----TOPIC----------------------------------------------------------------------------------------
■□■ コラム:映画「さかなのこ」
---------------------------------------------------------------------------------------------------
■ まえがき
■□ 新連載:作業療法士が行う保育所等訪問支援■□■ コラム:映画「さかなのこ」
---------------------------------------------------------------------------------------------------
■□ まえがき ■□--------------------------
本メルマガの発行元、レデックス株式会社の新サービス「となりの専門士」※で支援する専門士を紹介するシリーズ第2弾です。
※となりの専門士
今回寄稿してくださる高橋知義(たかはしとものり)さんは、作業療法士。幼児期から成人期までの幅広い年齢を対象に、また、重度心身障害から発達障害とさまざまな困りをもつ人を対象に作業療法を実践する傍ら、生活介護事業所や就労移行支援事業所の管理者も務めてこられました。
2015年4月に株式会社LikeLabに入社。「もっと子どもたちの生活の場を知りたい、もっと地域で実践できる作業療法士になりたい」という思いから保育所等訪問支援事業所Switchを立ち上げ、現在は学校や保育所などに訪問して7年が経過、子どもたちの困り感を支援するために日々奮闘されています。
そのメインのお仕事である「保育所等訪問支援」について、今回は解説していただきます。
───────────────────────────────────…‥・
■ 新連載:作業療法士が行う保育所等訪問支援
第1回 保育所等訪問支援とは?
───────────────────────────────────…‥・
2012年(平成24年)児童福祉法の改正は、障害の軽減を目指す医療モデルの支援から、障害のある子どもたちの地域での育ちと成人期の暮らしを見すえた生活モデルの支援への画期的な転換で、ノーマライゼーション理念や国連ICFの理念(医療モデルから社会モデルへの転換)を具現化し、障害者の権利に関する条約が提唱するインクルーシブ社会を目指す重要な改革となりました。※1
※1 全国児童発達支援協議会(監).宮田広善、他(編),山根希代子,他(著):新版 障害児通所支援ハンドブックー児童発達支援・保育所等訪問支援・放課後等デイサービス.エンパワメント研究所,p12.2020
保育所等訪問支援は、この児童福祉法の改正によって創設されました。福祉サービスの障害児通所支援の一つで、個別給付によって実施する初めてのアウトリーチ型の支援になります。
これまで、障害のある子どもや発達が気になる子どもが、施設や病院に通い専門家のアドバイスを受けたり、トレーニングをしたりという流れが通常でした。しかし、この保育所等訪問支援は、専門家が子どもたちの生活の場に出向いて支援するという画期的な事業になっています。
これまでも訪問型の支援としては「障害児(者)地域療育等支援事業」などが存在していますが、これらは都道府県、政令都市、中核市の補助事業であり、財政基盤が弱く、事業を委託されなければ実施できないという状況でした。また、基本的に訪問や巡回先の機関に専門的助言を行うという位置付けであるのに対して、保育所等訪問支援事業は児童福祉法に義務的経費(個別給付)の事業として位置付けられ、対象となる子どもへの支援を行うことを必須としています。
保育所等訪問支援は、障害児施設等で、障害児への指導経験のある訪問支援員「児童指導員や保育士、医療専門職(作業療法士・言語聴覚士・心理師等)」が、保育所や学校など子どもが集団生活を送る場に訪問し、その対象となる子どもや訪問先の担当者に対して、集団生活に適応するための専門的な支援を行うとされています。
その際、子どもに直接関わりアプローチをする「直接支援」と、所属先の担当者に情報提供や接し方、環境整備などの助言を行うなどの「間接支援」を行うことができるようになっています。
専門家が子どもの生活の場に出向くことによるさまざまなメリットとして、以下のようなことが挙げられます。
(1) 個別対応では見えにくかった集団場面での発達上の課題を拾い上げたり、その場で直接課題に取り組んだりすることができます。
(2) 本人への直接支援や保護者に対する家族支援、所属先に対する間接支援と、これらの3者に対する支援を同時に実施することができます。
(3) 通所支援で身につけたことを集団の場で活かせるように繋いだり、逆に集団の場で課題となることを通所支援に求めたりと直接、情報を共有することができます。
(4) 通所支援等を終了し、地域の所属先へ移行した後のフォローアップのツールとして活用することができます。
(5) 所属先への不信や不満から保育所等訪問支援の利用に至るケースが多くありますが、直接現場を確認したり、担当者の話を確認したりと間に入って対応することで、保護者と所属先との軋轢を解消することができます。
これらのように保育所等訪問支援は、さまざまな課題への対応として期待できるものであり、インクルージョン推進の潮流に乗った未来志向型の事業として期待されています。
2014年に厚生労働省が開催した「今後の障害児支援の在り方に関する検討会」では、障害児支援は「インクルージョンを推進するための後方支援」の役割を担うことが明確化され、(1) 障害のある子どもも原則、一般施策の中で育つことが当たり前であること、(2) インクルージョンを進めるには障害のある子どもやその家族、受け入れる一般施策のスタッフや障害のない子どもたちが安心できるよう特性に応じた環境調整や関わり方、集団への働きかけなど専門的支援が必要であることが確認されています。その中において保育所等訪問支援は、インクルージョンを推進する「1丁目1番地」の重要な事業であり、全国的に普及させていく必要がある※2とされています。
※2 全国児童発達支援協議会. 保育所等訪問支援の効果的な実施を図るための手引き書,p1.2017
保育所等訪問支援の訪問対象施設は保育所、幼稚園、認定子ども園、小中学校(普通学級、特別支援学級、通級学級)、高等学校、特別支援学校、放課後児童クラブ(学童)などの他、市町村が認める施設、乳児院、児童養護施設となっています。
訪問頻度や回数は2週間に1回程度となっていますが、実情に応じて回数を増やすことも可能です。
保育所等訪問の基本的な流れとしては以下のようになっています。
(1) 保護者が市町村窓口に申請し、障害児相談支援事業者を選ぶ
(2) 障害児相談支援事業所はアセスメントを実施して、保育所等訪問支援事業所と事前の支援会議を開き、障害児支援利用計画(案)を作成した後、市町村による支給決定を受ける
(3) 障害児相談支援事業と保育所等訪問支援事業所、できれば訪問先の担当者も参加して、担当者会議を開催し、障害児支援利用計画を確定する
(4) 保育所等訪問支援を実施する事業所の児童発達支援管理責任者が個別支援計画書を作成し、計画に基づいて保護者に支援内容を説明し、保護者と事業所とが契約する
(5) 事業所と訪問先機関、保護者が日程調整を行った上で、訪問日を決める
(6) 訪問の実施
(7) 保護者に支援内容や子どもの様子について報告を行い、訪問内容を記録する
保育所等訪問支援を実施するにあたって、支援内容は対象児の状況に沿ったものであることはもちろん重要なことではありますが、訪問先の状況を理解したり、担当者の思いを尊重したりして柔軟に対応していく姿勢が求められます。子どもを中心に、保護者、訪問先、担当者がバランスよく連携することが求められます。専門家が気をつけるべきポイントとして、一方的な指摘や指導ではなく、訪問先の担当者のニーズと子どものニーズ、そして保護者のニーズをうまく調整し、それぞれが協力して良い結果が得られるように支援していくことが重要になります。
障害児(者)の地域での暮らしを考えるにあたって、環境はとても重要です。環境には物理的な環境だけでなく、かかわる人も含まれます。かかわる人(家庭・支援者・周囲の人)がどのような価値観を持ち、どのようにかかわっているかによって大きく左右されることがあります。
人が安心して自己実現を果たすためには、マズローの欲求の下層である(1) 生理的欲求、(2) 安全欲求の物質的欲求 をしっかり満たす必要があります。
家庭や所属先が安心できる居場所であれば、子どもは伸び伸びと成長していきます。一方で、理解が得られずに叱られ続けたり、やりたいことが阻害され続けたりしている状況では、萎縮してしまったり、反抗的になったりと二次的な問題が起こりやすくなります。また、知的に重度な場合は、不適切な関わりによっては強度行動障害を招く恐れもあったりします。これは肢体不自由についても同様です。特性を理解せず対応していくことによって、変形や拘縮(こうしゅく)※3といった二次的、三次的な問題につながっていきます。このような状況に陥らないためにも我々専門家は地域に出向いていく必要があります。
※3 拘縮 筋肉の持続性収縮。
作業療法士は「生活支援の専門家」※4と言われています。作業療法士は発達的視点を持ち、作業分析、活動分析、動作分析、環境分析を行い、幅広い視点でのアプローチが可能です。運動機能、感覚―知覚―認知機能、心理機能、社会機能などの発達を促すアプローチから、補装具・自助具、テクノロジー、ジグ※5、環境調整など、本人が持っている力でやりやすい方法で考えるアプローチを得意とする職種です。作業療法士はこの保育所等訪問支援事業を大いに活用して、生活の場である地域にどんどん出かけていくべきであると考えています。そこでは想像を超える場面に遭遇するかもしれませんが、作業療法の専門性を発揮する大きなチャンスとなります。
※4 中村春基:作業療法のあり方と病院における作業療法の役割.OTジャーナル49:464-471.2015
※5 ジグ:加工や組み立ての際、部品や工具の作業位置を指示・誘導するために用いる器具の総称。
次回は、保育所等訪問支援の取り組みの実践事例を紹介したいと思います。
◆高橋知義(たかはしとものり)
株式会社LikeLab 保育所等訪問支援事業 Switch 管理者、作業療法士
著書「発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚遊び」(共著、合同出版) 「発達が気になる子の学校生活における合理的配慮」 (共著、中央法規出版)「教室でできるタブレットを活用した合理的配慮・自立課題」(共著、中央法規出版)等多数。
特別支援グッズ「Qスプーン」「Qフォーク」開発・監修
───────────────────────────────────…‥・
■ コラム:本や映画の当事者たち(6)
映画「さかなのこ」
───────────────────────────────────…‥・
今回6回目となる不定期での連載です。
───────────────────────────────────…‥・
■ コラム:本や映画の当事者たち(6)
映画「さかなのこ」
───────────────────────────────────…‥・
今回6回目となる不定期での連載です。
タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。
今回の映画はさかなクンの人生に、ジェンダーレスにオマージュしたお話です。現代社会ではみ出してしまいそうな人も周囲の応援と自分の好きなことへの追及で夢をかなえます。
好きに没頭することで
たくさんの人を巻き込み世界を変えていく
この映画は、さかなクンをモデルにした物語ですが、人が夢をかなえるまでのファンタジーでもあります。『南極料理人』『横道世之介』等、愛すべき主人公を温かく描いてきた沖田修一監督の最新作で、原作はさかなクン初の自伝的エッセイです。
主演をつとめるのは、精力的にクリエイティブ活動を続ける、女優・のん。好きなことに一直線で、周囲の人々を幸せにする不思議な魅力にあふれた主人公ミー坊をイキイキと演じています。また、ミー坊を信じて応援し続ける母には井川遥、そのほか、この物語のキーパーソンとなる幼馴染みのヒヨを演じる柳楽優弥をはじめ、不良役の磯村勇斗や岡山天音、映画オリジナルのキャラクターのモモコを演じる夏帆など、個性的で存在感のあるキャストが脇を固めます。そして、なんと原作者でもあるさかなクンが、映画初出演を果たしていることにも注目です。
主人公のミー坊は、子どもの頃、週末になると閉館時刻まで水族館で過ごし、学校では魚の絵を黙々と描く日々。同級生から変わった子と思われても、その独特な才能は評価され、先生たちにも認められています。特に母親をはじめとした家族はミー坊のさかなへの思いを受け止め、温かく見守ります。
のんがミー坊となる高校時代のエピソードは秀逸。近隣の暴走族?のようなやんちゃな友だちからも一目置かれ、一緒に冒険を繰り広げます。幼児期から高校時代に出会う仲間たちが、将来のミー坊にチャンスを与えてくれるのです。
広い世界を見るために東京に出てきたミー坊。小さいころからの夢は「おさかなはかせ」です。でも、魚のこと以外はからっきしダメ。魚にかかわる仕事を転々とするがうまくいきません。
しかし、ミー坊は決して夢をあきらめません。夢を語るそのキラキラした瞳で周囲の人を巻き込んで夢に近づいていきます。愛情たっぷりの母、幼馴染と高校時代の仲間のおかげで、ミー坊は本当のおさかなはかせになっていくのです。
ミー坊を演じる女優ののんは、高校時代学ランを着ています。映画の始まりに出るテロップにあるように、この世界には男も女も関係がありません。「さかなのこ」は、男女を超えた存在で描かれています。
大人になったミー坊は、幼馴染のモモコとの会話の中で、「ふつうってなに? わからないよ」と語ります。その通り、ふつうなんて存在しない。人はそれぞれがオンリーワンであり、好きなことにまい進すると、さかなクンのようにたくさんの人を巻き込み、夢がかなうんです。
イラストレーターとなったミー坊と母との話から、あっと驚く真実が発覚します。それってどんなことか、映画を観て驚いてほしいですね。
(c)2022「さかなのこ」製作委員会
9月1日(木)よりTOHOシネマズ 日比谷 ほかにて全国ロードショー
■出演:のん 柳楽優弥 夏帆 磯村勇斗 岡山天音 さかなクン 三宅弘城 井川 遥 ほか
■原作:さかなクン「さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~」(講談社刊)
■監督:沖田修一
■制作・配給:東京テアトル
フリー編集者・ライター
障害福祉や教育関係の書籍や雑誌、進学情報誌等の編集や取材・ライティングを行う。全国手をつなぐ育成会機関誌『手をつなぐ』では、映画や本、舞台の評を不定期に連載中。
主な編著書に『専門キャリアカウンセラーが教える これからの発達障害者「雇用」』、『自閉症スペクトラムの子を育てる家族を理解する 母親・父親・きょうだいの声からわかること』などがある。
2021年3月、平凡社より「発達障害のおはなしシリーズ3巻」、5月、大月書店より「10代からのSDGs-いま、わたしたちにできること」上梓
■□ あとがき ■□--------------------------
次回の通算292号メルマガは、9月2日(金)です。