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■ 連載:子どもの生活機能の獲得を支援する(最終回)
第5回 生活の中で取り組む実行機能
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1.実行機能を高める関わり方
■ 連載:生活の中で取り組む実行機能
■□ コラム:映画『スペシャルズ!』
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■ 連載:子どもの生活機能の獲得を支援する(最終回)
第5回 生活の中で取り組む実行機能
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1.実行機能を高める関わり方
実行機能について、これまでの中でいくつかポイントを上げてきました。簡単にまとめると以下の様になります。
・子ども自身が安心できる環境
・実行機能をつかさどる脳はストレスに弱い
・行動の変化には称賛(報酬)が重要
・称賛(報酬)を得られやすい様な日々の工夫が必要
これらを総合すると、子ども自身が「自分でやり切る力」を伸ばすためには、安心してチャレンジができ、それが行動として褒められることが何よりも大事だということです。そして、「怒る」ことは何も生み出しません。大人に怒られることは、「安心できない環境で、ストレスにさらされ、称賛のない」ことだからです。あくまでも、重要なのは結果ではありません。行動を褒めないと、行動は変わりません。
例えば、宿題をして欲しいと思った場合、宿題をしないことをついつい怒ってしまいたくなります。そして、なんとか子どもを宿題に向かわせたとしても、全くやる気のない態度、考えたかどうかもわからない適当な答えを見たら、思わず叱るか、呆れてしまうか、そのどちらかになる人も少なくないと思います。
しかし、「宿題をして欲しい」と思うのであれば、「宿題をしたこと」を褒めてあげなければいけません。もっと言うと、少しでも「宿題を”しようとした”こと」を褒めてあげるのが良いでしょう。宿題を間違えずにやることと、宿題に取り組むことは別問題です。宿題の内容が難しいのであれば、教えてあげる、もしくは難易度を下げてもらう必要があります。たとえ学校で習ったとしても、その子にとっては不十分な理解であったかもしれません。わからないことを一人で行うことは、誰でもできることではありません。そもそも難しい課題なのです。
また、自分から宿題に取り組む場合においても、遊ぶのに夢中になって、楽しいことが大好きな子どもに、自分から宿題に取り組む様になってもらうためには少しの工夫が必要です。
例えば、ゲームをしたり、友達と遊んだりする時間を、一緒に話し合って決める必要があります。いつまでもずるずると時間を過ごすのではなく、この時間まで遊んでも良い、と決めましょう。ここでの時間は、大人が一方的に決めてはいけません。あくまでも、子どもと話し合い、子ども自身が納得して時間を設定します。そして、その時間になったら自分から止められるように大人は指示せず、子ども自身から行動することを待ちましょう。声かけをする場合には「時間になったらどうするのかな?」と約束を思い出して行動するきっかけに留めましょう。
一方的に遊ぶ時間を決めることや、その時間になった時に「宿題をやりなさい」という指示は、子ども自身の主体性を奪うことになってしまいます。実行機能は、「自分で行動をコントロールして、目的を達成する力」です。大人の指示で行動しているだけでは、指示待ちの状態になってしまいます。あくまでも主体は子どもであり、子ども自身が行動する働きかけをサポートするのが大人の役割です。
しかし、それでは子どもがいつまでもやりたいことをやめられないのではないか?と思う方もいると思います。そういったお子さんの場合においては、遊びそのものをできない環境の工夫をすることも重要です。今は、iPhoneやAndroidなどのスマートフォン端末には「スクリーンタイム」という利用を制限する機能がついています。その機能を用いて、ある特定の時間になったらアプリそのものが利用できなくなる設定を行うことも可能です。
2.実行機能を高める工夫
大人の働きかけが大事ではありますが、どの様に働きかければいいのでしょうか?子どもが主体的に行動するきっかけを何で示していくのかに困ることがあると思います。
一般的には、時間を守ったり、活動を切り替えたりするためには、タイマーやスケジュール表の活用が良いとされています。注意を喚起する方法として音がなったり、時間を可視化することができるタイマーは、自分であとどれくらい遊ぶことが出来るのかが分かりやすく示されていることで、終わりに向かって気持ちを整えることができます。スケジュールも、自分がこのあとどんなことに取り組むのかが可視化され、見通しをもって次の行動につながるきっかけになりやすいツールの一つです。
一方で、タイマーと一言にいっても、デジタルの数字でカウントされていくタイプや、視覚的に色が変わるタイプ、ただ時間になったら音が鳴るタイプなど、様々です。スケジュール表も、生活で必要な項目を順番で示すだけでいいのか?それとも時間も含めて示すのがいいのか?絵で示すのか、文字で示すのか、、、
考え出したらキリがないと思います。子どもの特性に合わせて、個々にどんな提示の仕方が良いのかは異なります。多くの子どもにとって効果があるからといっても、自分の子どもにも効果があるとは限りません。
いくつかの生活における困りごとの中で、実行機能を高める関わりについては、下記の著書を参考にしていただけると分かりやすいと思います。
『家庭で育てる-発達が気になる子の実行機能』(中央法規出版.2020)
生活の中で起こりうる困りごとの種類ごとに、その背景因子と対応について細かく記載しております。また、困りごとも漫画を通して分かりやすく理解してもらえる内容になっています。
子ども自身にとって、どんな支援の仕方が良いのか、できれば分かりやすく知りたい、教えて欲しい、というときは、ぜひお近くの作業療法士に相談してみてください、発達分野に携わる作業療法士は、子どもの関わり方についてのヒントとアイデアをくれます。個別のアセスメントに、専門的な視点からアドバイスもしてくれることと思います。そして発達分野に携わる作業療法士の多くは、日本発達系作業療法学会に入会しています。ご参考にしてください。
※日本発達系作業療法学会ページ
これまでの連載を通して、実行機能についてお伝えしてきました。生活の中で、実行機能を高めることは、将来に重要なライフスキルの獲得につながっていきます。子ども一人一人の特性が異なることに加え、子ども自身を取り巻く環境も様々です。これら様々な状況に対応しながら実行機能を高めるためには、合理的配慮が必要になります。合理的配慮については、下記の著書を参考にしていただけるとわかりやすいと思います。
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮』(中央法規出版.2020)
保護者の皆さんが、自分らしく楽しく子育てしながら、子どもの実行機能が高まる生活のきっかけになることを願っております。
◆小玉 武志(Takeshi Kodama)
Ph.D. 認定作業療法士
Twitter重度の肢体不自由と知的障害の方々の入所施設に勤務。入所している方々を対象に、活動や日常生活動作の支援を行なっている。発達外来では幼児~青年期の発達障害のお子さんに、生活スキルや学習の支援を行っている。大学の非常勤講師や保護者向け研修など講義も行なっている。2017年に2ヶ月間、海外研修生として5カ国を渡り、特別支援教育や福祉施設にて研修を行う。
『発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚あそび-あそぶことには意味がある-作業療法士がすすめる68のあそびの工夫(共著)』
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮-教師が活用できる-親も知っておきたい(共著)』
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■ コラム:本や映画の当事者たち
第3回 映画『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を
守った男たちの実話~』
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タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。
『発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚あそび-あそぶことには意味がある-作業療法士がすすめる68のあそびの工夫(共著)』
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮-教師が活用できる-親も知っておきたい(共著)』
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■ コラム:本や映画の当事者たち
第3回 映画『スペシャルズ!~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を
守った男たちの実話~』
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タイトルからもわかるように、いわゆる障害や病気などの当事者といわれる人たちが描かれている本や映画、DVDなどを紹介します。
『鬼滅の刃』がものすごい興行収入をあげていてニュースになっています。少しずつ映画を観られる日常を取り戻しているのでしょうか。
今回の映画は、このメルマガを読まれる皆さんには、ぜひとも見てほしい作品です。
9月から公開しているので、観られる劇場は少ないですが、探してみてはいかがでしょうか。
また、公開後はDVDにもなるはず。機会をつくってみてください。
誰一人取り残さない
自閉症当事者たちの居場所を守り抜いた男たちの物語
これは、〈無認可・赤字経営・閉鎖の危機〉の施設で、問題を抱えた子どもたちのために戦う実話から生まれたストーリーです。
フランスで公開され、動員数200万人を突破。セザール賞で9部門ノミネートという傑作。
監督と脚本を手掛けたのは『最強のふたり』のエリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ。2人は、1994年に自閉症の子どもたちやドロップアウトした若者の社会参加を支援する団体と出会い、深く感動。約25年の時を経てようやく実現した映画です。
主演は『たかが世界の終わり』のヴァンサン・カッセル。今までのハードな映画とは一線を画した映画で新境地を開いています。
さわりのストーリーを紹介しましょう。
主人公ブリュノは今日も朝から大忙し。自閉症児をケアする施設〈正義の声〉を経営していて、どんな問題を抱えていても断らないために、正義の声は各所で見放された子どもたちでいっぱい。
正義の声で働くのは、ブリュノの友人のマリクに教育されたドロップアウトした若者たち。どこから見てもコワモテのふたりだが、社会からはじかれた子どもたちを、まとめて救おうとしている。
だが、無認可・赤字経営の〈正義の声〉に監査が入ることになり、閉鎖の危機に迫られる。
施設はこのまま閉鎖に追い込まれるのか?
救いの手が必要な子供たちの未来は──?
熱血漢の自閉症施設の代表と若者の就労支援を行うパートナー、居場所を探し支援員になる若者たち、そして、重度の自閉症の子どもたち、困っているご両親、すべて描き方がリアルです。
それもそのはず、本物の介護者と自閉症の若者、その家族らも多数キャスティングされているから。
観ているうちに、ヴァンサン・カッセル演じる主役の演技にどんどん引き込まれ、ハラハラ手に汗握ります。
実話なればこそ、決してお涙頂戴では終わらず、現実を直視させてくれます。
ラスト、「行政はフランスも日本も同じ」と虚しくはなるけれど、描かれている子どもたちや支援者の若者の笑顔が気持ちを救ってくれます。
そして、こういった現場のヒーローのおかげで今の福祉現場は進化し続ける、と信じる気持ちになれる映画です。
きっと福祉現場にはこうしたヒーローがいるはず。そんなヒーローを探してみてはいかがでしょうか。
(C)2019 ADNP - TEN CINEMA - GAUMONT - TF1 FILMS PRODUCTION - BELGA PRODUCTIONS - QUAD+TEN
配給:ギャガ
スタッフ・キャスト
出演:ヴァンサン・カッセル『ブラック・スワン』 レダ・カテブ『ゼロ・ダーク・サーティ』 、エレーヌ・ヴァンサン
監督・脚本:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ『最強のふたり』 俳優名の後の『』内はその代表作。
◆ライター はらさちこ
編集制作会社にて、書籍や雑誌の制作に携わり、以降フリーランスの編集・ライターとして活動。自分の子育ての経験や取材で得た知識を、成人当事者や親御さんのために使いたいという気持ちから、障害全般、教育福祉分野にかかわる執筆や編集を行う。障害にかかわる本の書評や映画評なども書いている。
■□ あとがき ■□--------------------------
次号のメルマガは、11月13日(金)です。
1年ぶりのアメリカ便りを掲載する予定です。お楽しみに。
1年ぶりのアメリカ便りを掲載する予定です。お楽しみに。