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■ まえがき:「聞く」と「分かる」の関係
■ 連載:見ることって、視覚だけ使っているの?
■ 書籍:聞けばわかる発達方程式 発達支援実践塾
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■ まえがき:「聞く」と「分かる」の関係
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今回から10回の予定で、「聞く」ことと「分かる」ことの関係性について、国際医療福祉大学教授、同大学耳鼻科部長の中川雅文医師に執筆をお願いします。その経緯について、簡単にご説明します。
ディスレクシアという言葉が話題になるなど、「見る」が「分かる」ことと大きく関係することは多くの人に知られるようになってきました。筆者も、レデックスの製品として「ビジョントレーニングII」を開発し、また、学習障害(LD)を含む眼科医療の第一人者、川端秀仁医師(かわばた眼科院長)の研究会に参加するなど、調査研究を続けてきました。その過程で「見え」から「分かる」に至るまでに、それ以外の情報(聴覚、嗅覚、触覚、味覚、身体感覚等)が同時に関与していることがだんだんと分かってきました。
発達障害のある子どもの多くが視覚優先であることは、見方を変えれば、その他の情報入手源が弱いから、といえるのかもしれません。特に、自閉症スペクトラムの子どもたちには、聞いて理解する力が弱いという報告が、実践者や研究者からなされるのは、その一つの典型ではないでしょうか?
そういった問題意識を感じていた昨年始め、耳鼻科医療に脳科学を融合して新しい医療を生み出そうとする中川先生と知り合うことができたのは、編者にとって僥倖でした。その交流の中から生まれたのが、聴覚認知のアセスメントとトレーニングを行う新ソフトの開発です。新ソフトは、聞く力をこれから伸ばしていく子どもたちと、加齢により聴覚が衰えていく可能性のある高齢者の方々の両方に使ってもらいたいと考えています。
新ソフトは、公的助成金を活用している制約から販売が今年後半になってしまいますが、その前に、「聞く」に関する耳や脳の働きや、「分かる」における「聞く」の役割、等々を、中川先生に解説してもらいたいと思います。
(五藤博義)
■ 連載:「聞く」と「分かる」の関係
第1回 見ることって、視覚だけ使っているの?
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渋谷に一度も行ったことがない同郷の友人が上京してくると決まり、あなたは常々友人が行きたがっていた東急ハンズ渋谷店を待ち合わせ場所にと決めました。田舎から出てきた友人が渋谷駅からセンター街を通り抜け、東急ハンズにやってくる。都会の喧噪や若者の姿を大いに楽しみながら目的地までやってくる友人の姿を思い描きながら、良い計画を立てたものだとあなたはそのとき思ったのでした。
ところが待ち合わせの当日、友人は時間になってもいっこうにあらわれません。そうこうするうちに、道に迷った友人があなたのスマホに助けを求めてきました。
「Google マップある?」
「お店のURLメールしようか?」
とあなたもやさしくフォロー。ところが、友人はガラケー※1 しか持ってなかったのです。すこしだけ落胆したあなたはそれでも気を取り直して、東急
ハンズまでの道順をことばで教えようとします。
しかしまだまだ問題があったのです。
(※1編者注 ガラケー:ガラパゴス携帯(スマホ以前の携帯)のこと)
「なんか上の方に大きな道路があって、高速道路かな? (^_^;」
と友人。
彼自身、今どこにいるかがわからなくなっていたのです。
「それ反対側だよ(^ε^) ケッ!いまどきガラケーかよ!(-.-#)」
「ガチャ。ツーツー・ツー」
ついつい言ってはならないあなたの逆ギレ。
久しぶりの友人との再開どころか旧友との再会はそれ以降ついぞ実現しなくなったのです。
スマートフォン全盛の時代。こんなストリーのたとえ話はぴんときません。
スマホに搭載されるGPSのおかげで、目的地までの道順はGoogle マップでわかるし、周辺の風景もストリートビューを見れば瞬時に確認できるからです。
iAppの「友人をさがす」を使うことで、友人が今どこまで来ているかその居場所も動線もリアルタイムに知ることができるからです。
さきほどの話に登場した友人とあなたのどちらもがスマホを持っていて、Google マップや友達をさがすといったアプリを両方が自在に使いこなせていたなら状況は大いに違っていたはずです。友人がパルコやマークシティービルへと寄り道していてもたいして遅刻でないならば、
「久しぶりの再会だし、彼は初めての上京だし、・・」
とあなたも大目にみて、待ち合わせ場所で自分の時間とばかりに仕事を片付けていたかもしれません。仮に迷子になっても、待ち合わせの場所を変更したりしてあなたが友人を迎えに出向き、無事に合流できたのではないでしょうか。
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「見る」という行為は、空間的な認識や形状の確認といった、2次元、3次元的情報の獲得を促してくれます。そしてそれに基づいて「観る」・「診る」・「視る」といった認知・理解のプロセスを進めていきます。見るということは2次元と3次元的な「もの」の情報を、瞬時に認知と理解に変換する仕組みといってもいいでしょう。
視覚による情報処理は、他の感覚モダリティー※2 をも活用しながら「どこ(where)」と「なに (what)」という情報の獲得をおこなっています。学習によって貯蔵されている知識(脳科学では処理資源と言う言い方をします)を参照しながら、新奇性の程度から重要度を判断し、学習というプロセスの中で記憶するか忘却するかを自動処理していきます(学習プロセスにおける記憶の長期化と短期化について、改めて別の回に解説します)。専門的に言うと「どこ」に関する認知処理はDorsal streaming、「なに」という認知処理はVentral Streamingと呼ばれていますが※3、ここでは、どこ回路、なに回路という名称で話を進めていきます。
(※2編者注 モダリティ:話している内容に対する話し手の判断や感じ方を 表す言語表現のことである。(Wiki))
(※3著者注 「Two-streams hypothesis」の解説(wiki・英文)はこちら>>)
どこ回路とは、例えば、目の前に円筒形のものがあったとき、自身とその円筒形との距離を確認したり、それがテーブルの上にあるか床にあるかといった「場所(どこ)」を確認するための情報処理回路です。そうした距離感を確認する時、われわれの脳は腕を伸ばして実際に手に取るという作業のシミュレーションを脳内で行うことで「場所」という情報を手に入れます。視覚と運動覚の連携なしには、しかと「見る」ことはできないといえるのです。発達期の子どもたちにとって野球やサッカーといった球技は、視覚と身体性を統合させた空間認識の発達にポジティブな訓練であるといえるでしょう。どこ経路の脳内処理は反射的で、すぐに忘れ去られる短期記憶として忘却されますが、小脳には運動覚の記憶、運動神経とか運動能力として実際には長期的に記憶されていると考えられます。
もう一方の「なに回路」はどうでしょう。これは、見えたものの丸いとか四角いとかいった形状や、赤いとか黄色いといった物体の形状や色調を処理する経路です。聴覚※4の視覚の結びついての情報処理であり、それ故に、形状や色に関する情報は、長期記憶される情報として保存されていきます。
(※4編者注 ここでいう聴覚は、ことばと言い換えてもよいでしょう。)
ことわざは、「百聞は一見にしかず」とまるで視覚がいちばんと言わんばかりの優位性の強調ぶりですが、「一見」が「百聞」に勝るためには、運動覚や聴覚といった他の感覚モダリティも連動していなければ、視覚の持つパフォーマンスが発揮されるとはいえないのです。
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さて、冒頭の渋谷で友人に会えなかった話をもう一度思い出してみてください。いくら丁寧に時間をかけて説明したとしても、ことばだけでは相手に伝わらない情報がわれわれの周りにはあふれていることは分かりました。
そしてもう一つ大事なこと。たった一瞬の心ないことばが、人間関係に大きな亀裂を入れてしまったこと。
「聴かせることができなければ、魅せることはできない。」
次回は、聴覚情報処理の原理とメカニズムについて、お話をしていきたいと思います。
(中川雅文・国際医療福祉大学教授、同大学病院耳鼻科部長)
■ 書籍:聞けばわかる発達方程式 発達支援実践塾
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教育現場で働く、教師や専門士(作業療法士、心理士等)が15年以上に渡って続けてきた研究会から生まれた書籍です。研究会のアドバイザーを務められた故・宇佐川浩・淑徳大学教授から学んだことを、研究会メンバーがまとめると前文に示されています。「感覚統合理論」など、多くの理論を元に、仮説を立て、それにより困りの原因を特定し、改善に近づけるという実践を繰り返して、そこで得られた知見をケーススタディとしてまとめたものといえます。
全体は基礎編、解説編、実践編と3部構成になっています。特に、基礎編は見開き1項目の形で、不器用な子、母親べったりの子(逆に誰にも分け隔てなく対応する子)、パニックを起こしやすい子など、周囲で時々は目にする「困った状態」について、その原因についての考察と対処に際しての留意点がまとめられており、とても読みやすく参考になると思います。
解説編では、基礎編での分析の拠り所になっている、宇佐川先生の「感覚と運動の高次化理論」の「発達水準の4層」などが紹介されています。年齢などで判断する発達段階と違って、感覚や運動など、いくつかに分かれた認知レベルのそれぞれがどの段階にあるか、と子どもの状態を多元的に捉えるための尺度です。この認知レベルについて、次の段階に進むためにどのような手立が考えられるか、というように、状態の理解に加えて、支援の方法を考案するための足掛かりになるもので、有用と感心させられました。
実践編では、対応までに時間がかかるケースについて、10数ページを割いてそれぞれの段階の分析と手立て、評価、その次の段階での分析と手立て、というように時系列にまとめられています。「自傷が激しい自閉症児の自己調節性の発達支援」では、川上康則・東京都立特別支援学校教諭が、特別支援学校小学部に入学したばかりの6歳の男児について、取り組みの全容を紹介されており、数多くの支援のヒントが含まれていると感銘を受けました。
このメルマガで以前、講演をレポートした、中川信子先生もブログで紹介されており、数多くの人に注目されている最新の一冊として、強く推薦させていただきます。
★中川信子先生ブログ「お勧め書籍案内」はこちら>>
聞けばわかる発達方程式 発達支援実践塾
編著:木村順・川上康則・加来慎也・植竹安彦、著:発達障害臨床研究会
2014年3月発行、学苑社、A5判、172ページ、1500円(税別)
★詳細はこちら>>
(五藤博義)
■ あとがき
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次回メルマガは、5月2日(金)刊行の予定です。
新連載スタート:「聞く」と「分かる」の関係
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