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■ 連載:ヒトの情報獲得は「目が8割、耳は2割」?
■ DVD:発達障害の子どもたち~”自立をめざして”・2
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■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係 第5回
ヒトの情報獲得は「目が8割、耳は2割」?
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おどろきのニュースや出来事があるとわれわれは「耳目を奪われて」しまいます。実際、生活の中で得られる情報のほとんどは、新聞・雑誌・テレビ・インターネットといった視覚メディアを介してやってきます。
ラジオはいつの間にやら音楽配信やトークがメインで、ネットラジオに至ってはオンデマンド。もうニュースな媒体でなくなってしまいました。
かつてはよく見かけた井戸端会議や職場同僚OLさんの給湯室での口コミ(くちコミュニケーション)の時間もいまではスマホに席巻されてしまったかのようです。
もはや「耳目奪う」のではなく「目を奪う」ことばかりに世の中は躍起になっているようにも思えます。
実際、映像作家や広告屋といった生業の専門家に言わせるとヒトの情報獲得は「目が8割、耳は2割」だそうで、目を奪うことが大切なのは当然なんだそうです(カーマイン・ギャロ著「ジョブズの脅威のプレゼンテーション」)。
しかし、耳科医である私はそう言われると黙っていられません。
「百聞は一見にしかず」は誰もが知っている有名なことわざです。下手な説明の繰り返しよりもみ(見・診・魅)せることのほうが大事だよ、それだけで100回の説明に勝るんだよと古人は教えてくれます。
確かにごもっとも。わたしも納得するのですが一方で、待てよ、目から入って耳から抜けるともいうと思いつきました。つまり「ものを見るには見たが頭の中には何も残らず覚えていない」ということも、よくあるじゃないかと。
たくさんたくさん説明を聞いたから「一見」してそれを理解できる。だけど、「ことばだけで100回やるのは要領が悪いね」というのがことわざの真意じゃないかと、ひねくれものの耳科医の私は考えるのです。
耳から入ってくる音声と目に飛び込んでくる文字。音声も文字もことばには違いありませんが、同じではありません。そうした違いは音楽と音符の関係にも存在しています。音楽と音符の例を挙げながら、耳と目の働きについて少し考えてみたいと思います。
一般的に視覚や聴覚に障害がある段階で、音楽の世界を目指す人はずいぶんと少なくなります。そうした感覚器に障害のある人にとって、音楽を学ぶことはとても大変であると皆が思っているせいかもしれません。
しかし、盲(もう)のピアニスト辻井伸行さんやポップミュージシャンのスティーヴィー・ワンダーなどすばらしいプロの音楽家の事例があることは疑いようのない事実です。ベ-トーベンも難聴と戦いながら亡くなる直前まで作曲活動を続けましたし、英国の女性打楽器演奏家のエヴェリン・グレニーさん※はパーカッショニストとして現役で新しい音楽の提唱を続けています。目や耳に障害があっても音楽でも活躍できるという事例は確かにあるのです。
※編者注)王立音楽アカデミーで音楽を学んでいたが、8歳のとき聴覚障害を起こし、12歳でほとんど聴覚を失った。
しかし、よくよく考えると、音楽の世界について言えば、盲と聾(ろう)には大きな違いがあるように思います。
視覚にも聴覚にも障害のない人が音楽家を目指すとき、その訓練は、まず、楽器と楽譜を一元化させる作業から始まります。そうです。まず音譜を読めるようにと訓練を始めるのです。たくさんの音楽を耳学問しながら同時に楽譜も見ると言う訓練の先に ”初見” のできる「目」が養われます。目から音を出力することができるようになります。
音楽をまったく聞いたことのない人が「楽譜」だけから演奏することはまずできませんし、楽譜を見るだけでその深遠なる音楽の表情を汲み取ることも容易にはできません。スコアにはそこに対応する鍵盤の位置こそ記されていますが、曲に秘められた感情をスコアだけから汲み取ることはとても難しいと言えます。ところが楽譜が読めなくても書けなくても演奏家や作曲家として一流の仕事をしている人はいます。
どうやら書記言語(文字)は、聴覚言語(はなしことば)のもつすべてを表現することができていないようです。
よくよく考えてみれば、ベートーベンにせよグレニーにせよ、そこには中途失聴であるという共通点があります。
つまり音の原点となる憧憬なるものは幼少期にすでに脳の中にしかと刻まれているのです。文学や科学が時代とともに常にアップデイトされていくターミノロジーによって構築されているために、常に情報を勉強しなければならないのに対して、音楽のそれはトーンとピッチそして強弱といった書記言語から見れば原初的な、非常に少ないパーツで表現されています。
つまり音楽を操るのに必要な音の憧憬が幼少期の体験で豊かに蓄えられてさえいれば、中途で難聴となっても、プロくらいまでたどり着いた人にはそれほど大きな問題とならないのでしょう。
音楽の世界に生まれつき聾(ろう)の人はいませんし、音の世界はどうやらまず耳(音楽)が先で目(楽譜)はあと。音と目を同じくするという音楽教育は、母語や外国語の習得が幼少期に組み込まれることが大切なのと同じと言えるのではないかと思うのです。
閑話休題。
発達障害や学習障害、あるいは注意障害の議論をするとき、専門家はいつも問題を抱えている人たちの、表現形としての「視線の運び」や「目の奪われかた」に注目してそこから問題点をひも解こうとする傾向があります。
しかし、わたしは、子どもたちの目線よりもその話しことばの持つアクセントやイントネーション、リズムといったことにどうしても注意を向けてしまいます。言外の意とでも言うべき隠喩の二重性についての理解が、音声だけでできるか、あるいは表情を読み取ってそれを理解できるか、はたまた字面通りしか理解できないか、などです。
自閉症の子どもの訓練のひとつにトマティス理論を用いた方法があります。
ビジネスモデルとしての構築が先行しすぎて、そこにあるサイエンスな部分がまったくといっていいほどに検証、証明されていないことがこの理論の大きな問題なのですが、そこには注目すべき成果がいくつもあります。そのひとつが、気導と骨導の両方で同時に聞かせることができるヘッドホンを用いた訓練法です。ヘッドホンで音楽や胎内ノイズを聞かせながらお絵かきをさせたり、視覚課題をさせたりすると、子どもたちはとても落ち着いてそうした作業に取り組んでくれます。
われわれの耳は、音が直接頭蓋骨を振動させて内耳にそれを伝える骨導、空気の振動を鼓膜面で取り込む気導の2つの経路で音を聞いています。われわれの多くは骨導を無視して気導に注意を向けていますが、自閉症の子どもはどうやら気導でも骨導でも気が散ってしまうようなのです。ですから気導骨導ヘッドホンで音楽や胎動ノイズを聞かせると、落ち着いて視覚課題に取り組めるようなのです。
日本手話を使う聾の人たちは、「日本語対応手話では感情の交換が難しい」「コミュニケーションの根幹につながるファクターがもの足りない」とよく口にします。また、「日本語対応手話は1系統の時系列展開であるけど日本手話は多系統の時系列展開であるため、情報と感情をより端的にそして正確に伝えられる」と日本語対応手話に不満を持つ人もいます。
※編者注)日本語対応手話は、日本語の文法や語順に手話表現を当てはめた手話です。それに対し、日本手話は日本語とは別の言語体系として古来から使われてきたもので、手指や腕の他に、顔の表情なども組み合わせて表現します。
編者が見つけた、参考になると思うサイト:
「中途失聴者のSilent Life」はこちら>>
聴覚ドメインな情報展開が1系統の時系列展開であるとすれば、日本手話は2つ以上の系統(手の動きと表情)を内包した時系列展開であり、写真記憶の能力のある人にとって書記言語は、一文字一文字あるいは一行一行がそれこそおびただしい系統の情報のように瞬時的に時系列展開される状態ということができます。
目の前の文字のマトリックスををほとんど同時にいっぺんに見てしまう。順序立てて目線を運べないのか、フォトグラフィックにいっぺんに記憶してしまうから、順序立てるのが面倒くさいだけなのか。
「魚の目に水見えず、人の目に空気見えず」のことわざのように、実はわれわれが見落としてしまっている何かに気が付いてあげられないでいるから、そしてそれに対してかれらが非常に敏感であるからこそ、あの特徴的な視線の運びがあるのではないかと最近の私は自問自答しているばかりなのです。
私は眼科医に対抗するわけではありませんが耳科医として声を大にして「耳は8割、目は2割」と言いたいのです。
そしてわれわれが普段はほとんど意識することなく巧みに活用している耳の無視する能力、その力の障害が発達障害や学習障害、あるいは注意障害の背景にあるのではないかと疑いはじめています。
(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)
■ DVD:発達障害の子どもたち~”自立をめざして” その2
第1巻 就学前の支援 後半
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前回に続き、NHK厚生文化事業団制作のDVD第1巻の後半の紹介です。
★DVDの詳細はこちら>>
○第3章 家庭での支援
前回のメルマガでも紹介しましたが、療育機関に通えるのは週2回程度です。
それ以外の時間を使って、家族自身が支援を行う例を紹介します。
埼玉県所沢市に住む浅見くん(5歳)は広汎性発達障害(PDD)と診断され、ご両親は療育の方法の一つ、ABA(応用行動分析)※を学んで、自分たちで我が子の支援に取り組んでおられます。
※DVD冊子から抜粋:ABAの手法には、早期から集中的に療育を行う方法や日常的な場面を使ってことばやコミュニケーションを発達させる方法、話しことばの代わりに手話や絵カードを使ったコミュニケーションを教える方法など様々な方法があります。
浅見くんの場合は、ご両親のどちらかが1日に30分から1時間、対面式に取り組んでいます。発達段階を考慮し、細かく取り組み内容を事前に作成して、それに沿って行います。
ポイントは、スモールステップにし、できたらほめることです。
逆に言えば、子どもができ、ほめることができるように、スモールステップを作るといってもよいかもしれません。例えば靴下のはき方を教える場合、最初では親が靴下を足のつま先からかかとまではかせておき、ひっぱりあげるだけにしておきます。そして、できたら、ほめます。
ほめ方は、言葉でほめるのに加え、ご褒美を用意します。浅見くんの場合はうまくできるとおはじきがもらえ、それがたまっていくのを楽しみに取り組んでいるようです。
浅見くんは2歳まで発語がなかったそうですが、このような取り組みの結果、最初の発語があり、出始めると、次々に言葉を覚えていき、現在は会話ができるまでになっています。
○第4章 成長を促す関わりかた
井上雅彦・鳥取大学教授の解説するABAの場面の作り方は参考になります。
・子どもが飲みたいと思う飲料のペットボトルを、わざと栓を締めて渡す。
・子どもがあけて、というのを待つ。
・子どもがそれをいったら、すかさず、ほめる。
・子どもは、ほめられたことと、飲めた、ということの2つの意味で、成功体験を持つ。
・その後は、日常生活の中で、子どもがそういった「適切な行動」をとるように配慮する。
セラピーは子どもを変えるばかりでなく、子どものいいところに気づくなど親が子どもとの関わり方を変えていくことがポイントです。
○第5章 幼稚園のユニバーサルデザイン
地元の大学と協力し、発達障害のある子どもも一緒に過ごすことを目指している鳥取県米子市のかもめ幼稚園のレポートです。その代表的な工夫を紹介します。
1)視覚的な手がかりの活用
2歳児クラスには、朝の支度の手順が写真付で掲示されています。
タオルを出す-荷物をロッカーにしまう-着替えをする-トイレに行く、といった具合です。
子どもが何をすればよいか理解して自分で動けるようになったとのことです。
2)見通しを持たせる
授業が始まる時に、その授業が何時に終わるかをその時刻の、時計の長針の位置で示します。集中が途切れそうになった子も、時計を何度か見ることで授業の最後まで取り組めることが多くなったとのことです。
3)肯定的な声かけ
お片付けの時間、以前はやらない子を注意していましたが、がんばっている子を意識してほめるようにしています。
ほめられたい、認められたい、自分はできた!と思いたいことで、子どもたちは率先して取り組むようになったそうです。
○第6章 ユニバーサルな支援の意義
同園が行っているもう一つの取り組みである「ストラテジーシート」を使った、問題行動の事例検討会について、井上教授が解説しています。
職員が集まりその行動が、「どんな時おきているのか」「それによりどんな結果がおきているか」という時間の流れに沿って意見を出し合いながら、事前-行動-事後のそれぞれの段階で、どのような対応方法が考えられるのかを協議します。最後にその子どもの担任保育士が、そこで出た案の中からいくつかを選び、対応策を決めて、実行することになります。
※編者注)この方法は、RTI(Response to Intervention)と呼ばれ、米国でスタンダードとなっている指導法に含まれる1つの手法です。RTIについては昨年6月のメルマガで紹介しています。参考になさってください。
★バックナンバーはこちら>>
○第7章 親への支援
鳥取県の米子市児童発達支援センターあかしやのペアレントトレーニングが紹介されます。この講座の目的は、子育てに不安を抱える親をサポートするためのものです。
大学の専門家や施設の職員が2週間に一度、子育てに関する情報提供を行います。病院に行った時に医師に見せる「受診サポート手帳」、忘れ物を防ぐグッズなど、子どもの特性を踏まえた生活支援の具体的な方法を解説します。
この講座の目的は、次の5つです。
1)子どもの状態を知る
2)支援の方法を学ぶ
3)発達を促す関わり方
4)子どもとの関わり方を楽しめるようになる
5)子育て仲間を作る
このペアレントトレーニングに参加することで、大きく子育てが変わったというのが鈴木智子さん(仮称)です。鈴木さんには4歳のアスペルガー症候群の子どもがいます。
鈴木さんが一番印象に残っている課題は以下のものです。
ショッピングセンターに行った時、子どもの足がおもちゃ売り場で止まったので、お母さんはその時、「今日は買わないよ」と言いました。すると、子どもは床に寝転んで泣き叫び始めました。そのきっかけは、お母さんのいった言葉でした。
もし、お母さんが違った言葉を言ったらどうだったでしょうか?
鈴木さんは、こういった課題で、子どもとの関わりの仕方を深く考えさせられるようになったと語っています。
○第8章 就学前の支援のまとめ
このDVDのまとめとして、井上教授は就学前の子どもに対するポイントとして次の3点を挙げられました。
1)保護者の子育てが楽しくなるようにする
2)保護者、支援者が子どもとどう関わるか、具体的な方法を学ぶ
3)園などの支援者をサポートできる仕組みを、地域に作っていく
大変充実したDVDだと思います。NHK厚生文化事業団から直接借りる他に、全国の支援施設にもすでに配布されていますので、よい方法を見つけて視聴されることを強くお勧めします。
(報告:五藤博義)
■ あとがき
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ついにサッカーW杯が開幕しました。代表チームはもちろんですが、開幕戦を担当するなど重責を担う日本人の審判も応援したいと思います。
次回メルマガは、6月27日(金)の予定です。
ヒトの情報獲得は「目が8割、耳は2割」?
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