「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ(最終回)

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2014.04.04

「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ(最終回)

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■ 連載:「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ(最終回)
■ 報告:井上賞子先生の教室訪問レポート・2
■ 書籍:いちばんやさしい教える技術
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■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第13回
「伝わる実感」を「伝えたい」意欲へ・5
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「読む」「聞く」は意欲的に取り組めるのに、自分からの発信が極端に少なかったAさんのお話の続きです。

3.「教える」活動→相手を意識して「伝える」体験・「伝わる」喜びの共有

ここで使ったアプリは、i暗記と、KesiKesiの2つです。

i暗記
★iTunes App Storeの詳細はこちら

KesiKesi
★iTunes App Storeの詳細はこちら

もともとAさんは、漢字が得意で、たくさん覚えていました。そこで、Aさんが得意な漢字を、仲良しの2年生の子達に教えるという活動を組むことで、相手意識をもっての伝える体験につなげて行きたいと考えました。

○KesiKesiは、スクラッチカードが簡単に作れるアプリです。
以下の手順で問題を作成し、出題しました。

・2年生の子達が習い終えた漢字のリストを見ながら、「間違いやすいもの」をセットにして選ぶ。(例えば「門」「聞」「間」とか、「合」「会」とか)
・筆順辞典で漢字を表示させ、スクリーンショットにとる。
・スクラッチカードをつくる。
・それぞれについて「ヒント」を考えてメモアプリに記録しておく。
・出題する際は共通する一部分のスクラッチをはがして見せながら「なんの字でしょう?」と問いかけて行く。
・2年生の様子に応じて、用意したヒントも出して行く。

○i暗記は、単語帳が作れるアプリです。以下の手順で問題を作成し、出題しました。

・2年生の子達が取り組んでいた漢字ドリルを参考に「動きの漢字」「場所の漢字」など、同じカテゴリーに入っている漢字を選んで組にする。
・i暗記で単語帳にしていく。
・カテゴリーリストをカードにする。
・カードを2年生がひいて、その日の問題を決めて、Aさんが出題して行く。
※i暗記は有料版を使えば単語帳をアップロードして共有することも可能なため、Aさんが作った単語帳は2年生が日常的に使うiPadに入れて、復習にも使って行きました。

これらの活動は、Aさんの名前をとって「A先生」と皆で呼んでいました。週に一度、2年生と国語が一緒にできる時間の後半の学習としてやっていました。2年生の子ども達は、仲良しのAさんが先生役をするこの時間が大好きでした。そんな様子を感じてか、Aさんもとても楽しみにしていてくれて、準備もしっかりとがんばりました。

活動を通して、Aさんに見られた姿は以下の通りです。

・既習事項を活用し、教える相手の2年生の事を考えながら問題やヒントを準備することができた。
・2年生の姿に応じて、指示される事なく自分からヒントを出したり黒板に書いたりすることができた。
・回を重ねるごとに「言われて」でなく「自分から」できることが増えていった。
・「教える」という立場を経験した事で、Aさん自身の「学び方」にも変化があり、「相手がなにを伝えようとしているのか」を考えて学習に参加できるようになっていった。
・「教える」活動以外の場面でも、発信する事や自分から関わりを求めようとする姿が出てきている。

Aさんが「教える」という「発信」を経験する中で、「発信」「受信」の両方が伸びて行くのを感じました。

また、Aさんが6年間生徒側で学んできたものが、「A先生」の活動で見られたことにも、驚かされました。

・正解には赤チョークで丸をする。
・ヒントを黒板に書いて示す。
・指名は同じ子に偏らず、順番にあてる。
・できたらほめる。間違えた子には「おしい」と声をかける。

これらは事前に指導していませんでしたが、「A先生」を始めたその日から、Aさんがごく自然に行っていました。
彼女がこれまで生徒の側で見てきたものが、自分が先生になった時「場に即した行動」として表出されたのだと感じています。
そこに生徒側の2年生の反応が返ることで、自然で意味のあるやり取りが成立していきました

Aさんが「A先生」をしている姿を見ながら、彼女の中にたくさんたくさん、小学校での「学び」が息づいていることを感じ、本当に胸が熱くなりました。
ああ、Aさんは沢山感じてくれていたんだ。全く反応してくれなかった低学年の頃から、きっと彼女の中には「これ」があったんだ。なかったのは、それを出して行く場や方法だったのかもしれない。そう思うと、申し訳なさでいっぱいになります。

「A先生」の時間は、先生役のAさんにとっても、生徒役の2年生にとっても、3人の楽しげなやりとりを見ている私にとっても、とても楽しみで幸せな時間でした。

Aさんが卒業してから早いものでもう一年になりますが、今も子どもたちは「A先生楽しかったねぇ」と言います。そして、「ぼくらも6年生になったら先生するね!!」と楽しみにしていてくれます。その話を中学生になったAさんにすると、「うれしい!!」「私も覚えてるよ。楽しかったよ」と満面の笑顔を見せてくれました。

Aさんは漢字は得意ですが、不器用な所がある子です。もしiPadがない状態でこうした活動を組んだとしたら、準備の負担が活動の達成感を上回ってしまうことが予想されます。
苦手な部分を補うことができるのも、こうしたICTを活用する大きな利点だと感じています。

(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ 報告:井上賞子先生の教室訪問レポート・2
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2月26日の島根県安来市立赤江小学校の特別支援・情緒学級の訪問記の続きです。同学級に所属する2年生1人、3年生2人以外にも、同じ学校の別の学年・学級から通ってくる通級教室でもあります。

この日3時限目に行われた3年生の国語も、通常学級の児童が加わった3人でのローマ字の授業でした。

1枚に1文字のローマ字が表示された3組のカードが、それぞれテーブルの3か所に並べられています。それをア行、カ行、というように五十音の仲間ごとにグループ分けするスピードを3人が競います。グループ分けが終わったら、早く終わった子から順に、井上先生の前で五十音表に全部のカードを並べていきます。手を動かし、身体も教室の中を移動しながらの活動です。

次は先生の周りにコの字に並べられた机に座って、ワークブックでローマ字の書きとりをします。ワークブックには、前号メルマガで紹介したように4本の罫線が引いてあり、aは上から2段目と3段目の罫線の間、dは1段目から3段目、gは2段目から4段目と、正しい位置に課題のローマ字を書いていきます。井上先生はプロジェクタと接続されたiPadを持って一人ひとりのところに行き、それぞれの子のワークブックを大きな画面に映して、書いた文字が正しい位置に書かれているかを確認していきます。

最後は全員がiPadを持って、事前に、それぞれの子どもが用意しておいた問題を、順に大きな画面に出して、お互いに出し合います。問題は、ローマ字で書いた「何かの名前」です。わざと濁音の入った問題を作ってあったりして、わいわいがやがや楽しい時間で終了しました。

4時限目は、本来はその学級ではない1年生が3人集まってきての時間です。
2人は、算数のワークブックを使って、それぞれたし算の勉強です。もう一人は井上先生と対面で、ひらがなの勉強です。ひらがなが1文字ずつ表示された五十音のカードが子どもの前に並べられており、井上先生が例えば、つくえの「つ」というように問題を出して、「つ」のカードを探します。ひらがな1文字だけを覚えるのではなく、身の回りにあることばを構成する1音がどのひらがなで表されるのかを勉強していきます。

その子がひらがなの勉強を終えたら、今度は一人で、iPadで時計の読み方の勉強です。その間に井上先生は、たし算をしている子ども一人ひとりの解答を確認し、できた子にはiPadの時計の課題に取り組ませます。

全員での活動の時間と個別活動の時間、さらに一対一の個別指導の時間をうまく作って、一人ひとりの個性や学習進度に合わせた指導が行われていると感銘を受けました。

授業参観で井上先生が言われた、このことだけは常に留意している、という言葉をお伝えして、授業レポートを締めくくりたいと思います。

・今この子は「何ができて」「何ができないのか」という把握
・「できない」という状況の背景には、どんな要因が考えられるのかという見立て
・その困難をどう支えていけるかという手だてとのつながり

井上先生は学校以外の安来、松江、米子などで、子どもや地域住民を対象にして、iPadを活かした活動を精力的に行われています。ご自身が教えるだけでなくその活動で育ったアシスタント(最年少は6年生、最年長は59歳)が活躍する場でもあるそうです。その1つ、Ya-iPad(ヤイ・パッド)のブログで、その活動の一端をご覧ください。

★「Ya-iPad」のブログはこちら>>

(レポート:五藤博義)

 

■ 書籍:いちばんやさしい教える技術
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レビューしていただいた小林雅子さんの文章を抜粋して、ご紹介とさせていただきます。

たぶん書名から、先生やスポーツのコーチといった教えることを仕事にしている人たち向けの本のように思われるかもしれませんが、この本の守備範囲はもっと広め。 (中略)

キーワードとして出てくる単語も、療育の場面でよく耳にするものばかり。
「スモールステップ」「即時フィードバック」「ごほうび」「叱らない」
「“願い”を“行動”として置き換える」などなど。 (略)

この本には、他にもこんなにたくさんのレビューが出ています。
読書メーター内、『いちばんやさしい教える技術』のレビューはこちら>>

著者の向後千春さんは早稲田大学教授。最近、WASEDA e-Teaching Award を受賞されたそうです。
★向後千春研究室のwebサイトはこちら>>

『教えられた人が「必ず!」できるようになる いちばんやさしい教える技術』
向後千春著、2012年4月発行、永岡書店、B6判、192ページ、1000円(税別)

★ヴァラエティカフェ・グッズレビューはこちら>>
レヴュアー: 小林雅子

 

■ あとがき
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昨年9月から半年に渡って執筆くださった井上賞子先生の連載は、今回が最終回となりました。井上先生ご自身も別の小学校に転勤が決まったそうで、その新しい挑戦を近い将来、新たな連載として紹介いただけることを楽しみに、しばしお別れとさせていただきます。

次号からは、中川雅文(なかがわまさふみ)医師(国際医療福祉大学教授・同大学病院耳鼻科部長)に「聞こえ」について連載をしていただきます。どうぞお楽しみに。

次回メルマガは、4月18日(金)刊行の予定です。

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