「社会モデル」にもとづく合理的配慮理解

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2021.02.12

「社会モデル」にもとづく合理的配慮理解

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■   連載:「社会モデル」にもとづく合理的配慮理解
■□  連載:セルフケアと相談アイテム(最終回)
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 ■ 連載:合理的配慮の誤解を解く鍵は「社会モデル」にある
                     第3回 「社会モデル」にもとづく合理的配慮理解
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このエッセイでは、全4回にわたり、合理的配慮を提供する時、読者のみなさんに絶対におさえておいてほしい考え方として、障害の「社会モデル」を紹介しています。「社会モデル」とは、特定の人たちが経験する困難の原因を、その人たちの側(たとえば、個々の能力や特性、性格傾向)にではなく、「ふつう」や「標準」とされている人たちに合わせて設計されている社会の側に見出す考え方のことです。それはわたしたちが「あたりまえ」のこととして受け止めてきた環境や慣習、ルールの中に、特定の人たちに対し不利に働いている偏りを見出す視点だと言えます。では、「社会モデル」の考え方と合理的配慮は、どのように関係しているのでしょうか。第3回では、この問いに答えていきます。

第2回で解説したように、わたしたちの多くが「あたりまえ」だと思って暮らしている社会は、障害のない人たちにとっては都合がよく、ある程度便利で快適だけれど、障害のある人にとってはそうではないといった形で、偏りが存在しています。これに対し「障害のない人の数の方が多いのだから仕方がない」と考える人もいるでしょう。たしかに、社会がより多くの人にとって便利に設計されていることは大切です。しかし、「数が少ないから」という理由だけでさまざまな不利益を受けなければならないというのも理不尽なことではないでしょうか。

このため、わたしたちの社会は、「多数派」の都合だけでなく「少数派」の存在も尊重するための取り組みを進めてきています。2016年4月に施行された障害者差別解消法(以下、差別解消法)もそのひとつです。この法律は、障害者が行政機関や事業者の提供しているサービスを受ける場面で生じる差別の解消を目的に制定されたもので、ここで言う「差別」には「不当な差別的取扱いをすること」と「合理的配慮をしないこと」の二つが含まれます。

前者は、正当な理由がないにもかかわらず、障害を理由として、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件を付けたりするような行為のことです。たとえば、障害を理由にタクシーやバスへの乗車を拒否したり、レストランで食事をする際に介助者の同行を必須の条件としたりするといった事例があげられます。これらは、わたしたちの多くが「差別」と聞いたときに、頭に思い浮かべることができるような差別でしょう。

これに対し、後者の「合理的配慮をしないこと」は、障害者から何らかの配慮(社会的障壁を除去するために必要な変更・調整)を求める意思の表明があり、かつ負担になり過ぎない範囲でそれを提供することができるにもかかわらず、何もしないこと(あるいは、十分に応えようとしないこと)を意味します。これは、これまでの日本の法制度の中では「差別」として捉えられてこなかった類のものなので、難しく感じる人も多いようです。
たとえば、「道徳的に、障害者に配慮を提供した方がよいのはわかる。でも、配慮をしなければ『差別』とするのは行き過ぎではないか」という意見を耳にすることがあります。おそらくこのように感じる人は、障害者への配慮は、あくまでも個人の思いやりや善意、良心の気持ちからなされるものだと考えているのでしょう。その上で、差別解消法がそうした気持ちをもつことを義務として課していると誤解し、抵抗を感じてしまうのではないかと思います。

しかし、合理的配慮を「社会モデル」にもとづいて理解すると、差別解消法が求めているのが思いやりや善意、良心の気持ちではないということは一目瞭然です。「社会モデル」の眼鏡をかけると、これまで「あたりまえ」だと思っていた社会が実は偏っていたのだ(不公平だったのだ)ということに気づくことになります。差別解消法は、気づいてしまった偏りにどう対処するのが正しいのかを示した法律です。偏りに気づいているのにそれを放置して、障害者を不利な状況に置き続けることは正しいことではなく、もし偏りの是正に向けてやれることがあるのであればそれくらいはやるべきだ、と法律は述べています。この考えを具体化したのが、合理的配慮の提供義務なのです。

とはいえ、合理的配慮はあくまでも「大きな負担が生じない範囲で、できることをする」ものなので、取り除ける偏りは非常に限られています。それでも学校現場では、合理的配慮がなかなか提供されず、結果としてさまざまな偏りが放置されてしまっています。その理由を探ると、誰が合理的配慮を受けられるのかをめぐり、新たなバリアが作り出されている様子が見えてきました。

次回は、この問題に関連して差別解消法のガイドライン(基本方針や対応指針)を取り上げ、合理的配慮をうまく機能させ、すでにある偏りを少しでも取り除いていくために、ガイドラインをどう使えばよいのかについて考えます。

◆飯野由里子(Yuriko Iino)
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター、特任助教。博士(比較文化)
主な著作に『合理的配慮-対話を開く、対話が拓く』(有斐閣、2016年、共著)の他、「『思いやり』を超えて-合理的配慮に関わるコンプライアンスの新たな理解」(『現代思想』No. 47-13、2019年)や「『困らせている』社会を変える-障害者差別解消法が求めているもの」(『世界』900、2017年)がある。

 
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 ■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
        子どもも大人も知っておきたい精神保健の基礎知識
                       第2回 セルフケアと相談アイテム(最終回)
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後編は「セルフケア」や「相談・コミュニケーション」のアイテムの紹介です。イラストをつかったアイテムです。

1.「ストレスコップ」でこころの状態を客観的にみてみる

「今、ストレスどれくらいたまっていますか?」
※ストレスコップ

コップの水にたとえて、何%くらいストレスが溜まっているかを可視化したものです。
コップの上には、ストレスになっていることを書き出す欄、コップの下には、ちょっとほっとする時間、スキなこと、安心できることを書き出す欄があります。
なんでもないシンプルなものですが… シンプルゆえの使いやすさがあり、子どもから大人まで幅広く活用されています。

ポイントは実際に手を動かして、書き出して、可視化することにあります。
普段の生活は、なんだかしんどい、大変、とにかく忙しい…といった感覚のなかで、自分のケアは後まわしになり、自分の心身の状態をわざわざ客観的にふりかえる機会をもつことはあまりないと思います。

使い方としては、まず自分用に。それから、個別の相談などの場面に。グループワークのウォーミングアップやクールダウンにも活用できます。

実際に相談場面で使ってみると、まわりから見るとすごくストレスが高そうな状況でも、意外と本人は小さい%のときもあります。逆のときもあります。「200%です」と紙全体を斜線で塗った方もいました。ストレスの感じ方は人それぞれ、その人の感覚を大切にします。

「困ってることは?」の質問に会話がはずまないような場面でも、シートをいっしょに見ながら、「ストレス何%くらい?」「どんなことがストレスになってる?」と尋ねながら記入していくと、答えやすいことがあります。ストレスになっていることは、なるべく細分化して書きます。

「何%くらいならやれそう?」に加えて「何%までいったら限界?」を聞いておくのもよいです。そのときはどう対処しよう?などと話をひろげることができます。

一度きりでなく、ときどきやることで、その人の調子(自分の調子)を継時的にみていくこともできます。

サイトには、調子のなかみを「からだ・きもち・脳のキャパ」などにわけてスケールで記載できる「こころとからだのメーター日記」も掲載しています。

2.自分の「ハッピーリスト」をたくさん見つける

※ハッピーリスト

ストレスコップの下の欄、ちょっとほっとする時間、スキなこと、安心できることも、なるべくたくさん見つけて書きます。
大切なのはバリエーテョンがあること。人とやることを書いている人は、1人でできることも。お金のかかることもあれば、お金をかけずにできることも。発散系とリラックス系、どこにいてもできることなど。想像の中で旅をしたり、だれかになりきったり…そんなこともよいと思います。

ストレス解消のパターンが1つだけの人は、はまりこんでしまう危険があり、注意です。意識して、いくつかもてるとよいと思います。

ちょっと元気になれることを見つけるヒントになるのが、「ハッピーリスト」です。
リストをみながら…これならできるかも、試してみようかな、と思うことを見つけて、自分のハッピーリストが作れるとよいと思います。切羽詰まったときにはなにも思いつかなくなりますので、ちょっと余力のあるときにやります。

コロナ禍では、それまでやっていた楽しみやお出かけ、人と会って話してストレス解消していたことなど、ことごとくできなくなる体験をした人も多いと思います。そのときの状況にあわせてできること、たくさんのハッピーリストをもっておくことの大切さを改めて感じています。

3.からだときもちの調子に気づく

※体調ポスター
こころの調子はからだの調子とも直結しています。最近では、検温が習慣になっている方も多いと思いますので、検温とあわせて、朝起きたときに今日のコンディションを確認できるとよいと思います。しんどいのをないことにしないで、難しいけど、早め、こまめに休息がとれるとよいと思います。

体調ポスターは、自身の体調に気づくという意図と、伝える、伝えやすくするという意図もあります。なんだかわからないけど調子が悪いというとき、それを伝えることが難しいことが多いようです。「いつもとちがう」「いたいところがある」「ケガをした」など、あいまいなカードも作っています。そこから、具体的にどこが調子が悪いのか、いっしょに見つけられるとよいと思います。

※いろんなきもち日記
きもちに気づく、きもちを伝える。とても難しいけれど大切なテーマです。
日記のように、1日をふりかえり、その日に感じたきもちを選んだり、ポスターのように掲示したりして使います。白黒バージョンは、ぬりえのように、色をぬってもよいです。シートにない気持ちをみつけてもよいです。
使い方で大切なことは、相手がどのきもちを選んでも、絶対にイヤな顔をしないようにします。

子どもにも子どもの(大人にも大人の)ペースがあり、今は気持ちの話なんてしたくない…ということもあるでしょう。例えば「ふつう」は、そんなときに比較的負担なく選べる項目として入れています。
人には、ポジティブなきもちも、ネガティブなきもちも、いろいろな気持ちがあることを、どれも大事な気持ちであることを、まずまわりの大人が肯定します。大人も自分のきもちに気づくきっかけにしてください。

(どちらもニーズが高く、カード版などのバリエーションがあります。体調ポスターは、英語、中国語、スペイン語など多国語版でも展開しています。)

子どもも大人も使えるアイテムを紹介しました。
そのほかのセルフケアの大事な要素に、「不調のときには早めに休む」「ひとりだけでかかえずに相談をする」があります。コロナ禍で、熱や風邪症状があるときは学校も仕事も休むことが求められるようになりました。収束後も、この流れはずっと続いてほしいと思うと共に、心の不調や疲れも早めに休息できる体制、雰囲気が大事だと思います。
最後に、相談のヒントを書きます。

4. 相談のヒント

大人でもSOSを出すのはむずかしいです。子どもにとってはなおさら…。
「こんなときは相談してください」とリストアップしたシートを作っています。子どもに「調子どう?」ときくと、「いや、別に」とか「特に…」みたいな答えが返ってくることも多いと思います。自由に言いたいことを言えるざっくり質問の良さもありますが、具体的な質問と両方あるといいと思います。「そういうことを言っていいんや」と知る機会にもなります。

※こんなときには相談してください 

相談は...大人も緊張します...。大人でも相談が苦手な人がたくさんいます。
こんなかんじでいいよ、ということもあわせて伝えられたらと思います。

〇相談のヒント
・うまくいかなかったら切ったらいいや、くらいの心づもりで電話をかける
・匿名(とくめい)でいい
・名前をきかれても答えなくてもいい(念のため…ニックネームを考えておいてもよいかも)
・全部話さなくていい、話したくないことはきかれても言わなくていい
・練習のつもりでかける(相談上手、しゃべり上手になっておくにこしたことはない)
・なにか提案されても、提案されたことを全部きかなくていいし、全然きかなくてもいい
・相談というと大ごとな気がしたら「グチをはく」くらいなかんじでok
・電話やメールでも相性はある
・話すことを、かける前にメモしておいて、見ながらかけるのもありです


まとまりのない内容になってしまいましたが、最後までお読みくださりありがとうございました。

セルフケアしなきゃ、と思ったら…まずは自分に花マルをあげて、大人がセルフケアをしている姿を子どもたちに見せたいです。不調のときは早めに休む。ひとりで抱えずに相談する、いろんな力を借りることから。

※子どもが相談できる電話や場所の情報

電話相談、メールやSNSでの相談、役所の情報、相談のヒントなど。
学校でもらう相談先のほかにも、いろんな相談先があります。(ドラッグ・HIV・にんしん・デートDV・リベンジポルノ・性被害・LGBTの相談先も掲載しています)

※ココロとストレスとうつ


「ココロがしんどい?どうしたらいい?」を知るためのページです。
本文中に掲載したアイテムなどを使いながら自分でできるこころのメンテ、相談のタイミングも書いています。サイトのナビゲーターは「うつやんズ」。

※子ども情報ステーションの無料ダウンロード素材集のページ

セルフケア、コミュニケーションツールなど、60種をこえるアイデムを掲載しています。

NPO法人ぷるすあるは・プルスアルハ
子どもから大人まで、病気や障がいを抱えた本人、家族、まわりでサポートされる方まで、幅広く精神保健に関する情報発信をしています。必要だけどこれまでなかったアイテムをつくる「+α」の視点を届ける取り組みです。

◆北野陽子
医師、精神保健指定医
小児病院、精神科病院、精神保健福祉センター等を経子ども情報ステーションて、2012年よりプルスアルハの活動に専念。2015年にNPO法人ぷるすあるは設立。

◆細尾ちあき
看護師
精神科診療所、精神保健福祉センター等を経て、2012年よりプルスアルハ、2015年よりNPO法人ぷるすあるは。

〇著書
家族のこころの病気を子どもに伝える絵本(うつ病編、統合失調症編、アルコール依存症編)、子どもの気持ちを知る絵本(不登校編、両親のケンカ編、発達凸凹感覚過敏編)いずれも、ゆまに書房
『生きる冒険地図』学苑社

〇リンク
子ども情報ステーション 
ぷるすあるはの法人サイト 
 
〇厚生労働省の精神保健にかんする情報サイト
こころもメンテしよう(若者を支えるメンタルヘルスサイト)
みんなのメンタルヘルス総合サイト


■□ あとがき ■□--------------------------
本メルマガに寄稿してくださった鴨下賢一、北出勝也、柳下記子、小玉武志の4先生を含む、選りすぐりの専門家による発達支援オンライン教室を新たに加え、保護者向けサービス「スマイルケア+(プラス)」を本年3月末日まで提供しています。

ご関心をお持ちいただいた方は以下のページから、無料会員登録して、ご試用してくださればうれしいです。

「スマイルケア+(プラス)」

次号は2月26日(金)です。

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