宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること

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2013.12.27

宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること

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■ 報告:宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること・1
■ 連載:多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう・2
■ グッズレビュー:緊急時サポートブック
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■ 報告:宮尾益知先生講演:子どもたちのためにできること・1
~発達障害の理解を通して
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12月21日に東大・福武ラーニングシアターで行われた講演のレポートです。
「こどもの認知特性の理解を深めるWEBサイト・プレリリース発表・講演会」(主催:NPO法人おやじりんく)で、宮尾益知(ますとも)国立成育医療研究センター・こころの診療部発達心理科医長が、2時間にわたってお話しされた内容の中から、人によって異なる認知スタイルという点に絞って、報告したいと思います。
★講演会の概要はこちら>> 

宮尾先生は、一人ひとりの子どもの学習スタイルを、その子のもつ「知能の異なるタイプ」「認知機能」「性格・気質」で捉えることを示唆されています。順に解説していきます。

最初に、H.ガードナーの多重知能理論(Multiple Intelligences)が紹介されました。知能(頭の良さ)は、よい悪い、という一元的なものでなく、8種類の異なった知能から捉えるべき、という考え方です。多重知能理論の解説は、下記ページを紹介することで代えさせていただきます。

★多重知能理論の概要 恒安眞佐(芝浦工業大学) についてはこちら>>

8種類の知能とは、以下のようなもので、それを持つ子どもの行動例と併せて紹介します。

・言語的知能…本を読んでなぜ面白かったか説明できる。
・論理数学的知能…会話をしていると、なぜ、どうしてと聞いてくる。できごとの原因・結果を考えることができる。
・音楽的知能…リズム感がよい。楽器を演奏するのが好きだ。
・身体運動的知能…体を動かす習い事を楽しみながら継続している。折り紙を上手に折ることができる。
・空間的知能…地図を見ると地形が分かる。ブロックで遊ぶことが好き。
・対人的知能…学校の休み時間に友達と遊ぶ。相手の気持ちを推測できる。
・内省的知能…なぜうまくいったか考えることができる。自分の得意なところやよいところ、苦手なところ、よくないところが分かっている。
・博物的知能…動物・植物・電車などの種類について知識がある。日常生活で毎日何か発見がある。

すべての人間はこれらの知能を持ちますがそれぞれ得意不得意があります。
というより、ある知能を持つことで、別の知能がうまく働かない、といった側面があるのではないか、というのが宮尾先生の考えです。

次に、認知機能です。これらを子どもたちは、さまざまな活動をする際に使いますが、やはり個人差があります。

・遂行機能…自分で目標を立て、考え、実行できる。宿題を期限までに提出できる。
・長期記憶…テレビを見ながら覚えた知識が多い。よく目にするものはすぐに覚えてしまう。
・ワーキングメモリー…ケアレスミスはめったにしない。電話番号を覚えることができる。本は一気に読まないと分からなくなってしまう。
・注意機能…ドリルなど1回分を一気に終わらせることができる。授業中、先生の話をキチンと聞いている。
・興味の変動…興味のない教科は、勉強しようとしない。好きな先生と嫌いな先生では、できが違う。
・学習のペース…性格的にのんびりおっとり。じっくり考えてからでないと問題が解けない。頭の回転は早いほう。計算を解くのが早い。

3番目が、性格・気質です。

・学ぶ意欲…自分のために、勉強するという気持ち。自分から進んで勉強する。
・学習の計画性・自律性…勉強する習慣。必要のある勉強から始める。
・自己分析…なぜ間違えたのか、考える。解けそうな問題と難しい問題が分かる。
・性格…負けず嫌い。気持ちの切り替え。 自分を信じている。

これらの側面から、その子がどのようなタイプかを知り、それに即した教育をすることで、それぞれの子どもの持つ能力が伸ばせると考えられます。

人間の認知スタイルを2次元モデルとして提案したのが R.スティーブです。



宮尾先生によれば、発達障害のある子どもでは、自閉症スペクトラムの子は第II象限に、ADHDの子は第IV象限に該当する場合が多いそうです。

また、大別して、次の2つのタイプの人間がおり、その子はどちらに近いだろうかと考えることも、子どもと接する態度を考えるのに役立つかもしれません。

同時処理型             継時処理型
(視覚映像優位型認知)       (聴覚言語優位型認知)
全体を踏まえた教え方        段階的な教え方
全体から部分へ           部分から全体へ
関連性の重視            順序性の重視
視覚的・運動的手がかり       聴覚的・言語的手がかり
空間的・統合的           時間的・分析的

そして、人と大きく異なるタイプの人間が、ユニークな成果を残していると考えてみることもできるかもしれません。例えば、芸術の分野で偉大な作品を残した芸術家の認知スタイルを紹介します。

アントニオ・ガウディ 「サグラダ・ファミリア(聖家族教会)」
・建築家とは、作る前に諸構成要素を造形的にも距離的にも適切に配置・結合し、その全体像を明確に見ることのできる総合する人のことである。作る前のこのビジョンには、構造デザインと色彩計画もイメージされている。
(出典:鳥居徳敏、ガウディー七つの主張、鹿島出版社)
・人は、2つのグループすなわち時間の人と空間の人のいずれかに属さざるを得ない。数字に弱い人は、音楽とか言葉にも弱い。なぜなら音楽も言葉も時間を必要とするからである。
(出典:鳥居徳敏、建築家ガウディー全語録、中央公論美術出版)
偉大な空間的な能力が類まれな建築物を構想しました。反面、学校で求められるような成績は極めて低かったそうです。

ルイス・キャロル 「不思議の国のアリス」
本人が描いた挿絵や文章から、ガウディとは対照的に、2次元的な発想の人であり、その世界の中で多様でユニークな発想が生まれたというのが、宮尾先生の意見です。

クロード・モネ 「麦わら」
まったく同じ風景が、季節と時間によって、異なる絵画として表現されています。「時間を切り取る」という特異な能力を活かした画家、というのが宮尾先生の意見です。

これらの偉人はある種特異な認知スタイルを持っていたからこそ、一般的な人間ではなしえなかった新しい価値を創造できたと考えられ、それは、一人ひとり異なる子どもたちの教育を考える際に、ヒントになるのではないでしょうか?
<続く>

(文責:五藤博義)

 

■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第7回
多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう・2
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「書きの困難が、捉えの苦手さからきていたB君」の続きです。
「過程をキロクする」ことで、
・どうやらB君は、お手本を見ただけでは線のつながりや方向性が捉えられ ないらしい
・構成要素の位置関係も、把握するのが苦手のようだ
とわかったのが、前号までです。

では、そんな彼が文字の書きを学習していくために、何が必要だろうと考えて、以下の視点で取り組んでみようと思いました。
・ガイドを手掛かりに、線を正しく追っていくことをくり返す
・構成要素を、見るだけでなく別の感覚も使って捉え直していく
要は、確認の手だてを持ちながら、多感覚を活用しての「捉え直し」を試みた訳です。

使ったアプリは、ナゾルートとモジルートです。

ナゾルート:文字の構成要素になる、様々な線のなぞり書きができます。間違うと、乗り物は動きませんが、正しくなぞるとバイクや自転車がなぞった動きと同じ動線上を走って行きます。
★itunes App Storeの「ナゾルート」プレビューはこちら>>

モジルート:ナゾルートと同じプロセスで、文字の形に組み合わされた線路や道路をなぞり書きして行きます。一画ずつなぞって行き、なぞり終わると文字に変身して、その文字の読みの音が聞こえます。

★itunes App Storeの「モジルート」プレビューはこちら>>

ナゾルートとモジルートの良い点は、
・正しくなぞると、乗り物がそのルートを同じようにたどって行ってくれる
→触覚で感じたものを、視覚でも確認できる
・間違いにその場で気づける
といった辺りですね。

「なぞる」で終わらず「見せる」で確認させてくれるというのは、捉えの苦手な子ども達にとって、とてもわかりやすいと感じました。B君も、多感覚を活用していくことで、「ただ見ただけ」では捉えられなかった線の方向性やつながりを感じることができたようでした。

「間違い続けさせない」ということは実は、こうした苦手さを持つ子ども達にとって、とても重要だと思います。

B君のような子どもにとって、「苦手なこと」に取り組むのは、やはり負荷が高いです。他の子よりも高い負荷を抱えながら、苦労して苦労して必死で学んでいます。しかしその苦手さのため、他の子よりずっと「間違いやす」くもあります。

例えば、B君はなぞり書きのプリントをやったら、1枚全部間違えていても自分では気づけません。「す」を「十」と「○」で書いていても、その間違いに気づけないまま、必死で繰り返してしまいます。がんばっているのに、間違いを繰り返すことで、より混乱してしまうこともしばしばです。そんな体験を繰り返していたら、「がんばってもどうせできない」と思ってしまうことでしょう。

苦手さのある子ども達だからこそ「正しく・繰り返す」をどう保証していくかが、カギになります。こうしたICT 機器は「間違いにその場で気づける」という強みがあります。「今」の間違いに「今」気づけて直せるため、「間違い続ける」ことがありません。これは、苦手さを持った子ども達の学びやすさを支える上で、とても有効だと感じてます。

ナゾルート・モジルートで行った「捉え直し」を、さらにアナログ教材「ひらがなしっかりシート」で確認したり、線の動きを音声化していったりしながら、B君は文字の線の動きや方向性を身につけて行きました。

このあたりの詳しいレポートは魔法のプロジェクトの成果報告会公開資料、赤江小学校、25年ふでばこのファイルにあります、D児のケースをご参照下さい。
★魔法のプロジェクトの成果報告会公開資料pdfはこちら>>

相変わらず、なかなか「アプリ紹介」にならず、申し訳ありません(汗)
次回は、そんな捉えの苦手なB君が、より複雑な漢字の書きをどう習得して行ったかについてご紹介します。

(井上賞子・安来市立赤江小学校)

 

■ グッズレビュー:緊急時サポートブック
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サポートブックは、障害や持病のある人が事前に準備しておき、必要な時に周囲からその情報を活用した支援を受けるためのもので、様々なタイプがあります。

今回、yoshikoさんがご紹介いただいた「緊急時サポートブック」は、東日本大震災で被災した特別支援学校の山口裕之先生が考案されたもので、次のような特徴があります。

1.災害や事故の際の「(障害のある人の)観察の仕方」と「周囲の関わり方」をまとめた『取り扱い説明書』

2.コミュニケーションの苦手な自閉症スペクトラムの人が理解しやすい、視覚支援のイラスト※で表現
※視覚支援シンボル集として公開されているドロップスを採用

3.マイクロソフトのワード形式で、写真やイラストを挿入したり、枠の大きさを変更したり、項目そのものを削除したりとカスタマイズが可能

無料でダウンロードが可能です。詳しい使い方は、yoshikoさんがまとめてくださった、グッズレビューをご覧ください。

ヴァラエティカフェ・グッズレビューはこちら>>
レヴュアー: yoshiko

 

■ あとがき
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あと数日で2013年も終わりですね。
2010年7月に創刊した本メルマガも、5年目に突入です。
永きにわたってお読みいただいた皆様に御礼申し上げます。

来年最初のメルマガは1月10日(金)です。

読者の皆様とご家族の方々が健康で素敵な新年をお迎えになられますことを心より祈念申し上げます。

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