発達障害の感覚の問題:当事者からの証言(最終回)

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2017.12.22

発達障害の感覚の問題:当事者からの証言(最終回)

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■ 連載:発達障害の感覚の問題:当事者からの証言(最終回)
■ 連載:性とお金と親亡きあと:性のこと
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──■連載:発達障害の感覚の問題:感覚処理のアセスメント
第6回 当事者からの証言(最終回)
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〇はじめに
自閉スペクトラム症(ASD)の感覚の問題については、多くの専門家が注目し、研究を進めています。しかしながら、未だにASD児者の感覚の問題について明らかにされていない部分が多くあります。専門家であってもASD者に、感覚の問題に関する悩みを聞くとびっくりするようなことがたくさんあります。支援者・研究者は感覚の問題の理解と支援を考える際に、常にASD者からの証言に耳を傾ける必要があるでしょう。

そこで今回は、ASD者が本などで語った例から、感覚の問題について考えてみたいと思います。

1)感覚過敏の問題

ASD当事者であるドナ・ウイリアムズさん(1993)は、「なにしろ、私は人に近付かれることと触られることが徹底的に嫌いなのだ。決して悲鳴を上げることはなかったが、人に触れられそうになっただけで、私は猛烈な勢いで逃げ出した」、「触られると自分の体の中から精神がすっと抜け出していってしまうかのようだ」など触覚刺激に対する特有の体験を述べています。

同じくASD当事者のテンプル・グランディンさん(1994)も、「その霧笛が鳴ると、私の頭はくらくらして拷問にかけられているようであった」、「例えば誕生パーティー、私にとっては拷問にも等しかった。ノイズ・メーカーが突然ポンポンなって醸し出す混乱が、私を心臓が飛び上がるほどびっくりさせた」など感覚刺激に対する苦悩の体験を述懐しています。

10歳のASD児ケネス・ホール君(2001)の著書にも、「絶対に嫌なのは、掃除機とミキサー、それとたくさんのしゃべり声」、「僕は髪の毛に敏感、おでこに髪の毛がかかるのは大嫌い」、「変な舌触りのものは食べたくない」など、彼の感覚過敏の特性が表現されています。

小道モコさん(2009)は服のタグを切っても残りの部分が当たって体調を崩すことや、寝ている間に服の縫い目が体の下に来ていると次の日に調子が悪くなることを説明しています。

このようにASDの人の記述を読むと、感覚過敏による日々の生活の中での不快体験についての訴えが多いことに気付かされます。

2)感覚刺激に対する反応の弱さ

ASD児者には、呼びかけても反応しない人や怪我をしても痛がらない人など、感覚刺激に対する反応が見られにくい人がいます。これについてはテンプル・グランディンさん(1994)の次の説明が解明するためのヒントとなるかもしれません。

「コインや蓋が回転する動きに夢中になっている時は、他には何も見えず、何も聞こえませんでした。周りの人たちも目に入りません。どんな音がしても見つめ続け、耳が聞こえない人になったかのようでした。突然大きな音がしても、驚いて我に返るという事はありませんでした」。いわゆるシングルフォーカスの状態になるとフォーカスが当たっていない他の刺激に対する気づきが起こりにくいと言えるのかもしれません。

3)感覚刺激の取捨選択の問題

カクテルパーティー効果と言われるように、騒々しい場面で話をするときにも相手の発する言語(聴覚言語情報)に注意を向けてそれだけを選択的に取り込み、それ以外の音を無視して相手の話のみを聞き取ることは定型発達者には容易にできることでしょう。しかし、ASD者の中にはこれが難しい人がいるようです。

ASD当事者の綾屋紗月さん(2008)は、次のように書かれています(2008)。『私はまず、「おなかがすいた」という感覚が分かりにくい。なぜなら、身体が私に訴える感覚は当然、この他にも常にたくさんあるわけで、「正座のしすぎで足がしびれている」、「さっき蚊に刺された場所がかゆい」、「鼻水がとまらない」など空腹感とは関係のないあまたの身体感覚も、私には等価に届けられているからである』。

一方、ASD当事者リアン・ホリデー・ウィリーさん(2007)は「私の意識はあまりにも多くのものを拾いすぎる、会う人全員の身体のすみずみまでが、それに背景のすみずみまでが同時に目に入ってしまう」と記述されています。このような感覚の洪水状態に混乱させられているASD児者がいることを常に思い出す必要があるでしょう。

〇おわりに
Elwinら(2012)はASD者の信頼性のある自叙伝全てに、感覚の問題が記述されていることを報告しています。それだけ、ASD児者の多くに感覚の問題が見られるし、深刻ということでしょう。しかしながら、専門家がASD児者の感覚の問題の深刻さを理解していないこともあるでしょう。

ASD者のテンプル・グランディンさん(2014)は「自閉症研究者は、当事者にとってもっとも被害が大きい問題を解決したがるが、感覚過敏がどんなに大きな被害を与えているのかまったくわかっていないようだ」と述べています。専門家は、もっとASD児者の感覚の問題に関する説明に関心を持つべきだと思います。

〇文献
1.綾屋紗月、熊谷晋一郎:発達障害当事者研究.医学書院.2008

2.Donna Williams著(河野万里子訳):自閉症だったわたしへ.新潮社.1993
Elwin M, EL, Schroder A, et al.: Autobiographical accounts of sensing in Asperger syndrome and high-functioning autism. Arch Psychiatr Nurs. 26: 420-429. 2012

3.Kenneth Hall著(野坂悦子訳):ぼくのアスペルガー症候群.東京書籍.2001

4.LH Willey著(ニキリンコ訳):私と娘、家族の中のアスペルガー.明石書店2007

5.小道モコ: あたし研究. クリエイツかもがわ. 2009

6.Temple Grandin著(カニングハム久子訳):我、自閉症に生まれて,学研.1994

7.Temple Grandin著(中尾ゆかり訳):自閉症の脳を読み解く.NHK出版.2014

岩永竜一郎(長崎大学 生命医科学域)

 

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──■連載:性とお金と親亡きあと -タブー視されがちな領域の支援
第2回 性のこと
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「あなたがタブー視される性やお金のことに挑戦しなさい!」

この言葉を、信楽通勤寮の寮長で近畿通勤寮部会部会長をされていた副島忠義先生からいただいたとき、私の心の中に戦慄が走ったことを今でも鮮明に思い出します。

当時の通勤寮は、性や金銭トラブルに関する問題が発生して大変だったのです。なので、数ある通勤寮の中でいち早く性教育の取り組みをされていた副島先生に部会でお会いしたとき相談したところ、返ってきた言葉がそれでした。正直、私は手っ取り早く解決方法を知りたかっただけで、火中の栗を拾いに行けと言われるとは思っていなかったので、「えっ!! 私がするのですか?」と内心思ってしまったのです。

そんな私の心を見抜いてか、副島先生は「性は問題ばかりをクローズアップされるが、性は本来そこにあるもの。性に関する基本的な情報を伝えることで無用な心配をしなくてもすむのです。」と、付け加えられました。基本的な情報を伝えることで無用な心配をしなくてもすむ・・・。それならできるかもしれない。という気持ちになり始めたのがきっかけでした。

ただ、基本的な情報を伝えるということはそうたやすいことではありませんでした。
「人は生を受けて、生きていきていく中で、男女の違いや価値観の違い、性欲やセックス、それに関連する、マナーや思いやり、性の被害と加害、病気、たばこやドラッグ、死生観まで」多岐にわたり取り組まなければならないのです。

当時(平成10年頃)は、障がいのある人向けの性教育の書籍はほとんどなかったのですが、唯一、アーニー出版社から、障がい者の性について本やビデオが出版されていました。東京にあるアーニー出版社まで足を運び、私たち支援者がまず関連情報を学びました。そして、目の前にいる人達に試行錯誤しながら始めたプログラムは次の通りです。

〇性教育のプログラム

1.体を知る
・性器は臓器の一部としてとらえる
・プライベートゾーンを確認する(気軽に触らない触らせない)
・からだのしくみ、男女の生理のちがい
・赤ちゃんができるまで
・清潔にする
・病気やエイズの危険
・命が終わるということ

2.心と向き合う
・じぶんのからだ(こころ)は少し人と違うと感じる人
・マナーと思いやり
・どこからが性犯罪?
・アダルトビデオのうそ
・赤ちゃんを産むことの責任

3.実践
・二人でよくはなしあうことの大切さ
・コンドームの使い方
・支援者への相談の仕方

このプログラムを10回に分けてやりましたが、途中で支援者だけでは手に負えない内容もでてきました。そこで、協力してもらったのが、産婦人科や泌尿器科のドクターです。

からだや病気、その手立てについて、ドクターが話してくれるので知識を習得するうえで効果は高いものでした。また、別の回では警察署にも協力してもらい、性犯罪のことや被害にあったときの対処について教えてもらいました。

被害にあったときにやってしまいがちなことですが、被害者に「シャワーを浴びさせたり、気持ちを落ち着かせるために飲み物を与えたりすることは証拠がなくなるのでやらないように!そのままの状態で警察に来てほしい。」と支援者ではやりがち!でも、やってはいけないアドバイスをいくつもいただきました。

〇事例紹介:作話する女性の支援

ある20代の女性利用者のことですが、彼女は「私は芸能人と付き合っている」とか、「会社の上司がラブホテルに入るところを見た!」などいろんな噂を広めて、周りを混乱させていました。

その彼女から「職場の主任に胸を触られた」という相談がありました。私は、一瞬、彼女がまた気を引くために作り話をしているのではないかと疑ってしまったのです。ですが、この時は相談してきた彼女が嘘を言っているように思えなかったので、彼女の希望もあり人事課のAさんに相談することにしました。

人事課のAさんも「主任はそんなことをする人ではないと思いますが・・・」と言われましたが、主任に事情を聞いたところ、その主任は胸を触ったことをあっさり認めたのです。

そのときに、「支援者は性教育を理解し、他人の性に対して否定的にならないこと。管理的な支援操作をしないこと。」という支援の向き合い方についての注意事項を思い出しました。頭では理解していましたが、この事例は本当にその意味を教えてくれました。本人の気持ちに立って考える支援とはそういうことだったのです。

支援者が性の問題を「厄介なこと」と思い、支援操作をして解決したように見えても、本人が納得していない(自己決定していない)ことは、必ず繰り返し起こります。

性の支援は、本人を受け止め認めることが基本です。その上で周りと調和しながら生きやすくするために、良い情報やリスク(損害を受ける危険)について丁寧に話し合うことが重要なのです。また、自分で決めたことは、責任がかかることをきちんと丁寧に教えながら、社会資源でなにがどこまで利用できるのか明確にしておきます。そのことで、安心した暮らしに繋がるからです。

先ほどの事例の続きですが、女性の胸を触っていた主任はその後すぐに依願退職されました。その女性は結婚し、今は二人の男の子の母として家族のために毎日奮闘しています。

鹿野佐代子 (福祉系ファイナンシャル・プランナー)
(プロフィール等はこちら>>

 

──■あとがき
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次回メルマガは、年明けの1月12日(金)です。

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来年には、メルマガバックナンバー・ページにインデックス機能をつけ、読者の皆様が知りたいことを見つけやすくできるようにする予定です。ご期待ください。

では、皆様、よいお年をお迎えください。

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