聞こえているのに聞き取れない、分からないって?

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2018.03.23

聞こえているのに聞き取れない、分からないって?

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■ 新連載 著者からのメッセージ
■ 連載:聞こえているのに聞き取れない、分からないって?
■ 連載:成人ディスレクシアの独り言:ICTを活用して学ぶということ
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─■ 新連載 著者からのメッセージ
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他者が話したことばを聞き間違えたり、聞き逃したりする。
雑音の中では聞き取れない。
聞いた内容をすぐに忘れてしまう。
それでも聴力には問題がない・・・

このような、聞こえているのに聞き取れない、分からないという症状は、聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder:APD)と関係している可能性があります。

それではAPDとはどういうことなのでしょうか?どうしてこんなことが生じるのでしょうか? 本シリーズでは、APDとは何か、その原因や支援などについて分かりやすくお話します。

小渕千絵・国際医療福祉大学保健医療学部言語聴覚学科准教授。
兼任:大学附属言語聴覚センター言語聴覚士。
専門:聴覚障害学。
著書:「聞こえているのに分からない 聴覚情報処理障害APDの理解と支援」(学苑社)

 

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─■ 連載:聞こえているのに聞き取れない、分からないって?
第1回 聞こえているのに聞き取れない?ってどういうこと? ―聴覚情報処理障害(APD)とは何か?―
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普段の生活の中で、こんな経験はないでしょうか?誰かが話をしたのは分かったけれども、何を言っているのか分からない。ふっと意識が途切れた途端に何を話されていたのか忘れてしまう。静かな場所での会話はいいけれど、雑音の中では人一倍会話をするのが難しい、周りの人から話を聞いていないと言われる・・・

会社員のAさんは、仕事帰りに同僚と一緒に居酒屋に行きました。周りがガヤガヤ話している中で、同僚達は楽しそうに話をしているのに、自分だけ話が聞き取れないと感じていました。とりあえず笑ったり、相槌をうって話を理解しているかのように振舞っていましたが、本当は何を言っているか分からないので、苦しく思っていました。時折言われたことと自分の応答が噛み合わないことがあるので、「天然だね」とよく言われています。

販売員のBさんは、仕事で急に必要なものを買ってくるように上司から指示を受けました。指示された物が売っているお店のことを考えながら、すぐに会社を出発しました。お店に到着した時に、ふと「あれ?何を買ってくるように頼まれたんだっけ?」と思いましたが、今から上司に確認したら怒られると思い、多分これであろうと思うものを買って帰りました。しかしながら、指示されたものとは違っていたので、上司から厳しい叱責を受けました。

小学生のCさんは、学校生活の中での聞き間違いが多いと感じています。先生が「今日はお天気が悪いので体育はやめて、理科室に行きます」と話されたのに、うまく聞き取れず、図書室に向かおうとしました。しかし、お友達が理科室に向かっているのを見て、図書室と聞こえたけれど、理科室だったのかな?と思い直しました。お友達との会話でも聞き間違いをしてしまうので、とにかく周りをよく見て行動するようにしています。

・・・このような経験が重なった方は、「自分の耳が悪いのではないか?」と考えて、近隣の耳鼻科に行って検査をしてみようと思われるでしょう。聴力検査を受け、聴覚障害があると言われることを想定していましたが、予想に反し「問題ありません。気のせいでしょう。」と言われてしまいました。これは一体どういうことなのでしょうか?本当に「気のせい」なのでしょうか?

ご本人自身は「聞こえにくさ」の自覚があるにも関わらず、聴力は正常で聞き取りは問題ない、それにも関わらず聞き取れない、という場合には、「聴覚情報処理障害(Auditory Processing Disorder:APD)」の可能性があります。

すなわち聴力検査では正常であるので、一般的な聴覚障害とはいえません。同様に、ことばの聞き取り能力を検査するための、語音聴力検査を行っても問題がみられないことがほとんどです。それにも関わらず「聞こえにくさがある」、というのです。

先ほどの事例をもう一度考えてみましょう。会社員のAさんは、居酒屋のような雑音の多い環境で聞き取りにくい、すなわち雑音下での聞き取りに問題があるといえます。販売員のBさんは、上司から指示を受けた内容の一部を忘れてしまいました。すなわち、聴覚的に記憶する力に問題があるといえます。小学生のCさんは、先生の話の一部の聞き間違いをしている、すなわち聴覚的な識別力に問題があると言えます。その他にもAPDの症状として考えられるものとして、話に長く注意を向けることが難しくなるような聴覚的な注意力、両耳から入ってくる異なる情報をうまく統合する能力である両耳融合能、両耳分離能などに問題があることが指摘されています。これらのような聴覚的な情報処理能力の弱さがある場合、すなわち症状がある場合にはAPDと考えられています。

APDの背景には、微細な脳損傷などの聴覚に関係した脳の一部で障害がみられる場合もありますが、それはごく一部であり、多くは脳機能などには器質的な問題がみられません。現在は、認知的な問題が関係すると考えられますが、このような特殊な聞き取り困難に対する原因をどのように考えていくべきなのでしょうか?これについては、次回詳しくお話したいと思います。

小渕千絵・国際医療福祉大学保健医療学部言語聴覚学科准教授

 

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─■ 連載:成人ディスレクシアの独り言
第14回 「今」学校で学んでいる、読み・書きが苦手な子ども達へ(最終回)
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1.方法がある

皆さんに一番知ってほしいことは、「方法がある」ということです。
読めないと、苦しい。先生や友達に聞くことも、だんだん辛くなっていく。
書けないと、悲しい。言いたいことはあったのに、書いているうちに分からなくなってくることもあるし、自分の書いた字が自分でも読めないと、誰にも見せたくないって思う。
そんな時、周りのみんながすらすら読んだり書いたりしていると、「ああ自分ってなんてダメな子なんだろう」って苦しくなってくるよね。
おじさんもそうでした。子どもの時からずっと、「こんな簡単なこともできない自分」が、大嫌いでした。

でも、今はわかります。できないのではなく、「方法が違う」だけだったんです。みんなと同じ方法ではできないけど、自分の方法ならできるんだ、そう知ってから、おじさんの毎日は、とっても明るくなりました。

おじさんにとっての「方法」は、ICTでした。読みあげてもらえば、書いてある内容はよくわかります。聞いているだけではなく、「聞きながら文字を読んでいく」のが、おじさんには特に合っていました。音があれば、自分もすらすら読んでいけることがわかって、とっても嬉しかったです。嬉しくて、たくさんたくさん、本や記事を読みました。すると、読みあげがなくても、短い文章だったら以前に比べて楽に読めるようになりました。音がないと、漢字の読み間違いなどは相変わらずありますが、意味はわかるので、大丈夫です。

「読めない」と思って、何十年も「読まない」でいたことが、今はもったいなくて仕方ありません。新しいことを知ったり、興味のあることを調べたりするのは、とても楽しいです。

手書きは今でもとても難しいですが、キーボードを使えば、自分の言いたいことを書くこともできるようになりました。おじさんの一番の武器は、「フリック入力」です。少ないキーで、予測変換を使いながらだと、「えっと、どう書けばいいんだっけ」と悩まずに書くことができます。何十年も、「書く」ことをほとんどしてこなかったので、最初は「これであってるのかな」「変な文章になっていないかな」と心配で、家族に「これで大丈夫?」と聞いていましたが、最近は、1000字以上の文章でも、1人で書くことができるようになりました。SNSで、毎日、文章を通じてたくさんの人とのやりとりもしています。「書くことって楽しい」そう感じることも増えました。ぼんやりとしていた自分の思いを、文字にしていくことで、確認したり考えを整理したりできることもわかりました。

おじさんの子どものころにはなかったICTという「方法」が、おじさんにたくさんの喜びと可能性をくれました。「なまけてる」「こんな簡単なこと誰でもできるのに」と言われて、くやしくて泣いていた子どものころの自分に、この「方法」を届けてあげたいと、本気で思います。でも、過去には戻れません。それは、やっぱりとても悔しいことです。「これがあればできたのに」と、あきらめきれません。

今は、本当にたくさんの「方法」があります。あなたに合う「方法」もきっとある。どうか、あきらめないで、試してみてください。

2.みんなと違う方法は、ずるくなんかない

今では、あれほど苦しかった「読むこと」も「書くこと」も、おじさんの毎日に欠かせない「楽しみ」になっています。でも、それは「方法がある」からです。

「音があれば読める」「キーボードがあれば書ける」というのは、「眼鏡があれば読める」と同じです。方法は助けてくれますが、それを使って「読んでいる」のも「書いている」のも自分です。ずるくもないし、間違ってもいません。むしろ、「音がなくてもすらすら読めるなんてずるい」「キーボードがなくても書きたいことが書けるなんてずるい」と、言いたいくらいです。

眼鏡や車いすを使うことを「ずるい」とは言いませんよね。それを使わなくてもいい人と、使わないと困る人がいた時、「みんな使うことにしましょう」も違うし、「みんな使わないことにしましょう」も違います。「必要な人が必要な時に使う」ことは、全く問題のないことです。

「でも、何か言われたらいやだなあ」と、思うこともありますよね。おじさんもそうでした。「携帯電話で漢字を調べるなんて、みんながしているよ」と言われても、どうしても人前ではできなかったです。そんな時は、まず、家の中や一人の時、だれにも何も言われないところで試してみるといいと思います。自分にあった「方法」に出会って、それを使っていると、「今までの苦しさはなんだったんだろう」と思うくらい、ストレスなく読んだり書いたりできるようになります。そんな体験を重ねていくと、「自分にはこの方法が必要なんだ」「友達には必要なくても、自分はこれがあると力を発揮できるんだ」ということが、実感できます。その上で、「この方法を学校でも使いたい」と思えば、先生や家族に相談していくといいと思いますよ。

3.助けを求めていい

自分の「方法」が見つかっても、それが使えない場面というのも、やっぱりあります。
そんな時は、助けを求めて大丈夫です。

おじさんは、ずっとそれができなくて、かくしたりごまかしたりしてきました。時には嘘をついたり逆切れしてみせたりしたこともあります。自分の苦しさを、攻撃することでごまかそうとしていたんですよね。思い出すと、周りの人にたくさん迷惑をかけてしまったなあと、反省することも多いです。今は素直に、「苦手だから手伝って」とか「ここなんて書いてある?」って聞けばよかったと思うし、実際そうしています。でも以前は、それができませんでした。なぜかというと、恥ずかしかったからです。

どうしてだと思いますか?

それは、とても自信がなかったからです。「できない」が重なってこんがらがって、自分はダメなんだとばかり思っていました。だから「知られたくない」「恥ずかしい」が先に来てしまっていたんです。

今は「自分はできる、ただ方法が違うだけ」とわかっています。だから、自分の方法が使えない時は、素直に「手伝って」が言えます。「ありがとう」も、心から言えます。「恥ずかしい」と思っていた時は、「ありがとう」を言うのもすごく悲しくて、うまく言えなかったんです。

苦手なことは、誰にだってあります。でも、それが自分の「全て」じゃない。そう思えると、助けを求めることも、苦しくなくなります。あなたが誰かを助けてあげる場面も、必ずあります。だから、助けを求めていいんですよ。

おじさんが、読むこと・書くことに苦しんできたのは、「方法を知らず、違うやり方はずるいと思っていて、だれにも助けを求められなかった」からです。今はたくさんの情報があります。方法を知って、自分のやり方に自信を持ち、困った時は助けを求めながら、楽しく学んでほしいと、心から願っています。

おじさんがでてくるお話「サトルの話」と、おじさんが大学に入りなおして作った動画「ディスレクシア」も、よかったら見てください。

※サトルの話
(動画はこちら>>

※ディスレクシア
(動画はこちら>>

●保護者・支援者の皆様へ

予定を超えて、とても長い期間、自分の話に耳を傾けていただき、ありがとうございました。これは、あくまでも、一当事者である、「井上智」が体験したことや感じてきたことです。同じディスレクシアであっても、「自分は違う」という方も、当然たくさんいらっしゃることと思います。それでも、「ああ、自分もそうだった」「あの子もそうなのかもしれない」という方もまた、おられることと思います。自分の当事者としての体験や思いが、何かのお役にたてたなら、こんなにうれしいことはありません。

最終回で子ども達に伝えたかったことは、全て、「自分が子ども時代に知りたかったこと」です。皆様の目の前に当時の自分のような子どもがいたら、どうか伝えていただければと思います。

井上智、井上賞子
ブログ「成人ディスレクシア toraの独り言」
(ブログはこちら>>

 

─■ あとがき
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井上夫妻の連載が終わりました。奇しくも本日3月23日は井上智さんの、大学の卒業式とお聞きしています。智さんのさらなるご活躍と、今回の連載が読者およびご関係の方々の参考になることを編集者として願っております。

次回のメルマガは、4月6日(金)の予定です。

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