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■ 新連載:自閉症児の四次元ワールドへようこそ
■ 連載:認知テストと発達障害(2):注意欠如・多動症(ADHD)
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──■ 新連載:自閉症児の四次元ワールドへようこそ
(第1回)みんなちがってみんないい
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皆様、はじめまして。新春をご家族やご友人と共に穏やかに迎えられたことと存じます。
今回から障害のある子どもの子育てについてのメルマガを連載することになりました。
全国特別支援学校知的障害教育校PTA連合会、略して全知P連 平成21年度会長の堀野めぐみと申します。
現在、長男は特別支援学校を卒業してから早7年が経ち、現在25歳になりました。様々なトラブルもありながら、地域の作業所に元気に通っています。そして、3年前には、次男(21歳)も突発性ADHDと診断され、一昨年、障害者雇用で一般就労しました。そして、昨年は長女(23歳)も知的障害を含まない自閉スペクトラム症と診断されました。現在職業訓練中です。
長男は3歳児検診の時に保健所の先生に「言葉の教室に行ったらどうですか?」と言われ、療育を始めましたが、長女と次男についても、もっと早く医師の診断を受けて特別支援を受ければよかったのかもしれないと思っています。なぜなら、思い当たる事は結構あったのです。友達と関わることを避け、一人で遊んでいることが多かったですし、学校から脱走して公園で寝ていることもありました。表情が乏しく、喜怒哀楽の表現があまりありませんでした。短期記憶障害があることで、約束や頼まれた事を忘れてしまったり、大事なことだから覚えておかなければいけないと思っているために次の指示が入らなくて、「話し、聞いていますか?」と言われたりすることもありました。得意な教科と苦手な教科の差が激しかったり、空気が読めないとか、常識が分からない、誰に対しても上から目線になってしまうなどなど。それゆえに先生や友人、上司などとコミュニケーション上でのトラブルも多く、辛かっただろうと思います。
でも、だんだん大人になるにつれ、自分で注意するようになったり、忘れないようにメモをする習慣をつけたり、本人たちなりに努力しているようです。また、診断を受け、自身の障害について受け入れることも最初は抵抗があったようですが、医師も私も「肩の力を抜いて、みんなちがってみんないい」と二人に伝えたかったのです。
人はときとして、自分の人生に対して「どうして自分ばかりがこんなに辛い思いをするのだろうか?」と思ったことありませんか?
障害児を育てているご両親ならば、医師から診断を告げられた時、人生のどん底に突き落とされたように目の前が真っ暗になった経験があることでしょう。
私たちの人生って、ちょっとした小さな気づきに飛び上がるほど喜んだかと思えば、何かトラブルがあると今度は落ち込んでしまって、まるでジェットコースターみたいですよね?
今、あなたは苦しいかもしれません。しかし、そこからどうかはい上がってほしいのです。なぜなら、私たちの未来を決めるのは私たちの気持ち次第だからです。
幸い、私は自分の未来を暗いと思ったことはないのです。失望することはあっても絶望はしないからです。だって一度きりの人生ですもの、泣いてばかりや怒ってばかりの人生ではなく、笑顔で過ごしたいと思っています。子どもと一緒にもっと人生を楽しみましょう!
「シラサギ」(2003年11月 長男12歳)
長男が小学校6年生の時に一人通学の訓練を始めました。
それまでの私は、下の子たちはまだ小さいし、スクールバスに乗ってくれた方が安心だし、朝の忙しい時間をとられるのでなかなか踏み切れないでいました。でも、当時の担任の先生に背中を押されてやっと重い腰をあげたのでした。
今のように移動支援がまだなかった時代に毎日、息子と駅まで歩きました。途中に川を渡る小さな橋から息子が「お~い!シラサギさ~ん!」と声をかけると、どこからともなく現れるシラサギ! 息子は「おはよ~」って白鷺に手を振って挨拶すると、白鷺はサア~と飛んでいってしまうのです。息子は鳥と話が出来るのかもしれない、と真剣に思ったりしました。
ちなみに私も試しに「お~い!」と呼んでみましたが・・・ダメでした(笑)
※写真 息子が呼ぶときたシラサギ (画像はこちら>>)
「長男と横浜へお出かけ」(2010年1月 長男19歳)
休日、朝起きると、長男が
「お母さん、電車乗りたい」と言うので、
「よし!横浜に行く?」と聞くと
「はい。みなとみらい!」
「今日は京浜急行でもいい?」
「はい!マーボー豆腐!」
と会話になってんだかなってないんだか・・・・まあとりあえず出発。
西武線では運転席の後ろを陣取り、場所を譲ってくれたおばさまに「ありがとよ!!」と言ったので「ありがとうございます」でしょ?と言い直させました。
※写真 運転席の後ろに乗車 (画像はこちら>>)
次に東横線に乗換え、多摩川を渡る時に
「お母さん、わあ~きれいな海~!!」
「お母さん、わあ~サメ~サメ~!!」
って、どこがきれいな海なんじゃ? しかも川にサメは来ないし・・・(笑)
そして、横浜駅で今度は京浜急行がホームに入ってくると
「お母さん、わあ~新幹線が来た~!!」って。
新幹線は来ません・・・笑
実家に着くまでに注目を浴びすぎて疲れました。
※写真 当時のお正月の書初め:好きな言葉 (画像はこちら>>)
堀野めぐみ
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──■ 連載:認知テストって何?
(第7回)認知テストと発達障害(2):注意欠如・多動症(ADHD)
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こんにちは。学校心理士の青木瑛佳です。前回は、自閉スペクトラム症(ASD)が認知テストの結果の中でどのような形で見られるか、ということについて書かせていただきました。今回は、もう一つのよく知られている発達障害、注意欠如・多動症(Attention Deficit and Hyperactivity Disorder = ADHD)と認知テストの関連について解説させていただきます。
1.注意欠如・多動症(ADHD)とは
みなさんは、「片づけられない女たち」という本を聞いたことがありますか?この本はADHDの大人の女性たちについて書かれた本で、日本語版は2000年に出版されています。ADHDは女性に限って見られるわけではなく、むしろクリニック等に来院するケースは男性(男の子)の方が多いのですが、日本でADHDに対する認識が広まったのは、この本の影響もあったということを聞いたことがあります。
さて、ADHDとはどのような発達障害かと言いますと、アメリカの診断基準マニュアルDSM5では、大きく以下の2つの症状を挙げていて、そのどちらか、あるいは両方が、12歳以前から、2か所以上の場所で(学校と家庭など)見られてかつ、学業や仕事、社会性に重大な支障をきたしていれば、ADHDと診断されるようです。
ADHDの症状の1つ目は、「不注意」です。DSM5には9つの「不注意」行動が記載されています。例えば、仕事や勉強をしている時や遊んでいる時に集中が続かない、外からの刺激に気が逸れやすい、話しかけられた時に聞いていなさそうな様子を見せる、必要なものを失くしやすい、等です。9つの「不注意」行動のうち、6つが確認できれば、「不注意」症状があるとみなされます。
ADHDのもう一つの症状は「多動・衝動性」です。こちらも9つの行動が診断基準として挙げられていて、例えば、席を立ってはいけない時に席から離れる、静かに遊べない、順番を待つのが苦手である、質問が終わる前に答えを言ってしまう、じっとしていられずもぞもぞ動いたり手遊びをしたりする、等です。9つの行動のうち、6つが見られれば「多動・衝動性」があるとされています。
アメリカ(ニューヨーク州)では、ADHDは、保護者や担任の先生が記入する質問紙や、学校の教室などでの直接の行動観察を元に診断を行うことが多いですが、特別支援教育の対象となっているため、認定(診断)を受けたお子さんは、定期的に認知テストを受けることになっています。知的な問題がないお子さんもかなり多いのですが、認知テストの際には、特徴的な得点パターンや行動を示す傾向があります。
2.ADHDと認知テスト
ADHDの方やお子さんは、「遂行機能(Executive function)」が比較的未発達であるため、注意が散漫になったり、行動の制御が出来なかったりするといわれています。「遂行機能」とは、自分の認知機能をコントロールする力で、注意を制御したり、問題解決のための筋道や計画を立てたり、自分の反応/行動を管理したりする力です。この力の弱さがWISC-IVなどの認知テストの結果にも現れてきます。
WISC-IVには全検査IQの他に、「言語理解」「知覚推理」「作動記憶」「処理速度」の4つの指標がありますが、多くの研究で一貫して言われているのが、ADHDのお子さんは、「言語理解」や「知覚推理」に比べ、「作動記憶」や「処理速度」の得点が低くなる傾向にあるということです。
これはADHDの症状をじっくり考えれば、納得がいく話です。まず短期記憶力の指標である「作動記憶」に関してですが、実は、「作動記憶」の課題は、記憶力だけでなく、注意の制御力が結果に影響を与えてしまいやすいのです。というのは、「言語理解」や「知覚推理」の課題では、問題の聞き直しが許容されているのに対して、「作動記憶」の課題では、記憶力のテストのため、問題を2回聞くことは許されていません。
こうなると、注意が途中で途切れやすいADHDの方は、よほどモチベーションがない限り、問題を読み終えるまで注意を持続することが出来ず、結果的に、「そもそも最初に言われたことを聞いていない」ため、点数が低くなってしまう傾向があります。
次に、「処理速度」に関してですが、こちらは決められた時間内に、出来るだけ多くの単純作業を素早くこなさなければいけません。そうなると、いかに気を逸らさずに、目の前の問題に取り組むかということが重要になります。また、速さだけにとらわれて作業を行おうとすると、今度はミスが多くなってしまい、点数が下がってしまいます。
ADHDの症状のうち、「不注意」がよく見られる方の場合、集中が続かず、途中で気持ちが逸れてしまいやすいため、点数が低くなる傾向があります。「多動・衝動性」がよく見られる方の場合、勢いに任せて作業を行う傾向があるので、細かいところに気を配れる方の場合には、点数は高くなることもあるのですが、多くの場合、間違いが増えてしまい、点数が低くなる傾向があります。
3.事例
では、実際のADHDの診断を受けているお子さんの認知テストの結果の例を見てみましょう。S君は小学校6年生で、ADHDの診断を受けており、週1回ほど通級支援を受けていました。今後の支援方針を決定するために検査が行われ、その一部として、WISC-IVが実施されました。S君の検査結果は表1のようになりました(※表)。
※表 (画像はこちら>>)
この結果を表の上から見てみると、IQは平均的(109)ですが、指標得点の間には、最高得点の「言語理解」で116点、最低得点の「処理速度」で83点と、大きなばらつきがあることが分かります。彼の得点のばらつきは、ADHDのお子さんではよく見られる点数のばらつきで、「言語理解」と「知覚推理」に比べ、「作動記憶」「処理速度」の得点が低くなっています。
また、課題別の得点(表1の下半分)を見ると、「作動記憶」の課題の一つである「数唱」内の2小課題の得点では、数を聞いたままに繰り返す「数唱--順唱」より、反対の順番で繰り返す「数唱--逆唱」の点数が低いことも、彼の注意のコントロールの難しさを示しています。「数唱--逆唱」は、数を頭の中で保持しつつ、並び替えているため、数を繰り返すだけの「順唱」よりも、注意力への負荷が高い課題であるからです。
最後に、S君の「処理速度」の2課題の点数の低さですが、実はADHD特有の困難さだけを示しているわけではないのです。というのも、彼の場合、「多動・衝動性」が強く、処理速度の得点は高くなると思われていました。しかし、長年受けた通級指導により、「ゆっくり取り組む」という習慣を身に着けており、ていねいに作業を行ったため、点数が低くなったようなのです。(実際3年前の検査より数値が大きく下がっています)
このことから、彼の「処理速度」の得点の低さは、必ずしも彼の困難さを反映しているのではなく、むしろ、対処方法を身につけたという、ある種の「達成」により生じたものと考えられます。
この例から分かることは、お子さんそのものの困難さだけでなく、その困難さに対する「対処」も検査結果に影響を与えているということです。また、得点が低い方が、深刻な問題があるとは必ずしも言えないことが分かります。そのため、検査結果の意味を考える時は、検査時の行動、問題への取り組みなども含めて、総合的に考えていく必要があると思います。
今回はADHDと認知テストの関連について書かせていただきました。次回は、学習障害(LD)と認知テストに関して書かせていただきます。お読みいただき有難うございました。
青木 瑛佳 (学校心理学 Ph.D.)
参考資料:
上野・松田・小林・木下 (2015) 日本版WISC-IVによる発達障害のアセスメント-代表的な指標パターンの解釈と事例紹介:日本文化科学社
Thaler, N. S., Bello, D. T., & Etcoff, L. M. (2013). WISC-IV profiles are associated with differences in symptomatology and outcome in children with ADHD. Journal of attention disorders, 17(4), 291-301.
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──■ あとがき
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明けましておめでとうございます。
今回から新しい連載が始まりました。健常児を含んでそれぞれ異なるタイプ4人の子育てに奮闘してこられた堀野めぐみさんに、ご経験を語っていただきます。お子様をお持ちの方々に、何かヒントになればと期待しております。
では、本年も引き続きメルマガをよろしくお願いいたします。
次回刊行日は、1月27日(金)の予定です。
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