今なぜプログラミング教育なのか

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2018.11.23

今なぜプログラミング教育なのか

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  レデックス通信 第200号 
                     http://www.ledex.co.jp/
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● まえがき
● 新連載:プログラミング教育への期待
● 連載:デジタルパズルで認知機能をアセスメントする
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● まえがき

おかげさまで、通算200号を迎えることができました。
これからも皆さまに読んでみようと思っていただけるコンテンツを、できる限り、用意していきたいと思います。引き続きご支援よろしくお願いいたします。

さて、今号からの新連載をご紹介します。著者は、編集者の古くからの盟友といえる山西潤一氏です。

連載「ソフトウエアで認知機能の発達と学習を支援する」の初回※で書きましたが、私が20代後半に取り組んだのは、MITのSeymour Papert 教授が開発した、子供のためのプログラミング言語 Logo の普及です。当時、1980年代の教育へのパソコン利用は、「パソコンが子供を教える」というものでした。それに対し Logo は子供の表現ツールともいえるもので、自分が表現したいことを実現しようと取り組む過程で、様々な知識や概念を、結果として子供が身につけるというものでした。当時、富山大学の助教授だった山西氏は Logo の価値にいち早く気づいて活動をされており、それ以来、頼もしい盟友として、「子供自身がパソコンを使って学ぶ」方法の周知に取り組んできました。

※18年7月20日号(詳細はこちら>>

山西氏は、大学の副学長や学協会の理事長を務められるなど多彩な実績を積み上げられる傍ら、Logo の理念の延長線上にあるともいえる、プログラミング言語を使って、高齢者や障がい者が社会に貢献する、という取り組みを現在もされています。これまでの活動を通して、道具としてパソコンを使うことの可能性について、今回の連載で解説いただきたいと思います。


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● 新連載:プログラミング教育への期待
第1回 今なぜプログラミング教育なのか

プログラミング教育の実施がいよいよカウントダウンに入ってきた。2020年から始まる小学校の新学習指導要領では、「プログラミングを体験しながら、コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付けるための学習活動」を計画的に実施するようにと示されている。

プログラミングを体験したことのない小学校の教師にとっては、何をどう指導すればいいのか不安が広がってきている。そもそも、なぜ、今、義務教育段階ですべての子どもにプログラミング教育が必要なのか。皆、コンピュータの専門家になるわけでもないのにという声も聞かれる。

そこで、今回から5回に渡って、プログラミング教育が求められる背景やプログラミング教育をどう行うか、実践から見えてくる可能性や課題などを考えてみたい。
 
◎魔法の箱を読み解くプログラミング教育

30年前、情報化が進むことで、私達の身の回りにはマイコンと言われる超小型コンピュータが組み込まれた電化製品が溢れた。誰もがボタンを押せば、全て自動でしてくれる便利な道具が増えることを喜んだものだ。今に至っては、コンピュータの性能は格段に進歩し、かつインターネットの普及で、ネットワークを介した便利な道具「魔法の箱」がどんどん私たちの生活に溢れてきている。すべてのものがインターネットに繋がり、人工知能AIが社会インフラを支えるIoT時代の到来だ。ここで、私たちは、この魔法の箱をただ享受すればいいのだろうか。魔法の箱はブラックボックスのままでいいのだろうか。

皆がコンピュータエンジニアにならなくても、これだけ身近にコンピュータが溢れてきている時代にあって、魔法の箱で何が行われているか、発達段階に応じてブラックボックスを透明なものにし、そこにあるシステムの中身を考え、どのような仕組みで動いているのか分かることが重要だ。望ましい情報化は一部の専門家のみに任せるのではない。中身がある程度理解できれば、その便利さや危うさも理解できる。そのためには自らシステムを作ってみるのが一番。筆者も昔、子どものために開発されたコンピュータ言語LOGOを用いて、信号機やロボットを動かす活動を行なった。この話はこの連載の後半でしたい。

さて、プログラミング教育が求められる背景には、IoTやAIの進展で身の回りに便利な「魔法の箱」が溢れる情報社会の変化があると上述した。ここで重要なことは、「魔法の箱」は、人が考えたものだという認識だ。プログラミング教育は、この「魔法の箱」を読み解く手段として行う学習である。私が行っているプログラミング教室では、最初に、人はどのように外界から情報を受け取り、目的の活動をするのに、その情報をどう判断し考え、最終的には、どう行動するかといった行動モデルを考えるところから始める。

その結果、子どもたちは、みな自分自身が素晴らしいコンピュータを持っていることに気づく(※図)。外界からの入力、判断し思考する処理、処理結果に応じて行動する出力、これら入力・処理・出力の3つの仕組みでコンピュータが動いていることを理解することが魔法の箱を読み解く基本だ。コンピュータに間違ったことを教えれば間違った行動をしてしまう。どう動かせばいいか考えること、考えた動きと異なる動きになったときには、どこに問題があったのかを考えることが、プログラミングとデバッグだ。プログラミング教育では、このデバッグが重要。自分が思い描き、考えた結果になった時はもとより、そうならなかったときがプログラミング学習で重要なのだ。どこが問題だったのか考えること、あるいは、思いもかけない結果から、もっと面白い動きへと発想を広げること等など、プログラミングが論理的思考力の育成のみならず創造表現活動にもつながるのだ。

※図 人とコンピュータを比べてみよう(画像はこちら>>

◎プログラミング的思考を考える

プログラミング教育のなかで育成したい能力として「プログラミング的思考」がよく出てくる。文部科学省の「プログラミング教育の手引き」によれば、この「プログラミング的思考」とは、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号をどのように組み合わせたらいいのか、記号の組み合わせをどのように改善していけば、意図とした活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」だという。プログラミング活動を通して論理的思考力の育成が期待されている。

しかし、筆者にはこの表現には違和感がある。プログラミング教育を日本より早く進めている先進諸外国では、Logical ThinkingとComputational Thinkingをきちんと区別して使っていることに注意すべきだ。論理的思考とコンピュータ的思考である。論理的思考力の育成は、何もプログラミング教育が行われるから実施するものではなく、従来の学習活動のなか、様々な教科で実施されてきている。プレゼンテーションでの、論理的説明や言語表現活動など数え上げたらきりがない。国語の単元にもなっている。もちろん、この論理的思考とコンピュータ的思考とが全く別ものではない。ただ私が違和感を感じるのは、意図する一連の活動は、あくまでコンピュータに何かをさせようという活動であるべきだと考えるからである。上述したように、プログラミング教育の背景はIoTの進展による情報社会の変化だ。私達の生活や社会を支えてくれる便利な機械が、単に「魔法の箱」ではなく、それらは人が考えた「便利な箱」だということを、プログラミングを通して児童生徒に理解させることが必要だからだ。

コンピュータは「どのように情報を受け取り、便利な箱にするために、その情報をどのように加工し、動かしているのか」を考えるコンピュータ的思考が不可欠であると思うからである。論理的思考をコンピュータ的思考に結びつけることが、ブラックボックス化した「魔法の箱」を透明なものにする。コンピュータの持つ機能をよりよい社会のためにどのように活かせばいいか、問題解決学習につなげるのが、コンピュータ的思考である。まさにアクティブ・ラーニングが、求める社会との関わりを考える学習になる。

          山西潤一(富山大学名誉教授、ICT教育アドバイザー)


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● 連載:ソフトウエアで認知機能の発達と学習を支援する 
  第5回 デジタルパズルで認知機能をアセスメントする

前回(No.196)では、子供たちが「こども脳機能バランサー」(以下、CB)で遊ぶことで、それぞれのタスクの指数(得点から算出される標準点)が自然に伸びる傾向があることを紹介しました。ですが、この指数が認知機能の高低を反映していなければ意味がありません。そこで一般的に用いられている認知テストと比較してみることにしました。

1.方法

比較対象は、世界中で使われていると思われるWISC-IV(以下、WISC)です。6か月以内にWISCを受けたことのあるお子さん、または、新規にWISCを受けてくださるお子さんを、所属する施設または、その保護者の方に依頼をして、CBの指数(※1)と比較してみました。

※1 CBの指数とは、タスクに取り組んだ際の、正答率と回答時間を組み合わせて算出した数値です。標準データを取るために、各年齢の子供の取り組み結果から平均と標準偏差を算出し、平均を100、標準偏差を15になるように設定しています。このアルゴリズムはレデックスが特許申請をしています。

その結果、データとして有効となったのは下記のお子さんたちです。
・東京都町田市立小学校2校の特別支援級の児童
・東京都国分寺市の放課後等デイサービス2施設の児童
・神奈川県大和市の放課後等デイサービスの児童 
合計 31名

調査の時期は、2015年10月~16年2月です。
WISCは事前に受診したものを提出していただくか、現場に専門員を派遣して、そこで検査を実施しました。
CBは、新規に取り組んでいただき、そのデータを回収して使用しました。

比較の方法は、スピアマンの順位相関係数※2を算出する統計プログラムを用いて、WISCの全検査IQと4つの下位指標(言語理解、知覚推理、ワーキングメモリ、処理速度)、CBの12のタスクの指数の相関を調べました。

※2 Wiki スピアマンの順位相関係数(詳細はこちら>>

2.結果

WISCとCBのタスクで、相関係数の高い関係のものがいくつかありましたので、それを表にしました(※表1)。

※表1 高い相関を示したものの一覧表(表はこちら>>

この中から、全検査IQと高い相関があったものは、図1の通りです。
※図1 全検査IQと相関の高いタスク(画像はこちら>>

これらの数値は1%誤差での数値です。例えば、「ブロック」という数を数えるタスクと全検査IQの間の、0.77という数値の意味は、1%しか誤差のないという条件で相関する割合が77%あるということです。ですから、WISCの全検査IQの高低は、ブロックの数値の高低と、とても相関があるということをご理解いただけると思います。

図2のように、4つの下位指標のそれぞれと高い相関のあるタスクもあることが分かりました。
※図2(画像はこちら>>

3.考察と、CBのアセスメントツールとしての可能性

上述のことから、CBの中のタスクの指数を組み合わせることで、WISCの全検査IQと4つの下位指標と相関の高い数値が得られることが分かりました。もちろん「相関」ですから、WISCの代替として正式なデータとして使用することはできません。ただ、その子供の発達の状況を、大まかにとらえることはできるといえます。

※図3 WICSとの互換セット(画像はこちら>>

これは、WISCが簡単に実施できないいくつかの制約を抱えることを考慮すると、短期間で大きく変化する可能性のある、子供の認知機能をモニターすることに有用であることを示します。WISCの制約と、それを解決するCBの特徴について、表3にまとめていますので、ご一読ください。

※表3 認知テストの制約を回避するデジタル認知テスト(画像はこちら>>

特別支援学校においても、専門士の数は限られており、また、10名程度を2名程度の教員が担当します。放課後等デイサービスや特別支援学級、通級指導教室では、認知機能のアセスメントは外部の専門士に頼らざるを得ません。一人ひとりの子供の発達に基づいて、個別支援をしていくのに、短時間で、子供だけで実施でき、結果が自動的に保存されていつでも調べることのできるCBは、大きな可能性を持っているのではないでしょうか?

※参考資料 放課後等デイサービスで、CBの専用機能を用いて作成した個別レポートの例(詳細はこちら>>


               五藤博義(ごとうひろよし)レデックス代表

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● あとがき 

アジア太平洋ディスレクシア・フェスティバル2018が、12月9日に東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開かれます。そこで、視覚認知バランサーなど、レデックス製品の体験コーナーを設けます。五藤もそのコーナーで解説しますので、お時間のとれる方はお越しください。
※詳細はこちら>>

なお、ディスレクシア当事者(18歳まで)は無料ですが、それ以外の方は有料です。お得な事前予約をご活用ください。

次回メルマガは、12月7日(金)の予定です。

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