デジタルパズルで子供の認知機能を伸ばす

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2018.09.21

デジタルパズルで子供の認知機能を伸ばす

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| 連載:「ぐちゃぐちゃな会議」を「意味ある会議」にするには?
| 連載:デジタルパズルで子供の認知機能を伸ばす
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─■ 連載:ファシリテーションって何だろう?
第2回「ぐちゃぐちゃな会議」を「意味ある会議」にするには?
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前回、ファシリテーションとは「成り行き任せの場(荒地のようなイメージ)」から「整えられた場(きちんと整地された畑のようなイメージ)」に変容する技術であること、この技術を駆使する人をファシリテーターと言うことをお伝えしました。単に「良い場になーれ」と念じるだけでは、その場は変容しないということは誰でも容易に想像できようかと思います。

それでは、実際にファシリテーターはどう行動すれば良いのでしょうか。かつて私は「うちの会議、ぐちゃぐちゃなので何とかしてほしい」というリクエストを受けたことがありました。「ぐちゃぐちゃな会議?」だけでは何も手出しができません。そこで、 「ぐちゃぐちゃな会議」と表現されるような会議では人々はどのように振舞っているのか、逆に目指す「意味ある会議」では人々はどのように行動しているのか、整理してみることにしました。

■「ぐちゃぐちゃなダメ会議」の代表的な状態
(1) 話が迷走して何を話しているのかわからなくなる
(2) 毎回、だらだら時間がかかる割には何も決まらない
(3) 決まった声の大きな人だけがいつも意見を言う
(4) 意見が全く出ない
(5) 決まったことが最後に覆される(ちゃぶ台返し) などなど

いかがでしょうか? こういう状態―つまりそこに参加している人々の行動が寄り集まってもたらされているのですが―は、ある意味処かまわず、特別支援教育における校内委員会といった会議の場面だけではなく、企業の商品開発の会議、企画会議など業界業種テーマを問わずに共通にみられる、「会議の困った場面」なのです。これらは、何を話しているか(個別の支援計画について話し合っている、商品開発について話し合っているなどという話し合いのテーマ)の問題なのではなく、話し合いのプロセスに関わる問題だからです。

こういう会議は参加した側も「何のための会議だったのだろう?」「時間の無駄だ・・・」という気持ちになりやすいものです。

それでは、意味ある会議と皆さんが感じる会議はどのような状態でしょうか?

■「意味ある会議」と称される会議
(1) 何のために集っているのかを全員が共通認識している
(2) 短い時間で、議題がさくさくこなせる
(3) 参加者の意見が存分に出されて、アイデアを持ち寄ることができる
(4) 次に何を行えばよいかの行動計画がきちんと決まる
(5) お互いの意見を頭ごなしに否定・非難することがない  などなど

こういう会議は参加した人も「今日の会議は良かったな、来た甲斐があった」と感じるのではないでしょうか?

それではどうやってぐちゃぐちゃ会議を意味ある会議にしていくのでしょう。ファシリテーションは魔法の杖ではありません。一つずつ地道にファシリテーターも行動して場に関わっていく必要があります。例えば、「ぐちゃぐちゃなダメ会議」の(3)「決まった声の大きな人だけがいつも意見を言う」と、(4)の「意見が全く出ない」というのは、実は同じ事象の裏表の表現です。望ましいと思われる行動は、「意味ある会議」の(3)「参加者の意見が存分に出されて、アイデアを持ち寄る」という状態になることです。そういう場合に、「さあ皆さん、均等に話してください!」と直接的に目的とする行動をするようにお願いすることでそのように変容するでしょうか。答えは明白だと思います。

こういう場合に、皆さんにもおなじみの「まず付箋(メモ用紙でも可)に各自がアイデアを書く」というファシリテーションの代表的なスキルが活きてくるわけです。いきなり発言するのではなく、まず個人作業でしっかり意見を書いてから発表する時間をしっかり持つというプロセスのマネジメントを行う訳です。

不思議なことに「意見を紙に書いてください」とお願いすると普段は発言しない方もしっかりアイデアを書いてくださいます。これを拒否されたことは私個人としては一度もありません。その書かれたアイデアを発表することで、多少の意見の量の多い少ないはあったとしても、全員が発表することは担保することができます。

この例は本当に簡単なファシリテーションの技術を使ったものですが、実際には様々な参加者のその場の行動を見てどういう技術を使っていけばよいか瞬時瞬時にその場のプロセスを観ながらファシリテーターは判断し関わっていくということになります。

次回はもう少し複雑な噛み合わない議論を取り上げて、ファシリテーターがどのようにそれを解きほぐしていくかについて解説したいと思います。

文献:「特別支援教育連携づくりファシリテーション」(三田地真実著、金子書房)
※アマゾン掲載 (詳細はこちら>>

三田地真実
星槎大学大学院教育実践研究科教授、言語聴覚士

 

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─■ 連載:ソフトウエアで認知機能の発達と学習を支援する
第4回 デジタルパズルで子供の認知機能を伸ばす
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1.花まる学習会のパズル、国立成育医療研究センターのノウハウ

低下した認知機能の改善(高次脳機能障害リハビリ)と、認知機能の低下の予防(認知症予防)に、パソコンのゲームが活用できる可能性について、これまでの連載で紹介してきました。そのゲームの原案として使用したのは、子供たちの考える力をつけるためのパズル(花まる学習会の「なぞぺー」※1)です。そして、その本来の対象である、子供たちの認知機能を伸ばすためのコンテンツとして2010年5月に開発したのが、「こども脳機能バランサー」です。
※1 考える力がつく「なぞぺー」(詳細はこちら>>

なぞぺーのデジタル版「デジなぞ」※2には、第1集と第2集を合わせて49種類のパズルが「空間」「図形」「発見」「トライ」「論理」の5ジャンルに分けて収録されています。原案者の高濱正伸先生(花まる学習会代表)が、子供の考える力をつけさせるために必要だとそのように整理されました。
※2 デジなぞ第1集 (詳細はこちら>>

それらの中から、子供たちの基本的な認知機能の要素となる、(1)考える力(前頭前野領域)、(2)運動・空間認識(右脳領域)、(3)言語(左脳領域)に合致するものを選び出して主要タスクを開発しました。また、言語関連を充実させるために、開発に協力していただいた国立成育医療研究センターの小児科医及び言語聴覚士の、言葉を伸ばすノウハウからタスクを作成しました。さらに、世界標準の注意力検査のトレイルメイキングテスト(TMT)と、文部科学省が過去の調査に使った抑制力の検査「go no go」を、それぞれ子供に分かりやすい形に工夫して、タスクとしました。

2.楽しんで取り組める工夫

子供たちが楽しみ、飽きずに長く取り組んでいけるようにするには、よいタスクだけでは不十分です。そこに必要なのは、自分自身で感じられる達成感と、それを強化する「ほめてくれる」仕組みです。

〇スタンプノート
毎回タスクを終えると1枚から最大5枚のスタンプがもらえ、スタンプノートに記載されていきます。2つあるモード(画面に表示されるタスク選択の方法)のうち、家庭等で子供だけで取り組む際に使うように設定されたノーマルモードでは、最初は3つのタスクだけ、スタンプが一定数たまるたびに、新しいタスクが追加されていきます。

〇自分の過去と比較してのほめ・はげましメッセージ
こども脳機能バランサーでは、登録された利用者ごとに成績(点数や指数)が自動保存されます。そして、タスクが終わると、自分の過去の成績に照らし合わせて、「最高点だよ」とか「かなりいいね!」といったメッセージを、キャラクターのくま(ランス)が語りかけてくれます。おざなりのメッセージと異なり、点数が低い子には低いなりに、「できた」と思ったタイミングでほめてくれるので、達成感が得られ、自信がつくようです。

こういった演出の効果なのか、レデックスで実施した利用者アンケートでは、購入2か月後に、週1回以上利用している子供の割合は95%という結果でした。

3.効果検証

2011年12月中旬、SNSでの公募で、発達に困り感のある子ども122人の子供の保護者から協力の申し出を得ることができました。ソフトを自宅に送付し、2013年1月から3月までの2か月間、子供に自由に使用してもらい、自動保存された成績データをメール等で送信してもらいました。その結果、2歳から12歳まで61人のデータと、並行して行った事前・事後アンケート74人分を回収し、分析しました。

〇成績の伸びと、そこにある特徴
主たる方法は、使い始めの時期数回の平均成績(事前指数)と、2か月の数回の平均成績(事後指数)の比較です。興味深い点は多々ありますが、ここでは特に興味深い点に絞ってご紹介させていただきます。

全体としての分析の他に、事前アンケートをもとに、発達障害・知的障害のタイプ別に集計しました。事前指数は、タイプ別の特徴どおりでした。具体的には、自閉スペクトラム症的な困りのある子供(ASD)では、言語関係が低い結果、ADHD的な困りのある子供(ADHD)では、前頭前野の注意や抑制が低い結果、読みや書きに困りがある子供(LD)では、空間認識関係が低い結果でした。そして、事後指数と比較をすると、それぞれのタイプで、特徴的な困りに関連する認知機能の成績が、それ以外よりも大きく伸びているという点が読み取れる結果となりました。

次回、アセスメントのところで述べますが、こども脳機能バランサーの指数と、世界標準の認知テスト、WISC-IVとは高い相関があります。それを拡大解釈していえば、それぞれのタイプに固有な、弱い認知機能が2か月間の取り組みで伸びた、といえることになります。

理由として筆者が想像するのは、子供たちは日ごろの生活の中で、得意でない認知機能をあまり使わないでいたのが、デジタルパズルをすることで、それらの認知機能を頻繁に使い、その結果、成績が伸びたのではないかということです。

なお、事前事後のアンケートの分析でも、保護者の子供の観察で、それらのタイプ固有の困りが改善しているという結果になっています。

これらの調査結果は、東京大学先端科学技術センター(先端研)中邑賢龍教授を中心に行われているATACカンファレンス2012東京※3で「デジタルパズルによる認知機能の発達支援の可能性」として発表を行いましたので、ご興味のある方はその論文をお読みいただければと思います。※4
※3 ATACカンファレンス2012東京 (詳細はこちら>>
※4 メールでお問合せいただければ、論文データをお送りします。

次回は、こども脳機能バランサーを使った認知機能アセスメントについてご紹介します。

五藤博義(ごとうひろよし)
レデックス代表

 

─■ あとがき
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10月12日(金)と13日(土)それぞれ午前10時から、かでる2・7(北海道立道民活動センター)で「個別支援力向上セミナー」を実施します。地震の影響がまだ多々あるとは思いますが、お時間の取れる方はぜひご参加ください。
(詳細はこちら>>

次回メルマガは、10月5日(金)に刊行予定です。

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