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■□ まえがき ■□--------------------------
■ まえがき
■□ 新連載:子どもも大人も知っておきたい精神保健の基礎知識
■□■ 連載:学校の中の「あたりまえ」という偏り
---------------------------------------------------------------------------------------------------■□■ 連載:学校の中の「あたりまえ」という偏り
■□ まえがき ■□--------------------------
子どもゆめ基金のデジタル教材の第2弾として、精神保健について解説するサイトを運営するNPO法人「ぷるすあるは」にご寄稿いただきました。
子どもゆめ基金の助成を受けて開発された教材は、下記のように公開されています。「ぷるすあるは」の教材は、平成29年度その他のジャンルで採択されました。
「ぷるすあるは」からのそれに関するプレスリリースは、下記ページでご覧ください。
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■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
子どもも大人も知っておきたい精神保健の基礎知識
第1回 子どもの精神保健
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NPO法人「ぷるすあるは」は、精神保健に関するさまざまな情報発信を行っている団体です。活動の2本柱は絵本とウェブサイト。精神保健の幅広いテーマの中でも、特に親が精神疾患を抱えている子どもの応援を、ひとつの中心テーマに掲げています。
例えば、2012年に出版した最初の絵本『ボクのせいかも...ーお母さんがうつ病になったのー』(ゆまに書房)は、そのタイトルの通り、お母さんがうつ病になった小学生が主人公のお話です。家族の病気について子どもにも伝え、少しでも安心して暮らせるように、という絵本です。
※『ボクのせいかも...ーお母さんがうつ病になったのー』
運営しているサイト「子ども情報ステーション」は、小学生から大人まで、対象別の情報や、病気や障がいの情報、セルフケアのアイテム、相談先情報などを幅ひろくとりあげています。
※子ども情報ステーション
絵本のお話と絵、サイト内の全てのイラストは、精神科の看護師でもあるチアキの担当。そして、文章の執筆と編集を、医師、臨床心理士等の精神保健福祉、教育領域のメンバーで担っています。
このコラムは、子どもの精神保健がテーマです。
精神疾患の患者さんが増えている、という話題を耳にすることがあるでしょうか。厚生労働省の患者調査で、2017年の精神疾患総患者数は419万人。年々増加傾向にあります。20歳未満の患者さんはというと…27.6万人で、これは2011年調査の17.9万人からおよそ10万人増です。
精神疾患の子どもが実際に急増しているか?については、発達障害を疑われる子どもの受診が増えているのではないか、メンタルクリニック受診のハードルが昔よりも低くなり受診しやすくなった影響もあるのではないか、などの声もあり、慎重に考える必要がありますが、精神科、精神疾患は、以前よりも身近なものになっていると思います。
世界保健機関(WHO)によれば、生涯のうち4人に1人は何らかの精神疾患に罹患するとされます。数字にはあらわれない、精神的な不調をかかえながら医療未受診の人がさらにたくさんいると考えられます。
子ども自身の病気だけでなく、家族、友人知人etc… と広げて考えると、精神疾患に出会うことのない人生を送る人はいないと思います。
精神疾患は、発症のピークが10 代後半から 20 代の頃にあり、実は若者の病気でもあります。
人生の早い時期から、ときに長期にわたって影響をおよぼす病気です。
2022年からの高等学校学習指導要領で、保健体育の「現在社会と健康」のなかに「精神疾患の予防と回復」の項目が盛り込まれることになりました。およそ40年ぶりの精神疾患についての記載です。精神疾患は「ごくありふれた病気」「だれでもかかることのある病気」であること、そして精神疾患についての基本的な知識や対処法は、生きるための欠かせない知識だと思います。
このコラムでは、サイト「子ども情報ステーション」に掲載している内容から、第1回は精神疾患の総論的な話について、受診や相談を考えるポイントなど。第2回はアイテム紹介をまじえたセルフケアのヒントについてふれたいと思います。
1.精神疾患ってなんですか?
精神疾患は、脳の働きが不調になる病気です。「こころの病気」とも言われることもあります。脳は、情報の認識、思考、行動や体の機能のコントロール、感情や意欲にかかわるなど、たくさんの働きを担っています。その不調が、精神疾患として現れることがあります。ぷるすあるはでは、脳という精密な「パソコンがバグる」イメージのイラストにたとえたりもしています。
「うつ病」は代表的な精神疾患ですが、それ以外にも不調のタイプ、症状の現れ方によっていろんな精神疾患があります。上述した学習指導要領には、適宜取り上げる疾患として「うつ病」「不安障害」「統合失調症」「摂食障害」があげられています。これらは子どもや若者にもみられやすい精神疾患です。不安障害のなかに、「強迫性障害」「社交不安障害」「パニック障害」などがふくまれます。
強迫性障害をとりあげると…ある考えやイメージがくり返し浮かんできたり、同じ行動を何度もくり返してしまったりすることで、生活がスムーズにいかなくなる病気です。例えば、「手が汚染されているのではないか」と思い(強迫観念)、くり返し手を洗う(強迫行為)など。手洗い、鍵の確認などが代表的な症状です。くり返し何度も「大丈夫だよね?」と確認や保証を求めるなど、身近な人を巻き込んでしまうこともあります。
こういったことが病気の症状として起きることがある、という知識があると対応を考えることができます。
※子どもも大人もイラストで学ぶ病気や障がい
このコーナーでは、代表的な精神疾患の各論について、子どもにもわかりやすい内容でイラストつきで説明しています。ダウンロードできるまとめシートつき。
※強迫性障害についてのまとめシート
2.病気と病気じゃないの境目は? 受診や相談を考えるポイント
落ちこんだり、不安になったりしたことのない人はいないと思います。もともと潔癖なタイプの人もいますし、コロナ禍で消毒や手洗いに敏感になっている人も多いです。では、どこからが病気ですか?どこまで具合が悪くなったら受診したらいいですか?はよく尋ねられる質問です。精神科は、血液検査の数値や画像で見てわかる病気とちがい、どこまでが正常の範囲で、どこから病気の症状を疑うのか境目がわかりにくいです。
受診や相談を考える目安として、「生活に支障がでているか?」を考えます。
例えば… 勉強に集中できず成績が下がった、(視線が気になって)外出できなくなった、(シャワーに何時間もかかり)バイトに行けなくなった、(体が重く気持ちもふさぎ)好きなアーティストのイベントに行けなくなったなど、その症状が生活を狭めていないか?といったことです。
「経過はどうか?」も大切で、以前できていたことができなくなった、だんだん悪くなっていくといったときは受診や相談を考えるポイントです。
症状の期間で「2週間以上つづくとき」…がひとつの目安にされることがあります。2週間待たなければいけないということではありませんので、どんどん悪くなったり、とてもしんどいときは、早めに受診を考える方がよいと思います。精神科の初診の予約をとるのに、待ち時間があることも珍しくないです(特に児童精神科は数が限られ、予約待ちが長いことも多いです)。
眠れているか、食事がとれているか、身体の症状も気にかけます。
精神疾患といっても、特にうつ病など、身体の症状が伴うことも多いです。
睡眠や食事の変化、だるい、疲れやすい、頭痛、めまいなどのからだの症状が、きもちの症状に先行したり、きもちの症状は目立たずにからだの症状が前面にでることもあります。大人もそうですが、子どもは特に体にでやすいです。ただ、身体の病気が隠れていることもありますので、安易にこころの問題にせず、身体のケアや必要な検査を行うことが大切です。食欲低下については、成長にともなう体重増加がみられない(減っていないけど増えていない)こともサインになります。
3.受診先、相談先について
子どもの受診先は、児童精神科、一般の精神科で子どももみているところ、あるいはかかりつけの小児科に相談して精神科受診の必要があれば紹介してもらう、といった方法もあります。電話で確認をして、まず受診しやすいところからというのもよいと思います。
「精神科に受診することを隠して、子どもに嘘をついて、だましうちのようにして、連れていかないでください」ということはお伝えします。最初にどんなふうに精神科の医療に出会うかはとても大事です。最初にどんなふうに医療に出会うかはとても大事です。
受診について、その後治療についてなど、子ども自身にも説明したり話し合ったり、子どもが少しでも納得して取り組めることをめざします。
対応では、現実的な負荷を減らす、休息をとるなどは共通するものです。
病状によっては、薬物療法をすすめられることがあるかもしれません。一律に記載するには無理がありますが、子どもであっても病状によっては薬物療法で症状がやわらぐこともあります。本人が、飲んでみようかなという気持ちがあるなら、学校生活や生活がラクになったり、チャレンジしてみて生活の幅が広がったるするなら…と前向きに考えているのであれば、試してみることも考えます。
(なんでも薬で解決、病院で解決、と偏らないことは勿論とても大切です。バランスが大切…。)
※子どもに精神科の薬を飲ませても大丈夫なのでしょうか?(チアキのスキマ相談~精神科受診Q&A)
医療機関でしかできないことは、診断、投薬、医学的検査があります。精神科といっても、長い診察時間でゆっくり話をきいてもらう、ということはあまり一般的ではありません。精神保健福祉センターや、保健所の精神保健担当(精神科医師の相談日がある場合も)、学校の相談室や教育相談センターなどの活用も考えます。
家族がまきこまれて大変な場合、子ども自身の受診は難しい場合などもあると思います。家庭内だけでかかえずに家族だけでも相談できるところへつながれたらと思います。ご家族のねぎらいや、ご家族のサポートは、子どものケアを行っていくうえで欠かすことができません。
以下は子どもに特化した内容ではありませんが、精神科の受診についてまとめています。
※精神科の受診を考えている方へ
※精神科の選び方
※医療受診に保護者の理解が得られないケースについて(チアキのスキマ相談~精神科受診Q&A)
養護教諭からの質問です。「強迫と思われる症状があって受診が必要な状態だと思いますが、保護者の理解が得られなくて、なかなか医療機関につながりません。学校でも工夫をしているけれど、環境調整だけでどうにもならないこともあります。一番苦しいのは子ども自身ではないかと思っています」
…こういった質問も珍しくありません。保護者とのかかわり方や、子ども本人と作戦会議をしながら家族にどう伝えるか「伝わることば」を一緒に探ったケースを紹介しています。
子どもの精神保健、精神科について書きました。最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、「ココロとストレスとうつ」とセルフケアのアイテムの紹介を中心に書きます。
NPO法人ぷるすあるは・プルスアルハ
子どもから大人まで、病気や障がいを抱えた本人、家族、まわりでサポートされる方まで、幅広く精神保健に関する情報発信をしています。必要だけどこれまでなかったアイテムをつくる「+α」の視点を届ける取り組みです。
◆北野陽子
医師、精神保健指定医
小児病院、精神科病院、精神保健福祉センター等を経子ども情報ステーションて、2012年よりプルスアルハの活動に専念。2015年にNPO法人ぷるすあるは設立。
◆細尾ちあき
看護師
精神科診療所、精神保健福祉センター等を経て、2012年よりプルスアルハ、2015年よりNPO法人ぷるすあるは。
〇著書
家族のこころの病気を子どもに伝える絵本(うつ病編、統合失調症編、アルコール依存症編)、子どもの気持ちを知る絵本(不登校編、両親のケンカ編、発達凸凹感覚過敏編)いずれも、ゆまに書房
『生きる冒険地図』学苑社
〇リンク
子ども情報ステーション
ぷるすあるはの法人サイト
〇厚生労働省の精神保健にかんする情報サイト
こころもメンテしよう(若者を支えるメンタルヘルスサイト)みんなのメンタルヘルス総合サイト
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■ 連載:合理的配慮の誤解を解く鍵は「社会モデル」にある
第2回 学校の中の「あたりまえ」という偏り
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このエッセイでは、全4回にわたって、合理的配慮を提供する時、読者のみなさんに絶対におさえておいてほしい考え方として、障害の「社会モデル」を紹介していきます。第2回では、「社会モデル」の考え方を使うと、学校という場で起きていることがどのように見えてくるのか解説します。
学校現場では、合理的配慮提供に対して、次のような懸念の声があると聞きます。
・合理的配慮をすると、他の子との間に不公平が生じるのでは?
・合理的配慮は「特別扱い」になるのでは?
・合理的配慮をすることが、学習機会を奪ってしまうことになるのではないか?
端的に言って、これらは合理的配慮を誤解しているために生じている懸念です。なぜ、こうした誤解が生じるのでしょうか。その理由は、「社会モデル」の考え方をふまえた合理的配慮理解が浸透していないからです。
第1回で説明したように、「社会モデル」は、障害者の不利や困難の原因を、障害のある人の存在を考慮に入れず設計・設定されてきた社会の環境、制度、ルールなどの側に見出す考え方です。そこでは、私たちの注目を「困っている障害者」にではなく、障害者を「困らせている」社会に向けるという発想の転換が必要になります。すると、社会が「ふつう」とか「標準」とされている人たちに合わせて設計されていること、またその結果、「ふつう」や「標準」から外れている人たちを「困らせる」状態が生じていることが見えてきます。これまで「あたりまえ」だと思っていた社会の方が、実は偏っていたのです。「社会モデル」と、これまで「あたりまえ」だとみなしていたために見えにくかった偏りを発見するための眼鏡(視点)です。
では、「社会モデル」の眼鏡を通して発見された偏りを、どのように是正していけばよいのでしょうか。
たとえば、「ふつう」や「標準」だとされているものの幅を広げることで、より多様な人たちを考慮に入れた形で社会を設計し直していく、という方法があります。ですが、この方法をとろうとすると「どこまでの人を含むべきなのか」や「いろいろな人を含むことで新たな問題が生じないか」など、さまざまな議論が必要になるため、どうしても時間がかかってしまいます。その間「社会を根本的に作り替えるまで待ってください」と言って、障害者を「困らせている」状態をそのままにしておくというのもよくありません。したがって、社会をよりインクルーシブなものに設計し直していく議論と並行して、個々の障害者が具体的な場面で直面している困りごとにも目を向けて、その原因となっている「あたりまえ」という偏りをできる範囲で個別に変更することも大切です。合理的配慮は、そのための手段です。
さてここで、最初に紹介した合理的配慮提供に伴う懸念をもう一度検討してみましょう。「合理的配慮をすると、他の子との間に不公平が生じるのでは?」という懸念は、いまのあり方・やり方を「公平」とみなしているからこそ出てくるものではないでしょうか。ですが、「社会モデル」の眼鏡をかけて見てみると、実はいまのあり方・やり方のままだと偏りが生じているのだということがわかります。したがって、すでに生じてしまっている偏りを合理的配慮によって是正することは、むしろ正しいことだと言えます。
同様に、「社会モデル」の眼鏡をかけると、合理的配慮を提供することが「特別扱い」になったり、学習機会を奪ったりするのではなく、いまのあり方・やり方を続けることが、「ふつう」や「標準」から外れている子どもたちにとって不利に働き、学習機会をすでに奪っている可能性があるという現実が見えてくるはずです。
最後に、学校現場にどのような「あたりまえ」という偏りが存在しているのか考えておきましょう。先日、学校教員を対象に実施した「社会モデル」のワークショップで、学校のテストでいつも時間内に解答し終えることができない子どもがいると仮定し、そうした困りごとを生じさせている可能性がある、学校の「あたりまえ」という偏りを発見してもらったところ、先生たちからさまざまな意見が出されました。以下、その中のいくつかを紹介します。
・手書きで紙の用紙に解答することになっているという「あたりまえ」
・問題用紙・解答用紙の大きさやフォントのサイズが決まっているという「あたりまえ」
・解答時間が一律に決められているという「あたりまえ」
・問題の量・内容はみんな一緒という「あたりまえ」
・まわりがうるさくても集中してテストに取り組めるはずという「あたりまえ」
・間違うことは悪いことという「あたりまえ」
これらの「あたりまえ」が偏りとして発見されていないことで、どのような子どもが学校の中で不利な状態に置かれ、しんどい思いをしたりしているのでしょうか。「社会モデル」が学校現場に投げかけているのはこうした問いです。その上で、そうした偏りにより具体的に困らせられている子どもが目の前にいて、しかも学校側にできることがあるのなら、その範囲でその都度、偏りをなくしていく工夫をしましょう。合理的配慮を定めた障害者差別解消法は、そのように要請しているのです。
ここまで示してきた「社会モデル」にもとづく合理的配慮理解をふまえ、いよいよ第3回、第4回では障害者差別解消法で記された合理的配慮の要件をとりあげ、注意すべき点等を解説していきます。
◆飯野由里子(Yuriko Iino)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター、特任助教。博士(比較文化)
主な著作に『合理的配慮-対話を開く、対話が拓く』(有斐閣、2016年、共著)の他、「『思いやり』を超えて-合理的配慮に関わるコンプライアンスの新たな理解」(『現代思想』No. 47-13、2019年)や「『困らせている』社会を変える-障害者差別解消法が求めているもの」(『世界』900、2017年)がある。
■□ あとがき ■□--------------------------
さまざまな困りについて、ニーズをもつ人と、シーズをもつ団体が交流する場が厚生労働省の後援で毎年、シーズ・ニーズマッチング交流会として行われています。交流の他に、国の政策に関するセミナーや各団体の特色ある製品を紹介するセミナーも開かれます。今年の最初の場は、新型コロナウイルスの影響でオンライン開催となりました。2月9日(火)10日(水)の2日間です。事前の登録(無料)が必要ですが、ご関心のある方は下記ページから手続きの上、ご参加ください。
次号は2月12日(金)を予定しております。