障害の重い子どものコミュニケーションを支える支援技術

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2017.03.10

障害の重い子どものコミュニケーションを支える支援技術

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■ まえがき
■ 新連載:障害の重い子どものコミュニケーションを支える支援技術
■ 連載:自閉症児の四次元ワールド:「人と出会い、人とつながる」
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──■ まえがき
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今回から金森克浩・国立特別支援教育総合研究所・統括研究員の連載がスタートします。
金森先生は障害のある子に、どのような機器が必要かを考え、それらを既存のものの応用で、あるいは自作することで、実現する活動に長く取り組んでこられました。今回の連載では、それらの基本となる考え方から、入手するためのノウハウまで、5回に分けてエッセンスを紹介していただけます。ご期待ください。

 

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──■ 新連載:障害の重い子どものコミュニケーションを支える支援技術
(第1回)3つのA:AACとATとAEM
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私の教員経験は今から30年以上前、東京都立府中養護学校(現在の東京都立府中けやきの森学園)から始まります。当時担当したのは中学3年生。2名の生徒が担当となりました。1名は、準ずる課程※1を学ぶ生徒で、卒業後に公務員になり、最後に勤めた学校ではなんと同僚として、事務室に働いていました。
※1 小・中学校など各校種の学習指導要領に準じた学習内容

そして、もう一人の生徒は重度重複障害のあるYさん。体はとても小さく、言葉を発することもできません。先輩の教員にどうすればいいのか聞いても、排泄と食事の仕方以外は、あまり分からないとのこと。自分で勉強するしかありませんでした。当時は、そんなに障害の重い子どもへの指導は手探りの状態という感じでした。

今考えると、「コミュニケーション」ということを軸にして、様々な関わり方ができたのにと感じます。障害の重い子どもの指導では、どうしても排泄や食事など生きるために必要な活動に目が行きます。最近は、医療的ケアの必要な子どもも多く、コミュニケーションはその次となってしまいがち。ですが、排泄や食事、医療的ケアの時でも実はコミュニケーションはしているし、コミュニケーションをとらずに、そういった事をしているのは、とても危険な気もします。

コミュニケーションを支える技術として、AACがあります。このAACと密接な関わりがあるのがAT。そして、学校現場で学ぶ子どもたちにとって重要なAEMを合わせた「3つのA」について今回はご紹介します。

●AAC
AACとはAugmentative and Alternative Communication(拡大代替コミュニケーション)の略です。AAC研究の第一人者である東京大学の中邑賢龍(なかむらけんりゅう)氏によると「AACとは手段にこだわらず、その人に残された能力とテクノロジーの力で自分の意思を相手に伝える技法のこと(「AAC入門」に記載)と述べられています。ここで大切なのは、本人の意思を尊重し、主体的な発信行動を豊かにすることにあります。AACはコミュニケーション場面が中心となりますが、それを実現する上では支援機器の役割は大きく、後述のATと重なる部分が多くあります。しかしAACには、機器を使わないノンテクという技法もあります。例えば、残された発声を使ってコミュニケーションをとったりすることもそうです。マカトンのサイン※2などもAACの技法の1つです。
※2 言語やコミュニケーションに問題のある子どものために、英国で開発され、世界の40ケ国で使われている言語指導法。(サイト「マカトン法」 より引用)
(詳細はこちら>>

●AT
ATは障害者を支援するための技術を示す言葉で「福祉機器」「福祉工学」「支援技術」「支援工学」などといった訳がされています。ATは単なる機器を示すだけでなく、サービス等も含んだ包括的な概念として認識されています。例えば、1988年に出た米国の法律「障害をもつ人のためのテクノロジーに関連した支援法:Technology-Related Assistance for Individuals with Disabilities Act」(通称Tech Act)では、支援技術機器(Assistive Technology Device)と支援技術サービス(Assistive Technology Service)という2つの概念に分けて以下のように定義しています。

支援技術機器とは、買ってきたかそこにあったものか、手直しされたか、個人に合わせて作られたかに関わらず、障害のある人の機能を増大、維持、または改善するために使われるあらゆる装置、装置の部分、システムを指す。

支援技術サービスとは、障害のある人が支援技術装置を選ぶ、手に入れる、使用することを直接助けるあらゆるサービスを指す。

また、支援技術機器と支援技術サービスの供給は障害のある人が次のようなことを可能にするとしています。

・生活を自分でコントロールできるようにする
・家、学校、職場、社会の活動に参加し、貢献できるようにする
・障害のない人との関わりを広げる
・障害のない人と同等の機会をもち、そこから利益を得ることができる

このようなATには、障害当事者が利用するものと、介護者が利用し介護力の軽減を図るものとがあります。特別支援教育においては、この中でも学校を中心とした学習活動や子どもたちの生活に密接に関わる部分でATが考えられます。

次に教育の分野に目を向けると2010年10月に文部科学省が出した「教育の情報化に関する手引」では『障害による物理的な操作上の困難や障壁(バリア)を、機器を工夫することによって支援しようという考え方が、アクセシビリティあるいはアシスティブテクノロジーである。これは障害のために実現できなかったこと(Disability)をできるように支援する(Assist)ということであり、そのための技術(Technology)を指している。そして、これらの技術的支援方策を充実することによって、結果的にバリアフリーの状態を実現しようということでもある。』と書かれています。

●AEM
AEMというのはAccessible Educational Materials(アクセシブルな教材)といった意味です。障害のある子どもたちは一般の子どもたちの学力の問題とは別に、その障害ゆえに教育内容にアクセスすることが困難になっている場合があります。そういった子どもたちが学習へアクセスするための学習教材としてAEMがあります。例えば弱視のために印刷された教科書やプリントなどを見ることが難しい子どもでも、拡大読書機を利用して小さな字を大きく表示すれば見る事ができます。肢体不自由のある子どもたちも、コンピュータの中で教科書をめくる事ができれば、他人の手を借りずに自分で本を読むことが可能になります。同様に、文字の認知に課題のある子どもでも、文字を拡大したり色を変えたり、本の内容を音声で読み上げたりすれば理解することが可能になります。

(『特別支援教育とAT 第1集』では「AIM」と記述していましたが、これを提唱しているCAST※3では現在AIMからAEMと表現を変えています。CTG※4で伺ったときには、意味は同じですと、おっしゃっていましたが、Instructional だと、教える側に焦点があたりますがEducationalでは、学習者視点になっているので、直したのではないかと私は思っています)
※3 学びのユニバーサルデザインをまとめ、提唱する米国の非営利団体。
※4 CTG: Closing The Gap Conference 障害のある人の支援技術に関する国際会議。日本のATAC※5の元になった。
CTG (詳細はこちら>>
※5 ATAC (詳細はこちら>>

これらAACやAEMはATと重なる要素も多いですが、ATは主に生活全般も含めた広い概念になりますし、AACはコミュニケーションを中心に、AEMは学習のユニバーサルデザインと密接に関係しています。

金森克浩(国立特別支援教育総合研究所)

(文献)
金森克浩:特別支援教育においてATが果たす役割 『〔実践〕特別支援教育とAT 第1集』,明治図書,pp6-9.
AEM:(詳細はこちら>>

 

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──■ 連載:自閉症児の四次元ワールドへようこそ
(最終回)「人と出会い、人とつながる」
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こんにちは。堀野めぐみです。今回が最終号となりました。

最近、子どもたちのためにこれから私たちが出来ることは何かな~とよく考えています。
子どもたちが学生の頃はPTAをやったり、地域の行事のお手伝いをしたりしました。行政に子どもたちの取り巻く環境について陳情したりもしました。長い時間をかけて放課後等デイサービスの必要性も訴えてきました。我が子は卒業しましたが、少しずつ種をまいてきたところから芽が出てきたのではないかと思っています。

子どもたちが地域で安心安全に暮らしていくことはもちろん、同世代の健常者と同じような楽しみもあったらいいな~と思っています。成人になると特に、自宅もしくは寮やグループホームと作業所の往復だけになりがちですので、アフターファイブの活動の充実が必要だと考えています。放デイが高校3年生までなので、その後、どうする?というのが今、一番の課題ではないかと思っています。

なぜなら、息子(長男)は作業所から毎日一人でフラフラさせるのは危険な時期がありました。前回の記事でも書きましたように、コンビニで大人買いくらいならまだしも、行動範囲も広くなって、電車に乗って山手線を5周ぐらいしたりするし、以前は、新宿駅から小田急線のロマンスカーに無賃乗車してしまって、車掌さんに見つかって町田駅で降ろされて、迎えに行ったこともありました。駅長室に入ると、反省していると思いきや、駅長さんと小田急線の話で盛り上がっていて、帰りには小田急線のグッズをお土産にもらったことも・・・・

また、近所のショッピングモールで女子大生の足にタッチしてしまい、警察沙汰になったこともあるのです。その女子大生はミニスカートをはいていて、とても可愛いらしいお嬢さんでした。身長175cmの男の子に目の前でいきなりしゃがんで、太ももをタッチされたら、そりゃあ、びっくり\(◎o◎)/!しますよね。彼女はその場で過呼吸になってしまい、心配した親御さんが警察に被害届を出されたそうです。防犯カメラが証拠となり、次の日にはお巡りさんが自宅にピンポーンと来て、そのまま親子で出頭し事情聴取・・・・私は、彼女とご家族に謝罪をしたいと申し込みましたが、結局、会ってもらえませんでした。悪気はなかったものの息子のやったことは犯罪であることは事実です。

それから、私は、息子のリュックにワッペンをつけました。周囲の人に彼が障がい者であることを理解してもらうためです。「僕は障害を抱えています。ご迷惑をおかけしたら、すみません。」と・・・違和感を覚えつつ、私はどうしたらいいか分からなくなっていました。

こんなワッペンをつけなければ息子は外を歩くことができないのか?と思うと、悲しくなって、心が締め付けられる気持ちでした。時々パニックになることもありますが、川沿いを大きな声で歌いながら歩く息子、時々すごく面白いことを言って笑わせてくれる息子を恥ずかしいと思ったことはありません。「やっぱり、このワッペンは必要ない!」と確信すると、私はそっとリュックからワッペンを外しました。これからも行動問題があったら警察や地域の方々と一緒に考えていきたいと思います。

現在、うちのNPO法人では成人期のための余暇活動「アフターファイブ」という事業があります。作業所終了後、同じ仲間で過ごす場所を提供し、仲間意識を養い、日常生活訓練、文化教育訓練を実施しています。作業所の終了時間に合わせてお迎えに行き、事務所で夕食作り、入浴をして、8時頃にご自宅に送るのです。成人期ならではの活動で、仕事帰りにカラオケに行ったり、外食したり。これから暖かくなったら、お花見をしたり、温泉に行ったりしてもいいのではないかと思っています。

まだ、制度化していないので、日中一時支援や移動支援と自費を組み合わせての活動となっており、お金もかかるので、利用者さんは月に2回くらいしか活動に参加できないのですが、ニーズは高いと思っています。放デイのように毎日やる必要はありませんが、週に1日ぐらい行かれるといいな~と思っています。先日も、自分でお風呂の支度をして私のところに持ってきて、早く連絡帳を書け!と渡してきました。とても楽しみにしているようです。(笑)

私は先生ではないし、専門家でもないただの母親です。私が公私共に福祉活動をしているのは、私たちの子どもたちのように障がいのある人たちが、地域でありのままにハッピーでいられるように、また彼らを取り巻く関係者全員がハッピーでいられるといいな~と思っているからです。「福祉」の「福」も「祉」も「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味しています。

子どもたちはやがて巣立っていきます。学校を卒業し、社会に出ていく時やグループホームや寮で生活をする時など、親としての心配事は、内容は変わっていきながらも尽きないと思います。これからも一緒にがんばりましょうね。

障がいのある子どもがいなければ、出会うこともなかった人たちが、お互いが信頼し合い、高め合い、考えを共有する。仲間の夢が実現すれば、自分のことのように喜びを分かち合える。それは、真の仲間の輪だと思っています。たくさんの出会いを大切に育み、喜びの輪を広げていきましょう。

「親がなくても子は育つ。でも、子どもがいなければ、親は育たない。」

メルマガを読んでくださり、ありがとうございました。

堀野めぐみ

 

──■ あとがき
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本メルマガの購読者数が1000人を超えることができました。より多くの方がお読みくださる状況で、寄稿いただける方も増えていくと考えています。読者の皆様には末永く、お付き合いいただければ幸いです。

堀野さんは、全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会(略して全P連)の平成21年度の会長を務められるなど、知的障害のある子が過ごしやすい社会の実現にさまざまな形で取り組んでこられました。ご自身の経験を、本メルマガの連載でご紹介くださったことに、改めて感謝の意を表させていただきます。

次回メルマガは3月24日(金)です。

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