児童虐待の脳への影響

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2019.04.05

児童虐待の脳への影響

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● まえがき
● 新連載:児童虐待の脳への影響
● 連載:人的環境のユニバーサルデザインとは(最終回)
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● まえがき
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昨今痛ましい事件が世間を騒がせています。そこで、虐待の与える影響を研究されている友田明美先生に連載をお願いしました。

友田先生のことを知ったのは、2015年に行われた第37回子どものからだと心・全国研究会議での特別講演です。虐待の範囲の広さ、さらに、心理的な負担を受けただけでも脳がダメージを受けるとの研究発表をお聞きして強い衝撃を受けたのを、最近のことのように思い出します。

※当メルマガのレポート (バックナンバーはこちら>>

虐待をしない、させない環境の実現に、この連載が一助となることを願っております。

 

● 新連載:児童虐待の脳への影響
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〇児童虐待と心の後遺症

「子どもの健全な発達を支えるためには何が必要か?」ということが、近年問われ続けています。超少子社会を迎えるわが国において、1人でも多くの子どもたちのからだとこころの健やかな成長を手助けし、子どもたちが健全な生活を送ることができる社会をつくることが早急に求められています。

そのような中、むしろ我々が良く目の当たりにするのは、理想とする社会とは全く正反対の現実-すなわち、児童虐待の存在する社会です。児童虐待には、(1)殴る、蹴るといった「身体的虐待」(2)性的な接触をしたり、性行為やポルノ写真・映像にさらしたりする「性的虐待」(3)不適切な養育環境や食事を与えないなどの「ネグレクト」(4)暴言による虐待、子どもの目の前で家族に暴力をふるうなど家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス: DV)を目撃させる行為などの「心理的虐待」が含まれます。こうした虐待により命を落とす子どもがいるという痛ましい事実を、多くの人が知っているでしょう。養育者の暴力の結果、生涯にわたる障害を負う子どももいます。しかし何とか虐待環境を生き延びた子どもたちであっても、他者と愛着を形成するうえで大きな障害を負い、身体的および精神的発達に様々な問題を抱えています。そのうえ、児童虐待によって生じる社会的な経費や損失が、2012年度で少なくとも年間1兆6,000億円に上るという試算も発表されています。

少子化が深刻化する中、子どもの虐待は、みんなで考えて行くべき重要な問題です。日本では、子どもの数が減っているにも関わらず、児童相談所の虐待相談件数は年々増加し、深刻な事例として対応されています。2017年度は約13万件が発覚し、24年連続で過去最多を更新しています。

近年、小さいときに親と愛情のキャッチボールがきちんとできない状況で育った子どもにみられる愛着障害の症状を呈する子どもが増え、危機感を私は感じています。こうした児童虐待は、トラウマとして子どもたちに重篤な影響を与えます。このような子どもは、幼児期には衝動や不安をうまくコントロールできずに「キレ」やすく、パニックを起こしやすい多動性行動障害、進展すると最終的に人格が変わってしまう「解離」が起こります。思春期になると抑うつ症状や、心的外傷ストレス症候群(PTSD)の症状の一部である、ささいなことで夜眠れない警戒待機状態、過覚醒がみられます。自分だけが認められないという被害念慮がつきまとい、派手な問題行動を起こすこともあります。性犯罪の被害者にも加害者にもなりえます。それからDV、学校への不適応、薬物やアルコールへの依存なども起こることがあります。このように、子ども時代に受けた虐待の影響は人生のあらゆる時期にさまざまな形で表れるのです。

〇虐待により傷つく脳~脳科学のエビデンスから

私はこれまで、外見からはわかりづらい「こころの傷」を可視化するために、さまざまな「マルトリートメント(不適切な養育)」を受けた人の脳の画像をMRI(磁気共鳴画像化装置)という機械を使って、調べてきました。虐待による長期的で極端なストレスが、子どもの脳を傷つけるのではないかという仮説を立てました。大量のストレスホルモンが脳の発育に影響を与えることは知られていましたが、虐待ストレスによって、脳にどのような影響が出るかは明確ではなかったのです。
その結果、最近、厳格な体罰や暴言虐待を受けたり、両親間のDVを目撃したりすることで、視覚野や聴覚野といった脳の部位に「傷」がつくということがわかってきました。「マルトリートメント」が発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に変形させていることが明らかになったのです。

この傷がずっと続くことから、虐待を受けた子どもは大人になっても辛い思いをするのです。これまでは、生来的な要因で起こると思われていた子どもの学習意欲の低下や引きこもり、大人になってから起きる精神疾患も、この脳が原因で起こる可能性があることが分かりました。大人が日々、何気なくかけている言葉やとっている行動が子どもにとって過度なストレスとなり、知らず知らずのうちに、こころや脳までも傷つけてしまっていることがあるのです。

その結果わかった、心理的ストレスが脳に与える影響のいくつかを次回紹介します。

友田 明美(ともだ あけみ:Akemi Tomoda)
福井大学 子どものこころの発達研究センター
Research Center for Child Mental Development, University of Fukui

 

● 連載:教育のユニバーサルデザイン実践ガイド
第5回 人的環境のユニバーサルデザインとは(最終回)
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(5)授業で育てるソーシャルスキル

通常学級においてクラスワイドのソーシャルスキル指導を取り入れていきたいけれど、実際、多忙な中でわざわざその時間を設定することは厳しい、という現場の状況も確かにあります。しかし、よく考えてみますと、日常の教科指導にSST的な要素はたくさんあります。そこを意識しながら、教科指導のスパイスとしてSST的指導を実践していくと、学び合う雰囲気がより強まり、学級全体がやわらかくなってくれる可能性は多いにあると言えるでしょう。

(6)国語で学ぶ「上手な断り方」

ソーシャルスキルの中でも「上手な断り方」は大切なテーマです。友だちに「この本貸して」と言われたとき「ダメ」「いやだ」「貸さない」といった一言で返してしまう子は、相手を不快な気持ちにし、関係をぎくしゃくさせてしまいがちです。

相手の気持ちを考えた「断り方」には、3つのポイントがあります。まず「この本、人気だよね」「◯◯さんもこの本興味あるんだね」と相手の気持ちを受け止めます。次に「でもね、これ今読んでいる途中だから貸せないんだ」と自分の立場を主張します。そこにプラスして「来週には読み終わるから、そしたら声かけるね。(貸すね)」と代案を伝える。このようにすると誤解を受けにくい、トラブルに発展しにくいのです。

理由づけをして話すことは日常でも重要なことであり、また論理的に話すための第一歩であるとも言えます。理由づけには「なぜなら」という言葉をよく使いますが、「なぜかと言うと」「だって」「それは」といった言葉でも示すことができます。

理由をそえた話し方には3種類あると言われています。
(1)頭括型【主張+理由】で話す:例「私はAです。なぜなら~だからです」
(2)双括型【主張+理由+主張】で話す:例「私はAです。なぜなら~だからです。だから、私はAです」
(3)尾括型【理由+主張】で話す:「~です。だからAです」

国語の授業における話し合いの場面では頭括型、双括型の方がわかりやすく、スピーチにおいては尾括型を使うとよい、と言われています。

さらに、相手に深く理解してもらうためには説明スキルが必要です。説明スキルとしては、(1)相手の理解を確かめながら話す、(2)問いを挿入しながら話す、(3)比喩表現を入れながら話す、(4)視覚的な手がかりを提示しながら話す、というものがあります。

子どもたちには、「論理的に話すこと」は目的ではなく手段であり、「お互いの関係を良好にすること」こそが目的である、と理解してもらう必要があるでしょう。

(7)自分の意見と友だちの意見を「むすびつける」

人的環境のユニバーサルデザイン化において「授業で間違えた友達の立場に立って考えてみる」という他者視点は欠かせないものです。この視点を深めていくことが「共感」へとつながっていきます。

共感を広げられるクラスでは、誰かが間違えたときに「確かにここ難しいよな」「この前私も苦戦したところだ」「この部分を勘違いしたのかな」とその子の立場を想像することができます。このようなクラスでは誰もが「わからない」「できない」を表明しやすくなるでしょう。

クラスの仲間に共通点が多いほど共感が広がりやすくなると言われています。学習場面で、友だちの意見と自分の意見との共通点を見つけるプロセスは、まさに共感性を深めることにつながるのです。

ペア活動を例に挙げてみますと、生徒Aさんが解き方を途中まで説明します。各ペアはAさんの解き方の続きを考えます。このような活動を通じて、Aさん、あるいはペアの相手の考えを自分のことと「むすびつけて」考え、付け足したり広げたりできる力が育つのです。

子どもたちが自分の考えを述べる時に、「○○さんにつけ足しで~」「○○さんと似ていて」「きっと〇〇さんは~」「○○さんに言われて気づいたんだけど」など自分と友達の意見とを「むすびつける言葉」を使うことがあります。このような言葉が出てきたときは、教師はその言い方もほめ、強化していくとよいでしょう。

このような取り組みによって子どもたちは、クラスの仲間との共通点を見つけることの大切さを学んでいくのです。

(8)ペア対話のスキルを学ぶ

さて、授業のユニバーサルデザインでは、上述したようにペアでの活動を重視しています。しかし、実はペアでの話し合いはそう簡単ではありません。何のためにここでペア対話を入れるのか、何を話し合わせたいのか、子どもたちに何をつかませたいのか、を焦点化しなければなりません。

またペアの組み合わせもしっかり検討しなければならないのです。例えば勉強の得意な子と苦手な子がペアになった場合、得意な子が正答を述べ、苦手な子が「自分もそう思う」と同意して終わってしまうことがよくあります。これでは対話とは言えず、勉強の得意な子が教師に代わって苦手な子に教えているにすぎません。

教師の中には、子どもたちはすぐにペアで話し合うことができると思っている人もいます。しかし、考える活動を共有するには、ペア活動にもトレーニングが必要です。

ペア活動と子どもたちの素敵な出会いを演出するためには、子どもたちが意見を交換したくなるような、興味・関心の高いテーマを選ばなくてはなりません。そしてペア活動をバージョンアップさせていくことで、子どもたちが相手の立場に共感したり、今まで気づかなかった相手のよさに気づいたりできるようになります。ペア活動が、ソーシャルスキルトレーニングの役割を果たしてくれるのです。

そして、ペアからグループに広げ、さらにクラスへと広げていく場合には、フリートークを取り入れるとよいでしょう。フリートークは、国語の授業の最初に導入すると効果的です。

フリートークの流れは (1)話題提供者による提案、(2)話し合い活動、(3)話題提供者によるまとめ、(4)先生による振り返り、となります。また、話題には (1)情報提供型(例:一番好きな本は?)、(2)悩み型(例:足が速くなるコツは?)、(3)想像型(例:もし修学旅行先を自由に選べるならどこ)(4)対立型(例:運動会をするなら5月?9月?)があります。

フリートークは「互いを知る」「関係をつくる」ことを基盤として「論理的に話す」ことを目的にしています。話せば話すほど関係が深まる、という体験も学級肯定感につながっていくことでしょう。

〈引用文献〉阿部利彦、桂聖、盛山隆雄、平野次郎、清水由著「教科で育てるソーシャルスキル40」明治図書、2015

阿部利彦
星槎大学大学院

 

● あとがき
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4月18日(木)から3日間、インテックス大阪でユニバーサルデザインフェアが開催されます。その中のNEDOブースに、レデックスが出展しますので、ぜひお越しください。来週4月11日に発表予定の「感覚・動作アセスメント」システムをはじめとして、当社製品をほぼすべてブースで体験していただけるように準備しています。

次回メルマガは、3週間後の4月26日(金)です。

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