教育界で注目されているコグトレとは何か?

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2019.09.27

教育界で注目されているコグトレとは何か?

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● 特別寄稿:近年、教育界で注目されているコグトレとは何か?
● 連載:情報化の進展に対応した教育:AI時代に実現すること
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● まえがき
 
今回寄稿いただいた宮口幸治・立命館大学教授の近著『ケーキの切れない非行少年たち』新潮新書、は7万部を超えるベストセラーとなっています。9月21日の朝日新聞など多数の書評で取り上げられていますのでご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 
 
その著書の中心となっている「コグトレ」について、宮口先生から直接、解説してもらいましたのでご覧ください。
 
 
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● 特別寄稿
 「近年、教育界で注目されているコグトレとは何かをその目的とともに紹介する」
 
1)気づかれない子どもたち
 
境界知能(知的障害までいかないが一定の支援が必要。およそIQ:70~84)は人口の約14%いると言われています。これは学校の35名のクラスに例えると約5名いることになります。知的障害と診断され療育手帳などがあると特別支援の対象になりますが、境界域の子たちはほとんど気づかれません。しかし実際には特別な支援が必要なほど本人たちはしんどい思いをしていることが多いと思われます。学校にいる間はまだ先生の目が届きますが社会に出ると完全に忘れられてしまいます。(このあたり事情は『ケーキの切れない非行少年たち』(新潮社)※に詳しく書いていますのでご参照ください)
 
2)コグトレとは
 
コグトレはまさにこういった気づかれない子どもたちを対象とした支援プログラムです。もともと非行少年たちに少しでもよくなってもらって社会に返してあげたいといった思いから始まったトレーニングですが、現在は少年院よりも学校教育関係で幅広く使用されています。“コグトレ”とは、「認知○○トレーニング(Cognitive 〇〇 Training)」の略称で、○○には
「ソーシャル(→社会面)Cognitive Social Training : COGST 」
「機能強化(→学習面)Cognitive Enhancement Training: COGET 」
「作業(→身体面) Cognitive Occupational Training: COGOT 」
が入ります。学校や社会で困らないために3方面(社会面、学習面、身体面)から子どもを支援するための包括的プログラムです。
 
3)コグトレの具体的な内容
 
コグトレの教材は現在、以下のようなものがあります。
 
〇認知ソーシャルトレーニング:
 
〇認知機能強化トレーニング:
 
 
〇認知作業トレーニング:
 
4)さがし算について
 
上記の中で特筆に値するものの一つとして「さがし算」があります。これは単なる計算問題とは異なり、暗算が得意になる、計算スピードが速くなる、だけでなく、思考スピードが速くなる、短期記憶が向上する、計画力が向上するなど、さまざまな効果が期待される計算トレーニングです。
 
通常の計算、例えば「3+8=?」といったものでは、計算が一方方向で解答も「11」と一つしかありません。しかし、さがし算では「足して11になる数字の組み合わせは?」といった具合に「11」になる組み合わせ(2と9、3と8、4と7、5と6)を格子状にならべた数字の中から探していきます。そのため常にいくつかの数字を頭に置きながら何パターンも計算し、それらがないか探していきます。
 
格子を構成する数字(本書では2×2と3×3)が増えてきたり、答えとなる組み合わせが2つ以上、足す数字が3つになってきたりすると、かなり複雑になってきます。それらをうまく探せるためには、すばやく暗算する力、数字を記憶しながら計算していく力、効率よく探す力などが必要です。さがし算は計算問題ではあるものの、通常の一方方向の計算問題とは違った思考回路を使う必要があります。それらは素早い思考と、いかに効率よくかつ正確に計算できるかといった計画力に基づいており、より高度な勉強の基礎にも通じるところなのです。
 
紙ベースの「さがし算」も出版されていますが、iPadやiPhoneを使ってゲーム感覚で勉強できる『コグトレ デジタル さがし算 初級』(レデックス)もお勧めです。特別支援の子どもなどで、数字を書くだけでも負担がある場合、計算問題は計算そのものよりも書くことで必死です。そういった場合、さがし算アプリは指で正解をつなぐだけで計算の勉強ができます。
 
 
百マス計算では終えるのがいつも最後だった子が、さがし算では一番だったという経験もあります。これは計算で躓いていたのではなく、計算はむしろ得意だったのに、数字を紙に書くことに躓いていたのです。こういった子どもたちを支援することもできます。
 
5)コグトレ研究会
 
これらコグトレをワークを通して学べる各種研修会をコグトレ研究会で主催しております。ご関心のある方は「コグトレ研究会」でご検索ください。(令和2年4月より「日本コグトレ研究学会」(仮称)発足予定です)
 
宮口幸治・立命館大学大学院人間科学研究科教授
 
 
 
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● 新連載:情報化の進展に対応した教育
 
第2回 AI時代に実現すること
 
教育の情報化のもう一つの視点は、情報技術を、教育を効果的に行うために活用すること(教育方法の情報化)である。具体的には、教員が教科書や黒板とチョークを使って指導してきた従来型の学校教育や高等教育のスタイルを、ICTをフルに活用して、学習意欲を高め、もっと効果的に実施することを指す。
教授学習過程を、a)学習内容の説明、b)学習者理解の把握、c) 評価と的確なフィードバック、という単純な情報伝達モデルで捉えたとしても、a) b) c)の各段階で、提示の手段として、あるいはデータ処理やフィードバックの手段としてICTは活用できる。既に写真、動画、音声付の映像を利用した効果的な教材やカリキュラムがさまざまな分野で数多く開発されている。
 
学習者がひとり1台の端末を持てるようになると、授業のスタイルは著しく変化する。すなわち、一斉学習ではなく、学習の個別化や協調学習が可能になる。さらに情報のやり取りがネットワークを介してできる環境にあると、e-Learning(遠隔学習)が実現可能になる。もちろんこの実現のためには、ICTの技術革新を待つだけではなく、学習を支援するシステムや学習教材の開発研究、学習方法の実践的研究が必要となり、教育研究の重要なテーマになる。
例えば、人間はどのように記憶理解し、能力を発揮できるのか、学習と感情・意欲などの関連が研究され、その成果が学習スタイルなどにも影響している。小学校段階での教科から総合的な学習の重視へ、座学中心から「主体的・対話的で深い学び」へ、というのも、学習研究の成果に即した教育改革の方向性のひとつである。
 
デジタル教科書への移行も興味深い。我が国の教科書制度は、学習内容が学習指導要領に則しているかを国が検定し、検定教科書を基本として学校教育を行うことが基本となってきており、内容に関しても法的束縛を受ける形になっている。したがって後で内容や方法を電子的に変更できる「電子教科書」の完全実現に関しては、まだまだハードルが高い。
しかし、学校でのひとり1台(おそらくは教科書用とノート用の2台)の使用が普通の状況になることが予想される近未来、デジタル教科書のみで利用する制度も実現するであろう。その時、学習履歴を的確に参照し、わからないことを生活や既存の学習に関連づけて上手に説明したり、個別学習をモニターし支援するAIの実用化も期待できる。教師が一斉に教えるという学習の形態も大きく変化するであろう。
 
いったいAI時代にはどのようなことまで実現してしまうのか予想できないという声も聞く。しかし、過去からの経緯の振り返りや技術の発展、第一線の研究の成果から大いに予測可能である。
私が関係してきた情報処理の分野でみると、この40年間近くでのコンピュータやネットワークの普及はすさまじいものがあった。40年前に、スマートフォンを子どもたちが持ち、毎日のように使いこなしている時代を何人の研究者が予見したであろう。しかし、社会がどのように変容してきたかは別として、情報技術だけでみれば、当時に基礎的な研究が着手され、計算や伝送のスピード不足が理由で見通しが立たないものだけが、確実に実用化されたように思われる。例えば、日本語の機械翻訳、地図の知識処理、文字や図形認識、音声認識、画像合成やレンダリングなどの情報処理技術である。
しかし当時、方法は開発されても、1つの処理に数分から数時間もかかってしまうため実用化は夢物語であった。今やこれらは、携帯電話やデジタルカメラで実用化され、子どもでも利用している。10,000秒かかっていた処理が1秒以内で完了し、Gギガ単位の情報を参照できるようになったからである。
 
その観点からソフトウエア技術で考えてみれば、現在はまだ実験段階の、超高精度の画像処理、大量のデータからのイメージの自動検索、生体の動きや反応に対応したロボット制御、複数カメラによる瞬時の3次元状態認識、その機能を利用した仮想空間の実現、ロボットへの作業指示、行動の自動認識と自動プログラミングなどが20~30年後には実用化されているであろう。また、人間の神経や生態的反応とタイアップして、コンピュータは、どこにでもごろごろある存在になっているであろう。特に3次元空間認識(すでに災害地の状況把握などに利用されている)の技術は画期的、高精細の3Dプリンターで何でも作れるようになっているであろうし、人間のあらゆる活動を3次元の動作の推移としてロボットに認識させ、シミュレーションさせることが出来るようになっているだろう。
さらに、10年以内に実現すると思われる画期的なことは、(日本語で命令でき、手順を模倣によって記憶できる)家庭用の汎用ロボットであろう。育児の支援は困難としても、あとかたづけ、洗面周りの掃除、介護支援、こどもの遊び相手など、移動と簡単な操作は対応できるようになっているかもしれない。数十年後には、現在ある職業の大半が、ロボットにとってかわられ、なくなっているという未来学者の予言もあながち、杞憂と笑っているわけにはいかないかもしれない。
 
永野和男・聖心女子大学 名誉教授、法人本部 参与
 JNK4 情報ネットワーク教育活用研究協議会 会長
 JAPIAS 学校インターネット教育推進協会 理事長
 
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● あとがき 
 
テレビ東京ワールドビジネスサテライトで、当社が開発を担当している脳活バランサーCogEvoが紹介されました。
 
事業主体の株式会社トータルブレインケアと協力して、高齢者の認知症予防、ビジネスマンの精神的な健康維持、スポーツマンの脳しんとうの回復確認など、脳機能の健康維持に今後一層、注力していきたいと思います。
 
次回メルマガは、10月11日(金)です。

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