2つの成年後見制度

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2020.09.04

2つの成年後見制度

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■   連載:2つの成年後見制度
■□  連載:子どもの生活とライフスキルの発達
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 ■ 連載:専門用語を使わない!!
                     16歳~19歳未成年の障がいのある子の親なきあとの「お金」の話
                     ~親として「行動」したこと、「サキヨミ」すべきこと~
        第3回 2つの成年後見制度
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今回の連載では、子どもが未成年のうちだからこそできる親なき後の準備についてお話ししています。前回もお伝えしたように、民法改正により2022年4月から18歳で成人となります。16歳~19歳の障がいのあるお子さんのご家族には、特に知っていただきたい内容です。

今回は、連載の第3回として、うちの娘と同じように生まれながらの知的障がい者の場合の成年後見制度についてお話します。

まずは成年後見制度について資料(※図1)を示します。

※図1
 
まず、高齢の方についてみていきましょう。
資料で見ると、男性と女性で健康寿命はかなり違ってきます。

亡くなるまでの不健康期間は男性が8.8年、女性が12.4年です。そして、男性は39.9%、女性は31.8%の人は財産管理が難しくなります。約3人に1人の高齢者が認知症や脳疾患等により、判断能力がなくなり、財産管理能力がないとみなされます。

そこで、国では成年後見制度を使い、認知症の高齢者の財産を守るための新しいルールを作りました。それが成人後見制度で、2000年から始まりました。
この時、同時に介護保険もスタートしたのです。介護保険は厚労省、成年後見制度は法務省の管轄です。現状、介護保険はほとんどの人が知っており活用されていますが、成年後見制度はそこまで知られていません。

私が違和感を感じるのは、娘のような知的障がいを持つ子にも、認知症の高齢者と同様にこの成年後見制度という同じルールが適用されてしまうことです。

成年後見制度には、法定後見、任意後見の2つがあります(※図2)。その違いは、「だれが決めるか」ということです。法定後見は国、家庭裁判所が後見人を決めます。

※図2
法定後見人等の選任別件数(※図3)を見てみましょう。上のグラフでは専門家が青いラインで親族が赤いラインですが、2012年からこの二つが逆転し、差がどんどん広がっているのがわかります。

※図3

専門家が後見人になっている率は72%で、親族がなっている率は21.8%となっています。
これらを見て、私は我々親が子どもの後見人になれる可能性が2割しかないという状況に愕然としました。なんで、子どものことを見られないのか、不思議に思いました。
家庭裁判所が任命した後見人が使いこんだりしてしまうと、責任は任命した家庭裁判所にも及びます。そのため、弁護士や司法書士など専門家に頼む方がいいと考えているんですね。

子どもの財産をきちんと保全したいと思っている我々からすると違和感を感じる状況です。
財産の残し方によっては、我々親が後見人になれる確率は非常に低いことになります。

次の問題は、専門家が後見人になると報酬が必要になるということです。
 
成年後見人の報酬額は預貯金および有価証券の合計額で決まるようです。合計額が1千万までと5千万のボーダーラインがあり、※図4のように3段階に分かれます。1千万以下は年間24万、5千万円を超えると年間72万ほどが目安となっています。自分が万が一亡くなってしまうと、第三者の後見人がついてしまう可能性があります。

ここでもう一つの選択肢である、任意後見について説明しましょう。これは、自分で後見人を選べる制度です。任意後見契約を判断能力がある間なら事前に公正証書によって締結することができます。

※図4

私は、任意後見のように自分で決めるのが大事だと考えました。
しかし、この任意後見人には、後見監督人という見張りが必要になります。後見監督人にも報酬が必要になります。図4の表で見ると、月額で1万円から3万円となり、年額では12万から36万かかってしまう。

一度第三者の後見人が付くと、成年後見の対象になっている方が亡くなるまで原則その後見人を外すことが難しくなります。私がよく調べてきちんと準備する必要があると思ったきっかけがこのからくりを知ったことにあります。

次回は、私が娘を守るためにどんなことをしたのかを解説します。


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 ■ 連載:子どもの生活機能の獲得を支援する
        第2回 子どもの生活とライフスキルの発達
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1.ライフスキルの項目について

私たちは普段どんな生活をしているでしょうか?
朝起きて、ご飯を食べ、身支度を整え、仕事に出かけます。夜はご飯の後にお風呂に入り、お酒を飲みながら1日の疲れを癒している人も多いでしょう。

では、子どもについてではどうでしょうか?朝の支度を整え、学校へ行き、帰ってきてから友達と遊んだり、宿題をしたりします。夜は翌日に備え早く寝る。そんな毎日が理想的ですが、現実には朝寝坊をしてしまったり、夜遅くまでゲームをしたり、宿題をしないまま次の日の朝を迎えることも稀ではないと思います。

日常生活動作は Activity of Daily Living(以下、ADL)と呼ばれ、食事やトイレ、入浴や整容、移動などごく当たり前に行っている習慣的行動のことを意味しています。しかし、冒頭のように、日常生活では、この基本的なADL以外に行っている活動の時間が長く存在しています。日常で行っているADL以外の活動は、Activities Parallel to Daily Living(APDL:生活関連動作)や Instrumental Activity of Daily Living(IADL:手段的日常生活動作)などと呼ばれています。APDLでは料理や掃除、買い物や公共交通機関の利用が含まれますが、IADLはより多くの活動を示し、厚生労働省では8項目(電話の利用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、移送の形式、財産管理、薬の管理)を指標としています。

今回ライフスキルのサービスを開発する上で、これらの生活に関わる全ての活動を「ライフスキル」として捉えることとしました。今回のライフスキルでは、ADLの項目においても、必要な項目を検討し、より生活の実態に合わせた内容になるように作成しています。例えば、「食事」においては、「食べこぼしがないか」や「食事のルール(音を立てずに噛むことや、食事中に立ち歩かない等)を守ることができるか」などの項目に注目しました。その他の項目も同じように、社会に出て必要となるであろうスキルを「ライフスキル」として取り込んでいます。

2.ライフスキルが重要な理由

発達が気になるお子さんを育てている親御さんたちが常々心配されているのが将来の生活だと思います。日本国憲法では、国民は納税の義務を負うことが定められていますし、生活が自立できるかどうか、社会に出て就労できるかどうか、が最も大きな課題であるとも言えます。2018年のKlinger氏の報告によると、自閉スペクトラム症のADLの自立度と就労には関連があることが示されています。一方で、IQや機能の高さと就労には関連が低いということでした。また、すなわち、社会に出て仕事を行う上では、日常生活でより自立した生活をしていることが非常に重要であることがわかります。

子ども自身が一つ一つの生活動作を獲得していく過程において、大人の支援の仕方も大切な要素ですが、それに加えて、「実行機能」の発達も重要となります。実行機能とは2015年の森口氏の論文の中では「目標志向的な、思考、行動、情動の制御」と定義されています。つまり、目的を定め、それを達成するために、自らの思考や感情や行動を調整したり、抑制したりする機能のことを示しています。特に、今回のライフスキルの項目には、天候に合わせて衣類を調整したり、場面や状況に合わせた衣類の選択ができるかなどの、自分で判断をして調整する力が求められています。これらを生活で実施するには実行機能が欠かせないのです。

これらの機能は子どもが生活の中で自分の力を存分に発揮し、大人から良い評価を得るためにも重要になります。例えば、どんなに絵が上手であっても、途中で席を立ってしまったり、他のことに気がそれて授業中に完成しなければ、思ったような評価を得ることは難しくなってしまいます。さらに、このような状況が続くと注意されたり叱られたりすることが増え、長期間になるにつれて、子ども自身の自己肯定感が徐々に低くなり、結果、社会参加に大きな制約となってしまいます。

実行機能の分類には諸説あり、いくつかの要素に分けられます。その中でも、共通している要素にワーキングメモリ(作動記憶)、自己監視(セルフモニタリング)、注意持続、抑制機能、順位付け、などの機能が挙げられます。前回紹介があったライフスキルの項目に関連する機能にもこれらの要素を含んでいます。例えば「抑制」や「注意集中」、「遂行能力」などです。前述した例で言えば、天候に合わせた衣類を選ぶために、好きな服を着たい気持ちを「抑制」し、自身の体感温度と日中の活動度を「自己監視」し、服を着替えるまで「注意を持続」し続ける力が必要です。

もちろん、全てのライフスキルの項目を実行機能だけ説明することは難しく、実際の課題の遂行にはその他の要素も関連しています。特に、ハサミの使用や爪切りには「協調運動」が必要になることや、時計の理解や交通ルールを守るためには「言語」機能も重要になります。お金を計画的に使うことや、電話をかけるためには「計算」や「記憶」といった要素も含むため、これらの項目を合わせて、総合的な視点でライフスキルを作り上げました。

それぞれのライフスキルの項目には、それぞれの機能がどの程度必要になるかの重み付けには、複数の作業療法士が確認しながら進めました。これらの項目は発達段階に合わせてステップアップしていく可能性も含め、段階ごとの重みづけも変化させています。

ライフスキルは、機能の発達のみで成り立つものではなく、環境によっても変化します。天候の変化がない地域であれば、そもそも服を適切に選ぶことは難しくなります。しかし、実行機能に課題があるからといって、天候に応じた服を大人が選んでばかりいては、子ども自身に服を選ぶ力がなかなか身につきません。実行機能は、前述した通り、定めた目的に向かって、自ら行動を計画したり、抑制したりする力ですので、適切な課題に向かって子ども自身が取り組むことによって発達していきます。

次回からは、実行機能について各要素の解説を深めながら、ライフスキルとの関連についてお話していきます。

Ph.D. 認定作業療法士
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重度の肢体不自由と知的障害の方々の入所施設に勤務。入所している方々を対象に、活動や日常生活動作の支援を行なっている。発達外来では幼児~青年期の発達障害のお子さんに、生活スキルや学習の支援を行っている。大学の非常勤講師や保護者向け研修など講義も行なっている。2017年に2ヶ月間、海外研修生として5カ国を渡り、特別支援教育や福祉施設にて研修を行う。

『発達が気になる子の脳と体をそだてる感覚あそび-あそぶことには意味がある-作業療法士がすすめる68のあそびの工夫(共著)』 
『発達が気になる子の学校生活における合理的配慮-教師が活用できる-親も知っておきたい(共著)』 
 

■□ あとがき ■□-------------------------- 
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