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■ 連載:社会に飛び出して ~ 読み書きはどこまでもついてくる
■ 連載:良いところを伸ばす 参入障壁を障害特性から築く!
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──■ 連載:成人ディスレクシアの独り言
第8回 社会に飛び出して ~ 読み書きはどこまでもついてくる
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高校を飛び出したことに寂しさはありました。でも、それ以上に大きな安堵もあったんです。「これでもう、読み・書きで笑われない」やっと、あの苦しさから解放される。そう思いました。
でも、それは大きな間違いでした。読み・書きはどこまでもついてきたのです。
最初から、事務系の仕事なんて無理だとわかっていましたので、望んだことはありません。手先の器用さとよく動く体、人当りには自信があったので、とにかく体を使う仕事で動き回るものであれば、十分やっていけると思っていました。実際、子どものころからビンひろいに新聞配達にテキヤの手伝いにと、あちこちでくるくると働いてきて、どこででも「よく働く」「助かる」と評価されてかわいがられてきました。「俺は勉強はダメだけど、働くことならできるんだ」という自信もありました。しかし、生きていくための仕事として「働く」となると、そう簡単にはいきませんでした。
まず、履歴書が書けません。親元も飛び出しています。当時まだ15歳でしたが、住むところも自分で確保しなくてはなりません。年齢をいつわる必要があるので、ハローワークにも行けません。求人のチラシも、読めないところがいっぱいです。
なんとか「住み込み」と書かれている求人を見つけ、間違いだらけの字でうその経歴を書いた履歴書を握りしめて、船場の居酒屋の面接に行きました。おそらく、そんな浅はかな嘘はばれていたのでしょう。それでも、社長はこちらの事情を察してか、雇ってくれました。
閉店後の宴会場で寝泊まりしながら働く日々が始まりました。開店準備をしていると、自分と同じ年頃の高校生たちが、楽しそうに制服で通り過ぎていきます。きらきらしたその姿に、自分の状況が辛くなることもありました。でも、読み書きできない自分は、あそこに居場所がないことは思い知っていましたので、望んではいけないと、自分に言い聞かせていました。
正直、仕事そのものは、苦ではありませんでした。掃除も皿洗いも、下ごしらえも。接客も、愛想がいいので喜ばれ、すぐになじむことができました。でも、ここでも読み書きは必要でした。「注文のメモが取れない→必死で聞いて覚える」はできても、お客さんから「これ」と指さされると、難しい漢字の並ぶメニューは、やはり読めません。かといって、忙しくて殺気立った厨房に、「これだそうです」とメニューを示すわけにもいきません。あのときは、脂汗が出ました。とっさに知っている違うメニューを「・・ですね」と言うと「違うよ・・だよ」とお客さんが言ってくれました。「あっ、すみません、違うとこ見てましたね」とかわして、なんとか綱渡りのように注文をとりました。
今思えば、「何とかして音にする」ことに必死だったんでしょう。音にさえなっていれば、かなりたくさんの情報でも、正確に覚えて伝えることもできました。
書くことも日常的に求められます。最初の難関は、領収書でした。「宛名はワタナベで。部屋の部の方ね」と言われても、全く浮かびません。さっと書きたくても、それができません。メモとペンを持ち歩き、「宛名、間違うといけませんので、こちらに書いていただけますか」という方法を思いつき、これもなんとかしのぎました。
読む・書く場面以外の仕事は、どんどん覚えて、どんどんできるようになっていきました。上の人に認められ、お客さんにかわいがられ、そうなってくると、面白くない同僚たちも出てくるんですよね。陰湿ないじめが始まりました。
今でも、そいつらより仕事ができた自信はあります。でも、自分は読み書きができない。必死で隠していましたが、毎日いっしょに働いていれば、どうしてもばれてしまいます。いじめはいつもそこをついてきました。人前で何か書かせようとしたり読ませようとしたり、できなくて困っている姿を「あっ、お前これも読めないの?」と笑いものにされる。かばってくれる先輩もいましたが、見下した笑い声は、教室で立ち尽くしていたころの苦しさをフラッシュバックさせます。何より「読み書きができない」とわかった瞬間に、今までがんばってきたことが0になり、「どうしようもなくダメなやつ」として見られてしまう現実に、自分はとても耐えられませんでした。
お世話になった人たち、楽しくなってきた仕事、全てを放り出して、逃げました。
そこから、どんな仕事についても、同じことが繰り返されます。仕事はすぐにできるようになるのに、読み書きができないことで評価を失い、いじめられ、飛び出す。いったい、何度このつらいループを繰り返したでしょう。
中学のころのように、暴れて黙らせることもできません。だって、お金を稼がなければ生きていけないから。
逃げ出すたびに、読み・書きをしなくていい仕事を探しました。でも、「ここなら大丈夫だろう」と思っても、読み書きのない仕事なんて、ありませんでした。読んだり書いたりすることは、すべての前提なんだと、思い知らされました。もちろん、学校時代のように、ずっとそれを求められるわけではありません。多くの場面では、自分の力を発揮して活躍できるものがたくさんありました。でも、99評価されていても、たった1つ「読めない・書けない」があるだけで、全ての評価は吹っ飛んでしまうんです。「当たり前すぎて、できないことはありえない」それが読み書きでした。
学校を飛び出して、解放されたはずなのに、読み書きはどこまでもついてきました。
「誰にでも得意なことや不得意なことはあるよ」という人がいます。その通りです。自分にとって、それが「読み書き」だっただけ。でも、鉄棒ができなくてもできる仕事はたくさんあります。泳げなくても、料理が苦手でも、足が遅くても。でも、読み書きは違うんです
どんな仕事にもついてくる。「自分にも苦手なことがあるから同じだよ」と言われても、「同じじゃない」と叫びたくなる・・・。
日本の識字率は、99%といわれています。特別な事情のケース以外は、「誰もが読み書きできる」社会。時々、自分は99%の側なのか、1%の側なのかと、自問してしまいます。全く読めないわけでも、全く書けないわけでもありません。でも、学校で学んでいくことにも、社会で働いていくことにも、大きな困難があります。
ウィキペディアによると「識字は日本では読み書きとも呼ばれる。読むとは文字に書かれた言語の一字一字を正しく発音して理解できる(読解する)ことを指し、書くとは文字を言語に合わせて正しく記す(筆記する)ことを指す。この識字能力は、現代社会では最も基本的な教養のひとつで、初等教育で教えられる。生活のさまざまな場面で基本的に必要になる能力であり、また企業などで正式に働くためには必須である。」となっています。
読めないわけでも書けないわけでもないけれど、やっぱり自分は「識字率99%」の外にいる存在なんでしょう。社会に出てからのたくさんの失敗は、「働くための必須である力」のなさを証明しているかのようでした。
井上智、井上賞子
ブログ「成人ディスレクシア toraの独り言」
(ブログはこちら>>)
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──■ 連載:Children First(子ども達を中心に考えてみよう!)
~判断に困った時や行き詰った時には原点回帰~
第2回 良いところを伸ばす 参入障壁を障害特性から築く!
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第1回では十数年後の高度なICT社会に向けて、今の子ども達に求められている力を考え直す重要性についてお話しました。第2回では、困りのある子ども達が大人になって社会で活躍するための私の想いを書いてみたいと思います。
文部科学省が発表している「教職員等の指導体制の在り方に関する懇談会 提言」の中にも、“今の子供たちの65%は、大学卒業時に、今は存在していない職業に就く”“今後10~20年で、雇用者の約47%の仕事が自動化される” ※1 というような話がのっており、巷でもそのような話が聞かれるようになりました。
※1 教職員等の指導体制の在り方に関する懇談会 提言 平成27年8月26日
(PDFはこちら>>)
障害の有無に関わらず、多くの労働が機械化され無人化されていきます。GPS付きのトラクタなどが出来ると、農業でさえパソコンと遠隔カメラの操作がメインの仕事で、第一次産業・第二次産業なんていう産業構造自体が既に意味を成さなくなってくるかもしれません。
そのような時代にむけて、一般的な社会構造や仕組みに対応することが困難な子ども達が、出来ない部分や苦手は部分をこれまでのように訓練で追いつく努力をしていても、将来労働力として成立するのでしょうか? また、今以上に少子高齢化が進んでいく日本で、障害者への福祉制度を利用した就労は益々厳しいものになっていくものと思います。
経済社会では、企業の生き残りや永続性を考える時のキーワードの一つに「参入障壁」※2 という言葉が使われます。「差別化」などもよく使われますよね。
「参入障壁」とは少し難しいですが、『ある業界に新規参入しようとする会社にとって、参入を妨げる障害のこと。具体的な参入阻止要因としては、(1)既存企業が備える優位性(規模の経済性、ブランド力、技術力、スイッチング・コストの高さなど)(2)法規制などが挙げられる。一方、既存企業にとっては参入障壁の高さが、新規参入の脅威を測る指標となる。新規の参入があれば一般的に市場の競争度合いが増し、業界の収益性が低下するため、既存企業には意識的に参入障壁を築こうとするインセンティブが働くためである。 』とあります。
※2 参入障壁 グロービズ経営大学院 MBA用語集 (詳細はこちら>>)
子ども達の困りや苦手な事をリフレーミングすれば、一般の人達が訓練や練習をしても身につける事の難しい長所や特技になり、それが多くの一般的な人達の参入障壁を築きます。
また、自分たちと同じ障害の分野で就労できれば、当事者でなければ出来ない分野が気づかれ、やはり一般の人達との差別化がこれ以上に苦労しなくても成立するかもしれません。
追いつこうとするから苦労をし、挫折感を感じてしまいます。
追いつけない分野で勝負をしてみる発想を支援者の方々が持つ必要があると思います。
このことは、「この子らに世の光を」ではなく「この子らを世の光に」と言われた糸賀一雄先生の言葉とも共通している様な気がします。
それでは、具体的な例をご紹介してみましょう。
1.オーストラリアにすむダウン症の女性
エマ・ライナムさんは、ダウン症と軽度の自閉症・難聴などを持っておられます。
彼女は、読み書きが出来ないのですが、学校の就労プログラムでシュレッダーに出会いました。どんな機密文書を見せても心配のないことを強みとして他者の参入書癖を築き、企業就労がかないました。就労先の人事担当によると、彼女は熱意もあり「完璧な人材」だとのこと。
※『読み書きのできないダウン症の女性。ハンデを武器に「天職」で大活躍』 Whats (詳細はこちら>>)
2. ドイツのソフトウエアメーカー、SAP
同社は自閉症の人々を積極的に採用しようとしている。それは慈善的な社会奉仕が目的ではない。同社は自閉症の人はそうでない人より特定の職に適している場合もあると考えているのだ。
ベラスコ氏によれば、自閉症スペクトラム障害(社会的スキルの欠如や反復的な行動を特徴とする)のある人々は、詳細なことに注意を払う傾向があるため、ソフトウエアの試験を行うテスターや、バグの発見や修正を行うデバッガーに向いている場合があるという。
※『自閉症者を積極採用―独SAPや米フレディマックの取り組み』The Wall Street Journal (詳細はこちら>>)
3. Appleの「アクセシビリティ」に取り組む、盲目の若き女性エンジニア
ジョディン・キャスターさんは17歳の誕生日にiPadをプレゼントされ、「VoiceOver」をはじめ、障がいを持つ人にも使いやすくデザインされた製品に感銘を受けました。コンピュータやプログラミングに強い関心を持った彼女は、ミシガン州立大学に進学します。
インターンシップ期間が終わる頃には、ジョディンのエンジニアとしての能力は目覚ましいものとなっており、彼女はフルタイムのエンジニアとして雇用されます。同僚たちは彼女の仕事ぶりを「情熱的」「献身的」と称えています。
Appleが発表した、子どもが楽しみながらプログラミングを学べる「Swift Playgrounds」へのVoiceOverの実装にあたっては、ジョディンさんの意見を尊重しながら開発が進められました。
※『Appleの「アクセシビリティ」に取り組む、盲目の若き女性エンジニア』iPhone Mania (詳細はこちら>>)
どの取組もそれぞれの障害特性を本当に良く活かした事例であると思います。
”この子でも出来る! から この子だから出来る! ”
への支援者達の意識改革が今必要であると思います。
京都でも私が行っているNPO法人の活動の中で自閉症の方の特性を活かした就労(常勤、アルバイト)を数例ですが実現できました。
そのような障害特性や、様々な困りを補完するために知らず知らずに身につけた能力に目を向けて、それらを活かす職を見つける(無ければ創造する)ことが、将来の更なる機械化の流れを乗り越える大きなポイントになるのではないでしょうか。
我が子に障害児が生まれたことで、彼らは選ばれた人達だということが実感できました。
彼らは生まれてからこれまでに一般的な人達以上に充分苦労をしてきています。これ以上訓練をしなければ自立できないんでしょうか?
支援者(保護者、教員、施設従事者など)にとって、もっとやるべき事が有るような気がしてなりません。
高松崇(NPO法人支援機器普及促進協会理事長)
──■ あとがき
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季節外れの大型台風が来ました。読者の皆様には大禍なかったことをお祈り申し上げます。
次回メルマガは、11月10日(金)を予定しています。
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