教育のユニバーサルデザイン実践ガイド

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2019.02.08

教育のユニバーサルデザイン実践ガイド

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● まえがき
● 新連載:教育のユニバーサルデザイン実践ガイド
● 新連載:視覚認知発達検査とビジョンセラピーの実際
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● まえがき
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今回から2つの連載が始まります。現場からの圧倒的な支持を受けられているお二人ですので、改めての紹介は省かせていただきます。

一言だけ申し上げれば、阿部先生は学校という場を中心に、教育の在り方を改善しようと取り組まれており、簗田先生は医療と療育の組み合わせで、一人ひとりの困りを改善しようと取り組まれています。支援の代表的な2つの立場の、視点やアプローチの違いといったものにも気づかされるのではと思います。編集者という立場を離れて、読者の方々と共に連載を楽しんでいきたいと思います。

 

● 連載:教育のユニバーサルデザイン実践ガイド 第1回

1.授業のユニバーサルデザイン
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皆さんは、「授業のユニバーサルデザイン(UD)化」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか? とくに学校現場では「本校ではユニバーサルデザインに取り組んでいます」という言葉も聞かれるようになってきました。ちなみに、日本授業UD学会も誕生し、2016年からは毎年全国大会が開催されています。

授業のユニバーサルデザイン化についてはさまざまな考え方がありますが、ほぼ共通しているのは、学びにつまずきのある子どもも含めたさまざまな子どもを通常学級で支えるために、特別支援教育の視点を指導・支援に取り入れていこうという点だと思います。

しかしながら「授業のユニバーサルデザインは特別支援教育のことでしょう」と言われてしまうことには抵抗があります。さらには「授業のユニバーサルデザインは通常学級のことではない」とさえ言われてしまうこともあるのです。授業のユニバーサルデザインは障害のあるなしに関わらず、より多くの子どもたちにとって分かりやすい、学びやすい教育のデザインを考えていくことだ、と私は考えています。

さて、ユニバーサルデザインというと「教室環境を構造化すること」と捉えている先生もいます。これは間違ってはいないのですが、教室環境の構造化は、学校におけるユニバーサルデザイン化のあくまで一部です。授業のユニバーサルデザイン化は、授業そのものを工夫すること、例えば特別支援教育の視点と教科教育の視点を組み合わせて「わかりやすい授業」をデザインしていくことです。誤解と言えば「(授業中の余計な刺激を減らすために)教室の前面に何も掲示しないこと」を授業のユニバーサルデザイン化と思われている先生もいますが、「絶対に~しない」とか「すべてのクラスで~を統一する」というように固定的に考えることもユニバーサルデザイン化から遠くなっていくように思います。

ユニバーサルデザインにおいては、支援方法が先にあるわけではありません。目の前の子どもたちに何が必要か、どのような刺激を制限していけばよいか、子どもの視点、学び手の視点で工夫していくことがユニバーサルデザイン化のスタートラインなのです。

2.現場での実践から

注意・集中に課題がある子どもがもしクラスに在籍していたら、先生方はどのような工夫を検討されるでしょうか? 先生方に調査をしてみたところ、以下のような支援方法を挙げてくれました。

まず「教室環境の工夫」です。実践例としては、(1)掲示物を必要最低限にしている、(2)教室前面の刺激量を調整する、(3)視覚刺激の制御のためのカーテンなどを設置する、など多くあります。

次に、「授業の工夫」です。実践例としては、(1)授業の流れを黒板などに示し見通しを持たせる、(2)絵や写真、動画を活用する、(3)ポイントを明確にし、話すスピードや明瞭さを考える、などが挙げられました。

他にも、先生方は学級経営上の配慮を実践していることがわかりました。例えば、(1)成功体験を増やし、友達から認められる機会を増やす、(2)お互いのいいところを認め合えるような学級の雰囲気作りを大切にする、(3)「ここがわかりません」「もう少しヒントをください」といった援助を求めやすい環境作りを心がける、といった「クラスの人的環境へのアプローチ」です。

教室環境の工夫、授業の工夫、学級づくりの工夫、の3つの工夫はどれも重要であり、また相互に関連していると考えます。そしてこれらは教育のユニバーサルデザイン化の3つの柱であると捉えています。

つまり教室環境の工夫は「教室環境のユニバーサルデザイン化」であり、授業の工夫は「授業のユニバーサルデザイン化」であり、学級づくりの工夫は「人的環境のユニバーサルデザイン化」ということです。この3つを合わせて私は「教育のユニバーサルデザイン」としています。

3.神奈川県における「インクルーシブな学校づくり」

私はここ数年、「かながわティーチャーズカレッジ」という神奈川県の事業に関わらせていただいています。これは、将来教師を目指す大学生や高校生合わせて300人に教育現場での実践的な力を身につけてもらうための学習会です。その大きな柱の一つがインクルーシブ教育で、教師を目指す参加者全員にしっかり学んでもらうようなシステムになっています。

その際、テキスト代わりに私が活用させてもらっているのが、神奈川県教育センターが作成した「インクルーシブな学校づくり(ver.2まで作成されています)」という冊子※です。この冊子は皆さんもダウンロードしていただけるので、ぜひご覧いただきたいと思います。

※「インクルーシブな学校づくり」 下記、神奈川県立総合教育センターのWebページからダウンロードすることができます。(詳細はこちら>>

ここでは、インクルーシブな学校づくりのために2つの大きな柱があるとされています。一つ目が「授業づくり」です。授業づくりでは、(1)児童・生徒同士が互いに学び合い、伝え合う授業づくり、(2)共に学ぶことで、共に達成感、充実感を味わえる授業づくり、(3)授業のユニバーサルデザイン化、が重視されており、ここで授業のユニバーサルデザイン化が明記されています。二つ目は「学級づくり」であり、(1)集団の中の多様性を前提とした仲間づくり、(2)互いに認め合う人間関係づくり、絆づくり、(3)心の居場所づくり、がポイントになります。

現場に出る前にこのような考え方を学んでもらうことは、学びにつまずきのある児童・生徒を支えるためにはとても大切なことです。先日は神奈川県のある中学校にお邪魔しましたが、その時に「私もかながわティーチャーズカレッジで阿部先生の講義を受けました」と声をかけてくれた先生がいました。すでに実践がスタートしているのです。

さて、私はこのかながわティーチャーズカレッジで必ず伝えていることがあります。それは「学びの中でおいていかれる子を少しでも減らしたいという思いで、現場の先生方と共に教育のユニバーサルデザインに取り組んでいます」ということです。

4.教えにくさの背景

では、学びの中でおいていかれる可能性がある子どもたちにはどのような特徴があるかについて考えてみましょう。

(1)注意が持続しない

おいていかれる可能性のある子どもたちの課題としては、「人の話がじっくり聞けない」「課題に集中することが難しい」ことがまず挙げられるでしょう。この「注意機能」の問題は、大きく三つに分類されます。

1) 注意の持続
注意を維持することができず他のことに気をとられてしまう、あるいは興味がどんどんうつってしまう(注意の転導性)などの課題です。これらを防ぐためには、刺激量を調整する配慮、そして注意を喚起する工夫が必要になります。

2) 注意の切り替え
興味があることには集中しますが、それを中断したり他の活動に切り替えたりすることが難しい子どもたちがいます。方向修正や行動の調整がすぐにできないために、先生方が指導上苦労することもあります。また、注意の切り替えの難しさに「こだわり」が加わることもあります。活動に見通しを持たせ、切り替える気持ちの準備をさせておかなくてはなりません。

3) 注意の分割
音読しながら内容を理解する、あるいは先生の話を聞きながらノートを取るためには、注意を分割させ同時に課題を処理する力が必要です。しかし、この同時処理に課題がある子の場合、どちらもうまくこなせない可能性があります。いくつかの学校では「先生の話を聞く時間」と「ノートを書く時間」とを分けることで、学びの支援を行っています。

【引用文献】『クラスで気になる子の支援ズバッと解決ファイル NEXT LEVEL: 達人と学ぶ!特別支援教育・教育相談のワザ』阿部利彦、金子書房 2012
(詳細はこちら>>

阿部利彦
(星槎大学大学院)

 

● 新連載:視覚認知発達検査とビジョンセラピーの実際
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テレビに取り上げられたり、たくさんの書籍の影響で、視覚認知やビジョントレーニングという言葉も日本にもだいぶ浸透してきたように感じます。

13年前、眼科のオペ室を利用して、毎週3名の方を対象に検査をしてきたのが、視覚発達支援センターの始まりです。現在では、年間850名ほどの患者さんが受診の為来院され、週に60名ほどの患者さんのビジョンセラピーや学習支援を行っています。また、セラピーの対象ではない方も、年に2回は眼科を受診していただき、その後のケアをさせていただいています。新規の方はインターネットから情報を得て受診を希望されたり、学校や地元の発達センターからご紹介されるケースが多いのですが、最近では他の医療機関からリファーされ、受診につながるケースも増えてきました。

しかし中には、問診時やお電話にて「ビジョンセラピーで発達障害が治りますか」、「勉強ができるようになると聞きましたが…」などとお尋ねになる方も多く、普及と同時に視覚認知発達検査やビジョンセラピーについて間違った考えを持つ方や、間違った情報も同じように増えているように感じております。ビジョンセラピーは発達障害そのものを治すセラピーではありません。ビジョンセラピーは学習や生活上の苦手さの要因となる視機能・視覚認知の問題に対する治療および教育を指します。

今回は貴重な機会をいただきましたので、4回に分けて視覚認知発達検査とビジョンセラピーの実際をお伝えしたいと思います。

欧米でのビジョンセラピーの歴史は古く100年以上と言われています。遠方視力だけではなく、両眼視機能、眼球運動に続き、視知覚の発達までを包括的に把握するトータルビジョンケアや、目まぐるしくかわる視覚情報を瞬時に取り入れ、さらに次の動きに連動して対応するダイナミックビジョンという考えがそのベースにあります。

ダイナミックビジョンはその効果が認められスポーツビジョントレーニングという名で、アスリートの方がトレーニングに取りれることも増えてきました。NFLやNHLの選手は、動的視覚刺激を瞬時に判断できるように、眼球運動や両眼視機能のトレーニングの取り入れを推奨するチームも増えてきました。また、試合中の事故により、脳震盪(しんとう)などの怪我のケアとして光刺激を用いたセラピーの需要も高まってきました。近年、日本においても、プロボクサーの村田諒太選手のビジョントレーニングの様子がテレビ番組でとりあげられたり、読売巨人軍の新人合同自主練習にも取り入れられたりしたのは記憶に新しいと思います。ビジョンセラピーと言っても、その言葉が指し示すものは多岐にわたることがお分りいただけると思います。

さて、視線を子供達に向けてみましょう。子供たちの場合は、学習のつまずきの要因となる眼球運動や視覚認知不良、さらに目と手の協調運動の苦手なお子さんに対して、ビジョンセラピーが有効だといわれております。

読んでいるところを見失う、形態の特徴を把握できずに似たような漢字を間違う、ダンスなどの模倣ができない、さらに面積や体積、展開図などの図形問題を何度学んでも理解できないお子さんには、視機能や視覚認知の弱さが関連しているかもしれません。

ここで一点注意しなければならない問題があります。欧米ではLDや発達性読み書き障害(以降Dyslexia)は、音韻処理や形と音のマッチングが原因であり、視覚処理の問題は関与しないとされております。AAP(米国小児学会)とAOA(米国眼科医会)も2009年のAAP Joint Statement※において、学習障害をはじめとするDyslexiaの治療および教育において、眼球運動トレーニングや特殊なレンズやフィルター効果、ビジョンセラピーの効果については否定しています。
※AAP Joint Statemen(2009)(詳細はこちら>>

しかし、前述したように、ビジョンセラピーは学習障害そのものを治療したり、改善を目的としたものではありません。また一方で、小さい頃に文字を読むことが苦手だったが、大人になるにしたがって読めるようになった方のMRI画像を解析したところ、通常読む時にアクティベートされる部位ではなく、視覚情報を解析する部位の賦活を示すという研究報告があげられました。この結果から、視覚情報を元に読みを補うことがあり、読みの改善の為に言語ベースではなく、視空間認知を高めるトレーニングを推奨するグループもあるようです(Davis Theory and Methodsなど)。

Dyslexiaと中国語(漢字)の研究においては、4、5年生を対象としたfMRIの実験は大変興味深いものです。内容は12名のDyslexiaの方を対象にfMRIを実施したところ、その全てに音韻処理の苦手さはみられたものの、同時に視覚的注意を機能する頭頂間溝(IPS)の活性が弱いことを示しました。中国語は漢字という複雑な視覚的情報「形」をさまざまな「意味」にむすびつけなければならず、英語とは異なり、漢字の認知やその使用には高度な視空間処理が必要であると考えられます。26文字のアルファベットで構成される英語と比較すると、膨大な形の情報を持つ漢字を使用するアジア圏では、読みの苦手さは音韻処理の問題だけではなく、視覚情報処理の問題が併発していることは明らかであると考えます。

学習の基礎である読み書きの苦手さには多くの要因が関与していると考えます。当センターでは、心理士のほか、作業療法士や言語聴覚士、特別支援教育士も在籍しており、カンファレスを通して多角的に評価分析をし、その後のサポートを構築しております。

視覚情報の流れは、(1)外界の情報を取り入れる入力部、(2)その情報を処理する情報処理、(3)取り入れた視覚情報を読んだり、書いたり、体を動かしたりする為の運動機能に伝える出力機能の三つに大きく分けることができます。次回以降、それぞれのセクションでの検査やセラピーについてお伝えしたいと思います。

簗田明教
(かわばた眼科 視覚発達支援センター代表)

 

● あとがき
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