─TOPIC────────────────────────────────────
● 連載:家庭環境や親子関係の問題への気づき
● 連載:タブレット活用における自己決定を支援するには?
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● 連載:児童虐待の脳への影響
第3回 家庭環境や親子関係の問題への気づき
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〇次世代のためにできること
虐待を受けた子どもたちが親になると子どもに虐待を行うという、虐待の世代間連鎖が知られています。連鎖を断ち切るためには、早いうちに虐待の現場から引き離し、社会的支援を行っていくことが必要です。子どもの脳は発達途上であり、可塑性という柔らかさを持っているため、早いうちに手を打てば回復することもわかっているからです。
まずは安定して生活できる場を確保します。里親、特別養子縁組、児童養護施設や児童自立支援施設など社会的養護と法整備が必要です。そこで時間をかけて、愛着(アタッチメント)の形成を行います。子どもたちは「親試し」と言って、赤ちゃん返りをしたり、養育者を噛んだりして、本当に自分の親になってくれるか試しながら徐々に愛着が戻ってきます。生活支援や学習支援も必要です。
そして専門的な治療です。フラッシュバックや解離に対する心理的な治療、専門家によるトラウマ(心の傷)の曝露治療などを慎重に、時間をかけて行います。さまざまな専門家が連携して、早く対応することが重要と考えます。
〇マルトリートメント(不適切な養育)の発見とケア
2017年度の全国の年間の児童相談所への通告数は13万3千件を越えています。しかも、子どもへの虐待は一過性に終わることはまれで、再発を繰り返して慢性化する傾向が高く、次第にその重症度を増していくケースも少なくありません。また、マルトリートメント(不適切な養育)環境を生き延びた子どもは、身体的および精神的発達に様々な問題を抱えています。養育者の暴力の結果、生涯に及ぶ障害を負う子どももいます。人生の早期に幼い子どもがさらされた、想像を越える恐怖と悲しみの体験は、子どもの人格形成に深刻な影響を与えずにはおきません。子どもは癒やされることのない深い心の傷を抱えたまま、様々な困難が待ち受けている人生に立ち向かわなければならないのです。児童虐待によって生じる全国の社会的な経費や損失が、2012年度では少なくとも年間1兆6千億円に上るという試算も発表されています。
そのため、虐待を早期発見し介入につなげることは喫緊の課題となっています。子どもは様々な形で虐待のサインを出しており、そのサインに気づくことが子どもたちを救います。それでは、虐待を受けている子どもと保育や学校の現場で接するときにどんなかかわり方をしたらよいでしょうか。
まずは子どもの状態をきちんと把握することを行っていただきたいと思います。どんなことを、どんな状況で経験したのか。そして、現在の安全性の確保が出来ているのか、などです。これを「状況のアセスメント」といいますが、被虐待児に関わる全ての大人が、それぞれの視点でその子どもの状況をきちんとアセスメントし、把握しておくことが必要です。
さらに、心理教育とノーマライズ(適応を促す関わり)が必要になります。子どもたちが経験したことを思うと、毎日の日常でさえも刺激が強いこともあるかもしれません。あるいは、自分が周りを刺激してしまうなど、「支配」「被支配」という虐待がもたらす副作用を他の人間関係に持ち込むこともあります。その部分を意識しながら、心理教育とノーマライズをお勧めします。
家庭環境や親子関係の問題に気づくきっかけとなる代表的な子どもの症状を下の表に示します。チェックリストを作り、子どもたちをチェックすることは、保育現場での子ども虐待見逃し防止策となり、児童虐待の早期発見にもつながります。
〇その他、参考所見としての親の様子:
・子どもを抱かないなど、子どもの世話を拒否する。
・「子どもをかわいいと思えない」などの言動がある 。
・夫や祖父母など家族や身近の支援がない 。
・医療を必要とする状況ではないが、子どもを頻繁に受診させる。
・育児知識・育児態度あるいは姿勢に極端な偏りがある。
・衣服などが不衛生。う歯(虫歯)が多い。
背景要因としては、
1. 虐待及び重大な家庭の問題(貧困、夫婦間不仲:離婚・ドメスティクバイオレンス、家族の犯罪、薬物乱用)
2. 子どもや家族の発達障害(自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、知的障害)
3. 子どもや家族の精神疾患(うつ病、不安障害、解離性障害、パーソナリティ障害)
が挙げられます。
日常の保育の場面で保育士が「虐待」、「気になる親子」の発見窓口になることが多いことを認識し、親子関係や子どもの状態に不自然さがないかなどわずかな兆候でも見逃すことがないよう児童虐待の早期発見に努め、細心の注意を払って保育に当たる必要があります。
※文献
・「子どもの脳を傷つける親たち」友田明美,NHK出版,2017
・「虐待が脳を変える?脳科学者からのメッセージ」友田明美,藤澤玲子,新曜社 2018
・「脳を傷つけない子育て マンガですっきりわかる」友田明美,河出書房新社 2019
友田 明美 (ともだ あけみ:Akemi Tomoda)
福井大学 子どものこころの発達研究センター
Research Center for Child Mental Development, University of Fukui
● 連載:タブレットPCを使って読み書きを楽に楽しくするために
第2回 タブレット活用における自己決定を支援するには?
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「第1回 タブレットPCを紙と鉛筆の代わりに使うには?」でご紹介したように、近年の科学技術の発展により、スマートフォン(以下、スマホ)やタブレットPC(以下、タブレット)等のICT機器が身近なものとなり、情報は紙の印刷物だけでなく電子媒体で閲覧したり、記録されたりするようになりました。スマホ・タブレットを学びに取り入れていくことで、ディスレクシアの子ども達の学ぶ環境を大きく変えることができます。本を目で見て読むことが難しいならば、文字を音声化してそれを耳で聞いて読むことで情報が得られる(音声読み上げという技術を用います)、文字を手書きすることが難しいならば、ワープロのキーボードで文字を打ち込んで表出することで考えを表出することができるという考え方です。このような考え方は、ある機能を別の方法で補うことから代替アプローチと呼ばれます。
ディスレクシアの子どもがタブレットと出会い、読み書き困難を補う方法(例えば、タブレットを紙と鉛筆の代わりに使う)を見つけた時、その先にはどのようなステップがあるでしょうか。
タブレットは家庭の中で学びのツールとして活用する場合には、学校・教員・クラスメイトといった他者からの理解が得られることや、本人が自分の学び方を周囲に表明することなどは必要ありません。しかし、家庭での活用から一歩進み、学校でタブレットを使うとなると少し異なる課題が出てきます。以下のような場面を考えてみましょう。
A. 宿題等をタブレットで行う
B. 学校にタブレットを持っていって授業中にタブレットを使うことを子どもが希望する
C. 学校のテストでタブレットを使うことを子どもが希望する
タブレットを用いる活動が、集団場面なのか個別場面なのか、周りの子どもと比較する評価の要素があるのかないのか、によってタブレットを使う障壁が高かったり低かったりします。そして、その障壁は学校側に生じたり、タブレットを使う子ども自身の中に生じたりします。
タブレットはまだ学校の中で子どもたちが自由に使用出来るものではなく、学校は個人がタブレットを教室に持ち込むことを制限しています。そのため、通常学級という集団の中でタブレットを使おうとすると、その子どもが何らかの困難を有していることを周りに表明することになってしまいます。このような理由で読み書きが苦手な子どもが、タブレットというみんなと異なる方法を通常学級で使用することに抵抗を示す場合も少なくありません。
したがって、タブレットの活用にあたっては子どもがどのような希望をもっているのか、学校がどのような理解をしているのかを確認しながらタブレット活用を進めていきましょう。
まずは子どもの希望を聞いてみましょう。そのとき、「学校でタブレットを使いたいですか?」という聞き方は丁寧な聞き方とは言えませんかもしれません。タブレットを使う場面は上記のA「宿題」、B「授業中」、C「テスト」のようにたくさんあります。B「授業中」やC「テスト」のように友だちがいる集団場面では使いたくないけれど、A「宿題」では使いたいとか、A「宿題」B「授業中」では使いたいけれど、C「テスト」はみんなと同じようにやりたいとか、場面を分けて聞くとよいでしょう。使用する場面だけでなく、「教科」という切り口も大切です。「国語」は書く量が多いから使いたいけれど、「算数」は数式や図形などなので手で書いた方がやりやすいといった教科の特性によってニーズが生じることもありますし、先生の授業スタイル(例、板書中心だったりプリント中心だったり)によってもタブレットの必要性が変わってくることがあります。子どもの話を丁寧に聞き取り、具体的な活用場面をイメージしましょう。
丁寧に子どもの話を聞いたら、次は本人が自分の学び方を選ぶ(自己決定)ための関わりが大切です。子どもの話を聞いて浮かび上がってきたニーズに関して、どのような方法でそれを補えそうか試せることをいろいろと試しましょう。わたしは、経験することは自己決定のための大切なステップだと考えています。
「国語のテストで長文で解答するところが手書きでは間に合わない」「でも、みんなの中でタブレットを使ったら友だちになんでタブレットを使っているのと聞かれるかもしれないけれど、なんて答えたらいいのかわからない」というような子どもの話があったとしたら、どうすればいいでしょうか。まずは、「家で国語の長文解答をタブレットでやってみよう」と提案してみましょう。実際にやってみることで、ワープロの入力速度はどうかとか、どのアプリで入力しようかとか、縦書き横書きはどうしようとか具体的な課題が見えてきます。そうしたら、その具体的課題について家で取り組みます。そうしているうちに、子どもが自分でやりやすいやり方を探索し、経験し、技能を身につけるというプロセスを経験することができます。このプロセスこそが自分で決める準備になります。あとは、どうしたいのか本人の希望を聞き、その決定を尊重していくことが大切です。
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事例紹介 小学校の通常学級にICTを導入した読み書きが苦手なAさん
小学6年生のAさんは読み書きに特異的な苦手さを抱えています。小学1年時から文字を読むのに苦労しており、小学3年生からは通級指導教室※で文字の読み書きの指導を受けてきました。読める文字が少しずつ増え、筆者が指導を開始した小学3年生2月の段階では学校で学習した国語の単元の問題はなんとか読むことができました。しかし、国語の初読(初めて見る文章を読む)場面では内容を読み取ることが困難でした。Aさんの困難は学校場面だけでなく家庭学習においても生じます。それは漢字を繰り返し書く課題においては、1文字書くたびにどこか文字の一部がお手本とは異なってしまい、計算ドリルでは筆算をすると桁がずれてしまうことでした。そのため、毎回、保護者の方に問題を代筆してもらっていました。
※編者注 通級指導教室は、特別な支援を受けるために学区内の学校(場合によっては同じ学校内)に設けられた学級です。週に何回かそこに通って支援を受けます。その場合、もともと所属している学校を在籍校といい、試験等は在籍校で受けることが一般的です。
小学校3年生のときにテクノロジーで読み書きを代替する技能を身につける塾に通い、タブレットの活用技能を身につけました。そして、タブレットを毎日の宿題に活用しました。保護者の方が代筆していた計算ドリルは、格子になった枠の中に数字を入力して筆算が書けるアプリを使って、自分で筆算を書き、それをノートに貼り付け提出します。
家庭ではタブレットを読み書きの代替手段として活用するAさんでしたが、通常学級にタブレットをもちこみ、みんなと違う方法を使って学ぶことには抵抗がありました。タブレットを学校で使うことは希望しない、国語のテストで初読の文章に対しても自分で読めるので問題ないというのが本人の意見でした。
Aさんに対し、もう一歩、困難なことを別の方法で補うことを経験してもらうために、国語のテスト問題を大人が代読するしてみるという試みを小学3年12月に行いました。正答数に大きな違いはなかったのですが、代読条件では解くのにかかる時間が短く、すべての設問に回答することができました。テストの後、本人に代読で読むことについての感想を聞くと( 自分で読むほうが良い:1.どちらかといえば自分で読むほうが良い:2.どちらともいえない:3.どちらかといえば読んでもらうほうが良い:4.読んでもらうほうが良い:5 )、Aさんが選んだのは「4」と「5」の間、「4.5」でした。本人に感想を尋ねると「自分で読むよりも声で聞いたほうがわかりやすく、疲れにくい。学校のテストで読んでもらえるとしたら読んでほしい。」とのことでした。
Aさんが学校でのタブレット活用に前向きになってきたことから、家庭から通級指導教室(通級)にタブレット活用の要望を出し、通級においてもタブレットを導入した指導が行われることになりました。通級での実践は、斎藤(2016)に詳しく記載されています。
齋藤 仁美.(2016).「魔法のプロジェクト2015 ~魔法の宿題~」成果報告書
※同 世田谷区立桜小学校 報告書
小学5年12月に本人から以下のようなメールがわたしのところに届きました。
“ひらばやしせんせい ぼくはこのてがみを●●●せんせいにわたします。
●●●せんせい僕は2がっきのうちにできるだけ速く学校にアイパッドをもってきたいです。のうとにを書くのに時間がかかるから黒板の字を写真をとって勉強したいです。
プリントの読めないところを写真おとって音声読み上げをしたいです
アイパッドに入っている教科書をつかいたいです
作文やテストをにゅうりょくしてやりたいです
おねがいします。”
この手紙を受けとった学校は Aさんの保護者を交え学校での配慮に関する話し合いを行いました。その際、学校はどの場面でどのアプリを使用したいのかタブレットを実際に使用して説明してほしいと保護者に要望しています。話し合いの末、学校は通常学級へのタブレットの持ち込みを許可し、Aさんはタブレットを紙と鉛筆の代わりにして学ぶようになりました。
小学6年の4月、学校で学力テストが行われることになりました。Aさんは学力テストでも問題文の代読と回答にタブレットのワープロ機能を使用することを希望しました。前年度は通級で学力テストを受けましたが、今年は在籍校で配慮することが検討され、通級での実施方法をもとにAさんへの配慮がなされました。
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みんなとは違う方法を通常の学級の中で選ぶには時間がかかります。なぜなら、そこに「経験して、選ぶ」というプロセスが入ることが大切だからです。子どもたちの話に耳を傾け、ともに経験していってください。それが本人の自己決定を尊重していくことになると思います。
平林 ルミ (ひらばやし るみ:Hirabayashi Rumi)
東京大学先端科学技術研究センター
Research Center for Advanced Science and Technology, The University of Tokyo
平林ルミのテクノロジーノートALTにて身の回りにあるテクノロジーの便利な活用方法を紹介し、発達障害・学習障害(ディスレクシア・ディスグラフィア)のある子どもたちのためのテクノロジー・ICTを使った新しい学び方を提案しています。
● あとがき
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5月8日に、教育界で話題のコグトレのデジタルシリーズ第一弾、さがし算初級を発売しました。
※コグトレ デジタル さがし算初級
また、4月11日に発売した「感覚・動作アセスメント」を記念しての講演会は、名古屋会場が盛況のうちに終わり、5月19日の東京会場は定員140名が満員となっております。ご参加の皆様には御礼申し上げます。
※感覚・動作アセスメント(感・動アセス)
講演会と同日開催の「個別支援高度化セミナー」は名古屋40名参加、東京50名の申し込みで急遽、5月30日に大阪で実施することにしました。大阪会場はまだ余裕があります。お時間のとれる方はぜひご参加ください。
※大阪セミナー (詳細はこちら>>)
(※上記イベントはいずれも終了しています。)
次回メルマガは、5月31日(金)です。
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2019.05.17
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