「気になる」子どもたちと私の関わり(最終回)

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2020.04.10

「気になる」子どもたちと私の関わり(最終回)

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■  連載:「気になる」子どもたちと私の関わり~高校-大学編
■□ 連載:まさか誤学習させている? 未学習のために起こる問題もある?
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 ■ 連載:「気になる」子どもたちと私の関わり
           第6回 大学から社会人へ(最終回)
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前回の記事では、主に高校時代と受験の話をしました。今回は、大学時代から社会人になってからのお話で、連載を終わりにしたいと思います。

〇いよいよ一人暮らし、社会人への準備の時期

Yは、自分で入試方法や大学を決めました。家族や先生に相談することなく、自分で調べ、オープンキャンパスに行き、大学のスタッフに相談して……。それができた理由を考えてみると、「一人暮らしをしたい!」「大学で好きなことを勉強したい」という気持ちが強かったのだと思います。やりたいことが決まっていない高校生はとても多く、社会人として自立できるための目標をつかむのが難しいのが、今の時代です。どんな仕事があるか、そのためにどんな勉強をしたいのか、そこが思案のしどころではないでしょうか?

Yは、高校時代からSNSを使って、ゲーム会社の社長やゲームクリエーターとコンタクトをとっていたのですが、それこそが現代ならではのメリットですね。実際に会うということは難しいとは思いますが、今では簡単なやり取りも可能な世の中です。SNSのデメリットもあるので、そのあたりは気を付けなくてはいけません。ですが、メリットはしっかり活用したいものです。学生ではなかなか実際の仕事内容やその環境について知る機会はありません。ネットには、体験談や職業についてのインタビュー記事などもありますから、見つけることも可能です。自分のやりたい仕事、ぼんやりとこんなことをしてみたいということが少しでもあれば、とことん調べてみるのがいいと思います。

また話が逸れていきそうですね。Yは、AO入試で入ったこともあり、さっさと一人暮らしの部屋を決めてきました。そして、さっさと引っ越していきました(笑)この頃には、母親の私にも優しくて、「部屋に来てみる?」と言ってくれましたが、私はいきませんでした。彼の世界を邪魔したくなかったからです。というか、私は子どもの世界にはあまり近づくことは避けていました。話してくれればもちろん聞きますが、私からあれこれと子どもたちに聞くことはありません。これは今でもそうです。距離を置くことが、親子関係に良いと思っています。特に思春期以降、子どもは親に反発するものです。それが当たり前の発達の段階です。反抗期がない場合、成人してから問題が起こることもあるようです。その時期に頼りになるのは年の近い先輩や、いとこなど、親ではなく話を聞いてくれる人です。そういった人がいる子どもは、あまり問題なく過ごしていくようです。Yも、20代の塾の先生が相談に乗ってくれていました。

大学に入ると、Yはほとんど帰ってきませんでした。自宅より、祖父母宅へ行く頻度のほうが高かったようです。でもたまに帰ってきたら、いろんな話をしてくれました。授業の話、アルバイトの話、研究室の話。よく作るパスタ料理を作ってくれたこともありました。自分で決めて、やりたい勉強をしているYはとても楽しそうでした。夜間だったこともあり、朝早く起きられないという特性も問題がなかったのです。順調に大学生活を過ごし、4年間で卒業しました。

〇いよいよ社会人になり、やりたいことを目指す

卒業後、学んだ情報系の知識を生かし、IT会社に就職。企業のITシステムをメンテナンスしたり、システムの提案をしたりする半分営業的な仕事に就きました。「あの子が営業?できるのかしら!?」そんな不安もありましたが、1年ほどは特に何もなく、仕事をしていたようです。もう大丈夫かなと安心していた時、就職して2年目の夏に、Yから連絡があり、会社に出す保証人の書類を書いてほしいとのこと。転職したというのです。子どものころから、漫画とゲーム、本が好きだったYですが、特に漫画には熱中していたようです。いまのIT系の仕事より、漫画の編集者になりたいとたくさんの会社に応募していたようです。出版社はなかなか難しかったようですが、電子出版の中では割とよく聞く会社に入ったというのです。そして、後追いで、保証人の書類を書いて出すために連絡がありました。

高専中退の時もそうでしたが、母の私に相談は一切なし。でも、私は頼もしいなと思いました。やはり、親がいつまでも口を出すべきではないのですね。一部上場のIT会社にいたころからは年収はかなり下がったようですが、今も本人は楽しく働いています。編集の仕事は、私もよく知っている世界だったので、とてもうれしかったですね。いまはその時から1年経ち、すっかり漫画編集者として地に足の着いた仕事をしているようです。

編集者というのは基本、職人のようなもの。もちろん、いろんな人とコミュニケーションをとって作品を作り上げるので、一人でできるわけではありません。でも好きなことなら、苦手なコミュニケーションもできるのでしょうね。そしてクリエイターなので、自身の持っている知識やイマジネーションも必要です。小学校低学年からゲームや漫画、本に熱中してきた彼には、そこに関しては自信があったのかと思います。

〇凸凹の特性を持つ子どもを育てるときに大切にしたいこと

いろいろ書いてきましたが、発達障害の特性、特に自閉系の難しさを持っている子どもには、ぜひ自己肯定感を高めることを優先してください。そして、子どもの思いを受け止めてください。Yもそうでしたが、どうしても表面上は問題になる行動をとってしまい、そこばかり目立ってしまいます。でもその言動の背景にある気持ちを受け止めてもらえたらと思います。私にはなかなかできなかったことですが祖父母や、学校や塾の先生がその役割を担ってくれました。本当に運が良かったのだと思います。否定されてばかりだったら、きっと今のように自立できなかったと思う。表面上に現れた暴力(言葉の暴力も含みます)は、どうしても目立ち、そこを責めてしまいます。それは良くないことだと諭すことは必要です。でも、なぜそうせざるを得なかったのか。そこを一緒に考えていくと、きっと自己肯定感は高くなり、一人でもろもろに立ち向かえる人になるのだと思っています。

そして何度も言うようですが、好きなことがカギになり、将来なりたい自分になるための努力ができるようになります。そのためにはいろんな経験ができる環境と、世の中を知るための方法を教えましょう。興味を持ったもの、好きなことが理解できなくても、否定しないようにしましょう。石が好き、虫が好き、好きなモノはそれぞれです。何か好きになれるものがあればそこから世界が広がります。広く浅くでも構いません。

偉そうに言ってしまいましたが、こんなことを言えるようになれたのも、子どもが自立してくれたからです。子どもを一人の人間として距離を置いて見られるようになれると、きっと道は開けると思います。今、目の前にいる子どもは自分の鏡かもしれません。私のつたない話が、何かヒントになると良いなと思って、最後の話を終わります。最後までお読みくださり、ありがとうございました。
 
原佐知子
オールアバウトガイド記事 プロフィールページ

 
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 ■ 連載:療育畑で30年かけた取り組み!家庭でできる療育のコツ
         第2回 まさか誤学習させている? 未学習のために起こる問題もある?
                     そうならないためのポイント!
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はじめに、みなさんは誤学習・未学習という言葉を聞かれたことはありますか?
誤学習は、間違ったやり方で覚えてしまうことで、未学習は、知らない、教わってこなかったという意味があります。私たち療育者は相談の中で「おや?誤学習では。」と気づく瞬間があるのですが、保護者は子育ての中で何とかしたいと一生懸命されているので、なかなか気づきにくいかもしれません。子どもが誤って学んでしまうと大人になったときに修正しにくくなり「生きづらさ」につながっていく場合があります。今回お伝えする例は主に誤学習です。ご自分の子育てに当てはめながら、誤学習になっていないか再点検していただきたいと思います。

誤学習になっている例の中でも多いのは、「睡眠」に関する相談です。夜中まで起きているため朝起きることができないという内容です。では、どのような方法で関わっているのかを聞いてみると、「夜寝ないから可哀そうなので朝は起さないようにしてあげています。」といわれます。子どもは朝10時以降に起きてきて、園に遅れて行き、夕方に帰宅し、夜中まで寝ない。翌朝は寝ていないと可哀そうなので待って起こしてみますが、なかなか起きない、大泣きして荒れて抵抗するので困ってしまうとのことでした。

また、あるご家庭では、子どもが夜寝ないので寝るまでドライブに連れて行くというケースもありました。ドライブに連れて行くとその日は納得して寝るのですが、朝はやはり起きられないので寝かしてから、園に遅刻して行っているという話でした。

この二つの例の、何が誤学習にあたるのかというと、「朝寝かしている」ということです。

睡眠で大切なのは、夜に寝かせることよりも、朝に起こすことが重要なのです。
そこで、子どもが何時に寝たとしても、「起こす」ということを実践してもらいました。
方法は次の通りです。朝6時になったら窓を開けて陽が当たるようにし、外気を入れて、まずは身体にはたらきかけるようにします。布団でグズグズしていても、濡れタオルで顔を拭いて着替えをしながら身体を動かし、その次に朝食を摂らせます。朝の起こし方は外気を入れるだけでなく、好きな音楽をかけることも勧めました。また、夜の睡眠に入りやすくするために、汗が吸収されるパジャマの素材や、寝返りが打ちやすい寝具の固さも見直してもらいました。

その時に「生活表」※を活用すると役立ちます。家庭で寝ている時間を記入します。園と相談しながら昼寝を何分くらいするのか、家でのお風呂は何時くらいが良いか、就寝に誘う時間は何時頃が良いかなどを家庭の状況を話しながら一緒に考えていきます。

※生活表
 

誤学習の他の例では、食事の場面でじっと座って食べないので、逃げる子どもを追いかけてその場で食べ物を口に入れているというご相談があります。子どもは大人の思いを知らず、椅子から降りて遊んでいると後ろから大人が来て食べ物を口に入れてもらえると学習します。『遊んでいたら食べ物を口に入れて食べさせてくれるんだ』と誤学習になっています。その積み重ねをすると、「座りなさい!」「美味しいよ!」と言っても結局大人が追いかけてきて口に入れてくれるので、ますます伝わらなくなっていきます。

ここでは、椅子に座るという姿勢を身につけることが重要です。椅子に座ろうとしない時や椅子から降りてしまっても後ろから追いかけるのではなく、前に回って止めてあげて椅子へ誘導します。『座って食べる』ことへと導くようにします。但し、椅子に座ることは食事だけでは難しい場合があります。椅子に座ったら楽しいことが始まる、と思えるように食事以外のことでも椅子に座る経験をすることも必要です。そして、椅子と机は子どもに合ったサイズを選んでください。椅子は足がぶらぶらしないように、足裏を床に付けて安定するように座面の高さや踏み台などを工夫することがポイントです。

誤学習への対応は、事前の環境や関わりが子どもにどのように伝わったかを考え、結果となる事後の言動をみていきます。その関わりが子どもに勘違いをさせているかも?と思ったら、関わる前に準備をして環境を工夫したり、言葉かけを配慮したりします。そして、関わりが適切に伝わったら、事後に「それでいいよ」と認めたり、「ありがとう」と伝えていきます。敢えてその言動が適切だったことを子どもに伝えることも必要です。

最後に、私たちは実体験を積むことで育ってきた子ども達をたくさん見てきました。例えば相談室に入る時には「お母さんからどうぞ」と招き入れます。そこで子どもが先に入ろうとしたら、制して「お母さんから」と諭します。一つのルールを教えていないと未学習となって定着してしまいます。しかし、実際にお母さんが先に入ることを経験すると『お母さんが先に入る場所なんだ』と実感します。すると、今度は「お母さん先や!」と自分よりもお母さんを先に促す姿が見られます。私たちが導いていることが実際の子ども達の学びとなります。

発達の気になる子どもに関わる私たちは、実経験が子ども達の強みであることを信じて関わります。適切に関わった子ども達は好ましい青年に成長しています。

発達の気になる子シリーズの著者
橋本美恵&鹿野佐代子
誤学習・未学習を防ぐ!発達の気になる子の「できた!」が増えるトレーニング

 
■□ あとがき ■□-------------------------- 
原佐知子さんの連載が終わりました。親として、子の成長の段階ごとに感じた思いや習得した経験など、何かの参考になれば幸いです。

原さんには今後、本メルマガのスタッフに加わっていただき、新しいライターさんの開拓にご協力いただく予定です。次々号から始まる新テーマにご期待ください。

ついに緊急事態宣言が出てしまいました。読者の皆様におかれましても十分ご自愛されまして、健康でお過ごしになられますことをお祈り申し上げます。

次号は、4月24日(金)の予定です。

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