書きの困難を持つ子の漢字習得

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2014.01.10

書きの困難を持つ子の漢字習得

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■ 連載:書きの困難を持つ子の漢字習得
■ 報告:宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること・2
■ イベント:障害に関連してお金のことを学ぶ講演会
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■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第8回
多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう・3
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「書きの困難が、捉えの苦手さからきていたB君」の続き、今回は漢字習得編です。

ひらがなであれだけ大変な思いをしたB君です。より複雑になっていく漢字での苦労は、カンタンに予想できました。案の定、線が交わる部分で、どこに向かって行くのかが分からなくなってしまいます。例えば「休」という字を書くと「イ」+「大」+「十」にしてしまうとか、そんな感じでした。

そこで使ったのが、ミライプロジェクトから出ている「楽しく学べる漢字シリーズ」です。

●楽しく学べる漢字シリーズ
★詳細はこちら>>

漢字のアプリは、本当にたくさん出ています。それぞれ特徴がありますが、中には「これなら紙とかわらないのでは?」というものもあります。
現時点で「書き」の練習に使うなら、このシリーズのアプリが個人的にお勧めです。

気にいっているのは、以下の点です。
・なぞり書きの際、「始点」「終点」「方向性」が一画ずつ示される。
・表示設定ができる

●同シリーズの画面例はこちら>>

捉えの苦手な子は、たとえ書き順が示されていても、その画(かく)が「どこから始まり」「どこまで続いていて」「どう動く」か分からないことがあります。そもそも「書き順」の表示と、今自分が書いている文字を照らし合わせていくということ自体が、かなりハードルの高い作業になります。

「一画書き終わるごとに、次の画の表示が出てくる」というシステムは、シンプルでとても分かりやすいです。また、「スタート」「ゴール」「→」の表示も、赤丸・青丸・矢印と、直感的に捉えやすくなっています。こうした「今」に対応して「次」が出てくるというのは、機器を使う良さだなあ、とつくづくと感じています。前回書いた「間違い続けない」ということにも、つながっていきます。

間違うと「間違いです」と明るくアナウンスが流れ、その画が消えます。私が「違うよ」というと怒ってしまったり、書き直すのを嫌がったりする子達でも不思議と、機械に言われると「そっか」と納得できるようですね。「あっ違ってた」と素直に直す姿が見られます。「消す」という作業がないことも、大きいかもしれません。

「表示設定」ができる所もナイスです!

本当は子ども達の学びやすさを考えると、漢字の表示は「単元」ごとになっているとありがたいのですが、そこは「著作権」という大人の事情があるようで、こうした漢字アプリの多くは、一覧から選ぶ形になっていたり、音読みの順でいくつかのステージに分かれていたりするものが多いと感じています。

でも、それだと、復習として取り組んでいて、どんな順番になっていてもいいという時なら別ですが、「今必要な学習」を選び出して取り組もうとすると、かなり骨が折れます。結局、苦手な子達に余分な負荷をかけてしまうことにもなるので、あまりお勧めできません。

「表示設定」で漢字を予め選んでおけば、子ども達には「今日やる漢字」だけが示されます。終了の見通しもつきやすく、「探し出す」というステップも必要としないので、とてもスムーズに学習に取り組めます。

このアプリを使うことで、B君は、「正しく」漢字を捉えることができました。とはいえ、もちろん「これだけやれば大丈夫」なわけではありません。

●アプリで捉え直し → テストステージで確認 → 書き込みドリルで練習

という流れで、学習を進めていきました。「正しく捉え直す」というプロセスを踏むことで、「事」「教」「曜」といった画数の多い字も、正しく練習して大きな混乱なく定着に向かうことができました。

●アプリの使用前後で、B君の書いた漢字の例の画像はこちら>>

何でもそうですが、「このアプリを使えば大丈夫」ということにはなりません。でも、「この子のこの苦手さに」とか「この部分の学習の支えに」とか焦点化していくことで、有効に使えるものはたくさんあるなあと感じています。

(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ 報告:宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること・2
~発達障害の理解を通して
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宮尾益知(ますとも)国立成育医療研究センター・こころの診療部発達心理
科医長の講演の続きです。
●講演会の概要はこちら>>

今回は学習障害の1つディスレクシアと、自閉症スペクトラムを取り上げます。そして、認知特性が他の人と異なることでどういった困りが引き起こされるのか、どのように支援することで、それらの子が社会で能力を発揮できるのか、を解説します。

1.ディスレクシア
ディスレクシアは、難読症や読字障害と言われることもありますが、実際は読みだけでなく、書きの困りも持っている場合が多いです。筑波大学、宇野彰教授の調査によれば、日本の公立小学校1年~6年生のうち、音読で、ひらがなに困難を持つ子が1%、カタカナが2~3%。書字で、ひらがなに困難を持つ子が2%、カタカナ5%、漢字7~9%程度、存在するそうです。

その困りの内容は、以下のようなものです。
○読字
・読む速度が遅い
・不自然な読み方
・読み間違いが多い:音の省略、語の置換
○書字
・つづりの誤り
・文構造に問題
・記述語が少ない
・微細運動障害による書字障害の合併

文字-音の符号化の問題、あるいは、文字の形の捉えの問題などから、これらが発生していると考えることができます。

2.ディスレクシアのための教育方法
米国で、学習障害の子のための教育方法を研究している企業、Lindamood-Bell を例として紹介されました。その基本的な概念は以下の通りです。
★Lindamood-Bellの詳細(英文)はこちら>>

○読むことができるようになるには、次の3つのスキルが必要。
1)Phonic Skill(単語やアルファベットを見て発音できるスキル)
→Phonemic Awareness :耳で聞いて音の違いがわかること
2)Word Recognition(パッと見て、単語を読めるスキル)
→Symbol Imagery :単語を聞いて、頭の中でスペルができること
3)Language(文章から単語を知るスキル。guessing)
→Concept Imagery :文を聞いて、頭の中で情景や詳細を描けること

○上記に基づくプログラム、Seeing stars
★Seeing Starsプログラムの詳細(英文)はこちら>>

・読みとスペリングが統合されたプログラム。
・このプログラムでは、音素認識力※の定着を目的とし、日常的によく目にする単語の理解、スペリングの上達と円滑な読みスキルを獲得するために
言葉の中の文字をイメージする学習を行う。
・初めに個々の文字を視覚化することから始め、それを多音節語化して、文脈上での読みやスペリングに発展させていくという流れで行う。
※音素とは、語と語の意味を区別する機能を持つ音声の最小単位。例えば、 たき(滝)とかき(柿)の語頭の t と k 。

○上記を日本での指導として整理すると、以下のようになる。
・音素認識(音韻認識)
-話し言葉の音節と単語における音素に注意させる。しりとり
-音素を文字で処理する
-読書:好きな分野、やさしい内容から
・フォニックス(対連合学習)
-文字と音の対応、つづりのパターン
・イメージング
-文字、文章理解

3.自閉症スペクトラム(ASD)
以下のような認知特性を持つ。
・視覚優位性
・記憶形態:静止画像で断片的 動画としては記憶しない
・つながり(関連性)が一方向的
・時間軸で記憶 重み付けや多面的な見方ができない
・感覚過敏・鈍磨(光、照明、話し声、物音、肌触り、温度、気圧、湿度)
・注意(注視)しているがファンタジー的(自分だけの空想の世界)に捉えているため、結果として不注意になる
※同じ不注意に見えても、ADHDではいろいろな他のことを考えている。

○認知形態の奇異性
・有意味語セットと無意味語セットを覚えさせると、再生時に両セット間に差が見られない(重みづけせず、機械的に覚えている)
・記憶の再生自体は正常だが、系列位置効果(近い時期の方が思い出しやすい)が見られない
・顔をあわせる対人関係を嫌う
・顔を再認する際、眼よりも口元に注目する
・自分の行為よりも他人の行為をよく覚えている(主体感の欠如)
・錯視が見られないことがある(だまし絵が見えない)
・埋め込み部分で、部分を他の人よりも早く発見できる

要点をまとめると、
・舞台を見ているよう:日常生活や人間関係は、自分もそこに含まれる風景として認識している
・3次元空間の認識が難しい←奥行き・距離感は身体感覚と知覚の統合だから
・平面的な描画・平面図形の立体視の困難(想像性の欠如)・方向感覚や遠近感の欠如・不器用さ

4.自閉症スペクトラムのための教育的配慮
前項で述べた認知特性を持っていることを念頭に置きながら、相手が分かるような態度をとる。あるいは、環境を整える。
特に、ポイントとしては、以下の通り。
・目を合わせないことを容認する
・見るもの、聞くものを平板的に捉えるので「要点」が分かるように伝える
・受け取った情報に重みづけがないので、それを本人が整理することを、概念図やカード等を使って、支援する

5.まとめ
・人の違いを認め、評価を行い、その人にあった教育を行う
・教育によって人は変わる
・教育や医療により、変えることのできる可能性があることだから、個性と呼ぶべきではない
・ただし、すべての人が天才になれるわけではない

最後に宮尾先生は、金子みすゞの詩を紹介して講演を終えられました。

「みんなちがってみんないい」
金子みすゞ

わたしが両手をひろげても、
お空はちっともとべないが、
とべる小鳥はわたしのように、
地面をはやくは走れない。

(中略)
すずと、小鳥と、それからわたし、
みんなちがって、みんないい。

「わたしと小鳥とすずと」より
※著作権の関係で、詩の一部を省略させていただきました。

(文責:五藤博義)

 

■ イベント:障害に関連してお金のことを学ぶ講演会
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以前講演を聞いて、大切だなと思った「お金」に関する講演会がさいたま市主催で行われます。講師はファイナンシャル・プランナーの鹿野佐代子さん。

障害を持った子を持つ親なら、我が子のために出来る限りのことをしてあげたいと思うのが自然です。でも、残念ながら、人間には寿命があります。親亡き後に、子がどのように暮らしていくかを考えておくことは重要です。また、親が存命の間もいつも一緒にいられる時間ばかりではありません。

鹿野さんは、子ども自身もできるだけお金が使えるようになることが大切でそれには、実際にお金を使いながら、学んでいくことが必要と考えます。
もし、可能なら、ぜひ参加していただきたい講演会です。

●障害者の家族向け講演会「わたしの『もしも』に備えて伝える」  ※1/28終了

日時 2014年1月28日午後1時~3時45分
場所 武蔵浦和コミュニティセンター(8階) 第7集会室
さいたま市南区別所7-20-1 武蔵浦和駅西口徒歩2分
人数・費用 60名(応募多数の場合、抽選) 無料
申込方法 1月15日までに電話・FAX・Eメール・はがきのいずれかで。

 

■ あとがき
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新年明けましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

東京周辺の方に朗報です。メルマガでも紹介してきた、宮尾益知先生が今年5月に世田谷区に、子どもの発達障害専門のクリニックを開院されます。
宮尾先生ご自身がすべて診察され、他の専門士と協力して発達をサポートされるとのことです。これまでの国立成育医療研究センターで長かった、待ち時間も短縮されるかもしれません。ご期待ください。

「どんぐり発達クリニック(仮称)」
世田谷区南烏山4-14-5 三沢ビル1F
京王線南烏山駅東口より徒歩3分とのことです。

次回メルマガは1月24日(金)です。

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