原 佐知子
フリー編集者・ライター
障害福祉や教育関係の書籍や雑誌、進学情報誌等の編集や取材・ライティングを行う。また、執筆だけでなく、コミュニケーションや発達障害についてのセミナーやワークショップ講師としても活動中。
全国手をつなぐ育成会機関誌『手をつなぐ』では、映画や本、舞台の評を不定期に連載中。
主な編著書に、『ADHD、アスペルガー症候群、LDかな?と思ったら…』、『ADHD・アスペ系ママ へんちゃんのポジティブライフ』、『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』などがある。
2021年3月19日、平凡社より「発達障害のおはなしシリーズ3巻」、2021年4月27日、大月書店より「10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること」上梓。


■□ あとがき ■□--------------------------
今回からメルマガ編集者による連載をさせていただきます。もともと教育が専門で、その目からの発達支援を取り上げようとこのメルマガを2010年に創刊しました。今回の連載は、そのルーツともいうべき「学び=発達支援」を紹介するものです。読者の皆さんからの感想やご意見をお寄せくださればうれしいです。

次号メルマガは、6月11日(金)の予定です。

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