認知機能の個性と年齢による発達

MAILMAGAZINE
メルマガ情報

2015.04.10

認知機能の個性と年齢による発達

-TOPIC───────────────────────────────────
■ 連載:認知機能の発達、学びとその支援
■ 書籍:脳の個性を才能にかえる-子どもの発達障害との向き合い方
──────────────────────────────────────

 

■ 連載:認知機能の発達、学びとその支援
第1回:認知機能の個性と年齢による発達
──────────────────────────────────────

親の会や教員研修でお話をさせていただく機会が増えてきました。そこで、メルマガ読者の方にも、私が講演でもっともお伝えたいポイントを、何回かに分けてご紹介したいと思います。

1.認知機能の脳における局在性

人間(の部位)は様々な活動をしています。心臓を動かす、呼吸をする、等は無意識に行われていますが、それらも含めたすべての活動は、脳を中心にした神経系が制御しています。大雑把にいって、生命を維持するための活動を除いた、知覚、記憶、判断などの認知や感情、運動の制御など、いわゆる人間らしい活動を高次脳機能といいます。

高次脳機能のいろいろな機能(認知機能ということにします)は、それぞれ脳の特定の部分が担当していることが分かっています。それらは戦争や事故などで、脳の一部に損傷を受けた人が、特定の認知機能を失う(高次脳機能障害)ことから、だんだんと解明されてきました。脳の部位に名前(番号)をつけたのがブロードマンの脳地図※1で、それぞれの部位(○○野)がどんな機能を担当しているかは、現在はかなり分かっています。
※1 ブロードマンの脳地図wiki こちら>>

足の長さや手の大きさなど、他の身体部位と同じように、脳の大きさや形も一人ひとり異なっていますから、記憶や注意などの認知機能が人によって異なることがご理解いただけると思います。

2.年齢と認知機能の発達

人による違いの他に、年齢による違いがあることは覚えておいてほしい大切なポイントです。また、それぞれの認知機能の発達は一律ではなく、年齢によって伸びる時期が異なります。発達段階、という言葉はこのことを指していると思って間違いありません。

ただ、認知機能はさまざまな種類があり、すべての認知機能の発達の推移を知っておくのは難しいことですが、大まかに知っておいてほしいポイントを挙げてみます。

●聴力と視力: 外界からの情報獲得はこの2つが80%以上といわれます。ただ聴力は胎内にいる時からかなり発達しているのに対し、視力は生まれてすぐは0.1以下、だんだんと成長しますが 1.0くらいになるのは、なんと3歳になる頃です。もちろん、聞こえても見えても、その意味が分からなければ行動に役立てられませんが、小さな子どもの視力がまだ育っていないことは周囲にいる人は知っておく必要があります。

●愛着: 特定の人につながっていると感じ、安心していられる状態です。
多くは3~4歳頃までにこの状態になります。それまでは、その状態を得るために、愛着の候補者である特定の人(母親や保育園の保育士さん)を対象に、後追いをしたり、わざと自分に対する気持ちを確認するための試し行動をしたりして、特定の人の気持ちを確認しようとします。それらを愛着行動といいます。
ご確認いただきたいのは、発達させるべき認知機能は、何かができるということの他に、何かをするために必要な気持ち(情動)の状態を持つことが含まれるという点です。愛着は、心の安定をもたらすために必要不可欠な機能で、これを持って始めて、外界に向かって自信をもって行動できるようになります。

ここで注意しなければならないのは、愛着行動の出現する時期が人によって異なる点です。特にASD(自閉症スペクトラム)の子どもたちは遅く、小学生になってから愛着行動をとる場合も多いようです。その時期に、愛着の対象が十分に子どもに対応してあげないと愛着ができにくく、不安定な心をかかえて生きていくことになります。
※2 愛着理論wiki こちら>>

宮尾益知先生(どんぐり発達クリニック院長、前国立成育医療研究センターこころの診療部医長)は3歳(人によっては時期がずれる)の発達課題として「自立」を挙げ、いかに愛着ができるように、周りが配慮するかが大切と述べておられます。

●ワーキングメモリ: ワーキングメモリが伸びる時期は、保育園や幼稚園に入る時(多くは4歳)です。なんでもやってもいい(あるいは誰かが常に見守ってくれている)状況から、やってはいけないことを常に覚えている必要がある環境で生活するようになることが、ワーキングメモリを伸ばすということもできます。この後で述べる認知機能も同様ですが、発達課題とはそれぞれの年齢が認知機能を伸ばす時期であり、また、その認知機能を伸ばす「環境」に遭遇する時期であるともいえると思います。

ただ留意していただきたいのは、伸びる年齢は人によって異なる(ずれる)という点です。AD/HDの子どもたちの、多動や注意欠如はワーキングメモリが不足していることが原因と言われています。確かに、認知機能は個人差がありますから高低があることは事実ですが、他の認知機能と同様に、ワーキングメモリの発達の時期もずれることがあるという点も忘れないでいただきたいと思います。

宮尾先生は4歳の発達課題は「自律」と述べておられます。自分を律するには、ワーキングメモリが育っていることが必要で、3歳の子ができないことを多くの人は知っているので、寛容でいられる訳です。

AD/HDの子は、3歳の子と同じようにワーキングメモリが十分でないことから「これはだめ」と言われたことをやってしまっていると考えられます。決して、だめだと言われたのを無視している訳ではないのです。そのように考え逆に、できた時は(不十分なワーキングメモリにもかかわらず)よくできたとほめてあげると、次にはもっとできるようになります。
※これに関連する自尊心と自己効力感については次号で紹介します。

●心の理論: 自分とは異なる見方を他の人がしていることを知っており、その見方の内容を類推できる認知機能です。※3 視点を移動できる機能と似ています。積み重なったブロックの数を数える時に、見えていないがこの下(後ろ)に別のブロックがあることを知る力です。

多くの子は、3~4歳になるとこの機能が身につきます。一方、ASDの子たちにはこの機能が身につきにくいようで、その結果、KYなどといわれる態度や行動をとることが多くなります。

ただ心の理論は、ASDの子にないと考えるのは間違いで、獲得する時期がずれていると考えることが必要です。宮尾先生は、思春期になってひきこもりになる原因のひとつに、心の理論があるといっています。つまり、人より遅く心の理論が身についた時に、友達と一緒に活動した過去を思い返して、それまでは友だちが自分のためにしてくれていると思ったことが、実際は自分は利用されていたと気がつくからです。そのことで人間不信になってしまい、ひきこもりに至ります。

人によって時期が異なるので難しいですが、ASDの子の周囲にいる人が留意すべき重要なポイントの一つです。
※3 心の理論wiki こちら>>

●学習に関する認知機能: 文字を認識したり覚えたり、形を弁別したり、といった、注意や空間認識、記憶などの認知機能、あるいは文字を書いたり、計算をしたりといった目と手の協応や微細運動などの認知機能を発達させるのは、小学校に入る6歳以降になります。

ただ「注意」「空間認識」「記憶」には様々な要素があり、それぞれ異なった認知機能が関係しています。また、読む、書くといった学習活動は、複数の認知機能を連続的に使うことでなし得ることができるため、必要とされる認知機能のどれかが低い(ボトルネック)と、なし得なくなる訳です。※4
※4 メルマガ第112号 東京学芸大学公開セミナー WISC-IV 概説
(メルマガバックナンバーはこちら>>

LD(学習障害)で、漢字が書けないといっても、その原因となっている認知機能は様々であり、また、組み合わさっていることも多いです。また、学習に関する様々な認知機能も、伸びる時期が人によって異なるという捉え方をして、支援の方法を考える点を忘れないでいただきたいと思います。

次号以降で、LDと関連する、視覚認知や聴覚認知について解説させていただきます。

(五藤博義)

 

■ 書籍:脳の個性を才能にかえる-子どもの発達障害との向き合い方
──────────────────────────────────────

前項で述べましたが、脳(認知機能)は一人ひとり違っています。ただその違いのタイプにはいくつかの共通性があり、それらに名前をつけたのがASDやAD/HD、LDということができます。

日常生活や社会生活に支障が出るレベルのものだけを、障害と認定して、福祉の対象にしていますが、社会で活躍している人にも、共通するタイプの人がいます。

同じタイプに分類されても、実際はかなり異なっているのが実情です。が、大まかに、それらのタイプごとの違いを知り、その違いを活かすように環境や学習法を工夫しようというのが本書です。

発達障害では、次の章立てがあります。
活発な脳-ADHD、システム化する脳-自閉症、学び方のちがう人-ディスレクシア

他にも以下の章立てがあります。
虹色の知性-知的発達の遅れ、うつの贈り物-気分障害、モチベーションの源-不安障害、別のキーで考える-統合失調症

章立てのキーワードに関心をお持ちになられたら、図書館等で探して、一度お手にとられることをお勧めします。

脳の個性を才能にかえる-子どもの発達障害との向き合い方
トーマス・アームストロング著、中尾ゆかり訳
2013年6月発行、NHK出版
四六版、320ページ、2100円(税別)
★詳細はこちら>>

(五藤博義)

 

■ あとがき
──────────────────────────────────────

聴覚認知バランサーの発売日が決まりました。
5月11日(月)出荷の予定です。
準備が整いましたら、当社ホームページでご案内させていただきます。

4月26日(日)は、千葉県君津市で講演をします。主催は、君津地区自閉症協会(にじの会)です。募集ページの準備がまだ整っていないようですので、当社ホームページまたはにじの会ページの更新をお待ちください。
※にじの会のホームページはこちら>>

来週は、大阪でのバリアフリー展、京田辺市での講演会など、関西エリアに滞在します。メルマガ読者の皆様にどこかでお会いできることを願っております。

※バリアフリー2015 詳細はこちら>>
※京田辺市講演会 詳細はこちら>>

(イベントは全て終了しております)

次回のメルマガは、3週間後の5月1日とさせていただきます。

メルマガ登録はこちら

本文からさがす

テーマからさがす

全ての記事を表示する

執筆者及び専門家

©LEDEX Corporation All Rights Reserved.