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■□■ 新連載:NICUの赤ちゃん達の現在と未来
■□■□ メディア:動画レデックスチャンネルの開設
■□■□■ 企画:メルマガ300号記念懸賞付きアンケート(再掲)
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■ ごあいさつ
■□ 新連載:教育・心理的支援において診断基準をどう読むか・理解するか■□■ 新連載:NICUの赤ちゃん達の現在と未来
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■□ ごあいさつ ■□--------------------------
明けましておめでとうございます。本年も変わらず、当メルマガをお読みいただければ幸いです。
記念すべき300号ということで、2つの新連載をご用意しました。最初は、長崎大学で「医教連携」による支援の実現を目指すという注目すべき取り組みの中心人物のお一人、吉田ゆり先生の新しい診断基準の解説です。吉田先生には昨年5月から「発達障害を支える教員の養成」というテーマで連載をしていただきました。
※メルマガ
もうひとつは、田中太平(たなかたいへい)先生によるNICUの解説です。超低出生体重児は発達の困りをもつこともありますので、その点からも興味深くお読みいただけると思います。。
田中先生は秋田大学を卒業後、名古屋市立大学小児科で研修し、名古屋市立東市民病院、埼玉医科大学総合医療センター、聖霊病院、名古屋市立大学を経て、2003年から現在の日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院で勤務されています。新生児医療の黎明期から現在まで医療の第一線で活躍され、退職後はその経験を生かして「NICUスーパーバイザー」という企業名で起業されるご予定と伺っています。
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■ 新連載:教育・心理的支援において診断基準をどう読むか・理解するか
第1回 DSM-Vにおける描かれ方(自閉スペクトラム症・1)
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このシリーズでは、教育関係者や心理支援職が改めて診断基準を読むときの留意点を開設しながら、どのように診断基準と付き合っていけばいいのかをご一緒に考えることで、発達障害の改めての理解につなげていければと思います。
医師の先生方にとっての診断基準と、教育関係者や心理支援職にとっての診断基準は、もちろん同じものですが、その意味はかなり異なるように思います。
今回のシリーズでは、2013年に発表されたDSM-Vについて、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症の3つにおいて見逃されがちなポイントを含めて解説していきます。
1.DSMとは?
DSMの正式名称は「精神疾患の診断・統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)」です。その頭文字を用いた略語がDSMです。アメリカ精神医学会(American Psychiatric Association ; APA)が出版している、精神疾患の診断基準・診断分類であり、想定されているユーザーは医師等、及びコ・メディカルです。アメリカ精神医学会は、1844年に設立され長い歴史を持つ、合衆国の医学者、精神科医及び内科医で構成された学会ですから、ユーザー設定は当然のこととも言えます。
DSMは、1952年のDSM-Iの出版当初は統計調査のための作成だったとされていますが、版を重ねて第3版からは明確な診断基準を設けることで精神障害に関する精神科医間の信頼性を担保できることを目的としたと言われています。現在、最新の診断基準は『DSM-V』であり、2013年(日本語訳2014年)に発行されました。
DSM-Vには22のカテゴリーの精神疾患分類がありますが、私たちが最もよく参考、引用とするのは「神経発達症群 / 神経発達障害群(Neurodevelopmental Disorders)」でしょう。日本では法律的にも一般的にも『発達障害』と呼んでいる疾患群は、この「神経発達症群 / 神経発達障害群」と言うカテゴリーに分類されるものにあたります。さらに7つに分けられています。
※注 以下、DSM-Vから抜粋
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1 神経発達症群 / 神経発達障害群
・知的能力障害群
・コミュニケーション症群 / コミュニケーション障害群
・自閉スペクトラム症 / 自閉症スペクトラム障害
・注意欠如・多動症 / 注意欠如・多動性障害
・限局性学習症 / 限局性学習障害
・運動症群 / 運動障害群
・他の神経発達症群 / 他の神経発達障害群
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2.『診断基準』だけを読むと何が起こるか。
DSM-Vの各疾患ごとの記述は、いくつかの項目で構成されています。例えば自閉スペクトラム症では、大項目として「診断基準」が示され、そのあとに「記録の手順」「特定用語」「診断的特徴」「診断を支持する関連特徴」「有病率」「症状の発展と経過」「危険要因と予後要因」「文化に関連する診断的事項」「性別に関連する診断的事項」「自閉スペクトラム症の機能的結果」「鑑別診断」「依存症」の記述があります。
発達症(発達障害)の診断に係る医師の先生方は、DSM-V本体だけではなく、診断基準のさらなる理解と診断のために学びを深められると聞いています。その参考とする書籍は医学書院の発行するものだけでも『DSM-5ガイドブック』『~スタディガイド』『~診断トレーニングブック』など多岐にわたります。医療機関に勤務し医師による診断面接のために、医師のオーダーを受けて基礎資料を作成・そろえるテスターの役割を取るような心理職(公認心理師や臨床心理士など)は、熟読され、参考にされることもありますが、教育関係の書籍や研修で扱われるのは、ほとんどが『診断基準』のみであり、教育関係者や心理職の多くは診断基準以外の記述部分までを目にすることはないでしょう(もちろん、十分に学習されている専門職が少なからずいることも理解しています)。
◆『診断基準』だけを読むと何が起こるか。
まず、DSMはアメリカ合衆国で作成されたものです。専門家チームが時間をかけて、これ以上なく丁寧な協議を経て翻訳をし、日本語訳を作成したと聞いています。それでも素人からみると、翻訳っぽいつくりになっているので、我々医学以外の専門家には読みにくさが残るのは否めませんね。そのうえで『診断基準』だけを見ると、臨床像、つまり私たちが学級の中で子どもたちが見せる状態や困りがどう一致しているのかがわかりにくい。結果として、医師にとっては診断の際の共通言語になるだろう診断基準が、私たちにとっては、個人個人の解釈と経験で「いくつ一致したから〇〇だ」「たくさん思い当たるから〇〇だ」、という勝手な判断の材料になってしまいがちです。
ここではもう一度、『診断基準』だけではなく、後段の記述をどう読み、活かすかを考えつつ、ご一緒に考えていきましょう。
3.自閉スペクトラム症の診断基準
よく知られることですが、DSM-Vは包括的な概念であると言われています。そのため、自閉スペクトラム症、という新しい用語が用いられています。すなわち早期自閉症、小児自閉症、自閉症、自閉性障害、カナー型自閉症、非定型自閉症、広汎性発達障害、特定不能の広汎性発達障害、小児崩壊性障害、あるいは高機能自閉症、アスペルガー障害(症候群)など、様々な呼び名で分類を試みられてきた障害を、包括的にとらえよう、という考え方です。スペクトラムという言葉はそのコンセプトを総称しています。
自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害の診断基準は以下のようになっています。
※注 ------ の間に挟まれた部分はDSM-Vからの引用で、◆で始まる部分は著者の加筆。
A. 社会的コミュニケーション及び複数の状況および対人的相互反応における持続的な欠陥があり、現時点又は病歴によって、以下により明らかになる。(以下の例は一例であり網羅したものではない。)
(1)相互の対人的―情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、常同、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることのできないことに及ぶ。
(2)対人的相互反応で非言語的コミュ二ケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりの悪い言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
(3)人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、様々な社会的状況、にあった行動に調整することの困難さから、想像上の遊びを他者と一緒にしたり、友人を作ることの困難さ、または 仲間に対する、興味の欠如に及ぶ。
B. 行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在又は病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる。(以下の例は一例であり網羅したものではない。)
(1)同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物をたたいたりするなどの単調的な常同運動、反響言語、独特な言い回し)
(2)同一性の固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的な行動様
式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様
式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりする
ことへの要求)
(3)強度または対象において異常なほど、きわめて限定され、執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)
(4)感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
◆現在の重症度を特定せよ
→重症度は社会的コミュニケーションの障害や、限定された反復的な行動様式に基づく。
C. 症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が能力の限界を超えるまでは症状は明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある。)
D. その症状は社会的・職業的、またはほかの重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。
E. これらの障害は知的能力障害(知的発達症)または全般的発達遅延ではうまく説明されない、知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達水準から期待されるものより下回っていなければならない。
注:DSM-IVで自閉性障害、アスペルガー障害、または特定不能の広汎性発達障害の診断が十分確定しているものには、自閉スペクトラム症の診断基準を満たされないものは、社会的(語用論的)コミュニケーション症として評価されるべきである。
◆該当すれば特定せよ
知能の障害を伴う、または伴わない
言語の障害を伴う、または伴わない
関連する既知の医学的または遺伝学的疾患、または環境要因(コードするときの注:関連する医学的また は遺伝学的疾患を特定するための追加コードを用いること)
関連するほかの神経発達症、精神疾患、または行動障害(コードするときの注:関連する神経発達症、精神疾患、または行動障害を特定するための追加コードを用いること)
緊張病を伴う(定義については、ほかの精神疾患に関連する緊張病の診断基準を参照せよ。118 項)〔コードするときの注:緊張病の併存を示すため、自閉スペクトラム症に関連する緊張病 293.89 の追加コー ドを用いること〕(DSM-V)
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少々荒っぽい説明で医学研究者には叱られてしまうかもしれませんが、読み解く際のA~Eの位置づけを考えてみましょう。
A.B. は、臨床像(症状)、主症状であるA.(社会的コミュニケーションの障害)とB.(限定された反復的な行動様式)です。これらの症状はのちの記述である「診断的特徴」に詳細に記述されています。
そして、C.D.E.は、その臨床像を特定する際の条件を示しています。C.は初期兆候の存在を示し、診断の際には発達早期に症状がみられることが必須であることが書かれています。Dは、A・Bの症状が特定の場面だけではなく、学習・生活の複数の場面で見られ、それが支障を及ぼしていることが意味されています。さらにE.には知的障害(知的発達症)との鑑別と併存が重要であることが示されています。知的障害の判断については、(知能検査等を用いて)個別に知的プロフィールを把握することが必須であるとされています。
C.D.Eを理解するためには、診断基準以降の記述部分を詳細に読み解く必要があります。
さらに、上記の診断基準だけでは、その重症度の判断をすることはできません。「特定用語」には、その重症度についての説明が加えられていますが、DSM-Vのコンセプトは、重症度をどう考えるか、それはどの程度の支援を必要とするかという、いわば“支援度”が判断基準になることが明示されています。その上で、A.社会的コミュニケーションと、B.限局された反復的行動のそれぞれを、レベル1「支援を要する」、レベル2「十分な支援を要する」、レベル3「非常に十分な支援を要する」の3段階で判断する水準が示されています。
今回は、診断基準の大まかな成り立ちについて概説しました。
次の回からは、自閉スペクトラム症のA~Eの解説をひとつずつ行いながら、私たちが目にする症状の診断基準的な根拠をとらえていくことにしましょう。
◆吉田 ゆり(よしだ ゆり)
長崎大学教育学部・教育学研究科 教授。専門は発達臨床心理学。
公認心理師、臨床心理士、臨床発達心理士、そして保育士でもある。
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■ 新連載:NICUの赤ちゃん達の現在と未来
第1回 NICUってどんなところ?
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創刊300号という記念すべき時に寄稿する機会をいただき、どうもありがとうございます。私は日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院新生児科の田中太平と申します。65歳を迎え、今年度で定年退職となりますが、その最後の仕事として、これから5回に渡って「NICUの赤ちゃん達の現在と未来」と題して、NICUを皆様にご紹介したいと思います。
■ 新連載:NICUの赤ちゃん達の現在と未来
第1回 NICUってどんなところ?
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創刊300号という記念すべき時に寄稿する機会をいただき、どうもありがとうございます。私は日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院新生児科の田中太平と申します。65歳を迎え、今年度で定年退職となりますが、その最後の仕事として、これから5回に渡って「NICUの赤ちゃん達の現在と未来」と題して、NICUを皆様にご紹介したいと思います。
※写真1
1.NICUに入院してくる赤ちゃん達は・・
NICUはNeonatal Intensive Care Unitの略で、新生児集中治療室と呼ばれています。1,000g未満の超低出生体重児から4,000gを超える巨大児、新生児仮死、人工呼吸器を必要とするような呼吸障害を伴った新生児、子宮内感染症、先天性心疾患、染色体異常、多発奇形など様々な赤ちゃん達が入院してきます。当院入院の内訳を見てみると、90%は院内で出産してNICUに入院してくる院内出生、10%は他院で出生し、出生後に搬送されてくる院外出生の赤ちゃん達です。
現在では、胎児エコーで異常を認めたり、在胎週数が早い時期に破水したり、重度の妊娠高血圧症候群や子宮内発育不全など、妊娠中に母体や胎児に異常を認める場合、なるべく母体管理と新生児管理ができるような周産期母子医療センターに母体を紹介してもらうようなシステムとなっています。私が医師になった40年前は、「800gで生まれてしまったけれど、1時間経ってもまだ生きているので搬送して欲しい」というようなサバイバルテスト(!)も行われていましたが、超低出生体重児であっても90%以上が救命できるようになり、隔世の感があります。
周産期母子医療センターはその規模によって、総合周産期母子医療センターと地域周産期母子医療センターに分かれていますが、愛知県では総合が7施設、地域が13施設あり、全国的に見てもNICUのベッド数も多く、恵まれた環境にあります。当院は総合周産期母子医療センターとしてNICU15床、GCU20床(Growing Care Unit:新生児回復室)だけでなく、MFICU6床(Maternal Fetal Intensive Care Unit:母体胎児集中治療室)、さらには脳神経外科や神経内科と連携して周産期脳卒中センター、臨床遺伝診療科も開設しています。
妊娠中の経過が順調であっても、出生した赤ちゃんに呼吸障害などの異常を認めれば、その産科からNICUに搬送依頼の電話が寄せられ、新生児科医が赤ちゃんの搬送に向かいます。NICUでは24時間、常に院外搬送に行けるような体制を取っていますが、時にNICUが満床で赤ちゃんを受け入れることができない場合、搬送先の病院を探して他のNICUに搬送をお願いしたり、当院の新生児科医が出向いて他院のNICUまで赤ちゃんを搬送する三角搬送を行ったりすることもあります※写真2。院外搬送については、出生した産科クリニックの産科医が新生児をNICUまで搬送する県もありますが、愛知県では熟練した小児科医が赤ちゃんを搬送するというシステムができあがっています。また、愛知県では、私を含めた3名で東海Neoforumという組織を立ちあげ、4つの大学病院も含めた全NICUと連携をとり、大学間の垣根もなく、情報交換や様々な共同研究も行っています。
※写真2
2.NICUに入院した赤ちゃん達にとって環境は・・
胎児は子宮の中で臍帯と胎盤で母体とつながりを持ちながら、羊水中に無重力状態で浮かんでいる訳ですが、その環境温度は母体の体内温度と同じなので、いつもほぼ一定に保たれています。NICUに入院すると、赤ちゃんは一定の温度、湿度環境を保つために保育器に収容されます。赤ちゃんは体温を維持する力が弱く、羊水で濡れたままになっていればすぐ低体温に陥ってしまうので、1,500g以下の赤ちゃんはプラスチックバッグに入れたり、ラップでくるんだりしたままNICUまで運ばれてきます。
※写真3
低出生体重児は皮下脂肪が薄く、ちょっとした環境温度の変化が体温変動に繋がってしまうため、在胎週数や日齢に応じて温度と湿度を調整しながら管理されます。特に、超低出生体重児は皮膚の角質が極端に薄く、不感蒸泄※で体温を奪われやすいため、出生後数日間は保育器内の温度を体温に近い温度まで上げて、湿度も100%に近い環境でケアされます。
※不感蒸泄 日常生活で自然に失われる水分
※写真4
体の表面から水分が蒸発すると熱が奪われて体温が下がってしまう(不感蒸泄)ために高加湿環境にしますが、この状態を長く続けると細菌やカビが繁殖して赤ちゃんの命が危険に晒されることもあるので、皮膚の角質の形成状況や体温を維持する力を見極めながら徐々に湿度を下げていきます。
一方、重症仮死で出生した成熟児では、脳内温度を下げて神経細胞の崩壊を抑制するため、全身を冷却して体温を33度台まで下げる低体温療法を行うこともあります※写真5。子宮の中は夕暮れ時の明るさと言われていますが、在胎週数に応じた照度調整も必要です。NICU内の光環境については、また次の第2回で紹介したいと思います。
※写真5
在胎週数が非常に若く体も小さい時には子宮内のスペースにも余裕がありますが、在胎週数が進んで体が大きくなるにつれて、狭い子宮内でも心地よく過ごせるように伸筋よりも屈筋優位が強くなり、赤ちゃんは手足を曲げた肢位を取るようになります。そのため、NICU入院後は子宮内を模して、赤ちゃんを取り巻くように土手のような囲い込みをしてあげると赤ちゃんも落ち着きます※写真6。
※写真6
出生後、赤ちゃんが泣いている時に、手足を曲げて囲い込むようにしながら抱っこしてあげると落ち着くのも、同じ理由です。このポジショニングを整えることで、赤ちゃんをなるべく落ち着いた状態に保ってあげるということはとても大切で、第3回で紹介する早産児のADHD(注意欠如・多動症)の発症を軽減させることにも役立っています。
3.赤ちゃんにとっては呼吸をするだけでも大変なこと!
胎児期には胎盤を介して酸素や栄養分をもらっていますので、肺は使っていません。胎児期の肺は空気の代わりに肺液という液体で満たされた状態で成長していきます。在胎16週頃から、自力で呼吸するための準備運動として呼吸様運動が出現し始めます。呼吸様運動といっても声門を閉めたままで息を吸っているため、羊水は肺には入ってきません。試しに声門を閉めたままで息を吸ってみるとどんな感じになるか?やってみて下さい。数分間続けるだけでも、結構、苦しい筋トレ・・ということが実感できるはずです。
在胎34週頃までに、肺を膨らませるために必要なサーファクタントという成分が肺から分泌されるようになりますが、それ以前に出生してしまうと、呼吸しようと努力しても肺をうまく広げることができず、気管に管を入れて肺を膨らませる人工呼吸や薬としてのサーファクタントを肺に注入する治療が必要となってきます。
満期になって陣痛がついてくると、胎児の体の中でストレスに応じてカテコラミンという物質が産生され、肺液の産生は抑制されて吸収が促進されるため、肺液の9割は吸収されます。残り1割の肺液は狭い産道を通過する時に胸郭が圧迫されて口から圧出され、出生後、胸郭が拡がって肺に空気が入り込んで「オギャー」という産声をあげます。
それに対して、予定帝王切開では肺液がそのまま残った状態で出生となるため、産道を通過するという苦しさを経験しない代わりに呼吸障害が起きやすいという訳です。ただ、満期産の児では肺液の吸収能力が非常に高いため、通常、生後数分の間に呼吸状態は改善していきます。
子宮収縮に伴って臍帯(さいたい)が圧迫されるなど、胎児の心拍数が低下するような胎児機能不全に陥ると、子宮内で苦しくなって羊水中に胎便を出してしまうことがあります。苦しくなって出生前に大きく息を吸い込んでしまうと、胎便混じりの羊水が肺に入って胎便吸引症候群という呼吸障害に陥ります。
逆に、新生児仮死で出生したときに、自発呼吸が出ない状態になると、一気に低酸素状態に陥るので、新生児蘇生が必要となります。また、早産児では呼吸中枢が未熟で、肺の容量も小さいため、無呼吸発作を起こして低酸素状態になることもよくあります。
このように考えると、出生直前まで息をせずに我慢して、出生後にはしっかり息をするという切り替えは、赤ちゃんにとって命に関わる大変な行為ということがわかるかと思います。お産はお母さんにとって痛みを伴う大変なことですが、実は赤ちゃんにとってもかなり苦しいことが少しイメージできましたでしょうか?
4.赤ちゃんが呼吸障害に陥った時には・・
出生後に呼吸障害を認める時には、在胎週数やその重症度を考慮して、人工呼吸器の種類や呼吸をサポートするディバイスを選択します。呼吸障害が比較的軽症であれば、酸素投与だけで様子を見ることができる場合もありますが、赤ちゃんの肺は広がりにくく潰れやすいので、呼吸補助で悪循環に陥ることを避けるようにしています。気管に管を入れて(気管挿管)人工呼吸器による呼吸補助を行ったり、鼻マスクや鼻プロングをつけて肺を膨らませたりするような陽圧換気※、最近では、nasal high flow cannulaと呼ばれる装置によって、気管挿管を避けることができる場合も増えてきました※写真7。
※陽圧換気 肺に圧力をかけて空気を押し込む呼吸
※写真7
ただ、超低出生体重児では1ヶ月以上の長期に渡る人工呼吸器管理を要することも多く、陽圧換気を続けることによる肺損傷(新生児慢性肺疾患)で人工呼吸器から離脱できるようになっても、在宅酸素療法を必要とする場合も時々あります。
5.当院のNICUをYou tubeでご覧下さい!
今回は、NICUの現状の一部をご紹介しましたが、少しイメージできましたでしょうか? 当院には年間500名を超える赤ちゃん達が入院し、ほとんどの赤ちゃんはいろいろな困難を乗り越えてNICUを退院できますが、年間数名は救命できない赤ちゃんもいます。そのような赤ちゃんも視野に入れながら改築したNICUを、CBC(中部日本放送)が1ヶ月半かけて取材してくれました。CBCには黙認してもらうという形で特集番組をYou tubeにアップ(12分)していますので、お時間があればご覧下さい。
※YouTube動画
注)赤ちゃんの写真はご家族の同意をいただいて掲載しています。
◆田中太平(たなか たいへい)
日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院新生児科部長(2023年3月まで)
NICUスーパーバイザー CEO(2023年4月以後)
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本メルマガで得た知識を気軽に知っていただきたいと、動画レデックスチャンネルを開設しました。■ メディア:動画レデックスチャンネルの開設
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レデックスチャンネル
毎週木曜日の夕方以降に、新しい動画を1本公開します。最初のシリーズは「発達の困り」です。「発達の困り」をさまざまな角度から解説することで、なぜ発達の困りは起きるのか…? 発達の困りは重複する…? 「特徴がある=障害がある」ということではない、などを5分間の動画でお話しします。お時間を見つけてご視聴いただければうれしいです。
※動画はこちら
また、そのダイジェスト版として、1分弱で本編のポイントや重要な部分を切り抜いたショート動画も投稿していきます。
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12年の長きに渡って刊行を続けてこれたのは読者の方々と、寄稿していただいた著者の方々のおかげです。重ね重ね心より御礼申し上げます。
読者の方々が興味をさらにもっていただけるようにメルマガ改良を目的としたアンケートを実施いたします。年始のご多忙の中恐縮ですが、以下のページからご協力いただければ幸いです。
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次回メルマガは、1月27日(金)の予定です。