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■ 連載:多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう
■ 報告:篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」最終回
■ グッズレビュー:ビー玉転がしのおもちゃ
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■ 連載:賞子先生の「魔法のアプリ」 第6回
多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう・1
「書きの困難」というと、どんな姿を想像されるでしょうか?
今回ご紹介する事例のB君は、入学前に全てのひらがなが読めて書ける状態でした。しかし、彼の書く文字は、線の方向性が違っていたり、部分の構成要素が多かったり少なかったり、全体のバランスが崩れていたりと「たぶんこの字を書こうとしているんだろうけれど、何か違っている」状態でした。
最初は、入学前に書き順等も確認せずに覚えた子ども達によく見られる姿かなと思っていましたが、一文字ずつの学習が始まってからも、その状態は続きました。黒板で空書きをして確かめたり、お手本を拡大して横に置いたり「ここからだよ。よく見て書こうね」と声をかけたり、色々と試みては見ましたが、その都度「うん、わかった」と集中して取り組むのに、なかなか書けるようにはならない状態が続きました。
横で見ていると、彼はしっかりお手本を見た後に書き始めています。それでも2画の文字を3画で書くというような間違いが続きました。「まってまって、違うよ?」と、何度も止めて確認するのですが、直した時はきちんと書けても、やはり間違いは続きました。
ある日、お絵描きを動画で残せる「おえかキロク」というアプリを使って、B君にお手本を見ながらひらがなを一文字ずつかいてもらいました。B君だけではなく、他の1年生にも数人、同じことをしてもらいました。再生してみると、B君と他の子達には大きな違いがありました。
○B君が書いたひらがな
★画像はこちら>>
たとえば「お」の場合。
B君の「お」はいつも縦棒が二重に重なっていました。「間違えたものを消さずに書いているのだろう」とずっと思っていましたが、動画として再生された彼の「お」の字は、いつもためらいなくまず十字が書かれているのです。B君は間違えていたのではなかったんです。彼は確認した上で、「十」を書いてから、縦棒をもう一度なぞってくるりと「お」の字の本来の2画目を書いていた訳です。
他の子は、お手本を見れば「お」は「横棒+たてくるり+点」の3つに分かれていることを自然に捉えています。しかしB君は「お」を「十字の形+たてくるり+点」と捉えていました。
B君の書く文字は、多くが「お」と同じように、線のつながりや関係が捉えられていませんでした。「わ」も「ゆ」も3画で書かれていました。「せ」は出来上がった文字をみると普通に見えましたが、2画目、3画目が横棒の上下でつながっていることが捉えられていませんでした。
○B君が「せ」を書いている途中の形
★画像はこちら>>
B君は「よく見て」書いていたんです。でも「捉え」がうまくいっていなかった。彼は「見ただけでは線のつながりや方向性が把握できない」「構成要素の位置関係も捉えにくい」という学びにくさを抱えていたのです。「過程を記録する」ことで、わたしはやっとそのことに気がつきました。
横で見ているつもりでいても、どうしても文字は書き終わったものを見る機会が圧倒的に多いです。iPadの使いよさは色々とありますが、この「過程が記録できる」というのも、本当に大きな魅力だと感じています。
あああ、指導までたどり着きませんでした(泣) 続きは次回に。
「過程を記録する」のに使ったアプリは、以下です。
○おえかキロク :お絵描きを動画で保存し、再生できるアプリ
★itunes App Storeの「おえかキロク 」プレビューはこちら>>
(井上賞子・安来市立赤江小学校)
■ 報告:篁一誠先生講演「自閉症児に教える時に配慮すること」・3
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東京都自閉症協会主催の篁一誠(たかむらいっせい)先生の講演会レポートの最終回です。
5.効果の見極め
前2回で教える内容と教え方について紹介しました。自閉症の子(人)も、当然、一人ひとり個性が異なりますから、そのやり方が有効かどうかを確かめながら、教育を進めていく必要があります。
その見極めのポイントは、「行動が変わったかどうか」です。分かったこと、できるようになったことがあれば、他の人にそれを伝えたくなります。そうなれば、他の人のそばにいるようになります。
そして、本人が自分から何かをしようとする時に「やってはいけないこと」が一つあります。それは「ほんとにそれでいいの?」と確認することです。
確認すると、本人はその選択が適切だったかどうか不安になり、せっかく行動するようになったことがぐらついてしまうのです。
6.記録の取り方
前回、できるまで繰り返す、が、2週間やって変わらなければ、やり方を変えると書きました。変化の様子を知るには記録が必要となります。記録は、続けることが第一です。それには、続けやすい方法でなければなりません。
紙1枚を1か月分といった分量で、日時・場所・内容、を書きます。内容には、できたこと、不適切なこと、を書きます。客観的にするために、時間、回数を書きます。
表現としては、こだわりやパニック、といった抽象的な表現を避け、具体的に何をしたのか、それは以前と比べてどう変化したのか、を書きます。
また、同じ行動が頻繁に出る場合は、それを符号にして記載するようにすれば、家族が誰でも記録することが可能になります。
これらの記録は、その人を知るための情報となります。学校が変わったり、あるいは将来、施設やグループホームに入る、という場合にも、大変、有用なものとして活用できます。
7.参考になったアドバイス
最後に、篁先生がおっしゃったことで、これだけは覚えておきたいとメモした内容を紹介します。
○1回の時間は15分
集中できる、もっとも適切な時間は篁先生の経験では15分だそうです。ここまでやる、とノルマを本人に伝え、こきざみにせず、続けて行います。
○役に立つ勉強を優先する
その子(人)の年齢や状況で、もっとも身につけてほしいことを優先して取り組むようにします。
○「早く」は禁句
早くやって、と言いそうになりますが、それはもっとも本人の意欲を失くす言葉です。それを避けるために、分量を減らす、という方法があります。
食事を例にすると、食べる分量を半分にすれば早く食べることができます。そして、食べ終わったら、できたね、とほめます。そうすれば、ほめられたくて、次には、食べようという気になりますから、だんだん食事の量を増やしていけばよいのです。
○年齢に合わせて、できること
5歳の子が何かの「お手伝いをする」といっても、そのことを全部任すことはしないようにします。そのことの中から、できると思えることだけを提示して、「これがあなたの仕事です」とやってもらうようにします。
できるところまで、というような形で任せると、中途半端なところで、やめさせることになってしまい、せっかくの意欲に水を差すことになってしまうからです。
○不適切な行動への対処
その都度、反応をすると、「お母さんにこちらを向いてもらう方法」として身につけてしまう可能性があります。ですから、見逃せる場合は、見逃します。そして、やってほしいことを実際にやり、これをしてほしい、と示すとそれを真似してやってくれるようになります。
来年になりますが、2月17日に、この講演会の続編が東京都江東区文化センターで開催される予定です。もし可能であれば、篁先生のお話をぜひ直接お聞きください。近くになりましたら、改めてご案内させていただきます。
(文責:五藤博義)
■ グッズレビュー:ビー玉転がしのおもちゃ
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今回の未来奈緒美さんのおすすめグッズは「ビー玉転がし」のおもちゃです。
こだわりのあるお子さんが興味をもってくれるおもちゃを見つけるのに苦労している保護者の方へのアドバイスだそうです。
ネットで調べてみたら、いろいろな種類の「ビー玉転がし」が販売されているんですね。
○スイスの専門メーカー、キュボロ社のファンサイトは
★cuboroファンサイトはこちら>>
自作派もいらっしゃるようで、ネットで公開もされています。
○割り箸でつくるビー玉転がし(動画)
★動画(youtube)はこちら>>
クリスマス・プレゼントにもいいかもしれませんね。
ヴァラエティカフェ・グッズレビューはこちら>>
レヴュアー: 未来奈緒美
■ あとがき
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これまで随分、発達障害関連の講演会等に参加しましたが、参加者の多くは当事者の父母や祖父母で、他に、教育関係者、療育関係者、成人当事者が含まれている印象です。
小中学校の普通教室の6.5%もの人がなんらかの発達に困りを持つ時代ですから、今後の社会変革を担う若者たちにその実態を知ってもらうことが必要と考え、18歳から30代までの方を主な対象にしたフォーラムを実施することにしました。
読者の皆さんの周りに、社会問題に関心をもつ若者がいらっしゃるようでしたら、ご案内いただければ幸いです。
現在の発達障害事情を読み解くフォーラム 12/21、東京・渋谷 (※終了しています)
★詳細はこちら>>
次回メルマガは12月27日(金)とさせていただきます。
多感覚のパッケージで、文字の「捉え直し」を支えよう
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