障害について共通に話し合うためのツール: ICF

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2015.06.12

障害について共通に話し合うためのツール: ICF

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■ 連載:障害について共通に話し合うためのツール:ICF
■ 連載:情報入手の手段・2:聴覚認知メカニズム
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■ 連載:子どもたちの夢や願いを支える
第3回:障害について共通に話し合うためのツール:ICF
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前回は、Bさんが卒業までに学校でどのような経験をしてきたのか、5つのエピソードを通して、社会参加と自己実現に向けてどんな力を育んできたかを知っていただけたように思います。「将来は、働きたい!一人暮らしもしてみたい!」Bさんの希望の進路につなげるために、学校という枠組みの中でできるかぎりのことを創意工夫しながら実践してきました。

Bさんには、家族が住む地域に戻りたいという強い思いがありました。しかし、その地域の社会資源はまだ充実しておらず、将来的に働く場所がありませんでした。また、家が港に面したところにあり、地震が起こったときに津波が押し寄せるという不安がありました。さらに、姉弟が多く、日常生活全般に支援が必要な自分への家族の負担など、今後の生活への不安を強く感じていました。

「先生!僕は 地元に帰ったら寝て死ぬのを待つばかりや」と言ったときは本当に胸が痛みました。そこで、Bさんの社会参加と自己実現を可能にするための生活の本拠地をどこにするか探してみることにしました。卒業と同時に働き、自立生活をスタートさせるにはまだ力不足と感じましたので、職業訓練校や自立生活を体験しながら生活と就労への力をつける場所につなぐことにしました。

●職業能力訓練校や障害者リハビリテーションセンターに入りたいけど、、

いくつかの公共職業能力開発施設には、職業訓練を受けることが困難な重度障害者等に対して、その障害の態様に配慮した職業訓練を実施する場所があります。入所施設もあるので、訓練の場と生活の場があることは進路先として望ましい場所でした。

○国立機構営校 (2校)※1
○国立県営校 (11校)
○県立県営校 (6校)
厚生労働省 障害者の方を対象とした職業訓練(詳細はこちら>>
※1 国が設置し、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営する障害者職業能力開発校

しかし近県では愛知県にありますが、三重県には職業能力開発訓練校はありません。また、重度障害者への訓練校はあるのですが、生活全般で自立していることが求められ、日常生活の様々な場面で支援が必要なBさんにとっては厳しい現実がありました。職業訓練には自立していることが求められる、その理由も分からなくはないのですが、障害が重く身辺自立が難しい生徒の就労意欲をどのように実現していけばいいのか、今現在でもその課題は山積しているように思います。

私自身あきらめきれずにその当時、介助者がつくかもしれないという埼玉県所沢市の国立障害者リハビリテーションセンターに何度も見学に行き、受け入れが可能かどうかを探りました。しかし最終的に、ここでも入浴やトイレなどの生活全般への支援がつかずあきらめることになりました。

国立障害者リハビリテーションセンター (ウェブサイトはこちら>>
国リハ・自立支援局 (ウェブサイトはこちら>>

残念ながらBさんの進路先にはならなかったのですが、その情報を活かして同じ学年のCさん(女性)が卒業と同時に国立リハビリテーションセンターに入所し、訓練を受けて現在、東京都内で事務をしながら一人暮らしをしています。Cさんは、Bさんたちと一緒に出掛けた東京への修学旅行で、自分の行きたい場所への自由行動が実現した時に、ここで働き生活したいという思いが強くなったのです。その夢の実現に向けて強い意志を持ち、家族や行政の支援もあり、現在も東京で過ごしています。

このケースは、県外で就労移行できた先駆的な事例になったようです。自分の夢があるということは、生徒自身がその実現に向けて自ら考え行動し、変容していくことになることを実感できたケースでした。

●障害者の下宿屋って何?

Bさんの希望する進路を実現するために県内の施設ももちろん探したのですが、まず社会資源の豊かな場所で快適に過ごしていきたいという願いの実現を優先すると、選択肢は県内に限らないと考えました。

愛知県にある社会福祉法人AJU自立の家は、楽しくなければ福祉でない!というスローガンの下、長年障害者の生活をサポートしてきた法人です。この法人には学校から生徒や保護者と一緒の進路見学会を実施するなど、協力していただきました。障害があるという理由だけで、人任せで受け身の生活を送るのではなく、一人の人として主体的に生きることを実現することを目的としています。地域で自立生活を目指すために最長4年間、様々な経験をしながら過ごす下宿屋として、いろいろなことにチャレンジできる場所として活動しています。

Bさんも法人の主旨を理解して、自分の進路先として考え始め、3年の時から密にコンタクトを取り、宿泊体験を重ねました。卒業後の生活を支えるために必要な地元行政のサービス受給などについても相談しながら進め、担当の職員の方が愛知県から何度も地元での会議に参加してくれました。Bさんが一人で生活していくために必要なヘルパーさんの時間数を最大限引き出すことができたのも、このサポートがあったからこそだと思います。

教員として慣れないサービス受給の計画も本を見ながら算出し、支援会議に提出しました。今では地元の相談支援センターが充実し、その役割を担ってくれているのではないかと思います。

「僕は、僕の道を行く」卒業を目の前にした進路報告会で、Bさんがパワーポイントを活用し ヘルパーさんと一緒に道を歩く姿を提示しながら話した一言です。これは、高等部の3年間、悩みながら一歩ずつ自己選択・自己決定をしてきた結果の先にあった言葉だと思います。

自分で考え行動する。言葉では、簡単にいえることですが、それを支援していくために、私たちは何をするべきか。できないではなく、できるようにするために何をするべきか。一人でできないことを実現するのは、いろいろな人の力をつなぎあわせていくことだと今、振り返っています。

昨年度からBさんは名古屋市で、一人暮らしを始めました。まだ一般就労はしていませんが、AJU自立の家を中心に自分の体験談を話すなどの講演や、自分と同じように自立生活を目指す人たちのサポートをしながら生活をしています。私もAJUのお世話になった方にときどき連絡を取り、元気に過ごしている近況を聞いています。元気にたくましく生活しているBさんをこれからも遠くから見守ってきたいと思います。

●話し合いのツール:ICFの活用

施設併設の学校でしたので、Bさんの進路を考える上で教員、医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士や施設指導員など、多くの職種の間で話し合う場がありました。その時に、国際生活機能分類(ICF)の視点を生かすことによって、職種を超えた共通の議論ができました。具体的には、障害をその個人固有の特性として捉えるのではなく、社会活動への参加制約等、環境との相互作用の中で捉えることです。ICF関連図を作成することで、生徒に関わる多様な人と支援の具体的な手だてを共通理解し、実践を行うことができました。その結果、生徒たちの自己実現と社会参加につなげることができたように感じます。ICFは、卒業後の生活をより豊かにするための一つのツールになると実感しています。

国際生活機能分類(ICF)・・・世界保健機関(WHO)が作成したものです。
身体機能のみならず、社会参加や活動も視野に入れ、障害者や病気というマイナスの側面だけでなく、プラスの側面を加味して中立的な立場で理解していくためのものです。ICFを話し合いのツールの一つとして活用することで「障害があるから○○できない」ではなく「□□したらできるね」「△△するためにどうしたらいいだろう」といったような形で話し合うことが期待できます。

ICF関連図・・・ICFの概念図を模した図に、対象児/者の情報を整理して書き入れ、個々の情報やその相互の関連などを検討するためのものです。WHOから出されたものではなく、ICFを活用しようとする取り組みの中で出てきたものの通称です。

ICF関連図には、対象者の多くの情報を盛り込み、実態把握などに使われる通称「全体図」や、ある特定の内容の実態にしぼったり、特定のゴールを想定したりして、ケース会議等で使われる通称「部分図」等があります。ICF関連図は、書き込まれた情報の中から対象者の課題や指導・支援の手がかりを検討するためなどによく使われています。また、話し合いのツールとして使われる他に、進級等の際の引き継ぎのための資料としても使われています。

関連図については文科省や厚生労働省のHPの資料を参照してください。
また、筆者も全国の仲間とともにICF-CY JPNという組織でホームページを運営しています。その実践内容をまとめた書籍を、ジアース教育新社から出版していますのでご覧ください。

文部科学省資料 (詳細はこちら>>
厚生労働省資料 (詳細はこちら>>
ICF-CY JPNのホームページ (ウェブサイトはこちら>>
国立特別支援教育総合研究所:特別支援教育におけるICF-CYに関する実際的研究 (詳細はこちら>>

ICF関連書籍の紹介

「ICF活用の取り組み」 ジアース教育新社
「ICF及びICF-CYの活用 ~試みから実践へ~」 ジアース教育新社
「特別支援教育におけるICFの活用 Part3」ジアース教育新社
「ICF 国際生活機能分類ー国際障害分類改訂版ー」 中央法規

次回は、知的障害の学校での取り組みを紹介します。昨今、障害者差別解消法が施行され、合理的配慮や基礎的環境整備が話題になる中で、ICFの活用が注目されています。その話題にも触れていきたいと思います。

逵直美・東京都立光明特別支援学校教諭
前三重大学教育学部附属特別支援学校

 

■ 認知機能の発達、学びとその支援
第4回:情報入手の手段・2:聴覚認知メカニズム
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直近に行った講演のスライドを下記にアップしました。千葉県君津地区自閉症協会主催で4月26日に実施した時のものです。
(詳細はこちら>>

この30ページは川端秀仁・かわばた眼科院長の講演資料からの抜粋で、視覚と並んで聴覚が外界からの情報を入手する主要な手段となっていることを理解いただけると思います。

ただし、視覚よりもさらに複雑な側面が多々あります。第一に、音が聞こえるかどうか(聴力)という点、第二に、聞いた音が情報として正しく理解できるかどうか(聴覚認知)という点、さらには、発達障害のある人に特有である、一定の音に抵抗を感じる聴覚過敏という問題があります。

1.聴力
音を感知するのは内耳の有毛細胞で、かなり複雑な仕組みです。その解説は専門書にお任せするとして、ざっくりといえば、高さの違う音ごとに反応する「たくさんのマイク」が並んでいるとお考えください。そう考えると、いくつかのマイクの精度や状態によって、聞こえる(聴きやすい)音と聞こえない音があることが想像できると思います。

代表例を一つ上げれば「モスキート音」です。20歳後半以上の年齢の人には聞こえない高い(高周波数)の音があり、それによって公園等に若年層の人を長く滞留させないようにするなどが知られています。

※Wikiモスキート (詳細はこちら>>

このように「共通して聞き取りにくい」音があることと、背の高さが一人ひとり異なるように「人によって」聞き取りやすい音と聞き取りにくい音がある可能性があることを知っておきたいと思います。

2.聴覚認知
音声に気づけるかどうか(注意)、音のつながりを正しく語彙や文として認識できるかどうか(辞書と文法)といった点は、視覚認知と似ています。最も大きな違いは、視覚はなんども見直すことができるのに対し、聴覚は1音1音が時系列で消えていきますので、記憶することが求められるという点です。多人数での会話になると、それぞれの人の話した内容を覚えていて、それらを参照しながら考えるという複雑な作業が求められます。一言でいえばワーキングメモリといえるでしょう。

これらは視覚認知と同じように、複数の認知機能が連続的に使用されますので、どこかに弱い部分があるとボトルネックになります。つまり、聞く力が弱いといっても、どの力が弱いのかによって対処方法が異なりますので、聴覚認知に関する様々な耳や脳の働きをチェックする「聴覚認知バランサー」のようなアセスメントツールが必要になります。

3.聴覚過敏
発達障害のある人は、聴覚だけでなく様々な感覚に過敏な場合、逆に鈍麻な場合があります。鈍麻は気づかずに困るという面がありますが、過敏は不快に感じることで他の活動を阻害するという点でより大きな問題になります。

視覚は目をそらす、触覚や味覚は避ける、という対処が比較的容易なのに対し、身の回りに常に様々な音が発生している環境を避けるのが難しいという点で、聴覚過敏は大きな問題となります。

多くの人は、自分が聞くべき音だけに集中し、それ以外の音は聞かないようにするという脳の働きがあります。が、その力が弱い人が多いのが発達障害のある人たちです。何かができない、何かをしてしまうといった困りに聴覚過敏や他の過敏や鈍麻が潜んでいないかはチェックが必要です。

原因が分かれば、特定の音を遮断するイヤーマフなどの活用も検討するとよいでしょう。

4.聴覚でないと理解できないこと

発達障害のことが理解されるにつれ、視覚支援が通常学級でも取り入れられるようになってきました。ですが、視覚と聴覚がセットになって初めて理解できるものがあるという点は認識しておく必要があります。

例えば「大きい」という言葉を使えるようになるのは大変難しいです。昆虫の大きいと動物の大きいでは、実際の大きさ(長さや体積)は異なります。それでも多くの人はその言葉が使えるようになります。それは◯◯だったらこのくらい以上が大きい、△△はこのくらい以上が大きい、などと暗記して覚えた訳ではありません。様々なものを見た時、他の人が話した言葉が組み合わさって、1つの言葉に(文脈ごとに異なる)様々な意味があることを理解します。また、その言葉をいろいろな場面で自分で使ってみて、それに対する他の人の反応(言葉や表情)を感じて、だんだんと言葉を正しく使いこなせるようになっていきます。

その意味で視覚に劣らず、聴覚は大切で、聴覚認知を高めていける工夫が大切になるのです。

まとめになりますが、視覚や聴覚など外見からだけでは分からない困りの、どの部分(認知機能)が弱いのかを知り、対応を調整すること。さらに、それらを少しずつ高めていけるように支援することが「様々な認知機能の発展途上の状態にある」子どもの周りにいる人に必要なことだと考えています。

(五藤博義)

 

■ あとがき
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6月20日(土)に金沢でお話をさせていただきます。メルマガで紹介している一連の内容に加え、子どもたちの可能性を広げるタブレットについても実例を示しながら紹介させていただく予定です。
(詳細はこちら>>

次回のメルマガの発行は、6月12日(金)です。

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