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■ 連載:発達凸凹の子育てが面白い:きょうだい児と育つ
■ 連載:聴覚障害者の優れた視覚的情報処理
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──■ 連載:母親として発達凸凹の子育てが面白い!楽しい!を広めたい
第5回 きょうだい児と育つ
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うちには、ASD(自閉症スペクトラム症)である上の子と、発達についての指摘を受けていない下の子がいます。今回は、兄弟姉妹と同時に家族として育つ具体的な方法についてです。
発達障害のある子どもの兄弟姉妹のことを、発達支援や学術の世界の専門用語で「きょうだい」とひらがなで表記します。発達障害のある子のことを「同胞」、兄弟姉妹と障害のある本人もひっくるめて「兄弟姉妹児」と、表記することが多いようです。ここでもその例にならって、表記します。
ASDの子供の療育に熱心であれば、親はASDのある子どもの方と密接な関係を築きやすいのですが、きょうだい児には、手がかけられない時も出てきてしまいます。また、両方わけ隔てなく平等に接したつもりでも、きょうだい児は、不満を抱えていることも多いです。特に、きょうだい児が女子の場合、ASDの兄姉弟妹のために我慢しなければならない負担が大きいという研究もあります。きょうだい児が年下である場合、定型発達の兄姉と築けたであろうはずの兄弟姉妹関係を望むことは困難で、そのことの受容を含めて、ねじれ感を解消する対応も必要になります。そして、ASDへの理解ときょうだいとしての受容も大きな問題となります。さらに、きょうだいは親より長い時間、ASDのある子と家族として生きていかなければなりません。きょうだいの生涯にわたって、おそらく親が亡くなった後もきょうだいとして、長期的なかかわりを持たなければならなくなります。
発達障害のある子どもの「きょうだい」支援の必要性が指摘されて、久しいのですが、発達障害がとても多様であることから、支援は、具体的にはまだ確立しておらず、各地の自助グループなどで、障害程度や年齢を細かく分けて支援方法が模索されたり、小児科医や教育系、心理系の研究者がいくつかのワークショップをときおり行っているのが現状です。文末に参考文献を記載しましたので、参考になさってください。
私はABAセラピーを提供する中で、ご希望があった場合ケースの状態にもよりますが、基本的にはきょうだい一緒にセッションを行っています。ご家庭での療育に、きょうだい児への対応方法もお母さんに学んでいただくのが目的です。実際に、ご家庭の環境やASDのお子さんの状態によって、またきょうだいの年齢によって用意するプログラムは、異なります。
担当しているある4歳ASD男児の場合は、定型発達の2歳年下のきょうだいとピアトレーニング※1を取り入れ、2人ペアで学習を進める形式をとっています。ASDの兄はコンプライアンスなどの問題行動が少なく、表出※2のトレーニングに重点を置いた内容で取り組めるので、定型発達のきょうだいが上手にモデルを演じることややりとりの課題を育児に活かせることから、両親による指導の般化※3もうまくいっているケースです。きょうだいが兄の療育のために我慢することを強いられることもなく、療育が二人の子供たちにとって楽しい時間になると共に、きょうだいがASDの子供への対応を早い時期から習得できます。
※1 ピアトレーニング 同じ目的をもった仲間が一緒に行うもの
※2 表出 自分の意思を表現すること
※3 般化 学んだことが他でも応用できるようになること
このように、きょうだい児を一緒に療育するには指導者の力量が必要なので、多くの療育団体ではほとんど行われていません。ですが、私は、とても大切なことだと考えていますので、ケースに合わせてきょうだい児も一緒にセラピーを受けていただいています。
きょうだいにどう対応するかを考えるときに注目すべき要素があります。年齢、性別、順序、年齢差、人数、障害程度、親の受容の程度、夫婦仲、友人関係、地域、家庭の財力などです。また、重要なのは、親もASDかどうか、きょうだい自身もASDの特徴をある程度持っている可能性もあります。
うちの場合は、ASD児ときょうだいは同性で、異性同士の関係性よりは強いといえます。順序はきょうだいのほうが年下で、兄弟姉妹のねじれを感じやすい状態です。しかも年齢が近いほうが、負担を感じるという分析結果があり、3歳しか離れていないということで複雑な思いを抱えているようです。
ASDの子供の障害程度は衝動性の強い高機能自閉症で、中度域の障害と指摘されていた幼児期を過ぎると、一般的な小学校に補助なしで通い、そのまま地元の公立中学に進学しました。母親の受容は早いのですが、父親は中学に入っても上の子供のASDの特徴を理解し受容するということが出来ていません。それは父親自身もASDの傾向が強いためで、状況を適切に理解することが難しい状態です。その上、父親のASDの特徴がさらに強まってきたことから、父親以外の家族全員が、父親の特性からのカサンドラ症候群となっています。さらにきょうだいも、気を付けていないと不注意になってしまうこともあり、自身もASDの傾向が年々強くなるのではないかという恐怖があるようです。
友人関係は、同じようなASDのきょうだい児であるお子さんと緩くお付き合いをするくらいです。他のお子さんからは、ASDのある上の子のことをからかわれることもあるので、本人は、友だちは最低限の人数でいいが口癖になっています。しかしながら、同じクラスにいるASDのあるお子さんの教室移動を手伝ったり、宿題を手伝ったり、いじめっ子から守るという行動にも出ています。
きょうだい児のためのワークショップとしては、シブショップ※4という形式のものがあり、ASDのきょうだいばかりが集合してピアサポートが行われています。
※4 シブショップ きょうだい支援を広める会 (詳細はこちら>>)
また、家庭での行動アドバイスとして、以下のような研究成果も公表されています。
○母親ができるきょうだいへのはたらきかけ (参考文献1より引用)
1.ユーモアを使って生活を楽しくする
2.きょうだいの同胞の世話の負担を軽減し、自分のための活動をやらせる
3.きょうだいに親と二人だけになれる時間を与える
4.できれば居室を確保し、一人になれる場所と時間を確保する
5.同胞、きょうだいを対等に扱う
6.きょうだいの努力や達成を褒めるよう心がける
7.きょうだいに生じる困難な問題について相談に乗る
8.問題を言い表させ、家族で問題を明確にする
9.親は上手な聴き手になる
10.解決法を見つけ実行する
11.家族外からの援助を上手に利用する
上記の内容に関して、うちの場合は以下のようにアレンジしています。
1.ユーモアを使って楽しくというのは、かなり漠然としたアドバイスですが、母親が陽気にふるまうことで、どうにか、明るさを維持しています。
2.ASD児ときょうだい児それぞれに別々の趣味を持たせ、別々の習い事をさせてます。その習い事の先生が、それぞれのメンターとしての役割を担ってくださっています。
3.それぞれの学校や習い事の送迎の際に、母親とASD児、母親ときょうだい児というように二人にお出かけする機会を週に1回は作ります。また、毎日、それぞれと一人ずつ一緒に入浴します。この時間が一番、本音を引き出しやすい空間だと思います。
4.部屋はどうにか一人ずつ個室にしました。同性なのでしばらく同じ部屋にいた時より、精神面で落ち着いてきました。きょうだいにもクールダウンする自分のスペースが絶対的に必要です。
5.対等に扱うのはできているようで、意外と難しいものです。モノだけでなく、感情に寄り添って話を聞く、話す時間を平等に取ることは、とても大切です。
6.きょうだいの努力や達成を褒めるよう心がけるのは、習い事や受験への挑戦で具体化することができます。わかりやすい良い結果が出た時に、それを即座に褒めることが大切です。
7.きょうだいに生じる困難な問題について相談に乗るというのは、入浴中や外食の時が聞き出しやすいです。お風呂から上がることやお店から出ることで、困難な問題を断ち切る、気持ちの切り替えがつけやすいと思います。
8.問題を言い表させ、家族で問題を明確にする:嫌なこと、困っていることを言語化する作業は大切に、丁寧に行っていかなければなりません。言語化することで、分析しながら話す習慣が生まれます。
9.親は上手な聴き手になるというのも親修業が必要なところです。丁寧に言葉を継いで、お話しをするモチベーションを上げるための質問をして、言葉を引き出すようにしています。
10.解決法を見つけ実行する:一緒に考えたとしても、押し付けにならないようにします。お子さんがそのようにしたいんだという意図を汲み、自身で思いついたようなやりとりに導きます。
11.家族外からの援助を上手に利用する:習い事や学校の先生をうまくその気になってもらい味方になってもらうこと。年に2、3回は、家族と離れ2、3泊するような合宿などの空間を用意することで自分の世界観を持て、ずいぶん成長します。
・参考文献1 川谷正男:小児科臨床 vo161 No.12 2008
・参考文献2 西村試作:発達障害児・者のきょうだいの心理 社会的な問題.児童青年精神医学とその近接領域45:344~359,2004
・参考文献3 柳澤亜希子:障害児・者のきょうだいが抱える諸問題と支援のあり方 特殊教育学研究、45(1)、13-27、2007
・参考文献4 阿部美穂子・水野奈央「発達障害のある子どものきょうだい児に対する教育的支援プログラムの開発と効果の検討 - 小グループによる実践から」『とやま発達福祉学年報』第3号P3~(2012)
あしたん
スーパーバイザー
こころことば教室 (ブログはこちら>>)
──■ 連載:聴覚障害のある子を育てる
(第6回)聴覚障害者の優れた視覚的情報処理
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○聴覚障害児の情報処理過程
聴覚障害のある子どもたちは、聴覚による情報の入力は難しいものの、視覚による情報の処理能力はとても高いと言われています。耳が悪い分、目が良いのです。ここでいう「目が良い」ことは、視力がよいことはまったく異なります。視力がどんなによかったとしても、地図を見て目的地への経路を瞬時に把握することや、視覚的な情報を効率的に記憶することが必ずしもうまくできるとは限りません。
聴覚障害者は、障害のない人と比べ、視空間認知機能が非常に高く、視覚的情報処理が優れていることが多いと言われています。聴覚障害者のことばである手話が手の空間的な位置や動きを読み取る言語であることからも、聴覚障害者は「目が良い」ことが分かるかと思います。ちなみに、私は、ネイティブのろう者が話す手話を目の当たりにすると、その手の動きの速さと複雑さに圧倒され、残念ながら何も読み取れません。
実際に、私も聴覚障害児の長男を養育する中で、障害のない長女の発達過程と比較すると、彼の視覚情報処理が幼少期から非常に優れていたことを実感しています。たとえば、長女にはみられなかった彼の特徴として、文字や画像、映像といった視覚情報に関する記憶力が非常に高く、見たものを瞬時に覚えてしまうこと、文字情報に対する親和性が高く、ひらがなや漢字を覚えるのがとても早かったこと(2歳半の頃、音声ではなく、文字を書いて意思を伝達していました)、文字を書き始めたばかりの子どもには一般的によく見られる鏡文字の間違い(たとえば、「し」や「も」のはらいを左向きに書く)はほとんどなかったことがあげられます。小学3年生となった今、本屋さんや図書館に行けば、本やマンガを何時間でもひとりで読み続けています。案の定、大事な目は悪くなってしまい、補聴器と人工内耳だけではなく、今では眼鏡まで装用していますが。
○視覚的情報処理に関する心理学実験
このように、聴覚障害者は視覚的な情報処理能力が高いため、注意を切り替える方法や選択的注意の仕方についても、障害のない人とは異なった認知処理をおこなっているのではないかと思われます。
視覚的情報処理、特に注意のコントロール機能に関する心理学実験で用いられる有名な実験課題として、ストループ課題というものがあります。しかし、聴覚障害者を対象とした研究はこれまでおこなわれていませんでした。そこで、私は、聴覚障害者の視覚的情報処理能力の特性を明らかにすることを目的として、先天性聴覚障害のある大学生(聴覚障害群)および健聴の大学生(健聴群)を対象にストループ課題を実施し、検討をおこないました。この研究(荒木友希子・平澤辰憲 2013, ストループ課題による聴覚障害者の認知コントロールの検討, 日本心理学会第77回大会発表論文集,676.)について、これからお話したいと思います。
○ストループ干渉
ストループ課題は認知的葛藤を生じさせる課題です。認知的葛藤(コンフリクト)とは、1つの刺激が2つの認知属性を持っている場合、それらが一致していないとコンフリクトが生じ、反応が遅くなるというものです。代表的なストループ課題として、カラーワードストループ課題があります。たとえば、「赤」という色名単語を青色のインクで書いてあるものを提示し、その単語のインクの色を答えるという課題 (この場合は青が正解) をおこなうと、青インクで書かれた四角形を提示してその色を答える場合に比べ、反応速度が遅くなるという課題です。このように、色における視覚情報(インクの色)と言語情報(単語の意味)が不一致の場合に生じる反応の遅れ(コンフリクト)を、心理学ではストループ効果、もしくは反応が遅れるというネガティブな意味合いから、ストループ干渉と呼んでいます。
なお、実験参加者は、課題によって求められる反応が異なります。色名単語のインクの色を読むことを求められる場合と、色名単語の文字(意味)を読むことを求められる場合の2パターンがあります。
ストループ干渉は、 インクの色を読むときに、単語の意味から妨害を受けて、反応が遅れる現象を指します。言語的妨害を受けると考えられています。また、逆ストループ干渉は、単語の文字(意味)を読むときに、インクの色から妨害を受けて、反応が遅れる現象を指します。この場合は視覚的妨害を受けると考えられています。聴覚障害者がこれらの課題をおこなったとき、どんな反応をとると思われますか?
○聴覚障害者を対象としたストループ研究
通常のストループ研究では、実験参加者は音声言語による口頭反応をおこなうことによって課題を実施することが一般的です。しかし、音声言語ではなく手話によるコミュニケーションをおこなう聴覚障害者を対象にするため、音声言語による口頭反応ではなく、マニュアル反応によるストループ課題を用いました。マニュアル反応とは、単語が表す色に対応したボタンを押す手続きや対応する単語を所定の欄から選択する手続きを用いて回答するものであり、言語発達の過渡期にある子どもを対象としたストループ研究ではよく用いられている手法です。
私の研究では、聴覚障害群(先天性聴覚障害のある大学生)と健聴群(障害のない大学生)それぞれ31名が 実験参加者として実験に参加しました。実験課題は、箱田・渡辺(2005)が作成した新ストループ検査を用いました。4種類の課題(逆ストループ統制、逆ストループ干渉、ストループ統制、ストループ干渉)から構成され、時間内での正答数を指標として干渉率を算出するものです(干渉率 = {(各統制条件の正答数-各干渉条件の正答数)÷各統制条件の正答数}×100)。干渉率が高いということは、統制課題よりも干渉課題の方が成績は悪く、より干渉を受けており、認知的葛藤の影響が強いことを示します。
実験の結果、聴覚障害群は健聴群よりも逆ストループ干渉を受けやすく、ストループ干渉を受けにくい傾向にあることが示されました※図1。
※図1(画像はこちら>>)
逆ストループ干渉は、インクの色という視覚的情報による妨害を受けて反応が遅れることから、聴覚障害群は視覚優位であるがゆえに視覚的な妨害をより受けやすいということが分かりました。
一方で、聴覚障害群は健聴群よりもストループ干渉を受けにくいことも分かりました。ストループ干渉は、言語的な妨害を受けることによって反応が遅れることから、聴覚障害群は言語的な妨害を受けにくく、高い干渉の抑制能力があると考えられます。この理由として聴覚障害者の手話による記憶方略の使用の可能性が挙げられます。手話によるコミュニケーションを常用する聴覚障害者は、なにかを記憶する場合、文字情報ではなく、手話や指文字による能動的な記憶方略を使用するといわれています。言語的・音韻的なリハーサルを行う健聴群は文字からの言語的な妨害を受けやすいが、手話など形式的なリハーサルを行う聴覚障害群はインクの色を答えるときに言語情報に変換されないため言語的な妨害を受けにくく、視覚的な色情報へ注意をコントロールしやすいことが推測されます。
○まとめ
近年では、我が国においても、障害を排除するのではなく、障害と共生する社会やインクルーシブ教育の確立を目指す流れが大きくなりつつあります。障害のある人と共生するためには、まず障害の特性について正確に理解する必要があります。 本研究から、聴覚障害のある人に特有の視覚的情報処理過程が存在することが示唆されました。 聴覚障害のある人の認知的特性を実験心理学の手法によって科学的に実証することが、障害と共生する社会・地域を形成することへの貢献のひとつにつながると考え、私は心理学研究をおこなっています。基礎的な心理学研究ですが、これらの研究を通じて、聴覚障害のある子どもたちに対する教育や療育に対して新たな知見を提供することができることを願っています。
金沢大学人間社会学域人間科学系
准教授 荒木友希子
──■ あとがき
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