不器用さへのアプローチの効果

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2018.08.10

不器用さへのアプローチの効果

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| 連載:不器用さへのアプローチの効果(最終回)
| 連載:パソコンによる認知症の予防
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─■ 連載:不器用さへのアプローチを考える
第3回 (最終回)不器用さへのアプローチの効果
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最終回は、不器用さへのアプローチの効果について考えたいと思います。第1回、第2回では、不器用さの捉え方と我々が開発したプログラム(COGOT)の概要について紹介しました。第3回では、初めに、私たちが行った不器用さに関する調査を紹介します。

この調査は、科学研究費の一部を用いて、不器用さプログラムの展開のために、小中高等学校教諭、児童デイサービス指導員、臨床心理士、保育士、作業療法士等のプログラムを実施する立場の専門職51名に対して現状を把握するために行ったアンケート調査です。調査内容は、どのようなところに子供の不器用さを感じるか、不器用さに対する取り組み、その成果について尋ねました。

※アンケート結果・1 (詳細はこちら>>
※アンケート結果・2 (詳細はこちら>>

不器用さを感じる場面(項目2)では、回答数86件のうち、「運動のぎこちなさ」が16件であり、キャッチボールやサッカーなどの球技の困難さや指示通りに動けない、走るフォームがぎこちない、などが含まれていました。その他、「力加減の調節の困難さ」5件や「姿勢保持の困難さ」3件も合わせると、粗大運動の困難さを上げたのは24件(28%)です。また、紐を結ぶことの困難さや鉛筆や箸を上手く持てないなどの「巧緻動作の困難さ」、枠から字がはみ出る、なぞり書きができないなどの「学習時の困難さ」はそれぞれ12件(14%)でした。また、運動には関連しない、対人関係における「コミュニケーションの困難さ」16件(18.6%)、「動機づけの困難さ」10件(11.6%)も挙げられていました。この結果を見ると、不器用さは、粗大運動と巧緻動作等で目立ち、それが学習とコミュニケーションの困難さから動機付けの難しさとして表れていることが分かります。

不器用さに対する取り組み内容(項目3)では、回答数61件のうち、最も多かった回答はブレインジムやバランス訓練、ランニングなど「短時間の運動」14件(23%)で、次いで「コグトレシリーズの導入」8件、「丁寧に説明をする」6件、「段階付けた練習」「視覚支援」各5件、「反復練習」「道具の工夫」各4件などでした。この結果から、不器用さに対しては、運動を介して身体を使う機会を短時間提供しているが、その取り組みは探索的に行われているようです。残念ながら、不器用さに対する介入効果について、現場で確立された介入効果があったという回答はありませんでした。このことから、現状では、身体的不器用さについて問題のある事例はあるが、介入方法や効果については現場で一定の見解はないことが分かりました。

効果検証が難しい理由の一つに、不器用さの評価があると思います。国際発達性協調運動障害研究学会(the International Society for Research into Developmental Coordination Disorder ISR-DCD)によると、現在エヴィデンスのある検査方法としてM-ABC2が推奨されていますが、実施には高価な検査キットと習練、検査時間を要し、幼稚園や学校等で簡易に実施可能な検査とは言えません。また、トレーニングによって本当に日常生活の活動で改善が得られるかどうかは、主観的な観察だけでは判断が難しいところです。そこで、私たちは、ADL能力※1を測定するために標準化されたAMPS(Assessment of Motor and Process Skills)という評価を用いることにしました。

AMPSは、作業療法士のFisherによって1995年に開発された、人が日常で行っている作業遂行を自然な状況で観察することで、遂行の質と能力値を測定する観察型の評価です。約15万人のデータをもとに、国際的にも、異文化間でも十分に標準化された評価法で、2歳以上の子供、青少年、大人、高齢者と、年齢に関わらず誰でもがAMPS施行の対象者となります。掴む、持ち上げるなど道具の操作を含む16の運動技能項目と、ペース配分する、片付けるなど手順を含む20のプロセス技能項目から構成されています。
※1 ADL能力 参考資料「作業療法プレス」(詳細はこちら>>

医療少年院で8名の少年にCOGOTプログラムを3か月実施し、AMPSの評価項目のうち、「シーツと掛け布団カバーの交換」、「掃除機をかける・軽めの家具を動かす」、「モップをかける」の3つの平均的な難易度の課題を用いてCOGOTの前後で介入効果を検証しました。8名の少年の介入前の運動技能能力値では、カットオフ値を下回る少年はいませんでしたが、プロセス技能能力値ではカットオフ値を下回る少年は5名が該当しました。つまり、基本的な運動技能は問題なかったが、手順やペース配分に問題が認められた少年が8名中5名いたことになります。カットオフ値は、日常生活で自立したADL遂行が可能である目安を示すものです。

介入の結果、COGOT介入後の運動技能能力平均値、プロセス技能能力平均値はいずれも有意に改善し、介入後は全員のプロセス技能能力値がカットオフ値を上回る結果となりました。プロセス技能能力値がカットオフ値を上回る改善を示したことは、社会生活で自立したADL遂行が可能であることを示します。一般的には不器用さは運動技能の問題として捉えられがちですが、やはり認知的な部分に問題の本質がありそうです。

観察された変化を資料※2に提示しておきます。これらを見るとトレーニングを通じて注意力や予測力が向上し、動作の手順であるプロセス技能能力が高まり、その結果、日常生活の活動でもさまざまな変化が見られた可能性があります。

※2 ADL改善例 (詳細はこちら>>

以下は、参加した少年たちの感想です。

・何かする前にいったん立ち止まって考えられるようになった
・何でもできると思っていたけど、できないことがあると分かった
・二つ以上の動作が組み合わさると混乱してできなくなることが分かった
・他人の良い生活を真似ることができ、先生(法務教官)から褒められた
・担任の先生に、相手への伝え方がうまくなったと言われた。自分でも実感がある
・相手の立場に立った行動が取れるようになった

OOGOTのプログラムを振り返ってみると、特に言語化を求めるプロセスが有効であった可能性を考えています。プロセスを意識させる介入方法は、運動イメージを用いて意図された運動の視空間座標を内部に表象させる認知運動アプローチ文献1や、Polatajkoらによって開発されたCognitive Orientation to Occupational Performance(CO-OP)文献2,3)でも注目されています。CO-OPは、遂行の問題に対処するために,自己対話(self-talk)と問題解決(problem-solving)の方法を子どもに教える方法であり、自ら言語化プロセスを活用する方法は、我々が開発したCOGOTのプログラムと共通するところがあります。

その他、身体像を表現する方法でも不器用さを理解する可能性もあり文献4、今後複数の効果指標を組み合わせてプログラムの開発を進めて行きたいと考えています。

文献1 Wilson HP., Patrick R., Thomas RP., et al.:Motor imagery training ameliorates motor clumsiness in children .Journal of Child Neurology,17(7),491-498,2002

文献2 Polatajko JH.Mandich DA.Miller TL.Macnab JJ:Cognitive orientation to daily occupational performance(CO-OP): Part II-The evidence.Physical and Occupational Therapy in Pediatrics,20,83-106, 2001

文献3 Polatajko JH.Mandich DA.Missiuna C.Miller TL.Macnab JJ.Malloy-Miller T. KinsellaAE:Cognitive orientation to daily occupational performance(CO-OP): Part III-The protocol in brief.Physical and Occupational Therapy in Pediatrics,20, 107-123, 2001

文献4 石附智奈美、宮口英樹、伊藤信寿、宮口幸治:身体的不器用さをもった医療少年院在院者への認知作業トレーニングの有効性-JPAN、グッドイナフ人物画知能検査(DAM)による質的検証-.日本発達系作業療法学会誌(印刷中)

宮口英樹
広島大学学術院大学院医歯薬保健学研究科
作業行動探索科学分野

 

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─■ 連載:ソフトウエアで認知機能の発達と学習を支援する
第2回 パソコンによる認知症の予防
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1.東京都健康長寿医療センター研究所の認知症予防研究

前号で、高次脳機能障害のリハビリに関する橋本圭司先生とのコラボについて紹介しましたが、その頃もうひとつ別の研究に取り組んでいました。それが認知症予防です。

当時は、川島隆太・東北大学教授が監修したKUMONの学習療法(脳トレ)が注目を浴びていました。学習療法は、計算や文章の音読などを繰り返し行うことで脳の維持・活性化をしようというものです。
※KUMON 学習療法 (詳細はこちら>>

実際に教材に取り組んでみましたが、私には長続きしませんでした。同じことを毎日繰り返す、というのは、ADHD特性の私にとっては苦痛以外のものではありません。また、効果に関する論文も出ていないこともあって、自分自身に納得できるものがないかと文献等を探し回ってたどりついたのが、東京都老人総合研究所(後に、地方独立行政法人健康長寿医療センター研究所と改称、略称は都老研)の認知症予防プログラムです。

都老研では、国策に基づいて様々な認知症予防に関する調査研究が行われました。質問紙などを使って、認知症のリスクの高い人を集めようとした取り組み(ハイリスクアプローチ)は失敗し、すべての高齢者を対象にしたポピュレーションアプローチに取り組んでいました。その中で、高齢者がグループになって、定期的に活動を行うことの有効性が注目され、活動としては、ウォーキング、旅行、料理、パソコンによる会報作成が有効であることが分かりました。そこで、高齢者がグループを作り、定期的に前述の活動を行うことを支援するファシリテーターの育成に取り組んでいました。私は都老研から許諾を得て、認知症予防関連の最初の製品として、デジタル教材「認知症予防ファシリテーター養成講座」※3を作りました。この制作に際しては、独立行政法人中小企業基盤整備機構の事業化助成金を受けることができました。

※3 認知症予防ファシリテーター養成講座 (詳細はこちら>>

2.認知貯蓄仮説

都老研の研究で、認知症予防効果の根拠となっているのが、認知貯蓄仮説※4です。
※4 認知貯蓄仮説 矢冨直美氏(当時、都老研主任研究員)の資料から
(詳細はこちら>>

認知症は、様々な疾病や脳血管障害でおきますが、それ自体は病名ではなく、生活や社会で必要とされる行動ができなくなった状態です。例えば、認知症の原因でもっとも多いアルツハイマー病では、前頭前野が委縮することで、その部位が担う「注意力」「記憶力(ワーキングメモリ)」「計画力(遂行機能)」という3つの認知機能が低下し、適切な行動がとれなくなります。認知貯蓄仮説に示されているように、その3つの認知機能を高く保つことで、アルツハイマー病によって低下する認知機能のレベルを、日常生活や社会生活を行えるレベルに維持しようという考え方です。

前述の学習療法もこの考え方に近いといえるかもしれませんが、脳は同じことを繰り返すと、それを手続型記憶として処理するようになり、アルツハイマー病の病巣となる前頭前野を使わなくなってしまいます※5。ですから、前述の3つの認知機能を使うことを目的とした脳トレプログラムは、毎回、異なる問題が出題されるのが望ましいと考えました。

※5 参考資料 教えて!認知症予防 (詳細はこちら>>

3.高次脳機能バランサーと認知症スクリーニング検査との関係

都老研の認知症予防プログラムは前項で述べたように、様々な活動を行う中で、注意力、記憶力、計画力を使い、それらを維持、改善しようというものでした。一方、高次脳機能バランサーは、その3つの認知機能を含めて、様々な認知機能を手軽にパソコンで行うことができます。そこで、高次脳機能バランサーを基にして、認知症予防に有効な脳トレプログラムを作ろうと考えました。

そこで立てた仮説は、認知症スクリーニング検査と相関のある、高次脳機能バランサーのタスク(ゲーム)が存在すれば、それらが認知症予防に有効となる、というものです。

2010年に、東京都町田市の都営アパートの自治会とシルバー人材センターの協力を得て、高次脳機能バランサーの中から選んだ9つのタスクと、世界標準の認知症スクリーニング検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)を高齢者77名が行い、その2つの得点の相関調査を行いました。調査は3か月の間を開けて2回実施し、信頼性についても確認を行いました。

結果は、MMSEの総得点と、高次脳機能バランサーの2つの得点及び9つのタスクの合計得点が1%誤差で有意に相関するというものでした。3か月後の調査では級内相関指数(ICC)=0.364~0.742と、再現性が確保されていました※6。

※6 ICTによる認知機能測定、橋本圭司(総合リハビリテーションVol.44 No.12)

これらの結果を基にして、楽しみながら取り組める認知症予防コンテンツとして開発したのが、認知機能バランサーです。

次回は、認知機能バランサーの発展形である、脳活バランサーCogEvoの紹介を、その販売元である株式会社トータルブレインケアに紹介してもらいたいと思います。

五藤博義(ごとうひろよし)
レデックス代表

 

─■ あとがき
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今年も展示会シーズンが始まります。第一弾は、イノベーション・ジャパン。公的研究機関、大学から民間企業まで、革新的な技術を公開し合うことで新しい可能性を開こうというものです。レデックスは、NEDOのサイトで、聴覚認知バランサーと脳バランサーキッズの2つの特許技術を展示します。8月30日、31日、東京ビッグサイトです。

※イノベーション・ジャパン (詳細はこちら>>

第二弾は、京都きこえのフェスタ。9月8日・9日、京都駅近くの京都テルサで、聴覚認知バランサーを、非接触型のヘッドフォンとともに展示し、体験してもらいます。

※京都きこえのフェスタ (詳細はこちら>>

次回は、8月24日(金)に刊行予定です。

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