----TOPIC----------------------------------------------------------------------------------------
---------------------------------------------------------------------------------------------------
───────────────────────────────────…‥・
■ 新連載:ヤングケアラーたちのものがたり
第3回:「外国につながる子どもたち」レイナとジョシュアのものがたり―
───────────────────────────────────…‥・
こんにちは。公認心理師・社会福祉士の美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)と申します。若者支援の専門ソーシャルワーカー事務所SURVIVEの代表をしております。15歳から、30歳代までの若者の自立に向けて、あらゆる相談にのっています。■ 連載:「外国につながる子どもたち」レイナとジョシュアのものがたり
■□ 連載:子どものスポーツ傷害について思うこと---------------------------------------------------------------------------------------------------
───────────────────────────────────…‥・
■ 新連載:ヤングケアラーたちのものがたり
第3回:「外国につながる子どもたち」レイナとジョシュアのものがたり―
───────────────────────────────────…‥・
今回も、私が出会ったヤングケアラーたちについて、事実を元にした完全にフィクションのものがたり形式でお送りしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
◆年々増加する外国にルーツを持つ子どもたち
日本で暮らす外国人の子どもは年々増加しています。2019年の調査では小学生相当8万7,033人、中学生相当3万6,797人の外国人の子供たちが日本で暮らしているそうです。高校生相当の子どもや、日本国籍を持ち外国にルーツをもつ子どもたちを含めれば、その数はさらに膨れ上がります。こういった子どもたちのことを、私は『外国につながる子どもたち』と呼んでいます。
みなさんは、日本で暮らしている外国につながる子どもたちの大変さについて、どんなことが思い浮かぶでしょうか。
日本語習得や教科学習など言語の違いによる困難、同質性が高く同調圧力の強い日本文化において、文化の違いによって、いじめのターゲットになるなどの排除のされやすさ、自分は何者なのかというアイデンティティのクライシス、両親と子どもの育った文化や言語が異なることで、家族間のコミュニケーションや関係性に齟齬が起きやすいこと・・・・・・
数々の困難が想像できますが、外国につながる子どもたちはヤングケアラーにもなりやすいという要因があります。今回は外国につながるヤングケアラーの姉弟のものがたりを紹介します。
◆「外国につながる子どもたち」-レイナとジョシュアのものがたり―
レイナ(仮名)とジョシュア(仮名)は、全日制高校に通う東南アジアの国籍を持つ年子の姉弟です。母国の地方部で祖母によって育てられ、3年前に、日本で働く母親に呼び寄せられて来日しました。今は母と、母の再婚相手であるアジア人男性と、その間の子どもである年の離れた幼い弟2人と暮らしています。
生真面目で人見知り気味の姉レイナは3年生、明るくお調子者の弟ジョシュアは2年生にそれぞれ在籍しています。姉のレイナは勉強熱心で、卒業後に大学進学を目指しています。
コロナ禍のさなか、レイナの担任である島崎先生に連れられて、レイナとジョシュア姉弟は相談室を訪れました。二人の疲れ切った表情が印象的でした。
島崎先生に促され、レイナは緊張した様子でポツリポツリと話し始めました。
年の離れた4歳と1歳の弟の世話が大変で、家で勉強をする余裕がないんです。放課後に校内で行われている日本語検定の対策教室にも通いたいのだけれど、弟たちを保育園に迎えに行かないといけないため、参加できません。そもそも、私たちが日本に呼び寄せられたのは、年の離れた父親違いの弟の面倒をみるためです。だから、高校の勉強よりも、家事や弟たちの世話をするのが当たり前なんです。両親からは、それらができないなら大学進学はさせられないと言われているので、負担を減らしてほしいとは言えません。
ジョシュアはどうなの?と話を向けました。
コロナ禍のせいで、ビジネスホテルの清掃員をしていた母さんの仕事がなくなり、飲食店で働いていた父さんの収入もかなり減ってしまった。しょうがないから、家計を支えるためにアルバイトをかけもちして働いている。ほぼ毎日働いて月額10万円以上稼いでいるんだけど、ほとんどを家計に入れている。アルバイトから家に帰ったら、毎日23時前で、寝不足と疲れで学校の遅刻欠席が増えている。レイナと違って、俺は学校の勉強がもともとできないから、両親からは学校をやめて働いたらどうかと言われているんだ。
二人の話を受けて、島崎先生が続けました。
ご両親は日本語が堪能ではないようで、保育園の面談や、行政の手続き、病院の受診などに、レイナやジョシュアが同行して通訳をすることが多いのです。そのために学校を欠席したり、遅刻早退したりすることもあります。今のところ、高校の単位取得に影響があるほどではないですが、ただでさえ日本語での授業についていくのが大変なのに、ますます勉強が遅れてしまっています。特にジョシュアの成績不振が深刻なのですが、レイナも成績が伸び悩んでいて、このままだと希望している大学の指定校推薦をあきらめないといけなくなるかもしれません。
保護者面談で、二人の負担を少し減らせないかと伝えても、「母国では当たり前のこと」「レイナもジョシュアも甘えている」とおっしゃって、ご両親は譲らないのです。
子どもにとって、弟妹の世話や家事、家計を支えるための労働が、学業よりも優先すべきことという社会通念がある文化圏は少なくありません。誤解を恐れずに言えば、比較的、経済的に貧しい地域に多い印象を持っています。また、外国人の親が、日本の子育てに関する公的なサービスの存在を知らず、あるいは利用の仕方がわからないことで、サービスにつながらないまま、兄姉が世話(ケア)を担っていることもあります。さらに、日本語を話せない両親の代わりに、子どもが通訳の役割を「ケア」する必要があるのも、外国につながる子どもたちに特有の事情と言えるでしょう。
しかし、子どもたちに幸せになってほしいと願う親の気持ちは世界共通だ、と私は考えています。レイナとジョシュア、それぞれの担任と両親を交えて、面談の場を設けてもらうことにしました。
将来的に永住を目指すためには安定した仕事に就く必要があること、日本で安定した就労をするには高校卒業の学歴が必要なこと、大学に進学することで将来的に有利なビザを取得できる可能性が高まること、生涯賃金も大幅に変わること、そして母語以外の言語で学習することの大変さなどを説明したうえで、二人が担っている負担を減らすためのいくつかの支援を提案しました。最初は「本人たちが甘えている」と言っていた両親も、本人たちの努力や、学業に打ち込める環境を用意することの意義を理解してくださいました。
その後の詳細な経緯は省きますが、保育園の延長保育を利用して弟たちのお迎えの時間を2時間遅らせることで、レイナが放課後の日本語教室に通えるようにすること、市の家計相談を利用して固定費の見直しなどを行って出費を減らし、そのジョシュアのアルバイトは平日3日までに抑え、土日のどちらかは休みがとれるようにすること、保育園の面談や行政の手続きなどは、可能な限り市の子育て支援担当の職員に同行してもらいコミュニケーションを手伝ってもらうことなどで、レイナとジョシュアの負担を減らすことができました。
国籍問わずヤングケアラーの背景には、多くの場合いくつかの困難が複合的に重なっています。外国につながる子どもたちの場合、外国にルーツを持たない人にとっては想像や理解が困難な特有の事情が重なり、社会的に孤立してしまうケースが少なくありません。そもそも地域によっては、外国につながる子どもたちに対する理解や支援がほとんどない場合も珍しくありません。外国につながるヤングケアラーたちは、二重に取り残された存在だといえます。
近年国際的に注目されているSDGsの理念である「だれ一人取り残さない(取り残されない)社会」。そこへの道のりはまだまだ遠いですが、どんな人たちが取り残されているのか、なぜ取り残されて(取り残して)しまうのか、それをいつも考えていようと心がけています。
◆美濃屋 裕子(みのや ゆうこ)
1982年生まれ。臨床心理学科卒業後、民間企業へ就職。
その後、紆余曲折を経て児童福祉業界へ。15歳以降の“若者”世代への支援の手薄さに危機感を感じ、若者支援専門のソーシャルワーカー事務所SURVIVEを設立。同代表。高校スクールソーシャルワーカー、公的機関の外国人教育相談のケース会議アドバイザー等を兼任。
───────────────────────────────────…‥・
■ シリーズ:子どもゆめ基金のデジタル教材
連載:幼児から成人までを対象に情報リテラシー教材を制作
第2回 公開終了の瀬戸際に追い込まれたベーシック教材、改修で公開を継続
───────────────────────────────────…‥・
〇当機構の子どもゆめ基金教材
以下は、当機構が子どもゆめ基金で開発してきた教材の一覧です。
・どうぶつの町でトラブルがおきた!
小学校低学年・幼稚園児向け(2017年度)
・インターネットを使いこなす6つのひけつ
小学校中学年~中学生向け(2014・2015年度)
・異世界で学ぶ はじめての情報セキュリティ
小学校高学年~中学生向け(2020年度)
・これで安心! フリマアプリやネットオークションとの付き合い方
高校生・大学生向け(2019年度)
※教材サイトは、こちらです
今回は、前回紹介の教材より少し対象年齢の高い教材「インターネットを使いこなす6つのひけつ」(以下、「6つのひけつ」と呼びます)を紹介します。
〇最もベーシックな教材
「6つのひけつ」教材で扱っているテーマは、情報倫理やネット・リテラシーという言葉から多くの人々が想像するような内容を扱っています。その意味で、4つの教材の中で最もオーソドックスであり、またベーシックでもあります。
例えば、こんなコンテンツを収録しています。
・著作権を守って発信しよう
・見たくないサイトを目にしないようにする
・あなたのID、パスワードだいじょうぶ?
・ネットで悪口を言われたら・・・
・チェーンメール※が送られてきたら・・・
・そのアプリ、ダウンロードしてだいじょうぶ?
・災害が起こったとき、情報が正しいかを見きわめよう
※編者注 チェーンメールwiki
いかがでしょうか? 皆さんも、一度ならず、何度もこのような内容の話は耳にしてきたことかと思います。
日本では、2010年代前半に、スマホやSNSが大人たちの間で普及し始め、それが2010年代半ばには子供たちにも普及していきました。
2010年代前半では、大人たちでさえ、スマホやSNSとどのように向かえばよいのか、試行錯誤を繰り返していた時期だと言えます。いい大人が、うっかり著作権侵害や肖像権侵害をしてしまったり、一般に未公表な新製品の情報を従業員がSNSに投稿してしまったりということが、大きな話題となりました。
「6つのひけつ」教材は、子供たちにスマホやSNSが普及しきる前に構想・企画されたもので、現在から振り返ると、かなりベーシックな内容を扱っている教材です。
〇当たり前の大切さ
この「6つのひけつ」教材は、私たちI-ROIにとっては全ての教材の出発点になった教材で、私たちにとって思い入れが深い教材です。とはいえ、私たちI-ROIが、この「6つのひけつ」教材を、第一線の現役選手というよりは、むしろ過去のレガシー(遺産)として捉えているのかというと、それは違います。
「6つのひけつ」は、Flashを用いてコンテンツを視聴するように開発しましたが、2020年末にFlashのサポートが終了したため、デジタル教材コンテンツとしての生涯を閉じる運命にありました。そこで今年の春、Flashなしでもコンテンツが視聴できるようにするための改修作業を施して、コンテンツの再公開を行いました。
私たちが、わざわざ手間と時間をかけて、この「6つのひけつ」を再びウェブサイト上で動作するように改修したのは、こうした当たり前のことを当たり前に学習できる教材を地道に提供し続けることが、私たちの使命だと考えたからです。そして、いつでも気軽に無料で利用できる状態が永続的に確保されるようにしたのです。
青少年向けの普及啓発活動のイベントを開催していると、「一番聞いてほしい人に声を届けるのが一番難しい」と感じてしまうことがあります。つまり、インターネットのリスクを自覚している人は、こうしたイベントに積極的に参加するのみならず、ふだんから自ら情報収集する傾向にあります。他方、「自分は大丈夫」と思っている人こそ、思わぬところで危険に遭遇する危険性が高いのですが、そういう人はなかなかイベントに参加してくれないというジレンマがあります。
「休日の余暇時間を割いてイベントに参加しようとは思わないが、インターネットのリスクのことは確かに気になる」なんて考える人たちが、何かのきっかけでネット検索をして「6つのひけつ」にたどり着くかもしれない。そんな時、Flashのサポート終了と共に教材が動作しないままだったら、貴重なチャンスを失ってしまいます。それでいいのか? 私たちには、そんな思いがありました。
そして、このベーシックな教材を通じて、「もっと学んでみたい」とか、あるいは「これじゃ物足りない」と感じた子供には、是非、「異世界で学ぶ はじめての情報セキュリティ」や「これで安心! フリマアプリやネットオークションとの付き合い方」といった、より発展的な教材にも触れてもらいたいです。
次回は、大人が読んでもためになるコンテンツも含まれている教材「異世界で学ぶ はじめての情報セキュリティ」をご紹介します。
◆久保谷 政義(くぼや まさよし)
1975年生まれ。東海大学大学院修了。博士(政治学)。
最近の論文として、久保谷政義・田辺亮「大学生のスマートフォンの利用状況とICT活用能力」『教育情報研究』35巻1号、2019年。2013年より一般社団法人インターネットコンテンツ審査監視機構(I-ROI)事務局職員。2021年より同事務局長。
■□ あとがき ■□--------------------------
12月16日に、子どもゆめ基金の20周年記念式典が開かれました。立ち上げにかかわった森喜朗氏(当時の首相)を初めとする政治家や、交流事業に関係するミクロネシアなどの7か国・地域の大使などが参加されました。オープニングには、基金の助成を受けて活動を行っている障害児による和太鼓演奏が行われ、交流事業や助成事業を経験して成長した数組が壇上でスピーチを披露しました。
助成件数は累計60,000件、参加した子どもはのべ1,100万人とのことです。体験を支援する活動は子どもの成長に寄与し、交流事業は世界平和につながると思います。
このメルマガでは子どもゆめ基金で制作されたデジタル教材をシリーズで紹介しています。それらの活用が、子どもたちの成長・発達に少しでも貢献することを願っております。
次回は、年明けの1月7日(金)を予定しています。読者の皆様におかれましてはよいお歳をお迎えください。1年間のご愛読、改めて心より感謝申し上げます。ありがとうございました!!