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■ まえがき
■ 新連載:Children First(子ども達を中心に考えてみよう!)
■ 連載:感覚処理のアセスメント
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──■ まえがき
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今回から5回にわたって、高松崇先生に連載をお願いしました。高松先生は、特別支援教育におけるICT活用について、全国で講演を行われています。ぜひ機会があれば、読者の方にも講演を聞いて(というよりも体験して)いただきたいのですが、「面白くなければ、頭に入らない」という矜持どおり、多彩なメディアの活用と関西弁で圧倒され、役立つ知識や情報が頭と心の中に流れ込んできます。
参加できない方にも、高松先生のお話の一端でも感じていただきたいと思います。5回の構成内容は以下の通りです。ご期待ください。
第1回:40年ギャップ 将来求められている力は?
第2回:良いところを伸ばす 参入障壁を障害特性から築く!
第3回:子ども達とICT デジタルネイティブの子ども達の特性!
第4回:機能代替としてICT機器を使うためには 機器を使うことはズルくない!
第5回:将来の学校現場 どんなICT環境になっているんでしょうか?
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──■ 新連載:Children First(子ども達を中心に考えてみよう!)
~判断に困った時や行き詰った時には原点回帰~
第1回 40年ギャップ 将来求められている力は?
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昨今のICT(情報通信技術)は、本当に凄いスピードで私達の生活を大きく変化させようとしています。 ICT業界ではこのようなことを「ドッグイヤー」※1とも呼びます。
※1 ドッグイヤー 犬の1年は、人間の7年に相当すると言われている。例えば、今までなら1年かかった技術の進歩が2ヶ月もあれば可能になっているようなことがIT業界では珍しくなく、犬の成長が速いことになぞらえられている。あるいは単に時間の流れが速いことを意味する場合もある。
出典 IT用語辞典バイナリ (詳細はこちら>>)
AR(拡張現実機能)やVR(バーチャルリアリティ)などのウェアラブルデバイス※2が更に普及してくるとスマートフォンやタブレット端末でさえ、「そういえば昔、そんな機器あったなぁ? 懐かしい!」とか言う時が来るかもしれません。
GPS(全地球無線測位システム)も数十センチの誤差で位置情報をつかめるようになる日は近いです。そうなると子どもが教室を飛び出したり、スマホやリモコンが家の中で無くなったりしても、スマートフォンで簡単に確認が出来るようになるかもしれません。
※2 ウェアラブルデバイス 腕や頭部など、身体に装着して利用することが想定された端末(デバイス)の総称である。
出典 Weblio (詳細はこちら>>)
一方で教育に目を向けてみると、イギリスの教育者で世界最大手の教育サービス会社、ピアソンの主席教育顧問であるマイケル・バーバー氏は、教育における「40年ギャップ説」※3 を唱えているといいます。どういう説かと言うと、今現在の子供を育てる親は20年前に自分が受けた昔の教育の概念を無自覚のうちに判断基準にしているけれど、実は本当に必要な教育政策は、その子たちが実社会で活躍する20年先を見据えたものであると言うものです。
※3 40年ギャップ説の解説 出典 観術総合研究所ブログ
(詳細はこちら>>)
私が小学生だった40年以上前には、読む・書く・計算するは自分の力で出来なければ学習のスタートが切れませんでした。勿論、携帯電話やパソコンも無かった時代ですから、機能代替の手段がほとんどありませんでした。
現代はどうでしょうか?
55歳を過ぎた私には老眼がひどくなり、小さな文字を読むことはほとんど出来ませんが、スマホのカメラで撮影し拡大したり、音声読上機能を使って読むことで情報を入手することが比較的簡単に出来るようになっています。
カフェなどで新聞を読むのに虫眼鏡を使っていればちょっと恥ずかしいですが、スマホを使って拡大して読めば出来る男みたいでカッコイイですよね! このカッコよさも非常に大切な要因だと思います。コントラストやフォントサイズ・フォント・縦書き横書き変更等デジタルならではの機能も多くの方が安価に利用できるようになりました。
また、書くことに関しても、ICT機器でほとんどの書類を処理している私には、手書きの文字を書くことは領収書の住所と氏名を書くぐらいしかありません。スマートフォンでは音声入力を使えば、女子高生のフリック入力よりも早く入力することも可能です。音声入力を使えば、1分間に400文字近くを入力することも可能です。
記憶する事さえ、この歳では白旗をあげていますが、必要な時にはインターネットで検索をすればほとんどの事は解決してしまいます。アプリを使えば鼻歌を歌うことで曲名を検索することだって可能になっています。
計算することも、暗算や筆算で計算する事なんて日常の生活ではほとんど必要ありません。
このように今を生きている大人でさえ、読む・書く・計算する・記憶することは出来なくても困らない時代になりつつあります。
今の子どもたちが私達のように大人になって社会で生きていく時代は、まだ20年近くも先の話です。
どんな時代になっているんでしょうか? おそらく誰にも分かりません。
スターウォーズやトランスフォーマー・ガンダムの時代が現実のものとなっているかもしれません。自動運転の車やホログラム(3D立体)電話、ロボットスーツなどは多くの人が利用しているような時代になっていることでしょう。
そんな時代に生きていく為の力って何なのでしょうか? 改めて考える時に来ていると思います。
次回は、そんな時代を生きていく為に機械化できない強みについて、書いてみたいと思います。
高松崇(NPO法人支援機器普及促進協会理事長)
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──■ 連載:発達障害の感覚の問題:感覚処理のアセスメント
第4回 感覚の問題への対応
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〇はじめに
発達障害児に見られる感覚の問題への対応は非常に重要です。感覚の問題への対応は、訓練室などでの改善を試みる方法と日常生活の中での配慮などがあります。本稿で、それぞれについて紹介します。
1.訓練室における感覚の問題への対応
(1) 感覚刺激への過反応が見られる子どもへの指導
過反応が見られる子どもには、その軽減を目指したアプローチを行うこともあります。例えば、触覚過敏のある子どもに対し、接触を受け入れられる部分から少しずつマッサージを行いスモールステップで刺激を増やして行くことがあります。このような方法によって、触覚過敏が目立っていた子どもが他者からの接触を受け入れられるようになることがあります。
揺れ刺激への過反応を示す子どもにスモールステップで揺れのパターンや大きさを徐々に増やすようにして改善を図ることがあります。
ただし、感覚過敏の全てが訓練によって改善するわけではないことに留意すべきです。聴覚過敏、視覚過敏、触覚過敏などの中には訓練しても改善が見られないものもあるため、無理な指導は禁物です。
(2) 感覚探求行動が見られる子どもへの指導
発達障害児の中には、激しくジャンプしたり、ブランコで揺れたりする遊びを過度に行う子どもがいます。そのような子どもにはスイングやトランポリンなどで子どもが求めている感覚刺激が得られるような場面を設定し、子どもの情動や行動の安定を図ることがあります。
2.日常生活における感覚の問題への対応
次に日常生活の中での感覚の問題への支援方法について述べます。
(1) 周囲の人に正しく理解しもらうこと
感覚の問題は周囲の人に気付かれないことが多く、間違った対応も起こりやすいです。そこで、まず周囲の人に感覚の問題を理解してもらうための取り組みが必要となります。発達障害児の感覚の問題について説明した文書や本、パンフレットなどを関わる人に見せることは効果的であることが多くあります。例えば、アスペエルデの会から刊行されている冊子「このイヤな感覚どうしたらいいの?(※写真1)」は感覚の問題を絵を用いて説明しているため、感覚の問題を知らない人にもわかりやすいと思います。
※写真1.感覚過敏への対応について書かれた冊子 (画像はこちら>>)
(2) 感覚刺激への過反応が見られる発達障害児への支援
1)環境調整によって不快刺激を遠ざける
環境調整によって不快刺激を遠ざけたり、遮断したりする工夫も必要です。これについては感覚過敏の種別ごとに対応例を挙げます。
a.聴覚刺激への過反応への対応
・音刺激が少ない場所に教室を設ける
・運動会のピストルを旗や笛に変える
・非常ベルを聞かせないようにする
・部屋がうるさい時は外に出ることを許容する
・音を遮断できる部屋や箱を用意しておき、うるさいときにはそこに入ることを許容する
・周囲の人が話し声を調整する
・イヤーマフ(※写真2)、ノイズキャンセリングヘッドフォンなどを適用する
※写真2.イヤーマフ (画像はこちら>>)
b.視覚過敏への対応
・蛍光灯を白熱灯に替える
・色付きの眼鏡を着用させる
c.触覚過敏への対応
・不意に触らないようにする
・靴下や帽子など嫌な物は身につけないことを許容する
・服のタグを取り外す
・服の素材を綿や絹などにする
2) 情動の安定を図る
過反応が見られる発達障害児は、気分が不安定であったり、不安が強くなったりすると過反応が顕著となることがわかっています。そのため、情動を安定させる働きかけが必要となります。
例えば、感覚刺激を与える人との関係ができていないと、刺激を与えられる際の発達障害児の不安は強くなります。他者から触られる時に起こる過反応は、対人的不安によって助長されることもあります。そのため、刺激を与える人と発達障害児の対人関係を改善することも過反応の軽減のために必要なことがあります。
また、生活の中における構造化が有効な手段となることがあります。構造化によって自分が求められていることが理解できたり、見通しが持てたりして、不安が軽減すると共に感覚刺激への過反応が軽減することがあります。構造化は受け入れがたい感覚刺激を与える際にも有効な方法となることがあります。例えば、歯科治療の際に治療の流れを視覚的スケジュールによってわかりやすく示し、治療の流れがわかりやすくなると治療の際の過反応が見られにくくなる発達障害児がいます。
3) 不快な刺激から注意をそらす
発達障害児が興味ある課題に従事しているときは、不快な刺激への過反応は軽減することがあります。一方、課題が理解できなかったり、それに興味がなかったりすると周囲の不快な刺激に反応しやすくなります。学校において授業内容や課題が子どもの発達段階や興味に合っていないために発達障害児が周囲の音や身体の感覚に注意を向けてしまう場面が見られます。そのため子どもの発達段階や興味に合わせた課題を提供することも、過反応への対応の一つとなります。
そして、他の刺激に注意を向ける機会を作ることで、不快な刺激の受け入れに変化が起こることがあるため、そのような方法を導入することがあります。例えば、触覚刺激への過反応があるためにベタベタしたものを触らない子どもがいたら、クッキー作りを大人が一緒に行い、クッキー作りを子どもに見せたり、部分的に手伝ってもらったりします。するとにおいや味、クッキーの形に注意が向くようになり、クッキーの生地に触れるようになることがあります。
(3) 感覚探求行動が見られる子どもへの支援
感覚探求行動※が見られる発達障害児には、まず授業内容の調整が必要となることがあります。授業内容が子どもの学習スキルと適合しておらず集中できない場合には、体を動かすなどの感覚探究行動が目立つようになることがあります。そのため、感覚探究行動を軽減するためにも学習内容を子どもの発達レベルに合わせたり、分かりやすくする工夫をすることが必要です。
※注 感覚探求行動:感覚刺激を過剰に求める行動。詳しくは本メルマガNo.170を参照ください。
しかしながら、授業の工夫をしても感覚探究行動が改善しないこともあります。このような場合、センソリーダイエットと呼ばれる方法を用いると子どもの情動や行動が安定することがあります。センソリーダイエットでは感覚探求行動を完全に制止するのではなく、求めている感覚刺激をより社会的に受け入れられやすい形で、日常生活の中で効率的に得られるように感覚刺激が入る活動をスケジュールに組み込みます。例えば、水遊びをやめない子どもに皿洗いや風呂掃除などの水仕事をやってもらったり、授業中にうろうろしてしまう子どもに休み時間にトランポリンで飛ぶ時間を設定したりする、などの対応を行います。
社会的に望ましくない感覚探究行動を他の代替刺激を求める行動に置き換える対応を行うこともあります。例えば、他者からの圧迫刺激を好む子どもに圧迫刺激を機械的に与えるジャケット(T-ジャケット)を着用してもらったり、噛む行為が目立つ子どもに代替品の噛むグッズを使ってもらったりすることがあります。
3.おわりに
感覚の問題への対応においては、発達障害児の感覚の問題を配慮すべき身体的特性として取り扱い、特別な配慮をすることが必要だと考えます。聴覚刺激への過反応のある発達障害児に「うるさくても我慢して皆と一緒にやろう」というような画一性を重視した指導は、発達障害児の身体特性を無視した対応となることがあります。感覚の問題への対応においては、周囲の人が彼ら一人ひとりの特性に合わせた支援を柔軟な姿勢で考えることが必要と言えます。
岩永竜一郎(長崎大学 生命医科学域)
──■ あとがき
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次回メルマガは、10月27日(金)です。
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