東京学芸大学公開セミナー WISC-IV 概説

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2015.03.13

東京学芸大学公開セミナー WISC-IV 概説

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■ 連載:百聞は一見にしかずと言うけれど、見ても分からないこともある
■ 報告:東京学芸大学公開セミナー WISC-IV 概説
■ 雑誌:ホームドクターを探そう!ゲンキのモト
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■ 連載:「見る」機能と学習 第4回
百聞は一見にしかずと言うけれど、見ても分からないこともある
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1.C君 6歳(小学1年生)

C君は何回練習しても一部のひらがなやカタカナ、漢字が覚えられません。
そのうち嫌になり投げやりな態度になってしまいます。忘れ物も多く、授業中、落ち着きなく常にそわそわしていると担任の先生から指摘されています。
黒板の文字が上手に写せないなどの問題もあり、スクールカウンセラーの紹介でかわばた眼科および視覚発達支援センターに見え方の精査を求めて受診されました。

弱度の遠視がありましたが、視力や眼の動きに問題はありませんでした。三角形やひし形など基本図形の模写検査をしたところ、斜めの線が上手に書けず、また3本線が1点で交わっている図も正しく写せませんでした。

※図1 C君の模写図 左が模写課題、右がC君の模写図
(★図はこちら>>

このことから、基本図形の構造概念が獲得されていないと判断し、この概念獲得のためのトレーニングを指導しました。

触覚刺激による形態覚訓練、斜めの動きを含む粗大運動、空書き、Flash学習教材集の文字学習ソフト、ジオボード、点結び課題などを実施したところ、
3ヶ月後に書ける文字が徐々に増えてきました。持ち物の忘れや落ち着きのなさについては相変わらずです。現在、全般的な発達の評価のため小児科受診を勧めています。

2.視覚情報処理経路

図2に示すように、視覚システムは視対象の動きや時空間位置を把握するwhere経路と色や形態およびその意味を把握する what経路の2つのチャネルがあることが知られています。
※wiki 視覚野 (★詳細はこちら>>
※図2 視覚情報の処理経路 (★図はこちら>>

where経路は、網膜神経節細胞から始まり、外側膝状体、視放線、後頭葉の一次視覚野(V1)を経てV2、背内側野、V5(MT野)を通過し後頭頂皮質へと向かいます。what経路は、V1より始まりV2、V4を通過し下側頭皮質へと向かいます。ものの認知はカテゴリーごとに異なる脳部位で処理されており、文字の分析に関与する脳の領域なども知られています。

3.視覚情報の体制化

さまざまな視覚刺激は、「なんらかのまとまりあるもの」として知覚される傾向があります。これを知覚の体制化といいます。知覚の体制化で最も基本的なものは、視覚情報のうちどれが意味のあるもの(=図)で、どれが意味のないもの(=地)であるかを区別する「図地の分化」です。知覚の体制化は、個人により異なるものではなく、いわゆる知覚体制化の法則に沿って行われます。主な知覚体制化の法則は以下のようなものです。

1) 近接の要因:他の要因が同じであれば、互いに近い距離にあるものはまとまって見える。
2) 類同の要因:他の要因が同じであれば、似ているものはひとつにまとまって見える。
3) 閉合の法則:閉じた形として形成されている図形同士はまとまって見える。

さらに複雑な図形を理解するために、小学校入学までに基本図形として、円(楕円)、四角形(ひし形)、三角形などの概念がしっかり獲得されている必要があります。

これらは触覚や前庭神経覚、平衡感覚などと連携して発達するのですが、この連携が良好でないと、基本図形の概念が上手に形成されません。発達障害があると、この視覚法則の獲得が未熟か独特であるために、形態の解釈が上手にできないか、通常と異なる解釈になる場合があります。今回の症例のC君は、3本線が1点で交わっている図の解釈が通常通りにできていません。C君には単に、漢字の見本をみせて写すような練習をさせても効果がないことは明らかです。

4.漢字が書けない

2007年にベネッセが小中学生を対象に、小学校で「学習した漢字を実際に書くことができるか」を調査しました。その結果、各学年正答率が55~60%、誤答が20~30%、無答が15~20%と報告されています。報告書では誤答を、12タイプに分類して検討しています。

これらの誤答タイプの内容を考慮し、分類し直してみると、以下のものに分かれました。
・視覚的誤答:点画の不足、過剰、へんつくりの入れ替わり、鏡文字など
・目手の協応からの誤答:出る・出ない、とめ・はね
・音韻的誤答:音韻理解のミス:勉強→勉勉など
・意味的誤答:同音異字:厚・熱・暑、字義の連想:室→屋、弓→矢など
・その他:送り仮名

1年生から順に各学年での誤答の割合は、以下となります。
・視覚的誤答       8%、25%、34%、30%、21%、21%
・目手の協応からの誤答 46%、20%、22%、16%、17%、34%
・意味的誤答      26%、35%、31%、39%、50%、32%

視覚的誤答は3年生4年生に多く、目手の協応からの誤答は1年生と6年生で多く、意味的誤答はどの学年でも多くみられました。

つまり漢字学習につまずきのある児童の指導にあたっては、次のような観点からそれぞれ評価し、対応する必要があります。

1) そもそも漢字の形が正確に把握できているのか?
例:王と玉、問と間など
2) 正確な模写ができるか否か? できない場合、それは目手の協応の問題なのか?(構造は理解できているが上手にかけていないためなのか、C君のようにそもそも漢字の形態が理解されていないためなのか?)
3) 漢字の形態想起ができるか? また、漢字の構造が、書字の運動機能と連動して正確に記憶されているか?
4) 意味との関連が正確か?

【参考文献】
「視覚脳が生まれる-乳児の視覚と脳科学」 p42 北王路書房
J. アトキンソン著、金沢創、山口真美 監訳
高岡昌子・仲渡江美・小沼裕子・阿部五月・田中規子訳
※アマゾン(★詳細はこちら>>

(川端秀仁・かわばた眼科院長)

 

■ 報告:東京学芸大学公開セミナー WISC-IV 概説
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2月28日に東京学芸大学で開かれた「東京学芸大学教育実践研究支援センター公開セミナー」に参加し、松田修・東京学芸大学教育心理学講座准教授による「WISC-IVによる発達障害事例の解釈」を聴講しました。

資料には「許可なく複製・配布することを禁ずる」と記載されていますからその内容のレポートではなく、筆者がそこで学んだ、WISC-IV(ウィスク・フォー)について紹介させていただきます。

1.WISC-IVの5つの指標

ご承知の通り、WISC-IVは、世界でもっとも使われている子どもの認知機能を測定するテストの1つです。昨年さらに新しい版である WISC-Vが公開されましたが、日本語版ができるまでに長い時間が必要となりますので、今後数年は、WISC-IVが使用されると松田先生は話されていました。

WISC-IVには、検査者が被検者に対面で行うたくさんのテストが含まれています。それらは4つのグループに分かれており、それぞれのグループの平均値である4つの指標と、それらの指標の平均値である指標、FSIQが算出され、その5つの指標が主に、知的障害や発達障害の診断などに使われます。
指標は、標準値※が100で、標準偏差が15の指数で表されます。
※同じ年齢の多数の子どもの受検結果の平均を標準値として換算します。

それらの指標は、以下のものです。
VCI;Verbal Comprehension Index:言語理解結晶性知能、言語性流動性推理等
PRI;Perceptual Reasoning Index:知覚推理視覚処理、非言語処性流動性推理等
WMI;Working Memory Index:ワーキングメモリー
PSI;Processing Speed Index:処理速度

FSIQ:全般的な知的発達水準、上記4指標の平均

2.指標の下位項目のばらつきの重要性

ここで注意いただきたいのは、各指標の基になっている数値にばらつきがあるかどうかという点です。例えば、FSIQは4つの指標の平均ですから、すべてが同等レベルの子どもと、VCIとPRIが極めて高く、WMIとPSIが極めて低い子どもとで同じ数値になる可能性があります。FSIQが100であれば、前者なら標準的な認知機能と言えますが、後者で例えば VCIとPRIがそれぞれ120で、WMIとPSIがそれぞれ80であれば、言語などの知識は豊富ですが、それら知識等を使って活動する力は「1標準偏差以下」であるために普通の子よりも低いといえます。こういった認知機能のギャップは、あることができるからこれもできると思われるが実際はできないという結果につながります。周囲からは怠けていると思われるかもしれませんし、本人は自分はなぜできないのか、という自己効力感を低下させてしまう状況につながる可能性があります。

4つの下位指標でも、同様のことがいえます。例えば、PRIの中には積木を使ったテストがあります。この数値だけが低い場合は、PRIの数値の高低だけでなく、手指の巧緻性や目手の協応に困りを抱えている、とその子の特性を把握することが重要になります。

3.指標の解釈:認知機能によるボトルネックの発見と解消

松田先生は例として、算数の文章問題が解けない子どもの対処方法を考える際の、各指標の意味を次のように図解されました。

問題文を読解 →  推論する  →  計算する  →  解答する
VCI:言語理解  PRI:知覚推理 WMI:ワーキングメモリ PSI:処理速度

どの部分の認知機能のレベルが低くても、結果として文章問題が解けない訳ですが、どの部分がボトルネックになっているかを見つけることができればその困りを解消する具体的な手立て(環境調整や認知トレーニングの方法)を考えるヒントになるのではないでしょうか?

以上、筆者の理解できた範囲で、まとめさせていただきました。

松田先生のお薦めの資料は、以下となります。
「日本版WISC-IVによる発達障害のアセスメント」日本文化科学社
上野一彦、松田修、小林玄、木下智子著 2015年1月
(★詳細はこちら>>

松田先生の資料ではありませんが、インターネットでWISC-IVの概要がまとめられているページがありましたので、ご参考まで。
※大六一志・筑波大学教授の講演資料 (★詳細はこちら>>

(五藤博義)

 

■ 雑誌:ホームドクターを探そう!ゲンキのモト
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首都圏の病院や薬局の待合室で見かけることのできる季刊のフリーペーパーの紹介です。お医者さんが自分の推薦できる病院を紹介する、というコンセプトで、病院のクチコミ情報を掲載しています。この雑誌の関係者のお子さんが障害をお持ちということもあり、小児科など子どものかかる病院が多数、掲載されています。

毎号特集が組まれており、2015年春号vol.39ではADHDについて、道玄坂しもやまクリニックの下山修司院長がインタビューに答えています。ADHDの3つの特徴や、女の子は男の子に比べておとなしいため、多動よりも不注意が目立つ傾向など、興味深い記事にまとめられています。機会があったらお手にとられてはいかがでしょう?

(五藤博義)
※ゲンキのモト公式サイトはこちら>>

 

■ あとがき
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前々号で紹介した片岡さんの視覚認知バランサーレビューの続編が公開されました。16のプログラムについて、ご自身の感想などを書かれています。
川端先生の原稿の、見えの困りの解説と関連づけて読まれると、プログラムの狙いをより深くご理解いただけるのではないかと思います。
★詳細はこちら>>

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