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■ 連載:聴覚障害のある子を育てる:補聴機器をうまく活用する
■ 連載:母親が最高の支援者だという自信をもってほしい
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──■ 連載:聴覚障害のある子を育てる
(第3回)補聴機器をうまく活用する
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○補聴器とは
補聴器は、音を電気的に増幅して中耳に伝えるもので、いわば小型の拡声装置といえます※1。パソコンが日々発展していくのと同様に、補聴器も進化しています。装用しているのがわからないくらいに小型化された補聴器や、音声信号のデジタル増幅処理の技術の向上によって、背景雑音を自動的に小さく押さえる騒音制御機能や、補聴器を使用する場面によって指向性を切り替えるマイク機能、ハウリング抑制機能など、さまざまな機能を備えた高機能補聴器が販売されています。
※1 補聴器のイメージ (画像はこちら>>)
早期に聴覚障害との診断を受けた乳幼児は、まず補聴器の装用を開始します。
聴覚に障害があっても、まったく音のない無音の世界が広がっているのではありません。かなり大きな音はなんとなく聞こえるものの、何と言っているかという語音弁別の聞き取りが難しいため、音声言語の獲得が難しい場合が多いと思われます。補聴器を装用して、小さな音を大きく拡大して耳に届けることによって、聞き取りができることを目指します。
○乳幼児の補聴器
乳幼児の場合、補聴器を耳につけることに慣れるため、最初は一日数時間の装用からスタートし、少しずつ装用時間を長くしていき、日中目を覚ましている間は必ず補聴器をつけるように習慣化していきます。そして、補聴器をつけた状態で、音を意識できるような遊びを楽しみます。私は、息子の目の前で、でんでん太鼓をくるくると回し、トントンと音が鳴る様子を見せたり、光りながらまわるメリーゴーランドのオルゴールを見せたり、たたいたら光るパーカッションのおもちゃを使ったりして遊びました。
また、補聴器は購入して装用すればすぐに聞こえるようになるわけではなく、医療施設やろう学校、補聴器販売店などで、専門家による調整(フィッティング)を繰り返しおこなう必要があります。聴力検査の客観的な評価や主観的な自己報告に基づいて補聴器の調整をおこない、自分の聞こえにあった補聴器にカスタマイズしてはじめて補聴効果が得られます。乳幼児の場合、成人と同じように聴力検査を実施することができないため、聞こえの程度を査定する難しさがあります。そのため、日常生活の中における子どもの音への反応の様子を家庭で注意深く観察し、その記録に基づいて、補聴器の調整をおこなうこともあります。
しかし、残存聴力を活用した音声の聞き取りには個人差が大きく、重度聴覚障害と診断されても補聴器で十分効果が得られる場合もあれば、補聴器では音声言語の聞き分けが難しく、補聴効果が認められない場合も多くあります。
補聴器を装用してもその効果が少ない場合には、次のステップとして、人工内耳の適応を検討することになります。
○人工内耳とは
人工内耳は、補聴器を装用しても音声識別が困難な重度聴覚障害児・者に対して適応する感覚器の人工臓器です。1週間程度入院し、全身麻酔下で、内耳(蝸牛:かぎゅう)の中に人工内耳電極(インプラント)を挿入する手術を受けることが必要となります。耳にかけて装用する取り外し可能なプロセッサー※2において音声がデジタル信号処理され、磁石で固定された送信コイルから皮膚を介して電気信号が体内部に埋め込まれた電極(インプラント)に送信され、蝸牛内の聴神経を直接刺激し、聴感覚を引き起こすものです。人工内耳を活用することによって、高い音から低い音まで幅広い周波数帯にわたって、およそ20dBから35dBくらいの聞こえが可能になることが多く、軽度聴覚障害に相当する聴力レベルが得られるといわれています。
※2 耳にかけて装用するプロセッサー (画像はこちら>>)
なお、世界ではじめて人工内耳を開発したオーストラリアのメーカーであるコクレア社のホームページには、人工内耳による聞こえの仕組みが分かりやすく図を用いて説明されています。ご参照ください。
※3 コクレア社のページ (詳細はこちら>>)
1978年、オーストラリアではじめて人間に人工内耳手術が施行されて以来、現在では全世界で約15万名が人工内耳手術を受けています。 日本では、1985年に東京医科大学で初めて人工内耳手術がおこなわれました。1994年に国民健康保険の適応が認可されて以来、日本でも人工内耳の装用者が徐々に増えています。
なお、耳介部に装用するスピーチプロセッサーは数年毎にバージョンアップされていきますので、より高性能なプロセッサーが次々と発売されます。医療機器の発展のスピードに遅れることなく、常に新しい情報を収集し、選択をしていく必要があります。
○乳幼児の人工内耳
近年、新生児聴覚スクリーニング検査の実施による聴覚障害の早期発見が可能になったことから、人工内耳手術をおこなう乳幼児が急速に増加しつつあります。極めて早期の段階で人工内耳の装用を開始することは、聴覚のみならず発話および言語能力の発達にも大きな効果があることから、近年、欧米では、人工内耳の高い有効性をふまえ、補聴器を試すことなく最初から人工内耳を選択することや、両耳装用も広く行われています。
補聴器と同様に、人工内耳も手術を受けたらすぐに聞こえるようになるわけではありません。補聴器の場合は音をそのまま大きく拡大して鼓膜に届けますが、人工内耳の場合は音を電気信号に変換し、蝸牛内に挿入された約22本の電極で聴神経を直接刺激し、聴感覚を引き起こします。そのため、人工内耳装用者の聞こえは、聴覚障害のない人の聞こえとはまったく異なっています。目の悪い人がメガネをかけて見える世界は、目の良い人が見える世界とほとんど変わりません。しかし、耳の悪い人が人工内耳を通して聞こえる世界は、どんなにがんばっても、耳の良い人が聞こえている世界と同じにはなりません。
成人の中途失聴者がはじめて人工内耳を通して音を聞いたとき、ロボットの声のように聞こえたと報告する方が多いそうです。ロボットのように聞こえる機械的な音を繰り返し聞く経験を重ね、医療機関で言語聴覚士による調整(マッピング)を繰り返しおこなうことによって、人工内耳を通して音声を聞き分けることができるようになるのです。
成人の中途失聴者は、音を普通に聞いていた経験があり、音声言語をすでに獲得しているため、人工内耳手術を受けた後は、新しい音の聞こえに慣れていくことが重要となります。一方、音声言語が獲得されていない乳幼児の場合は、音と言葉を結びつける経験が重要となります。一般的には、療育や訓練といわれるものです。訓練というと厳しく課題をこなすようなイメージがありますが、乳幼児の場合は楽しい気持ちで聴く力を伸ばせるよう、親子で一緒に遊びながらうまく工夫して療育をすすめたいものです。
○親の立場から:息子の人工内耳
私の場合、息子が生後11ヶ月頃、3月3日の耳の日に合わせておこなわれる聴覚障害のイベントに参加したとき、人工内耳のパンフレットをたまたま手にしたのが、人工内耳の存在を知るきっかけでした。当時の日本耳鼻咽喉科学会によるガイドラインでは、人工内耳手術の適用年齢は1才半から、となっていました。ちょうど息子が一才半になった頃、大好きな姉とおしゃべりしたい様子が見られるようになりました。母語が音声言語である私たち家族と息子がコミュニケーションをとるツールとして、手話だけではなく音声言語も活用できれば、との思いが私の中で強くなっていきました。
補聴器による聞こえの程度(装用閾値レベル)は、補聴器のみで音声言語が獲得できるかどうかギリギリのラインでした。当時、私の居住する地域では1歳代で人工内耳手術を受けた前例はありませんでした。私は迷いながら、学術論文やインターネットで情報を収集し、いろんな考え方があることを知りました。手話で、ある程度コニュニケーションをとれるようになってから人工内耳手術をすべきであると主張する論文もあれば、 一方で、音声言語の獲得には臨界期があり、手術はできるだけ早い方がいいと主張する論文もありました。
人工内耳を専門とする耳鼻科医の診察を受けたところ、「まだ1歳代なので急ぐことはないでしょう」と言われました。迷いに迷いながら、隣の県で人工内耳を専門とする耳鼻科医にセカンド・オピニオンを求めたところ、「補聴器がうまく使える場合は人工内耳もうまく使えることが多いです。」とのことでした。その言葉に私は背中を押され、息子に人工内耳手術を施行する決断をしました。結局、息子は1歳10ヶ月の時に左耳に人工内耳手術を受けました。現在、息子は右耳に補聴器、左耳に人工内耳を装用し、うるさいくらいおしゃべりをしています。
今となっては、 私は我が子に人工内耳手術を受けさせて本当に良かったと心から思いますが、息子が1歳代だった当時は手術を決断するにあたって、非常に悩み、迷いました。小さな我が子に人工内耳手術を受けさせる親の苦悩は、日本での小児の人工内耳装用が少ないことにもつながっていると考えられます。次回はこれらのことについてお伝えしたいと思います。
金沢大学人間社会学域人間科学系
准教授 荒木友希子
──■ 連載:母親として発達凸凹の子育てが面白い!楽しい!を広めたい
第2回 母親が最高の支援者だという自信をもってほしい
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こころことば教室のセラピストも、セラピストを指導する立場も、スーパーバイザーも発達凸凹の子供を育てる母親です。乳児や幼児の頃から、我が子を少しでも生きていきやすいように、出来る事が一つでも増えるように、人生のすべてのエネルギーを子供のために費やし、真剣に向き合って来ました。
だからこそ、巷にあふれるにわかに出現した療育スタッフのスキルや熱意に不満を感じてしまい、人任せでいい加減なことをされて、貴重な時間を無駄にしたくないと考えてしまいます。
また、スーパーバイザ--たちは、皆一旦は、療育会社で働いた経験から、療育会社の提供するプログラムは、会社組織を守るためであったり、論文を作成するためのデータ収集が目的であったりということに気付いてしまいました。ですから、スタッフは療育プログラムの教科書から外れることはなく、本当に発達凸凹の子供を伸ばすためというより、組織の論理を優先することもあるということを知ってしまったというのも、親のみの臨床家育成にこだわる大きな理由でもあります。
発達凸凹の子供を育てる中で、母親は、凸凹児の母親として、あらゆる試練にさらされます。まず、乳児健診で感じる不安と周囲からの冷たい仕打ち、赤ちゃん期の支援は皆無といっていいため途方に暮れます。保健センターでも小児科でも、様子を見守ること以上のアドバイスは、得られません。
(こころことば教室では、生後間も無くの赤ちゃんに関するお悩みも受けて、適切な対応方法、発達を伸ばすための関わりかたをトレーニングしています。実際に生後6か月や10か月の赤ちゃんも通っています。)
乳児健診の次の試練は、公園デビューです。一般的なお子さんとの違いを目の当たりにして、母親の心はずたずたぼろぼろです。せっかく仲良くなったママ友からも子供の発達が原因で疎遠にされ、同じ月齢の子どもたちがあまり手をかけなくてもコミュニケーション能力を獲得してどんどんいろんなことができるようになっていくのに、自分の子だけが取り残されたような状態に置かれます。滑り台やブランコを買って、自宅から出ずに過ごす親子もいます。人がほとんどいない早朝や夜間に、さみしく公園で遊ばざるをえない状況に置かれる母子も少なくありません。
次の関門は幼児期の習い事探し。習い事を断られたり、追い出されたり、母子で仲間外れやいじめに遭うケースもあります。
そして、公的な療育現場で専門職スタッフからの心無い発言で傷つき、さらには、障害に寄り添い、受容しなければという圧力を感じたりもします。そういう状況に置かれても、実母や姑、夫の理解も得られない上になかなか相談する相手もいない、、、。
次は、専門医選び。実にいろいろな医師がいますが、実際に力になってくれる医師は、あまり多くはいません。専門医以外のクリニックで失礼な対応をされるケースも多く、有名な医療機関は新患を受け入れていなかったり、診察まで半年から数年待ちです。
その次は、就学のためのあらゆる準備と就学時検診、就学相談を受けるべきかどうかの判断も重要です。受験をするかどうか、そのための教室や療育選びも多様化しています。
就学してからも、担任や周囲の教育関係者を味方につけてうまく立ち回らなければなければなりません。学齢期になると、母親もしくは父親がPTAでうまく動くことも必要になってきます。
小学校中学年になると、通常級では学習が複雑になります。この時期に学習障害を指摘するケースが出てきます。
中学受験への準備も本格化します。
そして、高学年から中学生時期の思春期。発達凸凹の子供達は、自己肯定感が持てなくなったり、傷ついたりして回復に時間がかかるケースもあります。
さらに、首都圏ではかなり難関になってきている高校進学の問題。
高校生になってからは、青年期の問題や暗黙の了解、趣味のこと、性のこと、大学進学や留学、就職のこと、、、。
突出する凸があって不登校になってしまう子は、少なくありません。
今、世の中にあふれる発達凸凹の子のためのと謳った習い事で、どれだけ凸の部分を伸ばすことが出来るでしょうか? 結局は、凸の部分をフォロー出来るのは、親の力なんです。どれだけ良い環境が見つけられるか、合う指導者を見つけられるか、周囲とぶつかり合わず、子供の味方を増やせるかもポイントです。
こういった苦難に打ち克ち、如何に良い環境を見つけ、よい教師を見つけ、子供の凸部を伸ばし、凹部をメンテナンスして、効率よく子供たちの成長を伸ばすことに希望を見出したお母さん臨床家は、同じような悩みを持つ母親たちのメンターとしても支援者としても適切な距離で支援することが出来ます。それが、母親が支援者として療育を提供する最大のメリットです。
今、担当しているクライアントさん(母親)が、昨日のセラピーで、ふっと口にした言葉が印象的でした。
ここまで苦労して、一時期はわが子を殺して自分の命も断とうとまで考えた時期もありました。だけど、この子がいてくれて、療育して伸びていくわが子と一緒にこの世界を知って、生きる喜びを実感できたから、この思いを発達障害のある子供を育てつつ悩んでいるお母さん方に伝える生き方がしたいんです、、、と。
あしたん
スーパーバイザー
こころことば教室 (ホームページはこちら>>)
──■ あとがき
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今号で第144号。年内には節目の150号に本メルマガが到達できそうです。
何か記念になることを、と思っているのですが、読者の方からご意見があればお聞かせいただけるとうれしいです。
この間、梅雨入りしたと思ったのに、真夏日が続く毎日です。気象庁の予報では、梅雨明けは九州南部で7月14日、東北北部では7月28日だそうですから、まだ梅雨明けまでは日があるのですが、、、
※気象庁 平成28年の梅雨入りと梅雨明け (詳細はこちら>>)
不順な天候が続きますが、読者の皆様にはどうかご自愛ください。
次号のメルマガは、7月22日(金)の予定です。
聴覚障害のある子を育てる:補聴機器をうまく活用する
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