生活機能の獲得を支援する:実行機能を高める関わり方

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2020.10.16

生活機能の獲得を支援する:実行機能を高める関わり方

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■   連載:実行機能を高める関わり方
■□  連載:今すぐできるお金のかからない対策とお金のかかる対策
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 ■ 連載:子どもの生活機能の獲得を支援する
                     第4回 実行機能を高める関わり方
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1.実行機能を高める生活環境

実行機能の基盤となる前頭前野は、「ストレスに弱い」特徴があることについてお話ししました。そのために子どもの生活環境は非常に重要となります。両親や周囲からの働きかけは、子どもの行動に強く影響を与えます。実行機能を高めるために、必要なのは適切な課題と適度な称賛です。敢えて子どもの我慢する力を試すようなことは望ましくありません。

前回紹介したマシュマロテストを例にとると、目の前にお菓子のある状態で我慢をすることが求められています。しかし、これは“15分間”という限られた条件の中で、他に刺激のない環境の中、我慢すれば2つ目がもらえる、という特典がある状況下での自己抑制をテストしています。かなり特殊な環境であることがお分かりかと思います。生活に置き換えると、常に目の前にお菓子がある状態で「お菓子を食べずに我慢しなさい!」と伝え、トレーニングしようと思っても、上手くいかないことが容易に想像できます。

それでは、どのように子どもの実行機能を高めるための適切な課題とはどんなものでしょうか?

まず初めに、実行機能が発達するには2つの要素が関連しています。一つは脳の機能的な発達が関与しています。児童の脳よりも、成人の脳において前頭前野の機能はより効率化されていることが明らかになっており、児童においてもまだ発達過程であることが示されています。ADHDやASDのお子さんの実行機能の弱さは、脳機能の不全が関連している可能性が高く、生きにくさにつながっていることが示唆されます。

もう一つの見方は、心理・行動面による認知機能の発達の関与です。何らかの報酬刺激によって行動が強化され、学習することで機能を身につけていくもので、パブロフの犬※1の実験が最も有名ですね。“オペラント条件づけ”などと呼ばれるものです。

※1 サイエンスポータルScience Portal (科学技術振興機構)掲載日2014年9月29日

環境や関わり方を調整して実行機能を高めようとするのは、後者の理論背景をもとにしています。そのため、適度な称賛が行動を強化する報酬となります。そして、その報酬を得るためには、子どもにとって適切な課題が必要となります。難しすぎる課題や簡単な課題は子ども自身のやる気を喪失するきっかけとなってしまい、褒められるチャンスを逃してしまいます。

大人が子どもの能力を正しく把握し、見合った課題を提供することができれば、必然的に褒められる体験が増え、行動面にも強く影響を及ぼします。これは、一見すると学習課題に限ったことのように感じるかもしれませんが、決して学習だけに当てはまることではありません。生活スキルでも同じことを考えることが出来ます。すなわち、実行機能を高める関わりは、日々の生活の中で取り組むことができるのです。

例えば、洋服を着替えることが難しい子どもに、着替える洋服を準備し、時間内に着替えが終わるように伝えたとします。しかし、着替えることができないため、時間になっても終わっていないと「どうして着替えを終えていないのか」と怒られてしまうでしょう。仮に怒られなかったとしても、『時間内に終わることができなかった』と子ども自身が自尊感情を低下させてしまうきっかけになってしまいます。かと言って、保護者が全て着替えを行ってしまうと、子どもはチャレンジをするきっかけを失い、保護者も介助して着替えることができた子どもを褒めることはないでしょう。

このような場合には、まず“どうして子どもは着替えることができないのか”に着目してみましょう。頭や腕を通す位置がわからないのか、どっちが前か分からずに悩んでいるのか、はたまた他に夢中になることがあって着替えに集中できていないのか、など、様々な背景が隠されています。頭や腕を通せないのならその部分だけ手伝うことや、前開きのシャツを提供すれば着替えることができるかもしれません。服の前後がわからないなら、前がわかるイラストをつけてあげると良いでしょう。集中できないのであれば環境調整してあげることで解決します。このように、それぞれの背景に合わせた方法で支援することで、自分で行うチャレンジにつながり、できた経験は称賛を受けるきっかけとなり、子ども自身が自尊感情を高めるチャンスにもなります。

2.実行機能と報酬系

発達障害の一つのADHDの子どもは自己抑制が苦手で、衝動的に行動してしまう特性がみられます。これらの臨床像には、実行機能の低下が関与していることは先行研究からも明らかです。しかし、単一の病態仮説では理解が困難とされ、Sonuga-Barke(2003)は実行機能系と報酬系※2の2つの機能が関与していることを提唱しています。

※2 報酬系 次のページを参考にしてください。
谷渕由布子,松本俊彦 行動嗜癖 脳科学辞典 (2014)

報酬の強化が低下し、報酬を魅力的と感じる効果が持続しない、遅れてえられる報酬(遅延報酬)を待つことが出来ず衝動的に行動を起こす、報酬を得る手段がない場合に他の方法で注意を逸らせるなどの行動特性は、実行機能の低下というよりもむしろ報酬系の機能の低下と解釈することが出来ます(八幡ら,2011)。

同様に、ASDや知的障害の子どもにおいても、先の見通しを持つことが難しい場合に、遅延報酬の理解が十分に及ばずに、課題を行うことが難しかったり、回避行動へと転換されてしまったりすることがみられます。

実行機能を高めるためには褒められる体験が重要であることは間違いありませんが、褒められるための報酬系の機能も重要となるのです。報酬系は、脳内のノルアドレナリンやドーパミンなどの神経伝達物質による働きが大きいため、根本的な改善は難しいことが予想されます。

しかしながら、報酬を魅力的に感じる効果を持続させることや、遅延報酬を意識させることは、日常生活の中での工夫によって補うことが出来ます。例としてはスケジュールなどを示すことで、どの課題を実施したら良いのか、どの時点で報酬が得られるのか、などを明確に提示することも一つです。そもそも実行機能の働きが弱い子どもは、実行機能の1つであるワーキングメモリが十分に機能していないために、報酬に関わる情報を保持し続けることが難しい特性を持ち合わせています。そのため、視覚的に、わかりやすく、常に確認できる手段で示すことは、子どもにとって有効な手立てにもなり得るのです。

日常の中のちょっとした関わりのアイデアは、子どもの実行機能を高め、ライフスキルを発達させる有効な手段になり得るのです。

◆小玉 武志(Takeshi Kodama)
Ph.D. 認定作業療法士
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重度の肢体不自由と知的障害の方々の入所施設に勤務。入所している方々を対象に、活動や日常生活動作の支援を行なっている。発達外来では幼児~青年期の発達障害のお子さんに、生活スキルや学習の支援を行っている。大学の非常勤講師や保護者向け研修など講義も行なっている。2017年に2ヶ月間、海外研修生として5カ国を渡り、特別支援教育や福祉施設にて研修を行う。

『発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚あそび-あそぶことには意味がある-作業療法士がすすめる68のあそびの工夫(共著)』
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮-教師が活用できる-親も知っておきたい(共著)』 


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 ■ 連載:専門用語を使わない!!
                    16歳~19歳未成年の障がいのある子の親なきあとの「お金」の話
                   ~親として「行動」したこと、「サキヨミ」すべきこと~
                     第6回 今すぐできるお金のかからない対策とお金のかかる対策
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今回の連載では、子どもが未成年のうちだからこそできる親なきあとの準備についてお話ししています。毎回お伝えしているように、民法改正により2022年4月から18歳で成人となります。16歳~19歳の障がいのあるお子さんのご家族には、特に知っていただきたい内容です。

今回は、連載の第6回として、今すぐできるお金のかからない対策とお金のかかる対策についてお話します。

講演にいらっしゃった方からも、お金がかかる対策とかからない対策にどんなことがあるのか知りたいという質問をよくいただきます。
ここでは今すぐできることで、お金のかからない対策からお話します。

〇お金がかからない対策
 □通帳2~3冊
 □マイナンバーカード
 □生命保険の受取人

まず、お子さんの親権があるうちに何ができるかを考えましょう。

皆さん、お子さんは通帳を何冊持っていますか? 1冊だけという人も少なくないのではないでしょうか。
お子さんの名義の通帳が1冊しかないと、いずれ困ったことになる可能性があります。親権があるうちなら親の意志だけでお子さん名義の通帳が作れますので、2~3冊つくっておくことをおすすめします。

将来、施設に入るときに、施設から通帳を預けることを求められる可能性があります。お子さんが作業所などに働きに出たとき、お給料や年金が入る通帳は同じでもいいかもしれませんが、祖父母からもらうお金や、特別の大きなお金などは別に管理しておいた方がいいでしょう。

1冊しか通帳がないと、全財産が1冊の通帳に入ってしまい、全財産が載っている通帳を施設に預けることになります。施設に全財産を見せる必要はないと私は思います
お子さんが成人してから通帳をつくりに行くと、銀行の人に成年後見の話をされるかもしれません。親権があるうちに2~3冊つくっておくことが無難ではと思います。

次に、マイナンバーカードです。
うちの娘は高校生ですが、身分証明として持っているのは特別支援学校の高等部の学生証と療育手帳が身分証明書になります。写真付きの身分証明証は障害者であることがわかるものしかありません。身分証明証として、障害者と記載されていないものはあったほうがいい場合があるかもしれません。

マイナンバーカードは誰でも作れ、障害の有無は記載されません。とても便利なもので、マイナンバーカードがあると印鑑証明や住民票などをコンビニでも受け取ることができます。

マイナンバーカードを取得したほうがよい理由のもう一つは、税金や福祉制度、医療制度の一体化を目指すためにつくられたものなので、将来、健康保険証と同一の扱いを受けるものとなる可能性があります。現状、マイナンバーカードを持っている人は18%くらいしかいないけれど、将来はこれが主流になるかもしれせん。

最後に親の生命保険の受取人ですが、判断能力がない子どもを保険の受取人にした場合、成年後見人をつけなければいけない可能性が高くなります。お金のコントロールができない子どもに対して、何も対策をせずにお金を残すと、親といえどもコントロールできなくなる可能性があります。このあたりの話は、第5回で詳しくしているので、そちらをご参照ください。
うちでは前回もお話したように、夫婦でお互いを保険の受取人にしています。

さて、ここからはお金がかかる準備の話です。

〇お金がかかる対策
 □親心後見
 □親心遺言
 □尊厳死宣言
 □家族信託
 □実家信託
 □墓・仏だん

上から「実家信託」まではすべて公正証書で準備をします。
親心後見と親心遺言は、以前お話しましたね。

さて、尊厳死宣言とは何でしょう。夫婦の片方がすでに亡くなり、残された親が末期がんで余命の告知をされ、無駄な延命治療を希望しないときを想像してみてください。
残された親が自分の意思を伝えられない状態になった時、わが子は医師にその選択を決断し意思表示できるのでしょうか?「延命治療してほしくない」という意志を残すものが尊厳死宣言です。公正証書で残すものになります。子どもに聞いても判断できないと思える場合に、親としての考え方を医師に伝えるための準備です。

ほかにも、「死後事務委任契約」というものがあります。
例えば、私が妻より先に亡くなり、妻が亡くなった後、「娘は妻の葬式がとりしきれるのか?」という問題が残ります。
妻が亡くなった後の葬儀、埋葬、供養方法、役所への手続きなどを託せる人が必要です。
親族に託せる人がいない場合は、亡くなった後のそのようなことを受託してくれる専門家がいるので、委任契約を検討してもよいでしょう。親の死後の事務処理を行ってもらうのが「死後事務委任契約」です。

4番目5番目の方法に、「家族信託・実家信託」というものがあります。
2007年から信託法が改正され、広まってきた方法です。親が認知症になっても亡くなっても、娘が豊かに幸せに生きていけるようにする準備方法の一つです。

これは、とても内容が複雑で、できることとできないことがあります。私どもに相談してくだされば、詳しくご家族の話をお聞きし、最適な方法を一緒に考えることができます。ケースバイケースで信託を準備する必要の有無は変わってきます。

6番目に「墓と仏壇」とありますが、高齢になった親御さんからの墓と仏壇に関する問い合わせは少なくないのです。
「うちの娘がお墓や仏壇の後始末ができるのか?」と、困っています。この2つについても、家族で話し合う必要があり、例えば永代供養などの方法を決めておくべきです。

最後に老後に必要なお金の話です。

 □不動産
 □保険
 □年金

不動産と保険と年金で、老後にいくら必要かを計算する方法があります。例えば私が先に亡くなって、妻が長生きした場合、どのくらいお金が必要になるのかを知っておきたいですね。そのキーワードが遺族年金になります。

私どもでは、障害年金と遺族年金の専門家 社会保険労務士でねんきんFPアドバイザーの萩原先生の話を収録したビデオがあり、老後にいくら必要か知りたい方はそれを見てほしいと思います。

老後に自分と子どものためにいくら残せばよいのか、これはケースバイケースなのではっきりとはわかりません。
それぞれの家庭によって事情が違います。しかし私どもでは、理論上計算できる方法を開発したので、ご相談いただければある程度の目安になる金額をお伝えすることはできます。
年金、保険、不動産の額を計算して、今の準備で大丈夫かを確認できます。

次回は最終回になります。
私たちの親からの相続の仕方が、自分と我が子にも影響するという話をします。



■□ あとがき ■□-------------------------- 
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