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■ 連載:保育所等訪問支援の取り組みの事例紹介 後半
■□ 連載:認知特性テストから分かること---------------------------------------------------------------------------------------------------
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■ 連載:作業療法士が行う保育所等訪問支援
第3回 保育所等訪問支援の取り組みの事例紹介 後半(最終回)
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7.学習課題の見直しとスモールステップ
まずは本児が「できる」課題に着目し、どんな課題が得意か、どんな活動を好むのかを分析し、それらに似た作業内容のレパートリーを増やすことから始めました。特に初めての課題は、ポジティブな印象で終われるよう、確実に達成できる量からスタートすることを心がけ、スモールステップで取り組みました。また、どこでつまずいているのかを探り、視覚的な手がかりをつける等、課題自体を見直して、最終的に「一人でできる」物を増やすことを目標に取り組んでいきました。
このスモールステップでの取り組みは全ての活動において重要で、課題分析はOTの得意分野でもあります。訪問先でよくある出来事として、連携先の専門家から言われたサポートを続け、ずっと同じ状態のままとなっていることがあります。もしくは、ステップを大幅に飛び越えていて、目的達成が難しくなっていることもあります。自戒を込めてではありますが、過去に導入した道具が調整されていなかったり、使われなくなっていたりすることもあります。そのために連携する場合は、今取り組む内容だけではなく、先の見通しを具体的に伝えることが重要であると考えます。
定期的な訪問はこれらを確認することができるので、とても有効です。本児の場合、これまで全介助の状態でしたが、日々の身体誘導でもスモールステップを心がけてもらうようにしました。例えば移動の際、腕を誘導する段階から、肘に触れて、肩に触れて・・・と関与度をどう減らしていくか具体的に提示していきました。この他、着替えやカバンの片づけ等、身の回りのことを身体誘導で介入する部分と見守る部分を定期的に確認しながら本児が一人で動けるようにしていきました。
8.Win-Winの関係を築く
「できる」「わかる」と言った環境は、本児の安心・安全につながり、不適応行動の悪循環が断ち切られました。本児にとって、何を期待されているのかがわかり、課題に取り組むことで褒められるといった体験から、いろんな活動にチャレンジすることができるようになっていきました。一方、担任も本児が理解して行動できるようになったことにより、いい意味で手放す時間がつくれ、余裕が生まれました。このような本児の特性を理解したかかわりによって、お互いがWin-Winの関係で過ごせるようになっていきました。
9.一人で過ごすことと役割の提供
「一人で過ごせる」ことは将来的にもとても重要です。成人期に人に依存していると、常に誰かがそばで対応せざるを得なくなり、家庭での生活が難しくなったり、人手不足を理由に施設入所を断られたりする等の問題が生じる可能性があるからです。
自立課題でできることのレパートリーを増やしていくと同時に、これを生活の中でどのように活かすかを考える必要があります。支援開始時、本児は洗濯バサミをカードから外して弁別するという作業が行えていたので、その次の段階として、洗濯バサミにカードを挟むという作業活動を提供しました。その後、ピンチハンガーにカードを干す作業を提供し、これもスモールステップで取り組んだ結果、一人でできるようになっていきました。最終的には、ハンカチや靴下を干せるようになり、家庭でも役割が持てるように展開していきました。
10.移行支援
学年が変わると担任も変わります。担任が変わると環境も変わります。これらは混乱を招くことになるので、学校と話し合い、新しい担任への引き継ぎを春休み中に行いました。支援ツールの活用の仕方を具体的に引き継ぐことで、本児は不安なく2年生に進級することができ、日々の生活が安定していきました。
11.通常学級での役割
安定した生活により、さまざまなことにチャレンジできるようになりました。その一例として、数字のマッチングと回数を明確にすることで床のモップがけや机拭きができるようになりました。このため、この活動を通常学級の役割として、給食後の配膳台の台拭きを本児の仕事として担う等、活動の幅が広がっていきました。
12.仕事
シュレッダーをかけることにもチャレンジしています。機械のスイッチを触ってしまう等の行動が予測されていたので、事前に道具の工夫と環境設定を設定し、またモチベーションとしてトークンを用いて労働の学習を行いました。すると、徐々に複数の紙を裁断できるようになり、短時間ではありますが、本児の仕事として取り組めるようになりました。
13.余暇活動
本児は、アーティスト「ゆず」の曲を聴くことが好きであるということを周囲の人は知っていましたが、本児自身は曲名を知らない状況でした。このため、担任との学習時に、PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)を用いて、曲名を学んでもらいました。CDのジャケットをシンボル化し、それを先生に渡すと音楽が聴けるようにしました。また、本児がシンボルを担任に渡す際、担任が該当する曲名を言うと本児もおうむ返しで曲名を言うことを繰り返す中で、曲名を理解するようになりました。これにより、本児は曲名を覚え、気分によって曲を選択して要求できるようになりました。
〇本児を通して学んだこと
本児は中学校を卒業後は特別支援学校に進学し、現在は家庭で過ごしながら地域の事業所に通っています。学生時代に取り組んだ洗濯物干し等を家での役割として過ごしていますが、昨今のコロナ禍の自粛生活の際に役立っているという保護者からの報告を受けて、あらためて家での役割や活動の重要さを感じました。また、シュレッダーの仕事も特別支援学校での現場実習で非常に役立ちました。実習では、作業のレパートリーが限られ、空白の時間に手持ち無沙汰になることがありましたが、シュレッダーを扱えることで、役割をもって過ごすことができていました。
実際に今も事業所で、この活動が継続できているようです。音楽もさまざまな隙間時間等でも活用することができ、余暇として楽しめているそうです。とある日、本児とカラオケに行く機会があり、その際は、自分の好きな曲を自分で選ぶことができていました。これは学生時代に学んだことが生活の場で生かされるシーンでもありました。
冒頭で述べたように、マズローの欲求の下層である安心安全の環境をいかにつくるかが、支援の第一歩であると考えます。これはすべての人に共通して言えることかと思われます。この環境があることで、さまざまな作業に挑戦し、学び、スキルを獲得することができます。人に依存せず一人で作業ができると仕事ができたり、家庭では手伝いや留守番ができたりと活動への参加が広がってきます。
また、子どもたちが将来、地域社会で生き生きと楽しく生活できるためには、自分の選んだ好きな活動をしながら時間を過ごせることが大切であると考えます。コロナ禍でも明らかになったように、余暇の楽しみや活動がある人は生活を安定させやすいところがあります。いかに学生時代に余暇活動を培うかが、知的障害者を地域で支援するポイントになるかと思います。
〇おわりに
このように、保育所等訪問支援を活用して作業療法士が子どもの生活である学校に訪問し、担任と試行錯誤しながら協働することで、子どもの適応行動を増やし、活動の幅を広げることができました。
実際、保育所等訪問支援を実施していて、上手くいくことばかりはではありません。また、対象の子どもや環境によってさまざまな取り組み方があります。ただ、このような実践を一つ一つ丁寧に取り組んでいくことで、子どもの集団適応を高め、地域の信頼を得ていくことが重要と考えます。子どもたちが地域で生き生きと楽しく生活していくために、生活支援を得意とする作業療法士は、作業療法室にとどまらず、ぜひ生活の場に出向いて支援していくべきだと思っています。
◆高橋知義(たかはしとものり)
株式会社LikeLab 保育所等訪問支援事業 Switch 管理者、作業療法士
著書「発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚遊び」(共著、合同出版) 「発達が気になる子の学校生活における合理的配慮」 (共著、中央法規出版)「教室でできるタブレットを活用した合理的配慮・自立課題」(共著、中央法規出版)等多数。
特別支援グッズ「Qスプーン」「Qフォーク」開発・監修
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■ 連載:認知特性を考える
第2回 認知特性テストから分かること
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前回は、認知特性とその周辺で知っておきたい情報について解説しました。
今回はまだ開発途中の試作版ですが、認知特性テストの結果の実例2つを取り上げて、解説してみたいと思います。テストを行ってみると、一人ひとり偏りがかなり異なることがお分かりいただけると思います。
実例の前に、認知特性のタイプについて、おさらいしておきます。
0.認知特性の6タイプ
認知特性は、大きく3つに分かれます。
視覚優位:目で見た情報を処理するのが得意なタイプ
言語優位:言語情報を処理するのが得意なタイプ
聴覚優位:耳で聞いた情報を処理するのが得意なタイプです。
さらに、それぞれが2つのタイプに分かれます。
1)カメラタイプ(視覚優位):写真のように、2次元で捉え思考するタイプ
2)3Dタイプ(視覚優位):空間や時間軸を使って考えるタイプ
3)ファンタジータイプ(言語優位):読んだり聞いたりした内容を映像化して思考するタイプ
4)辞書タイプ(言語優位):読んだ文字や文章をそのまま言葉で思考するタイプ
5)ラジオタイプ(聴覚優位):文字や文章を「音」として耳から入れ情報処理するタイプ
6)サウンドタイプ(聴覚優位):音色や音階といった音楽的イメージを理解・処理できるタイプ
1.「言語優位」タイプの実例
まずは、下の棒グラフをご覧ください。
これ実は、筆者である五藤の結果です。グラフ中に記載されている数値は、まだチューニングが終わっていない状態なので、他のタイプとの差だけに注目していただきたいと思います。
視覚・言語・聴覚の3タイプで分けると、言語タイプのファンタジーと辞書の両方の数値が、ラジオをのぞく他のタイプの倍以上となっています。
その右のレーダーチャートは、筆者の7種類の認知機能の測定結果です。ざっくりと見て、計算が高く、それに次いで注意集中と抑制が高いです。低く出たのは記憶です。ただ、全体として認知機能ごとの偏りは少なくバランスがとれた状態といえると思います。
切符を買ってお使いに行く、人と適度な距離をとって話す、などの社会機能を行うには、注意力や記憶力といった複数の認知機能の一定のレベルが必要となります。その意味では認知機能の点からは向いていない職業といったことは考慮する必要がなく、認知特性に絞って、適性を考えればよいことになります。
ファンタジータイプの強みは、事象等の中から意味を見つけ出したり、なんらかの有意味な方向にものごとを収斂させていったりすることです。また、それを膨らませてアウトプットすることもできます。
辞書タイプの強みは、知識を体系的に理解し、記憶する能力に秀でていることです。
筆者は、企業勤務時代から担当している業務の中から新しい商品やサービスについてのアイデア出しを行って、企業内ベンチャーといった担当につくことができました。創業してからは、様々なタイプのデジタル教材をつくり、一人ひとりに合った教材を選び出すような事業を作ってきました。ファンタジータイプの強みを前面に出し、それをバックアップする辞書タイプの強みも活用してきました。そういった意味では、認知特性にあった職業選択を継続してできており、成功したかどうかは別にして、自分のやりたいことができてきていることは幸せだったと思います。
2.「聴覚優位」タイプの実例
別の人にやってもらった結果も見てみましょう。
次の結果をご覧ください。
タイプ別でいうと、圧倒的に聴覚の2タイプの数値が高い結果です。辞書タイプの数値もそうとう高いといえます。
認知機能では、計算力が非常に高く、それ以外も総じて高いレベルでバランスがとれています。計算力を活かす、という観点もなくはありませんが、認知機能的にはなんでもできるので、その意味では、このケースも認知特性を活かした職業選択をするのがよい判断だと思います。
サウンドタイプの強みとしては、音を感覚的にとらえたり理解したりすることが得意ということです。また、音韻の認識が得意なので言語習得の面でも強みがあると思われます。
ラジオタイプの強みとしては、聴覚的な意味の理解や記憶が得意な点です。大量の知識の記憶が必要になる法律学などにも向いているといえます。また、リアルタイムで弁論を扱う弁護士や教師などにも向いていると思われます。
さらに、辞書タイプの特性も高いため知識の体系的な理解ができるので、さまざまな分野で成功できる特性を持っていると思います。
種明かしをすれば、この人は本田式認知特性研究所の研究員でもある粂原圭太郎さん。京都大学経済学部に首席入学後、オンライン受験指導を始め、最近では、テレビにも出るマルチタレント。競技カルタを連覇したことで、粂原さんの聴覚を使った記憶術が一躍注目を集めています。自分の特性にあったやり方を見つけられれば、粂原さんのように大活躍できるかもしれませんね。
3.本田40式認知特性チェック
いかがでしたか? 認知特性を使った生き方の選択について、興味をもっていただけたらうれしいです。前述のテストは、まだ開発途中ですので、やってみたいと思われた方は、下記の本田40式認知特性チェックをお試しいただければと思います。
本田40式認知特性チェック
◆五藤博義
本田式認知特性研究所 研究員
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