新連載:自閉症は『自閉』する障害ではない

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2014.09.12

新連載:自閉症は『自閉』する障害ではない

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■ 新連載:自閉症は『自閉』する障害ではない
■ DVD:発達障害の子どもたち 学習支援員・教育のユニバーサルデザイン
■ メルマガ100回記念プレゼント
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当メルマガ編集部に、DIR/FloorTimeを利用している日本の施設はないか、という問い合わせがありました。ネット検索で、2011年12月発刊の当メルマガバックナンバーで、DIRを紹介しているのを見つけたからとのことでした。
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話を聞いてみると、北米でDIRの実践にかかわっておられるとのことでした。かねてから、この新しい発達障害児者支援の方法について知りたいと思っていた編者のリクエストに応えて、今号から連載をしていただけることになりました。ぜひご注目ください。

●フェダック・佑子さんのプロフィール

・ある生徒達の、独特な好奇心とユニークな頭脳に関心を抱くようになる。
同時に、コミュニケーション(対人)能力と、言語習得能力、社会性との関係に次第に強い関心を抱くようになり、発達心理学を学ぶため留学を決意。

・カナダ サイモン・フレーザー大学(ブリティッシュコロンビア州)へ入学。心理学基礎・言語学・哲学・教育学等の学科を専攻しつつ、言語と社会性発達に関するゼミに所属。

・ゼミでは、教授と一対一で自分の選んだトピックについて文献を読み込み、議論してレポートをまとめる Directed Studies のクラスを受講。この中で、
DIR/Floortime の創設者 Dr. Greenspanの文献と出逢う。

・大学卒業後、DIR/Floortime のアプローチ法を用いている家族と出会い、特別教育補助教員として、プログラム・学習のサポートを始めつつ、様々なトレーニングを受ける。

・留学中に出逢った夫もかなりADD傾向※があり、公私ともに発達障害全般と社会との関わり方に非常に関心を持っている。

※ 注意欠如障害。小学生の頃に診断されるが、本人は誤診だったと主張。

 

■ 連載 自閉症は『自閉』する障害ではない
:体の機能と感覚を正しく理解する 第1回 DIR/Floortimeと自閉症
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初めまして。フェダック・佑子と申します。私はカナダの大学で教育・発達心理を専攻(『子供の社会性及び言語発達に関するゼミ』所属)後、同国バンクーバー市で約3年間、自閉症の子供たちのための特殊補助教員(SpecialEducation Assistant)をしておりました。このメルマガで私の体験を元に、関連する分野のお話をさせて頂きたいと思います。

私が主に使用していたアプローチは、発達・神経学系のアプローチで DIR/Floortimeと呼ばれます。このアプローチに関しては、グリーンスパン博士の「Engaging Autism」に詳しいですが、その中でも、私の心を最もつかんだ氏の『自閉症の受け取り方』とでも言いましょうか、それを今回はご紹介したいと思います。

まず、1)博士は、子供の潜在能力を絶対的に信じています。『自閉症児特有の問題行動』として、彼らの奇行(と我々の眼には映る)をいかに正常化させるか、という視点で自閉症を理解するのではなく、それを彼らが何に興味を持って、何のために行動しているかをよりよく理解するためのヒントとして捉えます。「特定の物事にしか興味を示さない⇒興味を広げさせる必要がある」と、始めから上から目線で自閉症を捕らえるのではなく、「今、この子はどうしてこの行動を繰り返しているのか?」という疑問を投げかけるところから出発し、まずは周りにいる我々が、この「特殊な興味」で満ちた彼らの世界に飛び込むことを前提としています。私たちの方に引っ張りこむのではなく、「私たちが彼らのほうへお邪魔する」のです。

「自閉」症とのネーミングにもあらわされていますが、一般的に「自閉症」児は独自の世界に「自閉」していると思われがちです。でも「だれとも関わらずに一人ぽっちでいたい子供なんているはずがない」という当たり前のことを博士は語っておられます。我々がどんどんこの未知の自閉症ワールドに飛び込んで行き、子供たちとしっかり「気持ちのつながり」(affection,emotional attachment)を作り上げていく。そこから全てはスタートするのがDIR/Floortimeの基礎中の基礎です。信頼関係は我々が「大人・先生・親」であるからという理由で、一方的に子供に押し付けて成り立つものではなく、相互関係の中で「築き上げていく」という、よく考えれば当たり前のことを、自閉症を考える上でも採択しているわけです。

英語圏の自閉症児をもつご家族の方はよく”aneurotipical children”※1という言葉を使ってお子様を表現されます。私にはこの受け止め方がとてもしっくりきます。私が「普通」に感じる匂いや、光を「きつい・まぶしい」と感じたとき、その人(子)は顔をそむけたり、目をつぶったりして対応します。その「普通」と感じる基準は、個々に違うわけで、自分の感じ方を他者に押し付けて「あなたの感じ方はおかしい」と言ったところで何も始まりません。

※1著者注: =a(非), neuro(神経の),tyipical(典型的な)⇒ 『神経系非典型児』とでも表現できるでしょうか?

次に、2)DIR/Floortimeでは各個人のSensory Profile(センサリープロファイル・知感覚系概略)をとても大切にしています。我々が何かを知覚する上で、その『刺激(音・匂い・光・触感等)』に我々の神経がどう反応するかには大きな個人差があり、その差異を Spectrum(分布・領域)で捉えます。

例えば音です。多数の人が「普通」と感じる音量を、「非常にうるさい、耐え難い騒音だ」と感じてしまう人の場合、「音」に関する知覚は「非常に敏感(=hypersensitive/over-sensitive)」ということになります。この人の触感が「非常に鈍感(=hyposentivie/under-sensitive)」である場合※2、他の人の話し声やドアの開け閉めの音、カフェでバリスタがコーヒー豆をひく音などが、かなりの不快感をもたらす反面、ドーンと壁や人に思い切りぶつかったり、レスリングのような遊びをしたりする事は、気持ちいい刺激に感じるわけです。

※2編者注:ある感覚が鋭敏な場合、他の感覚が鈍磨な場合が往々にしてあるようです。

このような個人の感覚系の差異を細かく観察・分析し、その個人にうまく『刺激量』を加減した上で接することで、刺激が強すぎる(=大爆音のパンクロックのライブコンサートを最前列で見ているようなものです)と感じる機会を減らしたり、刺激が弱すぎる部分に関しては、「大げさ」に刺激量を増やしたりすることで「自閉」してしまう必要が無いように環境を整えるわけです。そうすることで前述の、自閉症の子供たちと「気持ちのつながり」を作り上げるための人間関係を培う環境が手に入ることになります。

いつもコーヒーにスプーン5杯の砂糖を入れる人は、スプーン1杯分の砂糖しか入っていないコーヒーを飲むと甘く感じられませんよね。それと同じように、子供たちを観察し、それに基づいて工夫をする訳です。

かなり大まかにまとめましたが、上記が私なりに理解する DIR/Floortimeの2大特徴であり、私がこのアプローチに強く魅力を感じた理由でもあります。
「自閉症」という症状を切り取り、そこにだけ焦点を当てて、それが異常なものだとする視点からではなく、その差異をSpectrum(分布・領域)から理解することで、「自閉症」対「私たち」という対立する構図ではなく、「自閉症と私たち」という包括的な視点から捉える。いかがでしょうか?

まだまだ未知の世界である「自閉症」。系統だった情報も手に入りにくい上、英語での情報収集になってしまうことも多々。応用行動分析(ABA)が北米でも主流ですが、行動学のアプローチだけで人と接することに、なんだか違和感を持たれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。かといって、他になにがあるのか?「人間らしく、もって生まれた可能性を最大限伸ばせる方法は?」子育ての方法に絶対的な正解が無いのと同じで、自閉症に向き合う方法も、子供の数だけあっていいと思います。そんな視点から、私が垣間見た自閉症の世界について、今後しばらくご紹介させて頂こうと思います。

(フェダック・佑子)

 

■ DVD:発達障害の子どもたち~”自立をめざして”第2巻
学習支援員・教育のユニバーサルデザイン
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NHK厚生文化事業団が無料貸出をしている3巻セットの表記DVD第2巻からポイントを絞って紹介します。監修は星槎大学の阿部利彦先生です。
★詳細はこちら>>

○学習支援員による支援
学習支援員とは、地域によって呼称は異なりますが、通常学級に在籍する子どもを担当する形で特別な支援を行う担当を指します。学習面だけでなく、生活面や行動面でも支援を行います。

例えば東京都港区では、NPO法人EDGE(エッジ)が業務を委託され、その育成とコーディネート(学校への派遣)を行っています。

●学習支援員による支援のポイント1
:子どもとの信頼関係、周囲の子どもとの関係

それまで成功体験が少なく、支援されることに慣れていない、「支援を受け入れにくい子ども」と認識することが必要です。適切に他人に助けを求める「援助希求スキル」は、社会に出た際には誰にも必要になる能力ですから、それを身に着けさせるという視点で接することが大切です。

子どもに受け入れてもらうためには、本人の興味・関心を知り、それを会話の糸口にすることが有効です。また、子どもは周囲の目を気にしますから、本人だけでなく他の子どもとも一緒に遊ぶなど「特別な先生にならないように工夫する必要があります。

よい関係を作る上で有効なのは、支援員のちょっとした支援で本人が「成功体験」を積むことです。担任の先生にもその点を理解してもらい、支援を受けて本人が行ったことをほめてもらうようにするのも有効です。

●学習支援員による支援のポイント2
:担任との連携、保護者との連携

担任と情報を共有し、第三者的視点から提案を行います。例えば身体のバランスがとりにくく給食の配膳で失敗することの多い子どもの場合、すべりどめマットの使用を提案し、成功した事例があります。そういった場合、子どもたちに指示するのは教室の船長である担任の役割になります。

学習支援員は、子どもが一人で行動できるようになれば離れていく(フェイディング)という位置づけです。子ども自身ができる範囲を見極め、できるだけ子どもにやらせるよう「援助過多」に留意しながら支援を行います。

また、子どもへの支援の内容が担任と保護者でずれることがあります。その場合は、支援員がそれを調整するように努めます。

○教育のユニバーサルデザイン
教育のユニバーサルデザインとは、障害のあるなしにかかわらず「分かりやすい、学びやすい環境の工夫」をすることです。東京都日野市立第三小学校の様々な取り組みが映像で紹介され、その具体的方法が解説されます。

日野市では2006年に特別支援教育を立ち上げるに際し、ユニバーサルデザインの考え方に基づく「ひのスタンダード」が制定されました。すべての小学校が実施すべきチェック項目が定められ、それに基づいて、1)教室環境、2)授業の進め方、3)子どもたちの相互理解という3つの視点で学校改革が進められてきました。開始してから5年間で、子どもたちのアンケートで「授業が分かりやすい」と答える子どもが9割に到達しています。

●ユニバーサルデザインのポイント1 教室環境
「場の構造化」「刺激量の調整」「ルールの明確化」という考え方に基づき例えば、次のような工夫がなされています。

・黒板横のカーテン…授業とは無関係の掲示を隠します。
・掃除道具置き場の配置写真…元通りの位置に戻しやすくなっています。
・声のものさし…場面ごとで出すべき声の大きさを図で示しています。

第三小学校の京極澄子校長によれば、元々は、特別な支援が必要な子どもたちのために始めた取り組みだが、学校全体が落ち着くようになって驚いているとのことです。

●ユニバーサルデザインのポイント2 授業
小学校3年の国語「モチモチの木」(斎藤隆介作)の授業が紹介されました。
もともとは臆病だった主人公が家族が急病で倒れた時に、暗い山道を通って医者を呼びに行った時の気持ちの変化を学ぼうという内容です。黒板に描かれた感情のレベルを示したグラフ上に、子どもたち一人ひとりが自分の名前のカードを貼り付けます。そして、その後、先生の質問に対して、自分はどうしてそう思ったかを発表しあいます。

阿部先生は、授業のユニバーサルデザインに必要な3点として、以下を解説されています。

1)視覚化…目に見えない主人公の心の動きを、場面ごとの感情曲線として目で見えるようにしています。

2)焦点化…読解文でのポイントになる「登場人物の気持ちの理解」を達成できるように、時間をとって取り組みを行っています。

3)共有化…黒板にカードを貼り付けるという作業を通して、子どもたち全員が自分の考えの発表を行います。さらに、何人かにインタビューすることで多様な子どもたちの考えを共有化し合います。

京極校長は「指導の方法を工夫したり、特別な配慮をしたりすると、教師は子どもたちが大きく伸びる様子を見ることができます。それで、もっと工夫をしよう、もっとよい授業をしようと取り組むことで、よいサイクルにつながっている」と述べておられます。

●ユニバーサルデザインのポイント3 人的環境
第三小学校では毎朝、2人がペアになって、前日に勉強したことを相手に教え合い、その後、そこで感じた相手のいいところをみんなの前で発表します。
お互いを認め合い、大切に思うようになる相互理解の基盤となっています。

阿部先生は「学校は、失敗しても大丈夫な場所、安心して過ごせる場所にすることが大切」と言います。いいところ探しやモチモチの木の授業を通してお互いが間違えることを知り、助け合えるようになることが教育のユニバーサルデザインで忘れてはならない重要な点だと感じさせられました。

(五藤博義)

NHK厚生文化事業団では、このDVDの他にも、NHKで放送した福祉関連の番組のビデオなどを無料で貸し出しています。現在貸し出し中のビデオは、約500種類、DVDとVHSがあるそうで、どなたでも利用できます。
詳しくは下記、福祉ビデオライブラリーのご案内をご覧ください。
★福祉ビデオライブラリーの詳細はこちら>>

 

■ あとがき
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東京ビッグサイトで10月1日~3日まで、第41回 国際福祉機器展 H.C.R.2014が開催されます。ハンドメイドの自助具から最先端技術を活用した福祉車両まで世界の福祉機器を一堂に集めた国際展示会です。レデックスが開発中の「聴覚認知バランサー」をはじめて公開いたしますので、ご興味のある方はお立ち寄りください。

●第41回 国際福祉機器展 H.C.R.2014 詳細はこちら>>

今回はレデックス・ブースではなく、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のブースの中での出展です。

●NEDO 詳細はこちら>>

というのは、聴覚認知バランサーは、NEDOの「福祉用具実用化助成金」に基づいて開発しているからです。他にも開発中の新機器の展示もありますし、セミナー等も盛りだくさんにあります。子どものための福祉用具・機器が試せる「障がい児のための子ども広場」もあります。

●障害児のための子ども広場 詳細はこちら>>

編者も3日間、説明員として参加していますので、見かけたらお声掛けくださればうれしいです。

次回メルマガは、9月26日の予定です。

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