自分でできた、が自信に! ICT活用とキャリア発達

MAILMAGAZINE
メルマガ情報

2015.07.24

自分でできた、が自信に! ICT活用とキャリア発達

-TOPIC───────────────────────────────────
■ 連載:脳内情報処理の基本はストリーミング
■ 連載:自分でできた、が自信に! ICT活用とキャリア発達
──────────────────────────────────────

 

■ 連載:聴覚認知の仕組みと聴覚認知バランサーの活用のしかた
第3回 脳内情報処理の基本はストリーミング
──────────────────────────────────────
今回は聴覚認知バランサーの中でも特徴的なタスクといえる「色あて」について解説します。

●無意識であっても脳はいつもフルに活動している
われわれは目の前にコップが置いてある時、ただ見ているだけではありません。テーブルの上のどの位置に置いてあるか、中になにが入っているか、冷たいのか常温なのか、自分に供されたものなのか、今このタイミングで手に取って飲んでも良いのかなど一瞬のうちに思いをめぐらせます。そして自分に用意されたお茶(コーヒー?それとも水?)であると確信した時、手を伸ばし、手に取り、温度や重さや臭いを確かめ、口に運びます。

予想通りならいいのですが、思いのほかコップが軽かったり、熱かったりすると思わず、バランスを失ったり手を引っ込めてしまったりすることもありますが、普段ならおおむね予想通りにことを運べているのではないでしょうか。みょうにかしこまった席とか過度に緊張していると、予想通りにことを運べず、こぼしてしまったり、アッチッチと口を引っ込めたりと気まずい状況になることもあるでしょう。

ヒトは脳の10%しか使っていないなんて言う迷信が世にはびこっていますが、脳はこんな風にいつも意識下にフル回転しています。

●脳内情報処理の基本はストリーミング
見るという行為は、ただ眺めているだけではありません。
実際にはただ眺めるように見ているのではなく「視て」いるからです。
「視る」という文字の表す通り、視るとは脳(心)を使った高度な情報処理、認知を伴う行動です。視覚認知におけるこうした脳内情報処理に関する研究が進んだ結果、視覚認知には少なくとも「どこ(運動器と連動する知覚認知)」と「なに(意味的理解、言語と連動した認知)」に関する並列の情報処理経路が同時に行われていることが分かっています。こうした視覚における大脳皮質の複数の場所が連動した認知処理の経路のことを、視覚ストリームと呼びます。そして、そうした処理過程そのものは視覚ストリーミングと呼ばれています。さらに視覚はそれだけでなく、質感としての「どんな」とか、選択としての「どっち」という種類の認知処理も同時に行っています。

聴覚も同じように、複雑かつダイナミックに情報処理を行っています。聴覚の場合の「聴く」とは、ただ聞いている様ではなく耳と目を使います。聴覚認知の特徴は、「どんな」「なに」に加えて「いつ」というストリームを持っていることです。

聴覚は「いつ」という時間処理能があるために、文脈つまりことばの流れ、ストーリーを認知することができます。視覚は具体的な場所に関するオリエンテーションが優れていますが、ちらと見ただけでその時間配分を理解するのは苦手です。視覚は空間分解能において聴覚をはるかにしのぎ、一方で、時間という時系列情報処理においては聴覚が優れるのです。

しかし、ヒトの視覚と聴覚は「どんな」と「なに」という情報処理においては相互補完的な関係を持っています。これは良い意味での相互作用を生み出す一方で、情報が相反する意味を持ち合わせた時には、どちらかの情報を優先して処理することになります。わたしたちがよくやるうっかり、勘違い、見間違い、聞き間違いと言ったエラーの多くは、情報のミスマッチによるエラーの結果と言えるでしょう。脳内で有機的な情報処理がなされず、良い言い方をすればトップダウン処理による脳内での情報修復、悪い言い方をすれば思い込みや注意不足という事態を引き起こします。聴覚と視覚はつねに協調したり、競合したりする関係にあって、その結果として良きにつけ悪しきにつけなんらかの判断をしているわけです。

●言語的理解は視覚と聴覚のせめぎ合いから生み出される
「音声と文字の色は同じですか?」と音声で問われた時、われわれの脳は、設問の意味を考えて、その問いが色を問うているのか意味を問うているのかを判断し、その後に適切な解が、見えたままの情報にあるか、文字という学習した情報のどちらが正当であるかを判断します。

色を見て「どんな」という視覚認知判断をしなければなりませんが、目の前の入ってきた文字も当然読み込んでしまいます。つまり、文字の意味を理解するという言語的な脳内処理が無意識に生じる訳です。この時、文字と色が異なっていると脳内では、視覚の「どんな」ストリーミングでの認知と、聴覚の「どんな」ストリーミングでの言語的認知にアンビバレントな関係性が生まれます。この時、普段から直感的に情報処理する人なら、意味と色が違っていたら色に対するレスポンスが生じますし、論理的に考える癖が強い人なら、文字の理解が直感的理解よりも強くなることでしょう。こういった時ミスマッチによって視覚か聴覚のいずれかが他方を上書きしてしまうことが起こります。視覚と聴覚のこうした情報認知における競合こそが、学びの困難さにつながります。視覚と聴覚のそうした競合、混乱の起こりやすさは、聴覚を使っての学びの多寡が影響しているのではないかと私は考えています。

●ストループ効果と色あて
「音声と文字の色は同じですか」と色名を答える質問を行った場合、誰しも赤色で書かれた「あか」の色名を答える場合より、青色で書かれた「あか」の色名『あお』を答える方に時間がかかってしまう傾向があります。こうした2つのモダリティが異なる時に起きる現象は、1935年に心理学者ジョン・ストループによって報告されました。彼が報告したことにちなんで「ストループ効果」と呼ばれています。

※Wikiストループ効果 (詳細はこちら>>

聴覚認知バランサーのタスク「色あて」について解説します。
このゲームは、赤い色でももいろと書かれた文字やその逆のパターン、あるいは色も文字も一致したパターンの文字が次々に画面に表示されます。画面には前半5問で「音声と文字の色が同じですか?」後半5問で「音声と文字の意味が同じですか?」と設問が表示されており、読み上げられた音声を聞いて、表示された文字の色と同じか、表示された文字の意味と同じかを当てていきます。ゲーム終了時には、色あての正答率と回答までにかかった時間から算出された得点と指数が示されます。

●聴覚認知バランサーでストリーミング処理能力を高めよう!
聴覚認知バランサーの「色あて」タスクは、ゲーム感覚でストループ効果の程度を評価することができます。ストループ効果を評価する他のゲームとしては、ニンテンドーDS専用ゲーム「脳を鍛える大人のDSトレーニング」があります。そこでは脳年齢チェック課題として採用されています。繰り返しゲームをすることでスコアアップをすることができますが、それ自体が脳年齢を若返らせているとは言えないようです。あくまでも視覚と聴覚の混線が起こりにくい視聴覚認知経路を育てるためのゲームと理解した方が良いようです。

ちなみに、ストループ効果が強く出てしまう人の中には、抑うつ傾向や学習障害などの発達障害の傾向がその背景にあるという報告もありますから、スコアが極端に悪い、練習してもスコアアップしない場合には、専門家に相談するのが良いかもしれません。

※補足 難聴など聞こえの明らかな不調がある人は、補聴器をつけたり、十分に聞き取れる音量で色あてゲームを行ってください。

中川雅文・国際医療福祉大学教授
国際医療福祉大学病院耳鼻咽喉科部長

◯参考図書 中川雅文著 耳と脳 臨床聴覚コミュニケーション学試論
医歯薬出版 2015 (詳細はこちら>>

 

■ 連載:子どもたちの夢や願いを支える
最終回:自分でできた、が自信に! ICT活用とキャリア発達
──────────────────────────────────────
今回は現在、地方の製油会社に一般就労し2年目の自閉症のSさんを紹介したいと思います。先日その会社の慰安旅行で、同僚の若い社員の方々と一緒に舞台で踊っている写真がブログに更新されていました。障害の有無にかかわらず会社の一員として働き出したSさんが、高等部での3年間の学校生活や家庭生活の中でどのような経験を積みかさねてきたのかをご紹介できればと思います。また、ICT機器の活用で、SさんがiPadに出会って変容した姿をお伝えしたいと思います。

一般就労ができたというと「障害が軽いのですね」と言う返事が返ってきそうです。ですが、子どもたちの夢や願いを支える上で一番大事だと思うことは「できる・できない」ということでSさん個人の現能力を推し量ることではなく、子どもたちの夢や願いを実現するために必要なことは何か、どのような手立てや環境を整えていくべきか、支援する側の指導や支援のあり方を工夫することが大事であると思います。キャリア教育で示される「能力」はcompetencyであり、課題への対処能力を意味し、「育成」をするという姿勢が大事であるといわれています。

自閉症で知的障害のあるSさんは、自分の感情を表現することや、人とのコミュニケーションがとても苦手で、自分の興味関心のあることを優先して話をする傾向がありました。質問されたことに返答をせず、場に応じた会話が成立しなかったりするところがありました。また、経験不足から自信が持てずに指示を待つことも多く、自己選択・自己決定の力をつけていくことも必要でした。その反面、まじめで温厚なSさんは、明確な指示を得ることで何事にも一生懸命取り組むことができ、カメラで写真を撮ることに興味を持ったり、パソコンや携帯電話などを活用したりすることが期待できました。そこで、Sさんが得意なことや興味・関心を持って取り組めるところに焦点をあて、その活用から経験を積み自信を持って行動することに、学校と家庭で連携して取り組むことにしました。

●実践事例? 一人で行けちゃった。サポーターはiPad!
【目的】
将来の生活の質・人生の質をより豊かにするために一人でいろいろなところに出かける。体験を通して、自分でもできるという自己効力感から自信をもつことができる。

【経緯】
高等部2年生までは、通学以外は、一人で公共交通機関を利用して出かけたことがあまりなかったSさんです。学校の教育活動の社会生活という授業で公共交通機関や施設の利用について学んだことや、クラスの校外学習で実際に体験を積み重ねて培った力を、生活の中で汎化していくことが必要でした。

この取り組みは、ご家族の支援も必須です。Sさんの行ってみたい場所は、「東京のお兄さんの下宿に一人で行きたい」でしたので、そこをゴールに目指すことにしました。どこまで一人で遠出できるか半信半疑でしたが、自分の立てた目標に向かうことで意欲が高まったように思います。また、同時に、iPad活用においても、ナビ機能、マップ、メモ、検索、乗り換えアプリなどの操作を学習しながらチャレンジすることができました。ご家庭でも、放課後にパソコン教室に通うなど、卒業後の生活を見通して、ICT機器類の活用の支援もされました。

学校の校外学習でiPadを使って道やお店を検索したりするとともに、土日や長期休業中に、自宅のある四日市から公共交通機関を利用する距離を伸ばすことで学習を進めることにしました。距離が伸びることは、Sさんにとって達成したことを理解しやすいものでした。それらの体験を通して、一人で困った時や分からなかった時に 駅員さんに聞いたりすることもできるようになりました。このように、名古屋→静岡→東京と公共交通機関で出かける距離を伸ばしながら、最終的に2年生の秋に東京都立川市の兄の下宿に、iPadを片手に持って一人で行くことができました。

目標達成後の本人の満足感はひとしおで「自分でもできる!」という自己効力感から自信がついたようです。私も東京にSさんが一人で出かけた時に、場所を決めて待ち合わせをしたのですが、待ち合わせ場所に一人で現れた時に「本当にできた!」と驚きと感動を感じました。東京駅から中央線への乗り換えも無事こなすことができ、立川駅から下宿までの道も住所から検索しながら対応したようです。
どのようにiPadを活用してきたのか聞いてみると、難しいアプリを活用したのではなく、マップに目的地をピンで印をして対応していたことにも驚きました。本人が興味を持つことであれば どんどん自分で探りながら目的を達成してしまうところがすごいところです。周りの人が、初めから使えないと判断してしまうところがあるとしたら 子どもの持つ可能性を見いだすきっかけをなくしてしまうことになるのではないかと感じます。
※道路で、iPadで検索するSさん (画像はこちら>>

目標が達成したことで、Sさんは土日に一人で映画を見に行ったり、好きな温泉に出かけたりできるようになりました。次第に友達を誘って一緒に出かけたりすることも増え、Sさんが一人で出かける姿は、後輩にとって「自分もできるかもしれない」といういい刺激になりました。
※列車の中でもiPad (画像はこちら>>

まだ課題はありますが、自信をもって積極的に校外にでかけることが増え、友だちからも一目おかれる存在になりました。このように余暇活動の拡がりにつながり、本人からは「初めての場所でもiPadがあれば大丈夫」という頼もしい言葉が返ってくるようになったことはiPadに出会えたことによると思います。

現在では全国障害者スポーツ大会など、取り組んでいるスポーツのイベントに家族以外の人と宿泊を伴う活動もでき、その様子をブログに紹介したりもしているSさんです。(ブログについては後述します)

【iPadの活用方法】
1) 自分の行こうとしている場所をサファリで検索する。
2) 検索した場所をマップでピン打ちする。ピン打ちしたところを拡げながら、目的に向かう。
3) 乗降する公共交通機関の時刻表をサファリで検索し、乗り換えアプリを活用する。
※乗り換えアプリで出発時刻を入力 (画像はこちら>>
4) 必要なことや買い物メモ、出来事をメモする。
*「マップ」「サファリ」「カメラ」「メモ」「リマインダー」「乗り換えアプリ」などを活用
※様々なアプリを活用するSさん (画像はこちら>>

●iPadを持って東京に一人で行けたのはなぜ?
・GPS機能とカメラ機能
携帯についているのと同様にiPadにGPS機能があることで、道に迷った時に相手に居場所を知らせることができます。このことは、一人で出かける際の安心感を与えてくれるものになります。また、道中で本人が撮った写真やメールには、「いつ・どこで」ということが記録されるので、伝達することが苦手な生徒にとって、自分が今どこにいるかを伝えたり、ここに行ってきたということを伝えたりするための有効なツールになりました。

デジカメとiPadの違いは、このように撮ったものをすぐにメールできるところにあります。道中でたくさんの写真をメールで送ってきたので、今何をしているかがよく分かりました。保護者も安心して、一人で遠出させることができたのではないかと考えます。

・メモやリマインダー
メモには、時系列に細かくスケジュールを書き込んだわけではありません。
主要なこと、忘れてはいけないことなどを、明確に指示する形で書きとめました。不安になった時に確認していたようです。また最近では、メモにその日に使ったお金を記帳し、小遣い帳として記録することも行っています。メモ帳や筆箱を持っていなくても 字が分からなくても検索できます。その場で容易にメモをとることができるところがiPadのよさの一つです。

・マップ
どのように一人で行けたのかを本人に確認すると、マップを見せ、自宅と兄の住んでいる立川の駅に印をつけ、その地図を指で広げながら「こうですよ。こうするんです!」と地図を示しました。東京駅での乗り換えもマップを見ながら移動したようです。スクロール、タップ、ピンチなど操作が容易であることも、子どもの探究心を促すことができたのではないかと考えます。

・必要なものは片手に持つiPadに収まっている
どこでもインターネットに繋がる3G機能やカメラ、パソコン、メモ帳、電卓、時計、これらすべてがiPadに収まっています。片手にiPadを持ち、操作しながら移動できたのではないかと思います。

「わからないことは人に聞きましょう」と私たちはよく言いますが、人に聞くことが苦手な子どもたちにとっては、iPadの利便性がサポーターに成り代わってくれるのではないかと考えます。

●実践事例 ? 僕の紹介!
スクラップ→アルバムづくり→電子スクラップ→ブログ

【目的】
卒業後の生活を視野に入れ、自分で写真や記事や出来事を選び、アルバムづくりやスクラップ、ブログが作成できる。それらを通して自分をアピールすることができる。

【経緯】
Sさんは、いろいろな思いや考えを持っていますが、口答で自己紹介や自分の気持ちを表現することが苦手です。また、興味関心も限られており、いろいろなことへの関心をひろげることも課題でした。

その課題を解決するために、1年生の後半から毎日、新聞の記事で関心のあることをスクラップしてコメントを書き、朝の会で報告する活動を始めました。大きなニュースに限らず、生活に密着したものや商品紹介の記事など様々なものをスクラップし、発表しました。クラスの仲間もその影響で「自分もやってみよう」とチャレンジする生徒もおり、学び合いが広がりました。

1.スクラップ
新聞の記事で気に入ったことを切り抜き、コメントを添え、朝の会のニュースで発表する。家庭との連携で行う。保護者は初め半信半疑で、理解できるだろうかと考えてみえましたが回を重ねる中で、様々なものに興味を示すSさんの感性の豊かさに気づかれました。また、記事の場所に自分で出かけるなど行動範囲も広がっていきました。新聞により社会の出来事に触れ、親しむことができました。

2.アルバム
iPadを持ち歩き、自分の気に入った写真をたくさん撮るようになったSさんです。写真を撮ることは、自分で何を撮りたいのかを選んで決める自己選択の力を育むことにつながっていると考えます。Sさんには、たくさんある写真の中から寸時に、出したい写真を選ぶ能力があります。アルバムのアプリを活用してアルバムづくりをすることで、自分はこんなことに関心があるということを自らにも、周りの人にも知ってもらうことになるのではないかと考えました。現場実習でお世話になった人や、いろいろな場面で出会った人に写真を見せることで、話題を広げるきっかけになりました。
※アルバムアプリの画面 (画像はこちら>>

★エピソード
パート勤務の方々と一緒に食事をする際に自分の作ったお弁当を見せて、すごいねと言ってもらえたというメールがきました。iPadのアルバムに入っている自分が撮った写真を見せて会話が弾んだことは、コミュニケーションが苦手な本人にとって課題解決に近づいた場面であったと思います。
※アルバムアプリに入ったSさんのお弁当の写真 (画像はこちら>>

3.電子スクラップ
前述したように1年生から毎日、新聞の記事を自分で選び、朝の会で紹介する活動に取り組んできました。スクラップブックに切り抜いた記事を貼ってコメントをつけてきましたが、その活動をiPadですることでもっと簡易にできないものかと考えました。そこでアプリ「DAY ONE」を活用して電子スクラップにチャレンジしました。すると3年生になって毎朝、自分でプロジェクターにiPadをつなぎ、報告できるようになりました。スクラップから電子スクラップへ移行しながら、日常の生活や地域社会で起こっている出来事に関心を持てるように活動を継続しました。記事を選択し、自分の感想をコメントすることで、考えをまとめる機会にもなると考えます。
※朝の会で発表するSさん (画像はこちら>>
※「Day ONE」は電子スクラップで日記が作れる (画像はこちら>>

4.ブログ
1年生から毎日、日記を書く取り組みをしました。その経験は、スクラップや電子スクラップにつながりました。そこには、卒業後の生活を見通して、自分から発信できるようになり、新たな人との出会いや仲間とのつながりに移行してほしいという願いがありました。そこで学校の行事や休日の出来事をブログに書き込み、記録として残すことを試みることにしました。

ブログは自分からの一方的な発信であり、すぐにコメントが返ってこないところがあるので、他のソーシャルネットワークよりもトラブルが少ないのではないかと考えました。ここでも家族の方と話し合いをした上で取り組みをしています。

3年生の2学期後半から始め、写真を貼り付け、その日にあったことを文章にして積極的に更新しています。そのブログを朝の会で報告すると、クラスの仲間から「すごいね」と言われるなど他者から肯定的な評価が得られることで自信を持つことにつながりました。現在では、自分の生活を振り返ったり、仕事場での出来事を写真にとりアップしたりするなど、ブログがあることで、Sさんのその時々の状況が支援者など関わる人に伝わりやすい状況ができています。職場の人にとっても、Sさんが考えていることや困っていることなどが把握でき、家庭や職場をつなぐツールとして活用できるのではないか思います。
★Sさんのブログ (詳細はこちら>>

●実践を振り返って
学習の中で働く・暮らす・楽しむの3つの要素を大事にしてきました。その中でiPadを活用し、Sさんのニーズに応じた指導や支援を家庭と連携して行ってきました。個々の力を補うための手段として、iPadなどのICT機器を活用することで、広がる可能性が生じたように思います。
※働く・暮らす・楽しむの関係 (画像はこちら>>

・iPadなどのICT機器の活用において大切なことは、使うことを目的にするのではなく、何のためになぜ使うのかを明確にすることであり、学校から生活への汎化が求められるところです。Sさんは既存のアプリを活用し、本人自身が何に使うのか、何のために使うのか、自身の興味関心をもとに活動できたことで、自らiPadのもつ機能を発見しながら活用する姿につながったように思います。教えなくても自ら探し出し、見いだす姿や私たちの予想に反する姿も見せてくれたSさんです。一人で出かけるための取り組みが、友達と出かけるという活動になり、人との関わりの幅がひろがり、さらに自信を持つことができたようです。

・校外に出かける活動においては保護者との連携も密になり、支援の方法を話し合うこともできました。Sさんに今何を身につけさせたいか、そのことを共有でき協力して進められたことも就労へつながった要素だと思います。そこでiPad等のICT機器を卒業後の自立をサポートするツールとして活用していくことができました。現在も余暇活動での活用だけでなく、職場で困った時や分からない時にiPadで写真を撮ったりしているようです。Sさんの生活の中で、iPadはなくてはならない支援機になっています。

・子どもたちの可能性を探ることが、支援者である私たち教員に求められていると思います。今回は、Sさん自身が目標を理解し取り組み、iPadの活用を通じて様々な出会いをした中で、「すごいねぇ」「頑張ってるね」などと他者からの評価を得る場面が多々ありました。そのことがSさんにとっての自己有用感や自己肯定感につながったのではないかと思います。

キャリア発達を促すということは、学校の教育活動だけで完結するものではありません。家族を含め地域の様々な人や機関とつながり合い、支え合うことで、子どもにも支える側の私たちにもキャリア発達が促されるように思います。

子どもの夢や願いを支えるために何をすればいいのか、将来に向けて「ありたい」「なりたい」という願いを子ども自身が考え、意味づけしていくことがキャリア教育では大切なことです。経験不足や障害の状態により、子どもたちは、夢や希望を語れないことがあります。子どもたちがなりたいものを語れるように丁寧に聞き取ったり、保護者と協力し合うことも必要であると思います。

子どもたちの願いや夢は変わっていきます。「女優になりたい」といった生徒の夢は3年後に「嵐に会いに東京に行きたい」に変わったり、「大きな家を建てたい」といった夢が「働いてお金をためたい」などに変容したりしていきました。経験や体験を通して、現実的な夢に変容していったと言えると思います。

Career Development:キャリア発達は、個々に応じたものでありますが、同時にキャリア開発という意味を持ち、周りが刺激され、掘り起こされることにつながります。今後も子どもたちの夢や願いを大切にしながら、支えるために教育とはどういうものか、子どもたちの卒業後の生活を見据えて「生きる力」を支えていきたいと思います。

5回のシリーズの機会をいただき 自分の実践を振り返る機会となりました。
現在、肢体不自由の学校で、子どもたちの夢や願いを支えるために実践しているところです。今後も、子どもたちが将来の自分の生活を意識し、それぞれの役割を担って社会人として前向きに生きていく力をつけるために、自分自身の夢や願いを実現するための当面の目標を立て実現していこうとする力や態度を育成していきたいと思います。
ご高覧いただき感謝しています。ありがとうございました。

◯参考資料
・文献:実践キャリア教育の教科書 学研出版 菊地一文
(詳細はこちら>>
・Webページ:魔法のプロジェクト
魔法のふでばこ研究成果 (関連ページはこちら>>
魔法のじゅうたん研究成果 (関連ページはこちら>>
魔法のランプ成果報告書と推奨事例 (関連ページはこちら>>

逵直美・東京都立光明特別支援学校教諭
前三重大学教育学部附属特別支援学校

 

■ あとがき
──────────────────────────────────────
梅雨が明けたと思ったら猛暑続き。小まめに水分補給に努めましょう。

次回メルマガは、8月7日(金)です。

メルマガ登録はこちら

本文からさがす

テーマからさがす

全ての記事を表示する

執筆者及び専門家

©LEDEX Corporation All Rights Reserved.