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■ 連載:成人ディスレクシアの独り言:ディスレクシアだと知って
■ 連載:将来の学校現場 どんなICT環境になっているんでしょうか?
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──■連載:連載:成人ディスレクシアの独り言
第11回 ディスレクシアだと知って
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生きるために、自分を守るために、読み書きができないということをだれにも知られてはいけないと、肝に銘じて生きてきました。学校時代のたくさんの体験、社会に出てからのあらゆる経験から、「読み書きができないと、全ての評価を失う。誰にも信用されなくなる」と確信していたからです。
だから大げさでなく、「命がけで」隠してきました。
その場しのぎの言い訳は、自尊心をずたずたにしましたし、ちょっとでも誰かがそのことに触れようものなら逆切れして相手を泣くまで追い詰める自分に、「なんて嫌な奴なんだ」と激しく落ち込むのがわかっていても、どうしても、だれにも言えませんでした。
「言えば、助けてもらえたかもしれないよ」とのちに言われたこともありますが、15歳から家を飛び出して生きてきた自分にとって、「信用してもらえない」ことは「仕事をなくす」ことであり、それは「生活の不安」に直結します。恥ずかしい、知られたくないという心情的な抵抗感に加えて、生活の不安はいつも自分の足元を揺るがすものでした。
だから、縁あって夫婦になった相手にも、とても話せませんでした。
今の妻がたまたま学校の先生で、これも本当にたまたま特別支援の勉強をしている人だったことは、きっと自分にとって何かの巡り会わせだったのでしょう。それでも、最初は正直に話せませんでした。「家庭環境が複雑で、学習の機会を持てずにいた」ことは話していました。でもそこまでです。「読むことも書くことも驚くほどできない」「やってもやっても身につかなかった」ということは、言えませんでした。
講演会などでお目にかかる竹田契一先生が、「奥さんは特別支援の専門家で、SENSEの資格も持っている、それなのに気付かなかったのですか?」と妻に問われますが、彼女はいつも「全く分からなかったです」と答えます。そりゃあそうでしょう。社会に出てから彼女に出会うまでの23年間、ずっと「命がけ」で隠してきましたから、ごく自然にそういう場面を避けることには慣れていましたし、「話す・聞く」場面での困難はありませんから、普通に生活して仕事に出かけている自分を見て、わからなかったとしても、不思議ではありません。
自分がディスレクシアだと知ったのは、本当に偶然でした。平成16年の夏、久里浜の研究所に長期研修に行っていた妻が帰ってきて、山のように仕入れてきた本を部屋に積んでいたんです。そこに、品川裕香さんの「怠けてなんかない!」がありました。「怠けてなんかない!」白い表紙に赤い文字、!マークで強調されたその言葉は、自分の慟哭と重なりました。
いったい、どれだけ「怠けてる!」と責められてきたことか。必死でがんばっても、みんなが簡単にできることができない。「こんなに簡単なこともできないなんて、怠けているに違いない」と言われても、できて当たり前のことだと責められても、「怠けてなんかない!」心からそう叫びたかった。でも、「怠けてないのにこんなこともできないの?」とさらに見下されるのが怖くて、結局「怠けてなんかない!」と口に出せたことはないんです。ずっとずっと、何度も何度も湧き上がってきて、でも飲み込むしかなかった言葉が「怠けてなんかない!」でした。
だからそのタイトルを見た時、思わず「俺のことみたいだなあ」と思いながら、手に取りました。するとそこには、「ディスレクシア~読む書く記憶するのが困難なLDの子どもたち」と書いてありました。血の気が一気に引くのを感じました。気がついたらかじりつくように読んでいました。この本は当事者にも読めるようにと、行間が開いていたり、ルビがうってあったりといった配慮がなされています。だから読めたんでしょうが、そのことにも気づかないくらい、自分でも驚くほど一気に読みました
読みながら、涙がとまらなくなっていきます。「これは、俺だ」「俺のことだ」と、頭が真っ白になりました。
やってもやっても覚えられない「文字」という壁の前で、のたうちまわっている人たちがいました。その納得できない思いや悔しさは、まさしく自分のこれまでと重なります。突然本を読み始め、そしてぽろぽろ涙を流すオレを見て、妻は動揺していました。「どうしたの?」と問う彼女に、「これ、俺のことや。俺のことやねん」とくり返していたと思います。
ずっと不可解だった95点のテスト。誰でもできるはずの簡単なことができないのに、複雑な図面を理解して正しく再現できる力はあるという現実。自分でもわからなかった「ジブンノカタチ」が、やっと見えた気がしました。そこからはインターネットで「ディスレクシア」「LD」について検索をかけまくり、片っ端から読んでいきました。難しい専門用語もありましたが、そこに書かれている姿は、どれも身に覚えのあるものばかりでした。「やっぱりそうだ」「俺のことだ」繰り返し繰り返し、確認せずにはいられませんでした。
「俺はアホやなかったんだ」「だからあんなに苦労したんだ」そこに納得はできました。でも、受け入れられない。これまでにあきらめてきたことが多すぎて、これまでに受けた傷が大きすぎて、せっかく知った謎の答えなのに、呑み込めずにいました。
きちんとプログラムのある国で教育が受けられていたら、あんなにつらい学生時代をすごさなくてよかったんじゃないか。「もしも・・」「もしも・・・」がとめどなくわいてきて、もうとっくにあきらめたはずの思いや押し込めていた口惜しさが噴出していきました。
何度も「知らない方がよかった」と思いました。知らなければ、こんなに悔しい思いをしなくて済んだかもしれないと。
もちろん、知ってよかったと、今は心から思えます。でもあの夏の苦しさは、今も痛みとして残っています。それだけ大きな衝撃でした。
井上智、井上賞子
ブログ「成人ディスレクシア toraの独り言」
(ブログはこちら>>)
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──■連載:Children First(子ども達を中心に考えてみよう!)(最終回)
~判断に困った時や行き詰った時には原点回帰~
第5回 将来の学校現場 どんなICT環境になっているんでしょうか?
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最終回は、将来の教育現場について想像してみましょう。
共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システムという言い方が広く言われるようになって数年が経ちます。インクルーシブ教育とは、「人間の多様性の尊重等の強化、障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ、自由な社会に効果的に参加することを可能とするとの目的の下、障害のある者と障害のない者が共に学ぶ仕組みであり、障害のある者が「general education system」(署名時仮訳:教育制度一般)から排除されないこと、自己の生活する地域において初等中等教育の機会が与えられること、個人に必要な「合理的配慮」が提供される等が必要とされている。」というように定義されています。※1
※1「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告) 概要」(詳細はこちら>>)
合理的配慮の方策の1つとしてICTの活用は大きな可能性を秘めていますが、この分野はDog Year※2とも呼ばれる程、進化の早い分野です。
※2 IT業界の技術進化の早さを、犬の成長が人と比べて速いことに例えた俗語である。1990代後半頃から用いられていた。
犬の1年は、人間の7年に相当すると言われている。例えば、今までなら1年かかった技術の進歩が2ヶ月もあれば可能になっているようなことがIT業界では珍しくなく、犬の成長が速いことになぞらえられている。あるいは単に時間の流れが速いことを意味する場合もある。出典:IT用語辞典Binary (詳細はこちら>>)
数年後の教育現場ではどのようになっているのか想像してみましょう。
まず、デバイス(ハードウェア)はどのようになっているのでしょうか?
1.IoT(Internet of Things)
あらゆる物がインターネットで接続できる仕組み
IoTの社会では、GPSなどと連動することで物をすぐに無くしてしまう子どもたちでもスマホやタブレットで直ぐに場所の確認が出来るようになるでしょう。また、家の鍵をかけ忘れた場合でも遠隔操作でロックすることが可能になります。
物忘れが多い子どもたちや、不安症の子どもたちには不安を取り除くことが簡単に出来るようになります。
2.入力システム キーボード⇒音声⇒視線操作⇒脳波操作
パソコンの入力装置といえばキーボードが当たり前でしたが、現在でも入力の苦手な人が音声入力・操作や視線操作でICT機器をコントロールできる時代になってきています。数年度には脳波でパソコンを操作出来る時代が実現しているかもしれません。
人と違う仕組みで自分だけが学習することに抵抗感を持つ子どもたちには便利かもしれませんね。
3.音声読上システム
現在でも、パソコンの文字であれば簡単に音声読上が可能となっています。また、イントネーションや読み方なども日進月歩で改善されています。
紙の文書をOCR処理することで読み上げも可能ですが、手書き文字を文字認識して読み上げることはかなり難しいのが現状です。
しかし、数年度には手書き文字でさえOCR処理をして音声読上をすることが可能になっているかもしれません。板書を書き写す・読み上げることが難しい子どもたちにとっては写真を撮るだけでなく更に理解が深まることでしょう。
4.ディスプレー装置 ブラウン管⇒液晶⇒VR⇒ホログラム
現在は、液晶技術を使ったパソコンやタブレット・スマートフォンで情報を見ることが当たり前ですが、本年度くらいからVR(バーチャルリアリティ ゴーグル型のディスプレー)が様々な分野で注目されています。
数年後には、スターウォーズのようなホログラム※3も現実化しているかもしれません。
そうすると、デイジー教科書などもVRで他人には気づかれることなく授業で見ることができ、骨伝導による仕組みでヘッドホンやイヤホンをつけることなく音声読上を聞くことができるかもしれません。
このようなウェアラブル端末(特にメガネ型)は自分だけ別の方法で学習をしていることが気になる子どもたちには、ごく自然な仕組みで支援することが可能となります。
※3 ホログラフィーを応用し、特殊なフィルムやプラスチック板の上にレーザービームを使って立体画像をプリントしたもの。光線をあてると、立体画像が再現される。 出典:大辞林第3版 (詳細はこちら>>)
5.無線回線の更なる高速化
遠隔授業や不登校の子どもたちが今以上に、遠隔での授業参加が可能になります。
6.BYOD
Bring Your Own Device (自分のデバイスを持ち込む)の略で、従業員が私物の端末を企業内に持ち込んで業務に活用することを指す)※4 が当たり前になっているかも・・
メガネや補聴器のように、個人個人の困りや解決策は違います。そう考えるとICT機器も個人にあった機器やソフトを個人が用意して、学校で使用することが望ましいと思います。何よりも学校と自宅同じ支援策で学習が出来るのですから・・
※4 出典:大塚商会ホームページ (詳細はこちら>>)
次に、アクティブラーニング(主体的、対話的で深い学び)と言われて数年が経つ学校現場はどうなっているのでしょうか? 想像してみましょう。
1.一人一台のタブレット&電子教科書&ノート
文科省がこのような方策を打ち出して数年が経ちますが、一人一台のタブレット端末の配備や電子教科書なども、おそらく将来は実現していることでしょう。しかし、そのような事が本当に子どもたち全員の学力を上げることになるのでしょうか? デジタル機器の操作が苦手な人は今と逆にマイノリティとなり、アナログ的な合理的配慮が求められる時代が来るのかもしれません。
2.少子高齢化・一極集中
地域格差は今以上に広がり、僻地での統廃合は避けられない状況が今も続いています。高速回線やVR・ホログラム等を利用したリアリティのある遠隔授業が本格的に始まっているかもしれませんね。
3.電子黒板⇒投影画面をタッチ操作
黒板に画像を投影して、タッチ操作により拡大、ページめくりなどタブレット端末と同じ操作が可能になっているかもしれません。
(このような仕組みは現在でも幾つかの方法で既に可能となっています)
4.校務の効率化・自動化
一人一台のタブレット端末や、手書き文字のOCR処理などが実現すれば、テストの採点や集計などはプログラムで自動処理が可能になっているかもしれません。そうすると子どもたちの間違えるパターンや傾向等を簡単に分析することが可能になります。
このような教育現場の実現が、子どもたちの多様性を認めながらも、人的資源ばかりに頼っている現状を解決できる大きな可能性なのではないでしょうか?
すべての子どもたちが学ぶことが楽しい!、学校って楽しい!
と言ってくれる社会になるためにも、私なりに出来ることを日々実行していこうと思います。
5回という短い連載でしたが、お付き合いいただきました事を感謝いたします。
高松崇
(NPO法人支援機器普及促進協会理事長)
──■ あとがき
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明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いいたします。
以前ご紹介した、厚労省後援 障害者自立支援機器シーズ・ニーズマッチング交流会が1月に福岡、2月に東京で開催されます。展示の他に、2月20日(火)と21日(水)は無料の発達支援セミナーを東京・九段で開催します。ご興味のある方はご参加ください。
マッチング交流会 (詳細はこちら>>)
発達支援セミナー 2月20日 (詳細はこちら>>)
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※2回のセミナーは同じ内容です。
次回メルマガ配信は、1月26日(金)を予定しています。
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2018.01.12
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