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■ 報告:カニングハム久子先生講演「様々な学習障害の理解と対応」
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・最終回
■ Web :私の診断・治療法「大人の発達障害について」
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■ 報告:カニングハム久子先生講演「様々な学習障害の理解と対応」・1
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日野・発達障害を考える会「スキッパー」主催の10月29日の講演会レポートです。カニングハム久子先生は、1934年長崎県に生まれ、1969年にニューヨーク市立ハンター大学で特殊教育の修士号を取得されて以来、米国に住み一貫して発達障害の子どもの療育に携わってこられました。
日野・発達障害を考える会「スキッパー」のwebサイトはこちら>>
毎年10月から11月にかけて日本に戻られ、全国各地で講演をしておられます。
筆者はこれまで4回参加し、数多くのことを学ばせていただきました。以下は編者なりに講演のポイントをまとめたものです。理解不足の点がある場合、すべて編者に責任があることをお断りしておきます。
1.ADHDと双極性障害、LD
多動や注意の維持ができないなどで判断されるADHD(注意欠如多動性障害)は、双極性障害(そううつ病)の前駆症状として出現することがあります。治療方法は異なりますので、DSM-IV(米国精神医学会統計と診断の手引き)やICD-10(世界保健機構の診断基準)、カナーズの多動性尺度、マイクルバストのLD診断のためのスクリーニング・テストを使って、正しく診断する必要があります。
さらに、ADHDの子どもの約40~60%に、特異性LD(学習障害)※1がみられます。あるいはLDの存在がADHDの症状を引き起こしている可能性もあります。
※1 編者注)カニングハム先生にご質問したところ、米国では、言語性LD(ディスレクシア等)、計数LD(算数・数学の特定の演算ができない、概念が理解できない等)が該当するとのことでした。
特異性LDの特定化をするには、下記のような別の診断方法が必要です。
1)脳幹聴覚検査…聴覚統合能力を調べる
2)視覚検査…視覚統合能力を調べる
3)ITPA言語能力診断検査…言語の発達の形を調べる
4)心理発達検査…全体の知的発達の形を調べる
2.聴覚統合能力を困難にする3タイプ
言語性LDのうち、聴覚に関して3つの異なった困難のタイプがあります。
1)識別能力…聞くべき音声と他の音声を区別して聞き取る能力
この能力に問題があると、周りの音にすぐに注意をそらしてしまいます。ですから、教師のことばをちゃんと聞き取ることができません。
対処方法としては、教師に近い位置に座らせる。教室を静かな環境にする。教師は、注意をひき集中させたい時には、手を叩いて合図(clapping)をします。明瞭な発音と分かりやすい文体で、教室の隅々まで響くように話しかけることが大切です。
2)方向判別能力…周囲から自分に向けられた音声に気づく能力
この能力に問題があると、音を聞き取る能力はあるのに、声をかけられても気がつかない状態が起きます。音が聞こえても、自分のことだと分かるまでに少し時間が必要です。
対処方法としては、目で確認させるなどしてこちらの声を捕らえさせることが肝要です。日本でいう間をおきながら、子どものペースで指導することが大切です。また、次に話すことを予告するのも、注意と理解の準備をさせることができ有用です。
3)構成能力…音を他の音と区別して聞き取る能力。また、言葉など複数の音で構成されている音のつながりをもれなく聞き取る能力
この能力に問題があると、覚えた言葉の構成要素が聞き取れていなかったりするので構音障害 ※2のような話し方になることがあります。また、聞いた文章に句読点をおきながら理解することが苦手で、助詞「てにをは」の役割の理解も不足している場合があります。
※2 編者注)発音が正しくできない障害。咽頭に問題があって、ある種の音が出せない音声障害ではなく、それ以外の部位に問題があって発生する。
この改善のトレーニング方法としては、字を目で見て、その音を発声した人の、喉、頬、鼻、唇などを手で触れさせて確認し、子ども自身にその音を発声させる多感覚的な方法が効果を上げます。また、木琴やピアノで、ドレミの八階音を発声させ、正しい呼吸法や発声法を身につけさせながら聞き取りの基礎力をつけさせることも有用です。
3.聴覚統合訓練 Auditory Integration Training
LDだけでなくADHDや自閉症の子どもたちに、大脳皮質のレベルでの聴覚統合の問題が多く、それに対するトレーニング方法が米国では考案されています。
一例として、カリフォルニアのドレイク研究所が開発したニューロフィードバックを紹介していただきました。患者はモニターテレビに接続された電子回線を頭に装着します。画面に波の上を飛ぶ飛行機が現れ、それに集中していると飛行機が飛び、集中がとぎれると墜落します。その間、ぼーんぼーんと「ソ」の音が続きます。聞くことについての集中力を高める訓練です。
Neurofeedback (EEG Biofeedback) はこちら>>
次号に続く。 (五藤博義)
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・最終回
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「今、できること」を踏み台にして、次のステップへ
自分から自発的に周囲とコミュニケーションを取りたいという意欲が高まってきたトムくん。トムくんの「今、できること」のひとつひとつとそれが含んでいる潜在的可能性について、ていねいに分析していくことが大事なのではないかと感じていました。
たとえば、トムくんはジェリーちゃんといっしょに童謡を喜んで歌うようになっています。でも、歌詞の意味を理解しているわけではありません。「今、できること」である覚えている歌に、絵カードを添えたり、歌詞の意味をあらわす身振りを加えると、歌を会話に活かしていけるかもしれません。
またトムくんは「金魚にえさをやる」とか、「ラーメンを作る手順を知っている」といった「できること」があります。「金魚がたべるのは、どのエサでしょう?」、(ラーメンを作っている写真に)「何を作っているのでしょう?」といったクイズを絵本やカードにすると、自分の活動を別の視点から捉えなおすことができるはずです。「気持ち」や「会話」を言葉にして聞かせてあげることもできます。
「今、できること」としてこんなことに着目するのもいいかもしれません。トムくんはスプーンで何かをすくうのが面白くてたまらない様子です。すくう素材や、すくう道具をさまざまなものに変えると体験の幅と語彙のどちらも広がるでしょう。スプーンひとつでも「料理」や「お人形のお世話遊び」や「えさやり」や「実験」や「物作り」など、大きな意味の流れの中で使うことで広がりと深みが出てくるはずです
トムくんは視覚の情報処理と聴覚の情報処理に深刻な問題を抱えています。それらを軽減する方法は、トムくんが場所や状況によって比較的スムーズに処理できている場合があることに注目することのなかにヒントがあるかもしれません。
キッチンでおなべを見つめる時と、家具などがない奥の部屋の隅に腰かけている時のトムくんは、話をきちんと聞き取ることができるようです。
また自分からわたしの腕に手を乗せて、わたしの意図を読もうとするように真剣な表情でこちらを見る時には、話しかけた言葉を了解して次の活動につながっていくことが多いです。
お父さんが大好きなトムくん。お父さんのひざに乗って、上機嫌で笑いながら過ごすことがよくあります。その間は完全にリラックスしているようで、見たり聞いたりすることへの注意力は薄らいでいるようです。けれども、お父さんが台所で調理をする時には、調理の流れを真剣に目で追いながら、お父さんの言葉かけをよく理解しています。
トムくんにとってお父さんの声の音程やリズムはとても心地よいようですが、お父さんに対して自発的に何か伝えようという意志はあまり感じられません。
一方、お母さんであるyohikoさんに対するトムくんは、意図を正しく読みとろう、正しい答えをアウトプットしようという一生懸命さが先だって、自分の思いを伝えようとする態度が空回りしてしまうことが多々あります。
おそらくふたつのことを同時に行うのに困難があるのでしょう。yohikoさんがトムくんの気持ちを正しく読み取ってあげようとするほど、トムくんは自分の言動が間違っているのではないかと不安になって、軽いパニックを起こしかけることがあるのです。
トムくんが何か言いたそうな時、言葉で「なあに?」「~なの?」と矢継ぎ早に返さずに、静かに、トムくんの置かれている状況と視線の行方を見るといいのかもしれません。
何を言いたがっているのか、黙ったまま判断して、言いたがっていた内容を目で確かめられる状態を作って、見る対象をはっきりさせて安心させてから、「~なの?」とたずねると、いくつもの情報処理を同時にこなして混乱することは減るのではないでしょうか。
こちら側が「見る」「聞く」のスイッチのどちらかだけで対応できる時間をあえて作ってあげるのです。
わたしに対するトムくんの態度からは、さまざまな細かい状況を伝えよう、伝えたい、という気持ちがありありと伝わってきます。言いたいことがある時は、わたしの手を軽くつかんで、もう一方の手を影絵の狐を演じる時のようにパクパクさせる素振りをよくします。身近な人が本人の意志を伝えやすい構えを作っておくことで、複雑なさまざまな思いも表現してみようという意欲が生まれてくることでしょう。
トムくんの成長物語は今回でおしまいです。これまでずっと読んでくださった方々に心から感謝します。どうもありがとうございます。
トムくんの成長は、小さな一歩の積み重ねです。それがどんなにささやかなものでも、これからもずっと見守り支えていきたいと思っています。
(未来奈緒美)
未来さんのブログ:虹色教室通信はこちら>>
■ Web:私の診断・治療法「大人の発達障害について」
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facebookの友人が紹介してくれた、素晴らしいサイトを紹介させていただきます。千葉県市川市の仁和病院の Webサイトの中にある竹川敦院長の「私の診断・治療法」の中の「大人の発達障害」というページです。
仁和病院 竹川敦院長「私の診断・治療法ー大人の発達障害」ページはこちら>>
「自分が精神科の外来医として積んだ経験や知識をまとめてみようと思います」と書かれているように、ご自身の経験から精神障害と間違われやすい大人の発達障害の診断についてまとめられています。
「私の診断・治療法」TOPの「日本の精神科医療のいいかげんな理由」に記載されていますが、日本の大学での指導は統合失調症とうつ病の学習が中心であるため、外来患者に発達障害があることを診断できず、抗精神薬の投与以外に選択肢を持たない多くの医療関係者にぜひ読んでいただきたいと、強く思います。
■ あとがき
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しばらく間が空きましたが、第7回ヴァラエティカフェが12月6日に東京・世田谷区経堂で開かれます。北村尚弘さん(働くしあわせプロジェクト)の講演『企業のホンネを学ぶ』 の後、テーマを選んで少人数での懇談会があります。発達障害のある子の保護者や当事者をはじめ関心のある方はどなたでも参加できます。ぜひお越しください。
★概要はこちら>>
★申込みはこちら>>
次回メルマガは、12月14日(金)の刊行予定です。
北出勝也さんの新しい連載を予定しています。お楽しみに!
カニングハム久子「様々な学習障害の理解と対応」
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2012.11.30
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