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■ 連載 非行と発達障害
第4回 発達障害と児童自立支援施設の療育の仕組み
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これまで、非行と発達障害の関係について述べてきました。では、発達障害を持つ非行少年に対して、どのような対応がなされているのでしょうか。ここでは、筆者が関わってきた児童自立支援施設での療育についてご紹介します。
■ 連載:発達障害と児童自立支援施設の療育の仕組み
■□ 連載:「気になる」子どもたちと私の関わり~小学校中高学年編
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■ 連載 非行と発達障害
第4回 発達障害と児童自立支援施設の療育の仕組み
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これまで、非行と発達障害の関係について述べてきました。では、発達障害を持つ非行少年に対して、どのような対応がなされているのでしょうか。ここでは、筆者が関わってきた児童自立支援施設での療育についてご紹介します。
児童自立支援施設をご存知の方はそれほど多くないと思います。厚労省管轄の児童福祉施設なのですが、最大の特徴は、主な対象が非行少年であることです。非行少年のための施設と聞いてほとんどの人が思い浮かべるのは少年院でしょう。少年院は法務省管轄の矯正施設です。知名度はずいぶん違いますが、平成31年度末の在籍数でいえば少年院が1884名に対して児童自立支援施設が1467名と、それほど大きな違いはありません。児童自立支援施設は全都道府県に設置されているほか、自治体によっては複数置かれている場合もあるため、全国で48施設あります。
その中で、筆者が関わってきた国立武蔵野学院、同きぬ川学院、北海道家庭学校などは、夫婦小舎制というユニークな支援形態をとっています。これは、実際の夫婦が10名程度までの少年と一緒に寮に住み込む形で支援を行うもので、児童自立支援施設が感化院と呼ばれていた時代から100年以上続いている古典的な施設形態です。夫婦に実子がいる場合は、その子も一緒に寮で暮らします。入所期間は多くの場合1年から2年程度、入所する非行少年の年齢は主に中学生ですが、小学生や、中卒生もいます。少年院の場合入院者は主に14歳以上で、18,19歳が4割を占めますから年齢層はずいぶん異なります。
ほかの児童福祉施設とは異なり、施設内に学校機能も持っており、一旦入所すると1日24時間施設内で過ごすことになります。ただし、少年院と異なり、施設に施錠はせず、高い塀もありません。自然に恵まれた広い敷地を持つところも多く、なかでも北海道家庭学校※1は道東の森の中にあり、牧場や小さなスキー場をその敷地内に持つほどの豊かな自然の中に6つの寮が点在しています。そこで少年たちは寮長・寮母と共に生活します。
※1 北海道家庭学校遠景
朝は、係の子が牛舎に牛乳を取りに行き、ある子は畑の水やりをし、またある子は寮母先生の食事の準備を手伝います。朝食を寮長と一緒に摂ると、施設内の分校に登校します。午前中は多くても10名以下の小人数教室で教科学習をします。午後は作業の時間です。蔬菜、酪農、山林などの作業班に分かれ、職員と共に汗を流します。作業のいいところは、その子の特性に合わせて、様々な仕事を用意できるところです。たとえば、落ち着きがないが力の強いADHDの子には勢いが必要な力仕事を、弱々しいところがあるがマニアックで職人的に一つのことに打ち込むことが得意な自閉スペクトラム症の子には細かい作業を、知的には低いが黙々と一つのことを続けることのできる子には根気のいる単純作業を、というようにその子の特性が生きる仕事を与えることができます。
※2 様々な作業の様子
また、学習やスポーツは、やはり能力差がどうしても結果に現れます。どんなに努力しても、能力の高い後輩にあっという間に追い越されてしまう、ということが起こります。それに対して作業は経験がものをいいます。やったことのある者が勝ち、と言うところがあるのです。様々な特性を持った子たちが、それぞれに成功体験を積むことができやすいのが、作業の優れたところです。児童自立支援施設が作業を重視してきたのは、そのような点によるところも大きいでしょう。家庭学校では「流汗悟道」と言う言葉が今も生きています。また、寮では、様々な日常的な仕事、つまり掃除や風呂焚き(家庭学校は今も薪で風呂を焚いています)、畑仕事、飼い犬の散歩などが係の仕事としてそれぞれに与えられます。風呂焚きが上手にでき、それを誉められたことが自信につながり、そこから生活や対人関係が大きく向上した自閉スペクトラム症の子もいました。係の仕事もまた、成功体験を積ませる機会となるのです。
もちろん、学習やスポーツもやはり重要です。学校でまともに授業に参加できていなかった子も多く、分校の少人数でのきめ細かな授業がきっかけで勉強に自信を持てるようになり、勉強が好きになったという子は少なくありません。また、施設内の小さなスキー場でのスキー大会では何人もヒーローが生まれます。自己評価が低い非行少年たちだからこそ、施設内でできるだけ多くの成功体験を積ませたい、と職員は考えています。成功体験を積み自己評価が上がることで初めて、新たな一歩を踏み出そうという気持ちが生まれます。発達障害治療の第一人者である田中康雄先生は、ADHDの最大の障害は自己評価が下がること、と言っています。非行にまで至った子たちであればなおさらです。
発達障害を持つ子はもちろんですが、そうでなくても、非行少年は常に対人関係、そして社会性の問題を抱えています。その訓練の場となるのが、寮なのです。少人数の同年代の子たちが一緒に暮らしていると、当然濃厚な対人関係が生まれます。多くの少年院は基本私語禁止ですが、児童自立支援施設では私語は自由であり、インフォーマルでパーソナルな子ども同士の関係を認めています。
非行少年の集団ですから、トラブルも生じます。そのような時、一緒にいる寮職員はすかさず介入はしますが、解決はできるだけ生徒に委ねます。あるアスペルガーの子は、「学校では嫌な奴との関係はスルーできるけど、寮ではそうはいかないんですよ、鍛えられるんですよ」と言いました。つまり、対人関係の育成のためには適切な規模の集団というものがあり、多ければいいわけではない、ということなのでしょう。
また、もう一つの重要な対人関係は、もちろん、寮長寮母との関係です。虐待関係に置かれていたことの多い彼らに、普通の夫婦関係、普通の親子関係のモデルを与えることは重要です。筆者も妻と共に寮を担当していたことがありますが、生徒の目の前で夫婦喧嘩をした後、ほどなくしてお互いに笑いあっているのを見て、驚いていた子がいました。けんかはしても、また仲直りして仲良く暮らしていくという、ごく当たり前の夫婦の姿を彼らは知らないのです。また、健全な愛着対象を持てないまま思春期に至った子が多いため、自分のことを真剣に考えてくれる人がいつも身近にいる、と言う経験は貴重です。それこそが、被虐待児にとっての最大の心のケアではないか、そう思います。
※3 世話をしている牛、寮母さん
児童精神科医の齋藤万比古(かずひこ)先生は、「発達障害を持つ子の養育環境はわかりやすくなければならない」ただし、わかりやすいだけではだめで、「豊かでなくてはならない」と言っています。児童自立支援施設の夫婦小舎制は、まさにそのような環境なのだと思います。
ご想像のとおり、担当する夫婦の負担は非常に重く、そのため、現在では児童自立支援施設でも夫婦小舎制をとる施設は少しずつ減っています。ただ、発達障害や被虐待経験を持つ子の養育のためには、なくしてしまうにはあまりに惜しい処遇形態です。なんとかその火を絶やさないようにしたい、そう思っています。
富田拓
(網走刑務所医務課医師)
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■ 連載 「気になる」子どもたちと私の関わり
第2回 小学校中高学年編
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前回の記事では、小学校に入ってから低学年の時期を中心にお伝えしました。今回は、中高学年のころの話をしたいと思います。
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■ 連載 「気になる」子どもたちと私の関わり
第2回 小学校中高学年編
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前回の記事では、小学校に入ってから低学年の時期を中心にお伝えしました。今回は、中高学年のころの話をしたいと思います。
〇私を罵倒する息子に困惑して……
前回に続き、子育てで一番つらかった時期かもしれません。この頃、私が勤めていた制作会社で「ふしぎだね!?」シリーズを企画して出したのですから、仕事的にはとても充実していました。でも、長男Yは心も体も大きくなってきて、トラブルも大きくなっていきました。けんかして友人にけがをさせたり、友人の眼鏡を壊したり…。もちろん、本人も満身創痍でしたけど。
特に覚えているのは、私(母)のことを恥ずかしく思っていての所業です。学校公開や参観などでは、私の姿を見ると、大きな声で罵倒されました。どんな行事か忘れましたが、体育館でのことです。子どもたちのグループに親がついて一緒に学校の外へ出ていくことがあり、大声で、「お前はあっちへ行け! 妹のところへ帰れ!」と、体育館中響く大声で怒鳴られました。仲良しのお母さんが、「良かったらうちの子のグループへ」と言ってくれて、そこについて行きました。国語の時間に作文を読むときに、「嫌いなものは母親の作る料理です」といわれたこともありました。
しかし、4年生から受け持ってくださった担任の若い男性教諭がとても熱心に辛抱強くYのことを理解しようとしてくれました。その先生は、息子が小学校卒業するまで担任でいてくれたのです。息子もその先生を信頼していて、中学校に入ってからは、欠かさず通知表を学校まで見せに行っていました。
その先生もよく言ってくれていましたが、息子は、基本的には優しいのです。また、繊細なところがありました。父親(私の夫)が完全なるアスペルガータイプで、衝突していて、それも家で仕事をしていたので、彼にとってはかわいそうな環境だったのかもしれません。それが不思議なことに、今24歳になったYと父親は一緒に飲みに行くほど仲が良いのですから、わからないものです。警察を呼ぶほどの父子喧嘩をしていたのに……。
まあ私もその頃は切れやすかったんです。一緒に携帯電話を買ってあげるために出かけたとき、途中でけんかになり結局携帯電話の店にも行けなかったこともありました。
〇本人の居場所を見つけて
先ほども小学校の先生について書きましたが、Yの周りには他にも信頼できる味方がいました。姑(しゅうとめ)や舅(しゅうと)、そして小学校の4年生のころから通っていた塾の先生です。
うちは自営で裕福ではなかったので、習い事は1つという約束でした。友達が塾に通いだす時期で、Yも通いたいと言って、塾の先生と面談をしてきました。とても若い20代の先生が始めた塾で、熱心な先生でしたが、息子と同じ匂いを感じました(笑) だからこそ、相性が合ったのだと思います。面談後、先生から電話で、「お子さん変わっていますよね」とストレートに言われました。Yのことをとてもわかってくれて、良い部分を伸ばしてくれました。
〇放課後の居場所、放課後デイなどのサービス
話が前後するのですが、Yは小学校入学後、区の学童保育施設に入っていました。両親が共働きで不在になる子を預かってくれる施設です。行動を縛られるのが大嫌いでしたので、数々の問題を起こしてきましたが、その学童の先生にはよくしてもらいました。しかし、パニックを起こした息子を止めようとしたその先生が手にけがをしてしまいました。そのことがあり、息子の要望もあって、その施設は2年生の夏休みを前にやめることになりました。今なら障害のあるお子さんを受け入れてくれる放課後デイもあります。その頃はなかったので、学童を辞めてから、学童のある児童館にゲームやおもちゃをもって嬉しそうに通うYの姿を見て、狭い建物の中で、行動を自制しなければならない学童というものが彼にとってはつらかったのだろうなと思いました。
「放課後等デイサービスの基本的役割」
発達障害の診断は受けてはいませんでしたが、Yのようにグレーゾーンと言われているお子さんは多いと思います。今ではそういった子を放課後に受け入れてくれる放課後デイサービスが充実しています。一般の学童保育施設では受け入れに難色を示される子どもにも優しいシステムができています。Yのような子どもには、受け入れてくれる居場所と理解しようとしてくれる大人の存在が必要です。家族だけではない居場所があれば、自己肯定感を低めることなく、できる部分を伸ばしていけると思います。最後に、放課後デイサービスの目的や役割を引用しておきます。
以下、「放課後等デイサービスガイドラインについて」より引用
◆子どもの最善の利益の保障
放課後等デイサービスは、児童福祉法第6条の2の2第4項の規定に基づき、学校(幼稚園及び大学を除く。以下同じ。)に就学している障害児に、授業の終了後又は休業日に、生活能力の向上のために必要な訓練、社会との交流の促進その他の便宜を供与することとされている。
放課後等デイサービスは、支援を必要とする障害のある子どもに対して、学校や家庭とは異なる時間、空間、人、体験等を通じて、個々の子どもの状況に応じた発達支援を行うことにより、子どもの最善の利益の保障と健全な育成を図るものである。
○共生社会の実現に向けた後方支援
放課後等デイサービスの提供に当たっては、子どもの地域社会への参加・包容(インクルージョン)を進めるため、他の子どもも含めた集団の中での育ちをできるだけ保障する視点が求められるものであり、放課後等デイサービス事業所においては、放課後児童クラブや児童館等の一般的な子育て支援施策を、専門的な知識・経験に基づきバックアップする「後方支援」としての位置づけも踏まえつつ、必要に応じて放課後児童クラブ等との連携を図りながら、適切な事業運営を行うことが求められる。さらに、一般的な子育て支援施策を利用している障害のある子どもに対して、保育所等訪問支援を積極的に実施する等、地域の障害児支援の専門機関としてふさわしい事業展開が期待されている。
○保護者支援
放課後等デイサービスは、保護者が障害のある子どもを育てることを社会的に支援する側面もあるが、より具体的には、(1)子育ての悩み等に対する相談を行うこと (2)家庭内での養育等についてペアレント・トレーニング等活用しながら子どもの育ちを支える力をつけられるよう支援すること (3)保護者の時間を保障するために、ケアを一時的に代行する支援を行うことにより、保護者の支援を図るものであり、これらの支援によって保護者が子どもに向き合うゆとりと自信を回復することも、子どもの発達に好ましい影響を及ぼすものと期待される。
原佐知子
■□ あとがき ■□--------------------------
少年法の対象年齢を引き下げる改正案の見送りが決定しました。富田先生が本メルマガの連載の中で懸念を示されていましたので、編者もまずは安心したところです。朝日デジタル1月27日版
2月3月も「アセスメントに基づく個別支援」について、東京(池袋)、長崎、大阪(堺)でセミナーをします。堺については次のメルマガで紹介しますが、池袋と長崎については受付を開始しましたのでご案内させていただきます。
池袋セミナー 2月27日
長崎セミナー 2月28日
次号は、2月14日(金)の予定です。