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| まえがき
| 新連載:ダウン症のある子どもたちへの「知っておきたい」指導
| 連載:「噛み合わない話し合い」を解きほぐすには?
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─■ まえがき
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これまで本メルマガにはダウン症についての解説がありませんでした。そこで、公益財団法人日本ダウン症協会のページから、おすすめの本のリストを見つけ、その中からこの方ならと思い、ご依頼したところ、佐藤功一(さとう こういち)先生が快くお引き受けいただきました。
※日本ダウン症協会 (ホームページはこちら>>)
さらに、プロフィールに加えて連載の趣旨もまとめていただきましたので、ここに謹んでご紹介させていただきます。
(寄稿者紹介)
1989年、宮城教育大学教育学部卒。宮城県内の公立小学校、県立養護学校、宮城教育大学附属特別支援学校等に勤務。現在、宮城県立支援学校女川高等学園教頭。初任校の小学校で受け持った腎疾患の女子児童との出会いがきっかけで、20年以上にわたり特別支援教育の現場の教員として指導に当たる。「学校現場で使えるかどうか」という視点に強くこだわりながら、障害児の効果的な指導法探求・教材開発をライフワークに実践研究に取り組んでいる。
2016年に「第11回教育実践・宮城教育大学賞」を受賞。著書に「ダウン症児をたくましく育てる教室実践-学校現場からのデータ&テクニック」、「ダウン症のある子どもへのアプローチ222」(ともに田研出版)がある。
(連載の趣旨)
ダウン症のある児童生徒は1979年の養護学校義務化当初より、全国の特別支援学級や特別支援学校に一定の割合で在籍しています。平たく言えば、どこの学校にもダウン症のある子どもたちを見かけます。しかし、その指導法について蓋を開けると、学校の先生方からは「効果的な指導やかかわり方が分からない」という相談や質問の声がよく聞こえてきます。
ダウン症に関しては、関連の書籍や論文、ご本人の本や育児本など参考文献だけでもたくさんあります。しかし、なぜ現場から依然「よく分からない」という困惑の声が聞こえるのでしょうか。
ダウン症のある子どもたちを指導する際に見落としがちな指導上の留意点とその構造を学校現場からのデータや実践例を通して解説します。
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─■ 新連載:ダウン症のある子どもたちへの「知っておきたい」指導
第1回 学校現場で何が起きているのか
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ダウン症のあるお子さんとかかわったことはあるでしょうか。
かかわった経験がない方でも“ダウン症”という言葉は聞いたことがあると思います。私は2001年に赴任した特別支援学校で初めてダウン症のある子どもたちと出会いました。彼らはとても明るく、ひょうきんで面白い子どもたちです。学芸会や集会などの学校行事にはなくてはならない存在です。
一方で、ダウン症のある子どもたちへの指導の状況は、有効な指導法についての情報を待ち望んでいる教師や支援者がたくさんいるにもかかわらず、現場向けの指導理論が十分に構築されているとは言えません。苦心しているのは若い先生方ばかりではありません。ベテランの先生方ですら悪戦苦闘している様子を見かけます。
では、なぜ学校現場でそれが大きな問題にならないのでしょうか。実はこれこそがダウン症のある子どもたちへの指導が抱える一番の問題なのです。今回から3回に渡って、ダウン症のある子どもたちを指導する際に見落としがちな指導上の留意点とその構造、そして知っておきたい指導のポイントを学校現場からのデータや実践例を通して解説していきたいと思います。
話は少し前になりますが、2007年に“特殊教育”から“特別支援教育”へ転換されました。「一人一人の教育的ニーズを把握し、その持てる力を高める」という定義の中で、それまで喫緊の課題となっていた通常学級に在籍する発達障害の子どもたちに対する支援にようやく脚光が当たるようになりました。時代はまさに日本中の特別支援教育の現場が、発達障害のある子どもたちへの支援に本格的に向き合い始めた頃でした。しかし、その頃、私は一人、ダウン症のある子どもたちへの指導について、膨大なデータ分析と実践検証に没頭していました。
なぜかというと、どうしてもやらなければならない理由があったからです。
かっこいい理由があった訳でも、大それた理由があった訳でもありません。目の前にいる担任したダウン症のある子どもの指導がうまくいかなくなっていたからです。指導の効果が全く見えない状況に置かれていたのです。無論、文献を当たったり、活動内容を工夫したり、自作教材を作ってみたりと私なりにやれることはやりましたが、完全に壁に当たっていました。
私を一番悩ませたのは指導の仕方ではなく、「指導した内容が定着しない」ということでした。つまり、指導してもその場限りで、また繰り返し同じようなことが起きてしまうことでした。簡単に言うとなかなか効果が表れてこないのです。実はダウン症のある子どもたちの指導で、私が一番気になったことは、何か不適応行動を起こしてしまった場合でも、環境の変更、興味関心を引く物への誘導などの支援で、時間はかかりますが「その場は何とかなる」ことが多いことでした。朝、登校してから下校する時間まで、ずっと教室で暴れていたり、動かなくなったりすることはほとんどありません。実はこのことが、ダウン症のある子どもたちへの指導技術が蓄積されていかない原因となっていることに、私は後に気づかされます。
一方で、私の周りには上手にダウン症のある子どもたちを指導している同僚もいました。ただ私を困惑させたのは、その先生は特別何か工夫した対応をしているように見えなかったということでした。特別な教材を用意しているのでもなく、ICTを活用しているわけでもないのです。何度も何度もその先生の教室に足を運ばせていただき、実践の様子を参観させていただきました。そして私がその先生と自分の指導とを比べた際に、唯一違いを感じたポイントは「言葉かけ」でした。しかし、この「言葉かけ」という視点は現場の人間である私にとっては、とてもやっかいなものでした。
データが取りにくい上に検証が難しいのです。案の定、その当時、ダウン症のある子どもへの「言葉かけ」でどのように変容するかを扱った研究実践や論文は見当たりませんでした。この手の実践が少ない理由がもう1つあり、それは目に見えない「言葉かけ」というものに対して、これがれっきとした“技術”であるという認識が現場には薄かったのです。
「あの先生はダウン症のある子どもの扱いが上手ですね」という声がよく現場で聞かれていました。そこには技術としてではなく、対「子ども」との「相性」として認めているような、羨望しているとでもいうような雰囲気がありました。しかし、私はこの「言葉かけ」の裏にこそ、ダウン症のある子どもへの指導の重要な何かがあるように思え、教師とダウン症のある子どもとの教室でのやりとりを長期間に渡って録画・分析し、そこにある「言葉かけ」と子どもの変容についての関係性の解明に取り組むことにしました。
その研究の予備調査として、2009年にダウン症のある子どもを担任している全国の特別支援学校の先生方の協力をいただき、アンケート調査を実施しました。対象は小学部から高等部のダウン症のある児童生徒、内容は普段の教室で困っていることやどのような指導を行っているか、そしてその効果はどうか、など現場の教師の意識と実態の概要を掴むためのものでした。しかし、全国339名の担任の先生方から届いた回答に私は戸惑うことになります。そこには想像以上の結果が待ち受けていました。そして、その調査結果に私はある重要なことを気づかされることになります。
次回はその結果について、データを見ていただきながら解説します。
佐藤功一(さとう こういち)
宮城県立支援学校女川高等学園教頭
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─■ 連載:ファシリテーションって何だろう?
第3回 「噛み合わない話し合い」を解きほぐすには? ~会議を可視化しよう!~
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前回、ファシリテーションというときに、よく使われる「付箋」を使って個人作業をしてから発言するというスキルについて簡単にお伝えしました。こういうスキルは使いやすいので、ファシリテーションと言えば「付箋を使うアレでしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
実際には、付箋を使えば何もかも解決するというのでは全くありません。実際にファシリテーターが直面する話し合いでおそらく最も困難な場面の一つには、意見の対立がみられて解決の糸口が見つからないという状況があるでしょう。
例えば、ある事案について、A案、B案、C案の3つの案があり、その日の会議の中でどれか一つに決めてすぐに実行していかなければならないというケースを想定してみましょう。そこに参加しているメンバー(例えば、8名としましょう)で、A案を推す人2名、B案を推す人2名、C案を推す人3名で完全に割れてしまっているような状況で、ファシリテーターはどのように話し合いを整理していけば良いでしょうか。
それぞれのメンバーは自分が推す案が一番良いと信じており、他の案に変更する気配は全くありません。こういう状況のときによく見られる場面は、各自が交互に自分の案の良いところをしゃべり(時には相手の発言が終わるのを待たずにかぶせるようにして話し始めることもあるでしょう)、逆に自分が推す案以外の案についてはデメリットを羅列的にしゃべるというシーンでしょう。あるいは、他の人の話の本質的なところではなく、言葉じりだけを捉え、非難したり、否定したりということもよく見られる場面です。
一歩下がってそういう場面の各自の行動を冷静に見てみると、そもそもその場にいる人は「よく相手の話を聞いている」でしょうか。自分の言いたい事をとにかく言う、相手がしゃべっているときはろくろく話を聞かずに自分が次に何を言おうかを考えている、このような状態で対立した話し合いが自然に解きほぐれることはまずないと言って良いでしょう。
実はこれは私が参加した、実際の会議の場面でした。ファシリテーションはプロセスに関わる技術ですので、ここでも「何について話し合っていたのか」というコンテンツについては、全く触れていませんが、十分皆様には情景が目に浮かぶかと思います(ご自分の文脈で、例えば支援会議でいくつかの案で対立している、運動会の企画での対立など思い起こしていただければと思います)。
もう一つ付け加えれば、私はその会議においては司会でも何でもなく、単なる一参加者でした。司会もおり、立場が上の人もいる、そういう状況でした。最初のうちは私もしばらく黙ってやりとりの様子を見ていました。しかし、「今日中に一つの案に絞らなければならない」「決まったことを他の人にも伝達して実行してもらわなければならない」という時間などの制約条件もあり、「このままでは時間内に何も決まらないな・・・」とかなり迷った挙句、ファシリテーションの技術を使うことを決めて、動き出しました。皆さんはこのような場面で「どう行動して」この状況を打開するでしょうか。この先を読む前に少し考えてみていただければと思います。
私が実際にとった行動は、「すみません、いろいろな意見が出ていて、覚えられないのでちょっと黒板に書いても良いでしょうか?」と立ち上がって黒板の前に行き、写真のような枠を書いたことです(※写真1)。繰り返しますが、私は司会者でもなく、立場も上でもありません。一参加者の立場です。「ファシリテーションやっていいですか」とも言っていません。たくさんの意見が順不同に発言されているので、本当に「覚えられなかった」のです。
※写真1 (画像はこちら>>)
その後は、出される意見を枠の中に書き入れていきました。このように枠があれば順不同に意見が出されても該当する箇所、例えばA案のメリット、B案の気になる点、という風に「ファシリテーター」である私が判断して適切な個所に書き込んでいけばよいだけです。どんどん意見が出されました。(※写真2はそのイメージ)そして、参加者全員が黒板の方を見て、意見を言うようになったのです。これも大事なポイントです。
※写真2 (画像はこちら>>)
このように出された意見を黒板やホワイトボード上に可視化することで、メリットが一番あるのはどの案なのか、それは実行可能なのかどうかを、皆が同じものを見て考えることができるようになったのです。ここまでくれば後は意見を集約するプロセスに移れます。B案がいいのでは・・・という空気が場に漂い始める訳です。そこを言語化して「これでいいでしょうか?」とまた全員に問いかけて、全員が納得した、そういうプロセスとなりました。
以上は本当にかいつまんでのプロセスの描写でしたが、結局は一人一人が納得いくまで意見を出し合い、それをきちんと整理した形で可視化する、そのためには誰かがそれを黒板やホワイトボードに書き出すしかないのです。その役を買って出るかどうか、要するに手間暇をかけるかどうかがファシリテーターには求められているのです。ちなみに、こういう可視化の技術は「ライブレコーディング」あるいは「ファシリテーショングラフィック」と言います。
「ペンを制するもの会議を制する」、これもファシリテーション業界ではよく聞かれる諺です。空中戦ではいつまで経っても議論が噛み合わない、それを可視化する作業を負担に思わず、まずはペンをとってみて書き出してください!
※参考文献「板書の極意」八木健夫著 あめにも出版
(詳細はこちら>>)
三田地真実
星槎大学大学院教育実践研究科教授、言語聴覚士
─■ あとがき
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10月10日(水)から3日間、東京ビッグサイトで開催されるH.C.R.(国際福祉機器展)で、聴覚認知バランサーとアセスメントに基づく支援に関するプレゼンを行います。10日は10時50分から、11日は10時30分からです。お時間のある方はお立ち寄りください。
(詳細はこちら>>)
11月4日(日)パルテノン多摩の大ホールで開催される第32回東京都中途失聴・難聴者の集いに出展します。聴覚認知バランサーの他、レデックス全製品を体験できるようにして会場でお待ちしております。
(詳細はこちら>>)
次回メルマガは、10月19日(金)の予定です。
ダウン症のある子どもたちへの「知っておきたい」指導
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