わが家が実行したこと ~親心後見(おやごころこうけん)

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2020.09.18

わが家が実行したこと ~親心後見(おやごころこうけん)

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■   連載:子どもの生活と実行機能
■□  連載:わが家が実行したこと ~親心後見(おやごころこうけん)
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 ■ 連載:子どもの生活機能の獲得を支援する
                     第3回 子どもの生活と実行機能
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1.実行機能とは何か

さて、前回は、実行機能について「目標志向的な、思考、行動、情動の制御」と説明しました。もう少し詳細に表現すると「目標に到達するために行動や思考の計画、調整、コントロールなどを行う自己制御過程の総称」といえます。すなわち、ある特定の課題を達成する際に、必要のない思考や行動を抑制し、目標達成に必要となる情報を保持し続ける機能になります。

これを子どもの生活に置き換えるとどうでしょう?子どもが学校から帰ってきて、好きなテレビやゲームを我慢して宿題に取りかかる場面を想像してみてください。このような場面で実行機能が発揮される子どもは、宿題をスムーズに終え、余った時間を好きなことに没頭することができます。一方で、実行機能が働きにくい子どもでは、嫌な気持ちを切り替えることができず、なかなか宿題に取り組めないまま、いつのまにか横になって漫画やゲームを始めてしまう、なんてことがあるかもしれません。このように、私たちが生活の中である課題(作業)を行う時には必ずと言っていいほど実行機能が関連してきます。

実行機能にはいくつかの下位分類が存在します。大きく分類したのは2000年のMiyakeらであり、抑制機能、シフティング、アップデーティングの3つの要素が中心的役割を果たすとしています。

Wiebe、 Espy & Charakら(2008)は、抑制制御、認知セットの切り替え、ワーキングメモリに分類されるとしました。「抑制制御」では、優勢であるが不適切な情報や反応を抑制する、もしくは衝動的な反応を抑制する機能とされます。「認知セットの切り替え(シフティング)」は、ある次元から別なある次元へと柔軟に思考や反応を切り替える機能、「ワーキングメモリ」とは入力される情報を処理しながら、一方で正確に保持しておき、必要な時に適切な情報を活性化させる機能と定義しました(小川、2016)。

このほかにも、プランニング(現在または先の課題に必要なことへの方略を考える力)、セルフモニタリング(自分の行動について、それが適切かを自己監視できる力)、注意持続(エネルギーや注意・集中力を持続し、課題を終えるまで取り組み続けられる力)などを含むとする説もあります。

例えば、小学校に行くと、授業時間に座っていなくてはいけません。これは、「抑制制御」にあたり、今は大声を出さずに座っていなければいけないと判断ができるのは「セルフモニタリング」の機能といえます。教師が板書した時には、見た文字を書き写すために「ワーキングメモリ」を働かせ、「注意を持続」することでスムーズにノートをとることができます。授業が終わったら短い休み時間をどう過ごすかを「プランニング」し、次の授業のチャイムがなったら素早く思考を「シフティング」して、また別な教科を学び始めます。これらの機能が子どもの行動の全てを決定づけているわけではありませんが、多くの生活場面に影響を与え、関連していることは疑う余地はないと思います。

2.実行機能の発達

さて、それでは実行機能はどのように発達していくのでしょうか?Welshら(1991)は幼児から成人までを対象とした実験の結果、幼児期後半(3?5歳)、児童期(6?10歳)、12?成人期初期という3段階の発達のピークがあることを示しています。これは、実行機能の基盤とされる前頭葉前頭前野※の発達段階としても考えることができます。
※前頭前野 については、次のページを参考にしてください。
渡邊正孝 前頭前野 脳科学辞典(2014)

実行機能の発達が生涯にわたって影響を及ぼすと結論づけた最も有名な実験が“マシュマロ・テスト”です。「ここにマシュマロが1つある。私が戻るまでにこれを食べずに待っていられたら、もう1つあげるよ」という実験であり、言い換えると、目先にある小さなご褒美と、我慢をして得られる大きなご褒美と、子どもにどちらかを選択するように迫るもので、「抑制制御」を反映した実験内容です。

そして、非常に興味深いことに、幼児期の抑制制御が、大人になった時の社会的地位、収入、健康にも影響を与えているというのです(Moffitt、2011)。マシュマロを食べずに待つことができた子どもは、大人になった時の年収や社会的地位が高く、お金を計画的に運用し、健康面でも疾患や肥満の程度の点からも良好であることが示されました。このように、実行機能の発達は、その後の生活の豊かさに影響を及ぼすことが実験から示されています。

それでは、実行機能の発達において、何が重要なのでしょうか?少なくとも、1つ言えることは、「前頭前野はストレスに弱い」ということです。皆さんも、プレッシャーのかかる場面では、いつも通りに暗記ができなかったり、思ったように集中できなかったりしたことを経験したことがあると思います。ストレスが慢性化すると、前頭前野の神経回路にも影響を及ぼし、機能が低下する可能性が示唆されています。

子どもにとってのストレス環境を減らすことは、前頭前野の働きを活性化させる可能性が含まれています。そのためには、子どもが安心できる環境作りが大事になります。ワンオペ育児という言葉がある通り、子育てにおいて孤立した環境下では子どもに余裕を持って関わることが難しくなってしまいます。一時「イクメン」という言葉が流行した背景には、それまで育児に参加してこなかった男性が多いことを暗示しています。最近では、男性の育児休暇の取得も話題になっていますが、子どもが安心できるための環境には、少なからず養育者の「心の余裕」が必要不可欠であることは間違いないでしょう。安心できる環境で、褒められる経験、自分でできた達成感などを積み重ねることが、自分自身に自信を持つことにも繋がり、自己をコントロールする力を育むことができます。

子どもの環境の重要性について触れましたが、実際の関わりにおいてもポイントや注意点があります。実行機能を伸ばす関わり方のヒントについては、次回にお話ししていきます。

Ph.D. 認定作業療法士
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重度の肢体不自由と知的障害の方々の入所施設に勤務。入所している方々を対象に、活動や日常生活動作の支援を行なっている。発達外来では幼児~青年期の発達障害のお子さんに、生活スキルや学習の支援を行っている。大学の非常勤講師や保護者向け研修など講義も行なっている。2017年に2ヶ月間、海外研修生として5カ国を渡り、特別支援教育や福祉施設にて研修を行う。

『発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚あそび-あそぶことには意味がある-作業療法士がすすめる68のあそびの工夫(共著)』
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮-教師が活用できる-親も知っておきたい(共著)』 


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 ■ 連載:専門用語を使わない!!
                     16歳~19歳未成年の障がいのある子の親なきあとの「お金」の話
                      ~親として「行動」したこと、「サキヨミ」すべきこと~
                    第4回 わが家が実行したこと その1~親心後見(おやごころこうけん)
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今回の連載では、子どもが未成年のうちだからこそできる親なきあとの準備についてお話ししています。毎回お伝えしているように、民法改正により2022年4月から18歳で成人となります。16歳~19歳の障がいのあるお子さんのご家族には、特に知っていただきたい内容です。

今回は、連載の第4回として、わが家が実行したこと「親心後見」についてお話しします。

子ども名義の財産が不動産を除いて1千万円くらいあると第三者の法定後見人が選任される確率が高いと言われています。1千万円以上の場合、その確率は72%となっています。

前回までにお話ししたように、私は、自分で後見人を決められない「法定」は選択したくないと考えていました。そんな時、大阪の友人からある情報が入りました。その友人は17歳になる知的障碍者の母親でした。同じような悩みを共有していた私に『親権を使った任意後見契約』を地元のNPO法人と契約したというのです。

ただ、実際にその話を聞いた時の私の反応は案外冷静で、彼女にこう言ったのです。「そのNPO法人って30年後もあるのかな?今はいい人たちかもしれないけど、30年後もいい人たちなのかな?」彼女はそのNPO法人に、この方法しかないと言われたようでそれを実行したとのこと。少し斜めから見ていた私は、その話を聞いてもそのまま実行する気にはなりませんでした。

でも、そこにヒントがあったのです。

子どもが未成年で親が『親権』を持っている間は、親が子の代理人として任意後見契約ができます。それは、日本公証人連合会のHPに書いてあります。そのHP内で「任意後見契約」で検索すると、Q&Aが出てきます。

※日本公証人連合会 任意後見契約に関するQ&A
 
自分が死んだ後、障害を持つ子どものことが気がかりですが、それに備える方法はないでしょうか?という質問があり、そこにそのものずばり書いてあります。

「その子に契約締結能力がない場合(知的障害の程度が重い場合等)には、同じく信頼できる人を見つけて、その人との間で、子が未成年であれば親が親権に基づいて、親が子を代理して任意後見契約を締結しておくことができると考えられます。また、その人と親自身との間で、親が死んだり体力が衰えたりした後の、その子の介護及び財産管理等について委任する契約をしておくことも考えられる方法のひとつです。」

そこで、日ごろお世話になっているソレイユ※の杉谷範子先生に「大阪で親権を使った任意後見契約を締結した友人がいるんだけど、相手はNPO法人。私は第三者ではなく親がするべきで、私はそうしたいと考えている。もし、私が死んだときに、うちの娘にある程度の財産が残ってしまったら、母親である妻ではなく、第三者の専門家が後見人になるかもしれないと聞いた。何かいい方法はないものだろうか?」と相談しました。
ソレイユ 

それから、杉谷先生や弁護士の先生、公証人の先生などと研究を進め、「親心後見」という新しい選択肢を開発しました。

「親心後見」とは、私の親権を使って、妻と娘の間に任意後見の契約を締結し、妻の親権を使って、私と娘の間に任意後見の契約をすることです。その2つの契約について公正証書を作成し、東京法務局で登記されました

人は必ず亡くなります。夫婦のうちどちらが先に亡くなるかはわからないけれど、どちらが亡くなってもどちらかが後見人となれるように準備したのが『親心後見』です。「娘と妻」「娘と私」との間の任意後見契約をたすき掛けで締結しておくという新しい選択肢です

「親心後見」契約については、十分な内容とリスクについての理解が必要なため専門家に相談されることをお勧めします。詳しくはこちら>>

今たくさんの方にお問い合わせをいただいています。親心後見を行うことを決めてから準備にも時間がかかります。19歳の子どもを持つ親御さん、あと数か月しかありません。HPからお問い合わせをくだされば、デメリットやリスクについてご説明します。

次回は、そのほかに娘のために準備したことをお話しします。

◆鹿内 幸四朗

 
 
■□ あとがき ■□-------------------------- 
発達のさまざまな困りについて、認知機能という視点から解説した7回のオンラインセミナーの動画を公開しました。認知機能だけでは理解が難しい困りについては、過去に専門家に解説していただいたメルマガの連載を元に解説しています。
それぞれ30分の動画ですので、関心のあるものを選んでご覧ください。

第1回:発達の困り(種別)のとらえ方
第2回:自閉スペクトラム症(ASD)
第3回:注意欠如・多動症(ADHD)
第4回:限局性学習症・学習障害(LD)
第5回:知的発達症・ダウン症
第6回:発達性協調運動症(DCD)または運動機能の特異的発達障害
第7回:聴覚情報処理障害、吃音、場面緘黙

動画ページはこちら>>

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