拡大教科書って?

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2014.08.08

拡大教科書って?

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■ グッズ:拡大教科書って?
■ 連載:脳は音をどう処理しているか?
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■グッズ:拡大教科書って?
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拡大教科書をご存知ですか?
私と息子の経験を通して、拡大教科書についてお話しさせてください。

息子は今年15歳になりますが、生まれながらに肢体不自由児(脳性まひ)で、立位・座位が取れません。いつも身体が傾いており、左目が弱視で視野も狭いという状況です。

小学校は地域の小学校に通い、個別級に在籍しながら、普通級で学習をしていました。小学校低学年の教科書は文字が大きいので、多少、目が悪くても見て読むことができたのかと思います。高学年になると文字も小さくなり行間も狭くなります。文字の羅列を目で追うことが難しくなり、写真や挿絵のト書き・グラフなどはほとんど確認できない状況になってきました。教科書が見えない・読めないと授業に参加するのは厳しくなります。ここにきて、やっと息子の置かれた状況を理解できた次第です。

そこで小学6年の時、先生ともご相談しiPadに教科書を取り込んで授業あるいは自宅での学習に使用しました。ページをめくったりあるいは、見たいものを拡大したりしてかなり改善されたと思います。しかし、全ての教科書をiPadに取り込むには、親の負担が大き過ぎます。また、iPadに取り込んだ教科書は紙の教科書と違い見ることは出来ても書き込むことが出来ず、別の問題が生まれていました。

中学校は地域の特別支援学校に進みました。しかし、中学でも教科書の読みづらい生活が続いていました。

中学1年の夏、とある手術のために入院していた時のことです。そこで、拡大された教科書を持って学習している中3生と出会いました。驚きました!

※福徳さんのお子さんの使っている拡大教科書
★詳細と画像はこちら>>

こんな、教科書が作られていたなんて、いったいどこで手に入るのだろう?

その子の母親にお聞きすると、学校で手配してくれたそうです。私もすぐに息子の担任に拡大教科書の話をしました。すると、先生は拡大教科書の事をご存知でした。直ぐに、来年度から使えるように手配してくださり、中学2年生からは、拡大教科書を使っています。教科書1冊が、数冊になりましたが見やすいようです。現在中学3年生ですが教科書も良く読む・見るようになりました。

学校の先生のお話しでは、特別支援学校で拡大教科書を必要とする生徒がいるとは思っていなかったようです。どれくらい生徒の目が見えにくいのかを把握していなかったのだな~と感じ取りました。

小学校の高学年から苦労してきた教科書ですが、拡大教科書を知らずに苦労してきたことを思うととても残念でした。盲学校でなくても、拡大教科書を配付してもらうことが出来ます。文字の大きさも、見え具合によって選べます。見えない・読めない教科書では、学校の授業は苦しいばかりでしょう。お子様が目の問題で読みづらそうにしていたら、拡大教科書の事を先生にご相談してみてください。

※次年度の拡大教科書は、早目に注文すると聞いています。夏休み明けにご相談してみては如何でしょうか。

拡大教科書についてご興味を持たれましたら、以下のホームページをご参照ください。
※教科書会社の一つ、学校図書の案内はこちら>>

(福徳洋美)

 

■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係 第9回
脳は音をどう処理しているか?
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今回のメルマガでは、脳で音がどのように処理されているかについて学んでいきます。脳の情報処理プロセスを知ることで、「聞く」と「聴く」の違いをよりコントラストをもって理解していきましょう。

まずは音の伝わる経路について おさらい。

耳から入ってきた音波は、有毛細胞が発火することで神経インパルス信号に置き換わります。音の情報は電気的なシグナルに変換されることで、神経という電線を伝導し、その情報を脳まで送ることができるようになります。この神経インパルスは大脳にたどり着くまでにいくつかの神経核というターミナルのような場所を経由します。

脳幹には触覚・視覚・聴覚といった五感の情報を受けとめるターミナルが左右にあり、それぞれは並行し、いくつかのターミナルを経由しながら左右の大脳へと上行する経路を持っています。

有毛細胞由来の聴覚情報の神経インパルスは、まず聴神経を経由し蝸牛神経核とよばれる最初のターミナルに辿り着きます。そこですぐさま経路を2つに分かちます。神経インパルスのひとつは同側の脳幹を上行し、残りは反対側の脳幹を上行していくのです。

例えば右耳から入ってきた音は、まず右の蝸牛神経角に到達しますが、そこですぐさま反対側の左の蝸牛神経核にもシグナルを分配するのです。こうしたシグナルを脳波計で記録すると、上行する神経シグナルのほとんどが入力された耳の反対側の脳幹の経路の方に流れることが分かっています。蝸牛神経核に辿り着いたシグナルはさらに上オリーブ核を経由し、さらに脳幹網様体系にある外側毛帯を通り、下丘・内側膝状体というターミナルを経て、ようやっと一次聴皮質へ到着します。右耳と左耳それぞれでピックアップした神経シグナルは脳幹で左右交叉して反対側の大脳(一次聴覚皮質)に分配されるのです。ここまでの神経シグナルの伝達は、いくつもの神経核を経由する割には左右の情報処理に違いはありません。

大脳皮質の左右の側頭葉にある一次聴覚皮質は、左右それぞれに異なる個性的な機能を持っています。右の一次聴覚皮質は脳表上に、高い音から低い音までが整然と順序だって分布しています。一方、左側の一次聴覚皮質の表面には右ほど明瞭な周波数毎の分布はありません。右がどの音色に対してもほぼ同時に一次聴覚皮質で処理するのに対して、左は高い音と低い音で大脳皮質にまで辿り着く時間が違うのです。

このような左右の違いが生まれる理由にはいくつかの説があります。右手が利き腕の人が左脳を言語有意野として使うことから、利き腕がそうした差異を生み出すとする説もありますが、私はフランスの耳鼻科医トマティスが唱える反回神経左右差説でないかと考えています。左右の反回神経は、大動脈弓をまたぐ左と、腕頭動脈をまたぐ右とで走行する長さが異なり、神経の長さから神経インパルスの伝導は、50msec以上の左右差が生じうることが分かっています。そうした左右の遅延にもかかわらず、われわれは声帯からの音声を歪みなく出すことができています。外から見れば人の躰は左右対称ですが、解剖学的には皆さんごぞんじのように左右差があります。左右のそうしたずれを上手に無視して整合性のあるものにする仕組みが、脳の可塑性によって生み出される過程の中で、人だけがこうした高度な言語を手に入れたのではないかと思うのです。

「可塑性」ということばが出たついでに、脳の仕組みを少しだけ説明しておくと、脳は常に「Use it、or Lose it!」。まるで筋肉のように使わなければ退化し、使えば使うほどに賢くなります。使うほどに神経シグナルの伝達速度は速くなり、回線も太くなります。

左の一次聴覚皮質には、右のようなきれいな周波数毎の地図が形成されません。それは左脳が、ある種の音色に対して選択的に反応をしている証しでしょう。

右の一次聴覚皮質は、低い音から高い音まで万遍なく感じる力があります。運動器との連動において、右脳は音の高低に関係なく万遍なく応答できるのです。それに対して左脳は、特定の周波数帯域への極めて選択的な応答をします。その詳細なマップはこれからの研究を待たねばなりませんが、比較的高い音への応答性が鋭敏であるようです。結果としてそれは言語に用いられる子音の識別に有利になっています。

右と左で脳は、音を拾い出す帯域が異なるのです。

音の大きい小さいという情報は、蝸牛レベルでシナプスの発火頻度に置き換えられます。頻度が多ければ大きな音、頻度が少なければ小さな音として認識されます。その頻度は5Hzから20Hzくらいと言われています。軟口蓋や舌の運動といった構音器官の生み出す振動はおよそ5Hz以下、声帯の固有振動は125Hz ~250Hz、それを生み出す呼吸は、速くても0.3Hz位です。ニューロンの活動する周期に干渉しないような、ゆったりとしたあるいは充分に速い神経活動で発声器官はコントロールされています。大きな音がうるさい・やまかしい・耳に痛いと言うふうになるのは、脳というものがどのような感覚入力であれ、その頻度が20Hzよりも多くなると「嫌い」「イヤ」という情意的な反応に結びついてしまうような仕組みを持っているからでしょう。

一次聴覚皮質の情報は、感覚言語野を構成するウェルニッケ野とその周囲にある縁上回と角回でさらなる情報選別が行われます。ウェルニッケ野は単語辞書、縁上回はリズムセンサー、角回は音色のヒダ(うそ、ホント、怪しい)を感知するように機能しています。聞こえてきたことばの「字面通り」の意味とそこに隠されている「情意的な要素」を感じ取っていきます。「音は聞こえるけど意味が分からない。」という状況には、

1)普段から区別して使っていないRやLの発音ゆえに、一次聴覚皮質がそれに最適な「可塑性」を生み出してしまい耳では識別できないというパターン
2)「ホント!?」と疑いのまなざしで言われたときに(関心しておどろいてくれたのか)か(疑いのまなざし)でリアクションされたのか、イントネーションやアクセントによってしか表現できない、情意的な要素を理解することが出来ないパターン

とがあります。

しかし、周波数特徴としてのRとLの識別能力が、英語漬けな時間の長さによって大人になってからでも獲得されていくように、疑いか感嘆かのニュアンスの違いを感じ取る能力も実は、頭の中にそうした時間遷移パターンがあらかじめ学習されているか否かで、ずいぶんとリアクションは改善されます。
そうしたニュアンスの識別は、文化や生活から生まれるものです。わたしは、そうした縁上回や角回の障害によるコミュニケーション障害であっても、豊かな音声コミュニケーション環境があればおのずとそうしたハンディを乗り越えられるはずだと考えています。実際私は四国の出身で、大学で東京に出てきてからの数年は標準語の獲得にずいぶん苦労しました。何とか使えるようになったら長野や静岡の病院へ出張させられました。ここしばらくは東京や千葉での仕事がメインでしたが、3年前に那須塩原の大学病院に転籍して、今再び音声コミュニケーションの難しさに直面しています。ことばのヒダ、イントネーションが生み出す言外の意を理解することにおいて、どうしても地元のことばでしか語らない高齢者の方と、今ひとつしっくりこないことが少なくないからです。

縁上回や角回のもつイントネーションやプロソディを検知する力は、雑踏やパーティー会場といった人であふれる場所の中からでも、意中の友人を瞬時にピックアップするパワーの源です。これは、カクテルパーティー効果と呼ばれています。ことばに内包されるイントネーションやプロソディは、ある意味指紋やDNAのように個々人に固有の特徴があります。その特徴に関するフィルターを、受け手が生活や文化といった学習機会の中で用意してから、雑踏の中の意中の人の「こんばんわ~?」とか「こん~ばんわ~」で誰々が来たと識別できるわけです。この能力がないと目を使って探さなければなりません。例えば、顔をいくら知っていてもその方を招待し空港で待ち受ける時はネームを書いたフリップをもってきょろきょろと探すことになります。
例えば中国からどなたかを招待したなら、中国語が聞こえるたびにそちらを向いていちいち確認することがほとんどです。ところが、何度かいっしょに食事をともにするほどの中になっていれば、同じ中国人がたくさんいてもその中から友人を探し出すのはそれほど難儀ではなくなります。それはその人の声紋を、もうすでにあなたの脳が瞬時に識別できるようになっているからです。

ウェルニッケ野や縁上回や角回には、どれほどの単語や文が処理資源として確保されていればいいのでしょうか? 近年の脳科学や赤ちゃん学あるいは英語教育の知見を総合すると およそ3000語の処理資源としての語彙獲得で喃語から幼児語へあるいは片言英語ができるようになり、6000語の単語を聞き分けできるようになればおよそ会話には困らなくなると言われています。
しかしここで言う単語とは、単語帳で覚えた視覚言語でなく耳からの記憶という意味です。ウェルニッケ野が耳から入ってきた単語を貯蔵していく過程において、およそ3000を越える頃から似た発音のことばの識別が必要になり始めます。そうした識別のために無意識に行うのがミラーリング、シャドウスピーキングです。運動言語野として知られているブローカ野で無意識にサイレントにトレース(復唱)する、その積み重ねによって発話する力が生まれるのです。縁上回や角回の働きがフルに機能するためには、自分自身が「隠喩の二重性」をもつ会話ができなければなりません。

頭の中に収まっている6000語、10000語、あるいはそれ以上の単語は、辞書のようにあいうえお順で記憶されているわけではありません。処理資源として記憶される単語は、5W1Hな情報でタグづけされてカテゴリー化されたうえで記憶されています。一つひとつのことばには、聴覚だけでなく五感の情報すべてが同時にひもづけされています。大好きな人といっしょならウェルニッケ野も縁上回も角回も使っていっぱい記憶しますし、そうでなければ何も覚えられなかったり、覚えたとしてもそこにタグづけされるべき情感は本来のものとは全く違う性質のものになってしまうかもしれません。乳幼児期にどれほど意識して良いものをインプットできるかが、思春期以降に大きく影響してくるのだろうと私は考えています。

最終回の次回は、「聞く」と「聴く」のコントロールセンターである前頭前皮質の働きについて説明していきます。

(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)

 

■ あとがき
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今回初登場の福徳洋美さんは、編者が1980年代に開発した「ロボットで数の概念を学ぶ教育プログラム」を採用していただいた鹿児島県の保育園で保育主任をされていました。facebookでご連絡をいただいて20年ぶりにお目にかかると、ご自身の経験を活かして、障害のある子ども向けのパソコン教室を企画している、と情熱的にお話をしていただきました。

そこで、他の人にも役立つグッズをメルマガで紹介してもらいたいと要請し今回の寄稿「拡大教科書って?」が実現した訳です。

私の今回の経験のような出会いを、ソーシャルメディアがあちこちで演出しているのだろうな、とつくづく思いました。

毎日、暑い日が続いています。学校に通うお子様がいらっしゃるご家庭では夏休みという名前とは逆に、より忙しい毎日をお過ごしかもしれません。

来週はお盆。お子様に協力を要請して、短いながらも本当の夏休みがとれることをお祈り申し上げます。

当編集部も来週は夏休みとさせていただき、次回メルマガは、通常より一週間先の8月29日(金)に発行とさせていただきます。

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