発達の課題を持つ人の高校の選択肢

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2018.06.08

発達の課題を持つ人の高校の選択肢

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| まえがき
| 新連載:発達の課題を持つ人の高校の選択肢
| 連載:柳下先生の質問コーナーその3
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──■ まえがき
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発達を支援する学校の現状について、もうひとつの可能性ともいうべき通信制高校について、明蓬館高等学校校長の日野公三(ひの・こうぞう)先生に解説していただきます。

日野先生は、岡山大学法文学部を卒業後、株式会社リクルート、神奈川県の第三セクター取締役などを経て、2000年に東京インターハイスクール、2004年にアットマーク国際高等学校、2009年に明蓬館高等学校を創立されました。2013年には、SNEC(すねっく、スペシャルニーズ・エデュケーションセンター)を設立し、全国主要都市につぎつぎとSNECを開設され、高校段階では前例のない、特別支援教育と才能開発を両立させる施設として注目を集めています。

 

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─■ 新連載:発達の課題を持つ人の高校の選択肢
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私たちは2000年から広域通信制高等学校の経営に乗り出しました。通信制高校の主要な生徒対象は、中学時代の不登校などで、学業からの離脱傾向のある生徒たちです。

「不登校のかげに発達障害あり」という言葉が聞かれるようになったのは、2007年ごろだったと記憶しています。同じ不登校でも発達障害由来が囁かれるようになったのです。

元々、通信制高校は学びの多様化が図られ、生徒自身に選択の自由度が大きいために、不登校との相性が良いのです。発達障害の持つ様々な特性のマイナスの部分が、通信制高校では目立たず、不適応を起こさなくて済むいくつもの点があります。次第に、私たちは発達障害生徒の入学促進に挑戦するようになりました。

2008年、東田直樹さんが入学してきました。自閉症でありながら作家活動をしていることで知られる存在でした。今では、自閉症者の世界をみごとに表現できる作家として、世界的に知られています。

今回の連載では、発達の課題を持つ人にとっての高校の選択肢にはどのようなものがあるか。一体何が本当の課題なのか。通信制高校のどんなところが当事者にとって適応性が高いのか。通信制高校を選ぶ選択基準はどのようなものか。などについて言及していきます。

〇特別な支援を必要とする子どもの高校の選択肢は?

高校における、特別な支援を必要とする生徒の選択肢には、全日制、定時制、特別支援学校、通信制があります。全日制は生徒のほとんどが選択することもあって、やっていける自信がないと言いながら、学校のレール、進路指導に乗ってしまう、どうしても、この流れを排除できないという状況があります。生徒自身も全日制に対する憧れがあって、全日制に行きたがる傾向があります。

しかし、中学校の高校進路指導の現場では、標準偏差値とか、内申点で、機械的に進路が決められてしまうという印象があるのも事実です。

一方の定時制は、今は三部制になっています。チャレンジスクールと名を変えて、内申書いらずの学校さえあります。一部、二部、三部に分かれ、夕方からの登校も可能ですし、クラスルームのわずらわしさを回避できるようにもなっています。ずい分と柔軟性が増しているように思います。

ただ、生徒自身が「自分がしたいことがある」「たまに学校に行けばよい」「クラスルームがあるようでない」「通学は朝と昼、どちらでも選べる」等々の点を重視するならば、定時制よりも通信制のほうが自由度は高いと言えます。

特別支援学校については、中学ではなかなか勉強ができなかったから、高校で勉強をがんばろうと思い、入学してから、普通科目の履修ができない、高卒資格が出ないということに気付いて、ショックを受ける人がいたりもします。特に、学び続けたい、好きなことがある、好きな勉強があるという生徒に対して、高等支援学校には学ぶ環境が用意されていないので、悶々としてしまうことがあります。

特別支援学校以外の高校の最大の課題は、基本的に普通級であり、通常級しかないということです。厳密には義務教育ではないので、わが子の障害特性、認知特性、学習特性の配慮をどれほどしてもらえるかは定かではありません。特別支援学級はなく、通級指導学級もないわけです。

※特別支援学校の中には、高校教育課程に基づく高校単位取得可能なところがあります。また普通科、工業科、商業科などの全日制高校の中には、特別支援級設置の特例的研究開発を行うプロジェクトも進んでいます。よくお調べになることをお勧めします。

〇「学びにくい」のは、子どもの学べる環境を選べていないから

では、「学びにくいとは何なのか」を、ここで一緒に考えてみたいと思います。
学びにくいとは、「一斉授業になじみにくい」「一律的な試験になじみにくい」「教材、教科書が使いにくい、よくわからない」という意味で捉えている方がほとんどではないでしょうか。学びにくいのは、わが子のせいだ、うちの子が特別だからなのだと・・・。

私は、それは違うと思っています。
お母さん方は、どうしても、「うちの子がそうだから」と思いやすいのですが、学びにくいというのは、「子ども自身が学びやすいと思える環境を選べていない、選ばせてないから」なのです。あるいは、周囲の大人がその子の特性に応じた学びの環境を持つ、いくつかの選択肢を用意できてない。つまり、「自己選択ができない」ということなのです。

学びにくいのは、本人のせいではなくて、周りの大人のせいだと私は思っています。
親はどうしても、他の子と同じように、普通の環境を求めやすいし、刹那的なウォンツに基づいたものを求めてしまいがちです。

ですが、刹那的なウォンツと、ニーズは別のものだと思います。
ニーズというのは、世の中にまだ現れていないものです。子どもの目の前にないものが多いので、選びようがないし、本人の口からは当然出てきません。たとえば、「授業が嫌い」と言ったからといって、本当に授業に出たくないかというとそうではなくて、学びたいものはちゃんとあるのです。学びたいものが教室の中になかったり、教科書に書かれていたとしても、すぐに探しきれなかったりしているだけなのです。

目の前の子どもたちが言っていることを真に受け過ぎず、本当にしたいことを探ってあげる。そういう態度が、大人にも必要だと思います。

〇「学びやすさ」を実現できる通信制高校の中に死角はないか

私と教育との最初のかかわりは、前職、神奈川県が大株主の第三セクターの株式会社ケイネット取締役として、1997年に、横浜にインターネットハイスクール風(Kaze)を開校したのがきっかけでした。そのときの私の肩書は担当取締役兼事務局長というものでした。事情によって、職を離れなければならず、心残りだった私は理解者、同志を集め、新しく法人を設立して、東京インターハイスクールという米国の通信制高校の日本分校のような学校を創設したのです。

それ以来、さまざまな不登校の生徒とその保護者とのかかわりが生まれ、数多くの経験を重ねてきました。不登校の中にも生徒自身に起因するもの、いじめに起因するもの、家庭環境など外部要因に起因するもの等々、さまざまなケースと接してきました。

そんな中で、2007年頃から、何かこれまでとは違う傾向の生徒と接することが出てきた感がありました。それが前述の通り、期せずして、発達障害を持つ人たちだったのです。

生徒自身に内在する周囲との違和、内向し沈殿する悩み、言語化しづらい(どうしていいのか、どうしたらいいのか、うまく説明がつかない)理由や動機などがうかがえるケースが出てきました。と同時に、世の中には、定型発達と非定型発達の二種類の人たちがいるということを知ったのです。

非定型発達の人たちが、いわゆる発達障害のある人たちなのです。その後、各種統計を見ると、通信制高校における発達障害の在籍比率は全日制高校よりかなり高く、全日制は1.8%なのに、定時制は14.1%、通信制は15.7%となっています(平成21年3月「発達障害等困難のある生徒の中学卒業後における進路に関する分析結果」より)。

つまり、通信制高校に在籍する生徒100人に15人の割合で発達障害ということになります。
こうした数字からも、高校に進学する際、全日制は自分が通い、教室で過ごし、授業を受け、テストをこなすにはハードルが高いということを直感的に感じる子どもたちが、通信制高校に集まる傾向のあることがうかがえます。

そういった状況に接し、その問題を解決するために、新しいタイプの学校の創設を思い立ちました。その学校、明蓬館高等学校については、次回、述べようと思います。

日野公三(ひのこうぞう)
明蓬館高等学校校長兼SNEC総センター長

 

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─■ 連載:気になる行動の捉え方
第6回 柳下先生の質問コーナー その3
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〇質問 S君 特別支援学校四年生について

三年生までは地域の小学校支援級に在籍していましたが、小学校の先生との関係性が築けず他害行為が続き、保護者様も不安な想いを持たれた為、四年生より、特別支援学校へ転校しました。

集団活動に楽しく参加できる日もありますが、時に過去の嫌だったことをフラッシュバックすることがあるようで、ドアを蹴り壊すなど物に当たる、対象人物の髪を引っ張る行為が目立っています。

本人がイライラした様子の時※、施設で一番信頼関係を築けている同性スタッフと1対1での対応を行うようにしており、すぐに個室にいくように促し、読書などで落ち着く時間を設けています。

※これは、学校や家で自分の思い通りにならなかったり、嫌な事があったりした場合にそのまま引きずっているときもあるようです。

自分の想いが伝わらないと感じた時に、やってはいけないと分かっていても、つい衝動的に暴力をしてしまい、それを指摘されるとイライラして物に当たるようです。殴ったり、蹴ったりすることでイライラを解消しているのではないかと思います。

タブレットで好きなゲームをしてまぎらわせる時もあったりしますが、なかなかイライラが解消されないようです。

イライラしたときに、気持ちを落ち着かせる方法があればと思っています。S君への対応、環境の設定等、アドバイスをいただけるとうれしいです。よろしくお願い致します。

〇回答

担任との相性だったり、学校対応が上手く整わなかったりして、学校を変えることになった時は、本人もご家族も、とても負担は大きかったのではないでしょうか。

特別支援学級や特別支援学校は「個別の指導計画」を作成します。ご家庭のニーズもお聞きしながら作成されることと思いますので、学校とご家庭がどのような目標をたてて取り組んでいるのかを共有できると、本児の理解を深めることができると思います。

また、それとは別に、本児の気持ちが落ち着いているときに「得意なことや好きなこと、苦手なことや嫌いなこと」を聞きながら、少しずつ本児の居心地のいい環境を探してみてはいかがでしょう。

聞き取りは4W1H(What、When、Who、Where、How)を使います。Whyは、「なぜそうなの」というやり取りが詰問になり非難されている気持ちになってしまうため使いません。

例えば
What:何が好き(嫌)なの、何をされると、何をしたら・・・
When:いつ、いつ頃から好き(嫌)なのか(きっかけ)、どんな時に・・・
Who:誰が、誰だと、もしくは自分が・・・
Where:どこ、どの場所で、どの場所だと・・・
How:どんな気持ち、どんな風になる・・・
というように、気持ちや行動、考えていることを丁寧に聞いていきます。

その中で共感しながら、いやな気持があふれそうなときはどんな物、どんな場所があったらいいのか一緒に考えていくことで、心の基地(安心感)がその子に関わる方々の中にあると、本児が感じてくれるようになるといいですね。

私は子どもたちと、イライラした時に新聞紙などをビリビリに引き裂いたり、段ボールをボコボコにしたり、嫌な気持ちをノートいっぱいに書いたりして、その後にゆっくりゆっくり話を聴いたり、ただ静かにそばにいたりしました。

子どもの行動や気持ちには必ず、その行動や気持ちが起こるきっかけがあり、その結果があります。(詳細はメルマガバックナンバーの「行動分析」に関する拙著をご覧ください) 丁寧にそれらを見ていかれるようにすると、その子どもに合った環境が見えてくると思います。

柳下記子
視覚発達支援センター 学習支援室「グッドイナフ」室長

 

──■ あとがき
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次回メルマガは、6月22日(金)に刊行予定です。

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