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■ 連載:成人ディスレクシアの独り言:大学進学という夢
■ 連載:気になる行動の捉え方:行動の結果から考える対応
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─■ 連載:成人ディスレクシアの独り言
第12回 大学進学という夢
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自分がディスレクシアだと知った時(当時43歳)、まずわいてきたのは「悔しさ」でした。自分には無理だとあきらめてきたこと、望むことすら許されなかったこと、「あの時も」「この時だって」、とめどなく湧き上がってくる「悔しさ」に、のたうちまわっていました。もちろん、ディスレクシアという困難がなくても、叶わなかった願いはたくさんあったと思います。でも、読み書きができなかった自分には、「挑戦して挫折する」ことすら、許されなかったんです。「スタートラインに立てなかった」ことの口惜しさは、今も言葉にできません。
そんな、あきらめていたたくさんの夢の中に、「学生生活」がありました。自分から高校を飛び出してしまったんだからと、ずっと考えないようにしていましたが、本当は、高校、大学と進みたかった、勉強をもっとしてみたかった、その思いはずっと胸の奥にくすぶっていました。
「聴講生という方法があるよ」と、教えて下さる方も、いました。確かに、今の自分でも、大学で講義を受けることができるというのは、うれしいことです。でも、でも、そうじゃないんです。自分がほしいのは「学べる場」だけではなく「学生生活」であり、極言すれば「学歴」なんです。
高校を飛び出した自分の学歴は、「中卒」です。大学で、どんなにたくさん講義を受けても、一生懸命勉強しても、その大学の学生にもなれなければ、卒業資格ももらえないと思うと、やはり気持ちが萎えてしまいます。しかし、本当の学生になりたいと思えば、高校に入りなおすか高卒認定の試験を受けなくてはいけません。どちらも学習空白が深刻な自分には、とても無理でした。
望んでも得られない、わかっているけど消し去れない。そんな思いでもんもんとしていたころ、ネットでサイバー大学の記事を見つけました。「高校を卒業していなくても、大学資格を目指せる」という言葉に、目が釘付けになりました。そして、インターネットの中で学べる大学で、教材が動画だったり読みあげできるテキストだったりするなら、もしかして自分も大学生になれるかもしれない、そう思いました。その瞬間に、体が熱くなるほど気持ちが高揚したことを覚えています。
サイバー大学はソフトバンクが運営しているということだったので、妻が魔法のプロジェクトでお世話になっている、ソフトバンクの佐藤さんに、「サイバー大学は、自分のような経歴でも入れるんでしょうか?」と相談してみました。佐藤さんからは、「サイバー大学はITについて学ぶ大学です。智さんの学びたいことはこれですか?大学ならどこでもいいという気持ちでは、続かないですよ」と返信が来ました。自分の学びたいこと・・・。やみくもに「大学生」にあこがれていましたが、「大学で何を学びたいのか」と言われて、はっとしました。
自分にとって、今一番興味があることは「写真」や「映像」の表現です。40代後半から趣味で始めた写真の世界ですが、いまや日々の生活の一部となり、「知りたい」という気持ちから、英語のサイトにもアクセスして、自動翻訳を頼りに勉強することもあるほど、学びたい分野です。「自分は、写真や映像について学べる芸術系の大学に行きたいです。でも、中卒の資格しかない自分には、行きたい大学なんて選べないんです」そう返信すると、佐藤さんから「特修生という制度は、サイバー大学以外にもありますよ」と教えていただきました。
「特修生を経た正科生入学」とは、高校卒業資格を持たず、大学入学資格検定および高等学校卒業程度認定試験に合格していない人でも、特修生を経て正科生として入学し、大学卒業資格を目指すことができる制度のことです。全く知らなかったんですが、たくさんの大学の通信課程に、この制度がありました。夢中で調べて、学習の内容やスクーリングの通いやすさを考えて、大阪芸術大学短期大学部通信教育課程へ進みたいと考えました。
しかし、まだまだ、ハードルはありました。特修生からのスタートとはいえ、大学です。一般教養科目が必要です。もちろん必死で勉強する気はありましたが、英語や数学といった、積み上げがないと手も足も出ない科目が必修だったら、その時点で卒業はむずかしいでしょうし、何より、レポートや試験、スクーリングといった場面でICTの活用が認められなければ、アウトです。
まずは資料を取り寄せてみました。一般教養は18単位必須になっていました。選択肢の中には英語も複数ありましたが、英語以外の単位を履修しても、ぎりぎり18単位はいけることがわかりました。専門科目のタイトルは、どれもとても魅力的で、ああ、もしかしたらこれを自分が学べるかもしれないと思うだけで、胸が高まりました。
あとは、合理的配慮を受けられるかどうかです。法整備がされる少し前でしたし、「無理です」と言われるのではないかと思いながら、どきどきしつつ、問い合わせてみました。ディスレクシアという困難について説明し、必要があれば診断書も提出できると伝えたうえで、レポートや試験、スクーリングといった場面でICTの使用の許可がいただけるかどうかを聞きました。
電話口に出たのは、事務の方でしたが、丁寧に聞き取って下さり、校内で検討して返事をするといっていただきました。それから数日、祈るような気持ちで、待ちました。
大学から回答はの「今までディスレクシアの学生に支援した前例はありませんが、パソコンを使用することで学べるというのであれば、許可します」でした。電話口で何度も何度も「ありがとうございます!」と頭を下げました。嬉しかった。本当に心から嬉しかったです。
「前例がないから」の続きは「無理です」ではなかった。ああ、大学というのはなんて柔軟な場所なんだろうと、感無量でした。
自分がディスレクシアだとわかってから、啓発活動にもかかわるようになり、何人かの当事者の子ども達や保護者の方とも話したことがあります。その時、いつも言われていたのが「前例がないからとタブレットが持ち込めない」「前例がないからと試験でパソコンが使えない」というものでした。また、「今頑張らないと、将来困るよと言われる」というものもありました。自分もたくさん、そういわれてきました。「今できるようにならないと、将来どんなつらいことになるんだろう」と怯えていたことを、今も思い出します。でも、そうじゃなかった。
「前例はありませんが、学ぶために必要ならば、許可します」この回答は、とてもシンプルで、まっとうだ、そう思いました。子ども達が行く先は、こんなにも柔軟なんだ、「将来困るよ」と追い詰めるのでなく、「今」を支えて未来を開いてあげてほしい、心からそう願わずにはいられませんでした。
きっと大学側も、見通しがあったわけではないのだと思います。それでも「ここで学びたいです」という自分の願いに、なんとか応えようとしてくださった。そのことが嬉しくて嬉しくて、すぐに入学の手続きをとりました。
すると、「入学式にいらっしゃいませんか」と声をかけていただきました。10代の子達にまじった、53歳の自分。どう見ても父兄ですが、この大学の1年目の仲間(特修生ですから、1年生ではまだないので)。くすぐったいような晴れ舞台から、夢の大学生活はスタートしました。
井上智、井上賞子
ブログ「成人ディスレクシア toraの独り言」
(ブログはこちら>>)
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─■ 連載:気になる行動の捉え方
第2回 行動の結果から考える対応
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「行動」は何かのきっかけや要因がないと起きないものです。前回その行動を引き起こしている要因を探ることが、子どもの理解にもつながることをお話ししました。
今回は「行動」の後の『結果』から、繰り返される行動が変わるお話です。ペアレントトレーニングには、子どもの好ましくない行動には「反応しない」というセッションがあります。反応しないことでその行動をしてもメリットがないこと表します。その反対に、好ましい行動が起きた時には「ほめる」ことで、この行動にはメリットがあると認識させ、好ましい行動が繰り返されるようにしていきます。
例えば、子どもがお菓子を買って欲しいとぐずったとします。はじめは買わないといっていても、子どもが泣いて騒ぐのでお菓子を買って泣き止ませる。という対応(結果)をとっていれば、子どもは泣いて騒げば買ってもらえると誤学習し、次もまた泣いて騒いで買ってもらうという行動を繰り返します。しかし、いくら子どもがぐずっても、泣いても騒いでも反応しない、または買わないという対応(結果)を示すと、泣いても騒いでも買ってもらえないので別の行動をとるようになるのです。
お菓子買ってという⇒(反応がない)⇒泣いて騒ぐ⇒買ってもらえる
「泣くと買ってもらえる=買ってもらえるまで泣く」メリットがある
お菓子買ってという⇒反応がない⇒泣いて騒ぐ⇒買ってもらえない
「泣いても買ってもらえない=泣いても買ってもらえない」メリットがない
何らかの行動が繰り返されていたり、継続して起こっていたりするときには、
先行状況(Antecedent)⇒行動(Behavior)⇒結果(Consequence)の中で得をしている(メリットがある)ことから行動が強化されているのです。
●ケース(1)
ある子どもが配られたプリントに取りかかる様子もなく、ずっと何もしないでいると、先生がやってきて一緒に取り組んでくれました。クラス観察をしていると、こういった場面をよく目にします。一見、好ましい光景にも見えますが、いつ見てもこの子どもは、プリントが配られると自分で取り組もうとはせず先生が来るまで待っているのです。
プリントが配られる⇒取り組まずに待つ⇒先生が来て一緒に取り組んでくれる
という繰り返しでした。「プリントは先生とやるもの」という習慣がついてしまっていたのです。
子どもの学力や特性にもよりますが、この子どもの場合には、すぐに一緒に取り組むことをせずに、取り組んだら声をかける等に対応を変えることで、課題に取り組む姿勢を身につけていきました。
●ケース(2)
「子どもが嘘をつく」というご相談がありました。学校の配付物の出し忘れを隠していたり、自分で壊した筆箱を人のせいにしたりする。日に日に嘘がエスカレートするという内容でした。
子どもから気持ちを聞いてみると「どうせ分かってくれないもん、叱られるもん」というのです。子どもからしてみると、『自分の話を聞いてくれない、本当のことをいっても叱られるだけ』というデメリットでしかないのです。
そこで、お母様に行動を責めることをやめ、その行動になった経緯を聞いたり、次にどうしたらいいかを考えてもらうように対応を変えてもらいました。具体的には、言葉かけをかえるようにしてもらいました。
なぜ忘れたって言わなかったの!→忘れたことにいつ気が付いたの?
乱暴にあつかうからでしょ!→どうやって壊れたの?こうしたら壊れなかったね。など
詰問でない問いかた(※オープンクエスチョン)に変えてもらいました。
こうすることで、子どもにとって「正直に言っても叱られるだけ」という行動の結果から「理解してもらえる、どうしたらいいか考えてもらえる」というメリットのある結果に変わります。このメリットはやがて、子どもにとっては『安心』に変わり、『信頼』になっていきます。信頼のある関係に嘘は必要なくなります。
次回はSOSを出してきた少年のお話から「攻撃行動を起こす子どもの気持ち」についてです。
※オープンクエスチョン:いつ、だれが、どこで、どうやって、という問いかけ
下記拙著の「質問してみよう」に詳しく解説しています。
『発達障害がある人のための みるみる会話力がつくノート』
(詳細はこちら>>)
柳下記子
視覚発達支援センター 学習支援室「グッドイナフ」室長
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─■ あとがき
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いよいよ今日から、冬季オリンピック・パラリンピックが始まります。連休もありますので、いろいろな国の選手たちをできるだけ応援したいと思います。
次回メルマガ配信は、2月23日(金)の予定です。
気になる行動の捉え方:行動の結果から考える対応
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2018.02.09
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