発達支援の現場から:放課後等デイサービスの実践

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2017.04.21

発達支援の現場から:放課後等デイサービスの実践

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■ まえがき
■ 連載:発達支援の現場から:放課後等デイサービスの実践
■ 連載:支援技術:自作か市販かの論争から一歩進んだもの
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──■ 連載:発達支援の現場から
第3回 放課後等デイサービスの実践
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放課後等デイサービス(以下放デイ)の人員に関する基準が見直されました。支援にあたる職員には、児童指導員等、一定の児童分野での経験や資格が必要になりました。事業所の数が年々増加し、国の予算を圧迫してきました。数ではなく、質の向上を目指した法改正です。一定の資格があれば質が保障されるのか、といえば疑問の多い大義ですが、数の増加の抑制には繋がりそうです。

逆に今までは支援する職員が誰でも良かったこと自体、障がいのある子どもたちへの支援という視点で見た時、専門性はどこにあったのか、という疑問を感じる方もいるかもしれません。放課後等デイサービスに求められる専門性については、次号で考えていきます。

さて、生活支援センターわたぼうしでは、福祉サービスが措置から契約へ大きく制度変更された2003年4月から、障がいのある子どもたちにも等しく豊かな放課後を過ごす場所を、と、事業を続けてきました。(連載第1回のメールマガジンで紹介しています)
連載3回目は、私たちが行っている放デイの実践内容をご紹介させていただきます。

2017年4月現在、小学生対象1カ所、中高生対象1カ所の放デイを行っています。最近は小学生と中高生の活動を分けた事業所も増えてきましたが、それぞれのライフステージに合った支援をする目的で、事業所を分けて活動する実践は当時、地域では初めての取り組みでした。(小学生放デイ 2003年4月開設※旧児童デイサービス、中高校生放デイ 2010年11月開設)

小学生対象放デイ(放課後等デイサービスわたぼうし)には、現在23名の児童が登録しています。月曜日から金曜日、各曜日の主取り組みがあり、利用児の発達ニーズにあった取り組み内容の曜日で契約しています。

特徴として、地域の小学校に在籍している児童が多く登録しており、月曜日、金曜日は小グループでのソーシャルスキルトレーニングの設定になっています。みんなの前で自己紹介をする練習からスタートし、今では自分たちのお出かけの話し合い、こんなことをしてみたい、という提案(プレゼンテーション)をして、みんなでやること(行く場所)を決めています。初めは自分が行ったことのある場所、面白かった事等、経験の中からの提案で終わっていましたが、次第に友達の提案に対して「やったことはないけれど、話を聞いてこんな風に楽しめそうだな、と思ったので選びました」と、他児の提案の応援に回る子が出てくるほど、表現する力、考える力、調整する力が育っています。

火曜日は少人数で取り組みを行う内容で、より個別に対応できる体制をとっています。リトミックやサーキット、広い公園で思い切り体を動かす等、体へのアプローチを中心に支援を行っています。1日の利用人数を少なくすることで事業所収入は減りますが、一人一人への丁寧な支援を行えるという利点があります。

水曜日はリトミック、鑑賞活動を中心に、聞く力、見る力、抑制調整※に働きかける活動内容になっています。

※編者注 がまんする力、認知機能の一種

学齢期は友達との遊びの中から多くの経験をし、学び、育つ大切な時期です。そこで、木曜日の活動は思い切り遊ぶことを目的に集団遊びなどを取り入れています。いずれの曜日も、新しい体験活動が出来るよう、おやつ作りや工作等、設定取り組みも随時取り入れています。5月はオハギ作り(おやつ)、風車作り(工作)を予定しています。また、障がいのある子どもたちは、ともすると集団(関係するメンバー)が固定化しやすい環境に置かれています。多様な集団の中で育つことは将来の社会生活の選択肢が増えることにも繋がります。併設する学童保育の子どもたちと一緒に活動する時間も、大切なものになっています。

心も体も大きく育つ小学生時代。様々な経験の中から自分の好き、得意、苦手、嫌い、を見つけ、自分の出来ることの発見、人から愛され、自分を大切にし、人を好きになる。こうした人としての大きな根っこを作って、大きな心の揺れ、体の変化、生活の変化を受け止める自分を、中学、高校生時代に花開かせていきます。

そんな思春期時代を、「部活」として設定し活動しているのが中高生の放デイ(ぐりーん)です。豊かな経験の場、仲間との育ちあいの場、社会に出るための挑戦の場という、とても大切な場として取り組んでいます。

みなさんも、中学、高校生時代に取り組んだことで印象に残っているのは、授業や勉強よりも仲間と過ごした時間や部活での経験ではないでしょうか(もちろん、勉強!と答える人もいるでしょう)。しかし、障がいのある生徒は、学校の部活を経験せずに大人になることも珍しくありません。みんなと同じように、放課後に仲間の中で頑張る経験はとても大切。でも、思春期の子どもたちへアプローチするノウハウはない。小学生の放デイから遅れる事6年半、長い長い準備期間を経て、考えに考えたプログラム(部活形式)を掲げて、2010年11月、年度途中のスタートになりました。

美術部、運動部、音楽部、写真部、調理部というバラエティに富んだ部活設定です。曜日ごとに違う部活を設定し、自分の「やりたい!」「好き!」な部活に入部します。利用にあたって、「預かりの場ではありません」というセリフを繰り返しご家族に説明してきました。ぐりーんの活動は、自分が「やりたい」が基本です。そしてぐりーん事業所はバス停から徒歩2分、最寄り駅から徒歩8分、将来働く大人になることを目指し、自力通所の出来る子には自分で通える環境を、と公共交通機関で利用しやすい立地になっています。
送迎サービスも限定的で、送迎がないなら使いません、というご家庭も多くありました。それでも、開設当初から現在まで、思いを変えることなく続けています。そして、現在登録は22名です。その他、乳幼児を対象にした事業、地域の小学校、中学校、高校に通う児童生徒を対象にした学習支援を含めた多機能事業になっており、乳幼児は5名、学習支援は12名の登録があります。

毎年、自分たち(部活)の活動成果を多くの皆さんに知ってもらうため、発表会を行い、各部活は発表会を目標に1年頑張っています。子どもたちにとって発表会は大きな目標になっていますが、年間ではその他に、地域のイベントへの出店、市民マラソン大会参加、合宿、遠征旅行等、大きな取り組みも多く、余暇活動としてカラオケやボーリング、外食等々。みんなが楽しみにしています。

この4月、ぐりーん本格スタート時(2011年4月)に利用を始めたメンバーが、高校を卒業し、福祉サービス事業所や専門学校、大学へ、13人という多くのぐりーん卒業生がそれぞれ新しい旅立ちをしました。ぐりーんの歴史を作ってきてくれた1期メンバーを送り出し、なんとなく、ぐりーんの再出発を感じているこの4月です。

太田優子(生活支援センターわたぼうし)

 

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──■ 連載:障害の重い子どものコミュニケーションを支える支援技術
第4回 自作か市販かの論争から一歩進んだもの
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障害の重い子どもたちの教材・支援機器を考えるとき、良く話題となって出てくる言葉に「自作するべきか」「市販品を買うべきか」があります。

何年か前のATACカンファレンス※では、そういったセッションを開いてもらいました。 そこで話題となったのは自作をすると産業が育たない、損なわれるといった事や、作るよりも使う方が大切だという話です。しかし、そういった「二元論」にはとても違和感を感じます。そこで、それらの話題について整理しながら、これからどうすればいいかを論じたいと思います。

※編者注 東京大学先端科学技術研究センターなどが中心になって実施している、障害のある子どもの支援に関する研究発表会。
(詳細はこちら>>

●市販品の良さ
市販品の良さはなんといっても、「誰もが手に入れる事が出来る」という事です。以前では、とても良いものでも手に入れる事が出来ないために「机上の空論」として見られてしまう事がありました。しかし、お金を出すことで、手に入れられるのであれば、問題の多くが解決します。

つぎに、完成度があります。自作のものの多くは「試作」という段階を経ます。という事は、実用に耐えるためには、時間がかかりますし、完成度が低くなる可能性があります。すぐに使えるようにするためには、やはり市販品の方が使いやすいでしょう。

市販品の多くはそれまで多くの人が関わり、その使い勝手や知見がそこに反映されていますので、その効果については一定のエビデンスが反映されています。そういった信頼感はやはり市販品の良さでしょう。

●自作の良さ
自作品の良さは、その人のための「カスタマイズ」がされているという事です。障害のある子どもたちの学習では一般的なものでは使えないからこそ、特別な支援のはずです。個々に違って当たり前であり、個別に用意されている必要があります。その意味では、自作品はそのニーズを満たしてくれます。

また、市販品の場合、求めている機器や教材が無い場合があります。多くの場合、そこであきらめてしまい、別の方法になります。もしも、その方法が適切であれば問題は無いのですが、子どもたちに我慢をさせるという方向に進む場合があります。特に、重度重複の障害のある子どもたちは、自分で訴えかけたり動く事が出来ませんので、関わる側が何もしなくても「一見」困らないように見えてしまいます。彼らのニーズに応じるためには、何かしらの手立てが必要であり、そこには教材や支援機器は必須だといえるでしょう。

●これからの方向性は?
私が考えるのは、作るか作らないかという事では無く、まずは簡単なものでいいので作ってみてはと思うのです。そうする事で、制作者の意図が分かります。一般で作られているものはどのような目的で作っているのか、それが自分で作る事で見えてきます。

もちろん、不器用な人もいるでしょう。でもそれでかまいません。そうする事で、「作る」という事がどれだけ大変な事が実感出来るからです。大切なのはそこからです。

作る事の大切さを知る事で企業などの、ものを作る人の重要性を見直してみてください。ここで一番ダメなのは「買わなくても作ればいい」と思い込んでしまう事です。市販品には、そこに至るまでのノウハウなどが込められています。もちろん、自作の方が完成度が高い場合もまれにはあるでしょう。ですが、それはそれ。たいていのものは、私たちが作るよりも良い出来映えになっています。

では、そのあとは作らなくてもいいのか?という事ですが、ここからは、市販品を尊重した上で「ニーズに応じた自作」を考えていけばいいと思っています。先に書いたように、個別のニーズに合わせるためには「ラスト1マイル」が大切です。場合によっては、市販品であったとしても、子どもたちに合わせるためには最後の調整が必要です。そこを工夫する事が大切だと考えます。

アメリカの支援機器の展示会に行って思ったのは、市販品のソフトが多く販売されていますが、彼らのソフトの多くは、最後の調整が出来るようになっていることです。つまり、枠組みがあってその中に個々の部品を作るような形。また、その部品については、ひな形といえるものが多く、それらが有料で提供されたりしています。そういった、市販品と自作の中間のようなものが必要なのではと感じます。

最後に、本当の意味で自作をたくさんしている人は、市販品に対して十分なリスペクトをしているし、けっこう市販品を買っていると思います。どちらがどっちという事で無く、うまく調整して欲しいと願っています。

金森克浩(日本福祉大学)

 

──■ あとがき
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次回メルマガは3週間先、連休明けの5月12日(金)です。読者の皆様、よいゴールデンウィークをお過ごしください。

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