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■ まえがき
■ 新連載:発達障害の感覚の問題
■ 連載:アメリカ便り 夏休みの過ごし方 ~教師編~
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──■ まえがき
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感覚過敏という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。発達の困りを持つ本人にとって、認知機能が低いあるいは高いことで困ることは、実際は多くありません。こだわりや多動は、本人がそういうタイプだからの行動で、そのことで困っているのは実は周りの人たちだと思います。それに対して、感覚の問題は、強く感じすぎる、感じ方が弱すぎる、等で本人が困っています。多動については、興味関心の対象が次々と出て起きる場合はよいですが、聴覚や視覚、嗅覚など感覚が原因でいらいらして発生することも多く、この場合はじっとしていられないほど困っている訳です。
感覚のことについて初めて、体系立ててお話を伺ったのが、2015年に福岡で行われた日本LD学会全国大会での岩永竜一郎先生の教育講演でした。それ以来、本メルマガで岩永先生に感覚の問題を解説していただきたいと願い続け、ついに今回、ご寄稿いただけることになりました。連載は6回を予定しています。読者の皆さんと一緒に、学んでいきたいと思います。
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──■ 新連載 発達障害の感覚の問題
第1回 自閉スペクトラム症の感覚処理障害
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1.はじめに
これから発達障害の感覚の問題について連載させていただきます。第1回は、自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)の感覚処理に関する問題についてです。
ASD児者は社会コミュニケーションの障害や限局的な興味、行動などによって特徴づけられますが、それだけでなく感覚の問題によって生活上の困難を抱えることが良く起こります。この連載を通して、多くの方にASD児者の感覚の問題への理解が進むことを願っております。
2.ASD児者の感覚の問題
これまでの研究で、ASD児の80%以上に感覚刺激に対する反応異常が見られることが報告されています(Gomes et al., 2008; Marco et al., 2011)。また、信頼性のある、ASD者の自叙伝全てに感覚の問題が記述されていること(Elwin et al., 2012)もわかっています。
ASD児の感覚の問題の中でも感覚刺激への過反応は特によく見られる問題です。Bromleyら(2004)は、自閉症児の71%に音に対する過反応、54%に接触に対する過反応が見られたと報告しています。また、Kientz & Dunn(1997)は、ASD児の68.8%に「騒々しい音で混乱すること」、68.8%に「散髪、洗顔、爪切りを嫌がること」などの過反応が見られたと報告しています。時には感覚処理の問題が、偏食の問題につながっていることもあります(Cermak et al., 2010)。
当事者の記述にも過反応のエピソードが記述されています。自閉症当事者であるテンプル・グランディン(Grandin & Scariano, 1994)は「例えば誕生パーティー、私にとっては拷問にも等しかった。ノイズ・メーカーが突然ポンポンなって醸し出す混乱が、私を心臓が飛び上がるほどびっくりさせた」など聴覚過敏によって苦しんでいたことを記述しています。同じく自閉症当事者のドナ・ウイリアムズ(Williams, 2000)も「なにしろ、私は人に近付かれることと触られることが徹底的に嫌いなのだ。決して悲鳴を上げることはなかったが、人に触れられそうになっただけで、私は猛烈な勢いで逃げ出した」等の触覚過敏のエピソードを紹介しています。
このような感覚過敏に関する当事者の報告を挙げると枚挙に暇がありません。当事者の自叙伝の中で多くの感覚過敏に関する記述があることは、彼らにとって感覚過敏が非常に深刻な問題であることを物語っていると考えられます。
以上のような感覚刺激への過反応が高頻度に見られる一方で、ASD児者には刺激に対する低反応が見られることもあります。例えば、呼ばれても振り向かないなどの問題があります。当事者の記述にも「コインや蓋が回転する動きに夢中になっている時は、他には何も見えず、何も聞こえませんでした。周りの人たちも目に入りません。どんな音がしても見つめ続け、耳が聞こえない人になったかのようでした。(Grandin & Scariano, 1994)」のように何かに集中すると他の刺激に対して低反応状態となってしまうことが書かれています。更に「(背中など)見えないもの(背中)はない(小道, 2009)」など、目に見えない身体部位の身体認識ができないことがあるという問題も当事者から報告されています。
ASD児者では感覚プロファイル(SP)※1 とVineland-?適応行動尺度(VABS-?)※2 の不適応尺度のスコアとの相関が高く、ASD児者の感覚の問題は不適応行動と関連が強いことが示唆されています(萩原ら、2012)。
※1 感覚プロファイル (詳細はこちら>>)
※2 Vineland-?(ヴァインランド2)適応行動尺度 (詳細はこちら>>)
なお、DSM-5(APA, 2013)※3 のASDの診断において新たに感覚の問題に関する項目が挙げられたため、診断場面で感覚の問題をとらえる必要性が高まっていると言えます。
※3 Wiki 精神障害の診断と統計マニュアル (wikiはこちら>>)
以上のことから、ASD児者の感覚の問題に早期に気付き、適切な対応を検討することは重要です。
2.感覚処理のパターンとASD児者が示す問題
感覚プロファイルを開発したDunnは、感覚刺激に対する反応について独自のモデルを示しています(Dunn, 2011)。ASD児者にもDunnのモデルで分類したパターンのいずれか、もしくは複数の問題が見られることがあります。Dunnのモデルでは「感覚刺激への神経学的反応閾値(刺激への反応の起こりやすさ)(閾値が高いか低いか)」と「感覚刺激に対する行動反応のタイプ(受動的か能動的か)」の2つの軸で感覚刺激への反応が4パターンに分類されています(※図1)。
※図1 4つの感覚処理パターン(Dunn)(図はこちら>>)
その4つのパターンとは「低登録」、「感覚探究」、「感覚過敏」、「感覚回避」です。「低登録」とは、感覚刺激への反応閾値が高く受動的な反応 (図1の左上)、「感覚探究」は反応閾値が高く能動的に刺激を得ようとする反応 (図1の右上)、「感覚過敏」は感覚刺激に対する反応閾値が低く受動的な反応(図1の左下)、「感覚回避」は感覚刺激に対する反応閾値が低く能動的な反応(図1の右下)です。
一方、MillerはDunnの言う「感覚過敏」と「感覚回避」をまとめ、感覚刺激への反応異常を「感覚刺激への過反応(感覚過敏・感覚回避)」、「感覚刺激への低反応」、「感覚探求」の3つのタイプに分類しています。
次にMillerの分類に基づいて、ASD児に見られる感覚処理の問題の例を示します。
(1) 感覚刺激への過反応の例
・赤ちゃんの泣き声を聞いて耳ふさぎする
・運動会のピストルの音が耐えられない
・非常ベルでパニックになる
・友達に触られると嫌がる。手をつなげない
・歯磨きをされることを嫌がる
・散髪を嫌がる
・ウール素材の服を着れない
・蛍光灯を嫌がる
・味覚過敏で偏食につながっている
(2) 感覚刺激への低反応の例
・名前を呼ばれても反応しない
・怪我をしても痛がらない
・物に身体がぶつかっても気付かない
(3) 感覚探求の例
・トランポリンでジャンプし続ける
・水遊びをやめない
・服を噛み続ける
このような感覚刺激への反応異常は、複数の感覚系にまたがって現れることが多くあります。例えば、聴覚刺激への過反応と触覚刺激への過反応が同時に現れることがあります。また一方で、散髪をしようとすると嫌がるが、怪我をしてもまったく痛がらないなど、一人の子どもに感覚刺激への過反応と低反応の両方が見られることがあります。
※文献
Bromley J, Hare DJ, Davison K et al.: Mothers supporting children with autistic spectrum disorders: social support, mental health status and satisfaction with services, Autism 8:409-423. 2004
Cermak SA, Curtin C, Bandini LG. Food selectivity and sensory sensitivity in children with autism spectrum disorders. J Am Diet Assoc 110:238?46. 2010
Dunn W: Best Practice Occupational Therapy second edition. SLACK Incorporated, NJ, 2011
Elwin M, EL, Schroder A, et al.: Autobiographical accounts of sensing in Asperger syndrome and high-functioning autism. Arch Psychiatr Nurs. 26: 420-429. 2012
Gomes E, Pedroso FS, Wagner MB: Auditory hypersensitivity in the autistic spectrum disorder. Pro Fono, 20: 279-284, 2008
Grandin T& Scariano MM著(カニングハム久子訳):我、自閉症に生まれて.学習研究社.1994
Kientz MA & Dunn W: A comparison of the performance of children with and without autism on the Sensory Profile. Am J Occup Ther, 51: 530-537, 1997
小道モコ: あたし研究. クリエイツかもがわ. 2009
萩原拓、岩永竜一郎、平島太郎、伊藤大幸、辻井正次: 感覚プロフィール日本版の標準化と信頼性、妥当性の研究,厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業(精神障害分野)「発達障害者の適応評価尺度の開発に関する研究H21-23年度,194-273. 2012
Marco EJ, Hinkley LB, Hill SS, Nagarajan SS. Sensory processing in autism: a review of neurophysiologic findings.Pediatr Res. 69: 48-54. 2011
Williams D著(河野万里子訳);自閉症だったわたしへ.新潮文庫.2000
岩永竜一郎(長崎大学 生命医科学域)
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──■ 連載:アメリカ便り 夏休みの過ごし方 ~教師編~
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子供達が夏休みに入ると、観光地や行楽地は家族連れでいっぱいではないかと思います。以前、夏休みの過ごし方というテーマでアメリカの子供達の夏休みについて執筆したことがあるのですが、今年の夏は教師はどうしているのかについて書いてみたいと思います。
まず、私の住んでいるマサチューセッツ州では、アメリカ国内でも遅めの6月下旬(20日以降)から各市ごとに夏休みに入ります。冬に吹雪の影響で休校にした日が多かった場合は、最終日を調節して例年より2、3日遅い夏休みスタートになる事もあります。9月の最初の月曜日が勤労感謝の日で3連休になるので、3連休後の火曜日までに新年度を始める市が多いです。つまり、その間の10週ほどは通常の学校はなく、教師も晴れて夏休みです。
教諭として働いている人は、月収ではなく年俸制で契約をしている人が多いので、休みの間のお給料も特に心配はいりません。普段は朝から晩まで幼い子供を預けて働いているワーキングマザー/ファザーの先生たちは、子供を保育園に預ける日数を変えたり、または夏の間は預けずに一緒に過ごすことができます。
臨時採用や非常勤講師として働いている人で、時給制や月給制で学校のない10週間はお給料が入ってこないという雇用契約の人は、夏休みの間に成績不振の子を対象に行なわれるチューター(家庭教師)を担当したり、働く親が夏休みの間に預けるサマーキャンプのスタッフとして働き、お給料を確保する人もいます。
その他、免許状保持のための講習会に精を出す先生たちも沢山います。マサチューセッツ州では基本的に5年の一度、免許状が更新されるのですが、その際には講習ポイント(professional development point/PDP)をクリアしていなければなりません。最近では2012年に改定があり、5年間で150ポイントを獲得していなければなりません。
ポイントを得るためには、教育委員会が承認している各種講習会の他、大学などの授業を受けたり、オンラインでできるものを受ける方法があります。基本的に1ポイント1時間換算で、学部レベルの授業を受けた場合は1単位15ポイント、大学院レベルの授業は1単位22.5ポイントとなっています。
(大抵の大学、大学院は1授業で3単位を修得できるので、1授業受けると、学部ならば45ポイント、大学院ならば67.5ポイントを獲得できる計算です)
単純計算で5年間で150時間、1年間に平均で30時間はクリアしなければいけないので、時間に融通の利く夏休みに進めるのが得策です。
同じ大学院に通っていて、今は他州の公立小学校で働いている友人には、2歳半になる子供がいます。生後半年で仕事復帰した彼女は、普段は子供を8時から5時半まで保育園に預けています。建築関係の仕事に携わるご主人は、上司と相談の上、夏の間はなるべく自宅でできる仕事を割り振ってもらい、家族3人の時間を大切にしているそうです。
公立中学校のインクルージョン教室で働く別の友人は、3児の父でもあります。奥さんも同じく公立校の教員なので、普段は朝から晩まで慌ただしく過ごしています。今年の夏は、少し大きくなった子供たちと一緒に何かしたいと思ったそうです。ニューイングランド地方の豊かな自然の中で育ちアウトドアが好きで日曜大工も得意な彼は、家庭菜園用の木で出来たボックスを子供たちと作ることにしました。その作品たちを夏の間各地で開かれるファーマーズマーケット(曜日、時間限定で開かれる農家の直売所)に出店するのです。図面を見ながら材木を組み立て、ペンキで色を塗り、出来上がったものに値段をつけて自分たちで売る。子供たちにとっては夏休みの一大プロジェクトになること間違いなさそうですね。
私がアメリカの教員の1番羨ましいなと思うところは、紛れもなくこの夏休みです。生活していくには働いてお金を得ることはとても大切ですし、働く意義というのはお金だけでとは限りません。しかし、特に小さな子供を持つワーキングマザーとしては、毎年まとまった時間を子供と過ごせる事は何よりありがたいものではないかと思うのです。
働く親ならば誰しもが一度は立ち向かうであろう「仕事か、家族か」という答えのない大きな壁も、一年のうちに1、2ヶ月は必ず家族のために思いっきり使えるとわかってたら、気負うものが減るのではないかと思います。友人たちの近況を見て、自分も早く公立学校で働けるように切磋琢磨しなければならないなとますます思います。
今回は教師の夏休みの過ごし方についてお話ししました。
次回のアメリカ便りを楽しみにお待ちくださればうれしいです。
礒恵美(いそ めぐみ)
──■ あとがき
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次回メルマガは、8月25日(金)です。
発達障害の感覚の問題
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