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■ 報告:島田療育センター:斎藤万比古講演:大人がもつべき視点とは
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・12
■ あとがき
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■ 報告:島田療育センター:斎藤万比古講演:大人がもつべき視点とは
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10月6日に東京・多摩市の島田療育センターで、国立国際医療研究センター国府台病院 精神科部門診療部長の斎藤万比古(かずひこ)先生の講演会がありました。「心の育ちを考える-大人がもつべき視点とは」と題して、講演と質疑応答で2時間半に及ぶ内容でした。発達障害に関する基本的な内容も幅広く含まれていましたので、編者が皆さんに知っていただきたい点に絞って、紹介させていただきます。
島田療育センター 発達支援センター 心理相談室 第8回講演会 詳細はこちら>>
1.精神遅滞(知的障害)の存在を忘れない
文部科学省の発達障害の定義は、知的に遅れのないPDD(広汎性発達障害:自閉症やアスペルガー症候群が含まれる)、ADHD(注意欠如・多動性障害)、LD(学習障害)の3つとされています。精神遅滞(知的障害)が以前から支援の対象となっていたために、新たに支援の対象となった定義から除外されたためで、発達障害者支援法の定義には精神遅滞が含まれます。すべて、先天的(あるいは幼少時からの)脳機能障害の一種です。PDD、ADHD、LDが重複することがあるのと同様に、精神遅滞も他のどの発達障害とも重複することがあります。ですから、斎藤先生は、発達障害を考える時に精神遅滞を同時に考慮すべきと強調されました。
編者注)私見ですが、一人ひとりの子(者)の生活しやすい環境を考慮する際に、すべての発達障害の困り感の、それぞれがどの程度なのかという視点を持つことが必要だと思います。その際に、精神遅滞と、もうひとつ見落とされがちな感覚過敏について考慮することが大切だと思います。
2.発達障害は治らない、特に、ADHDの特徴は父親の圧力では治らない
治らない、という言い方に抵抗がある人は多いと思います。ソーシャルスキルトレーニング(SST)などで、社会での適応方法を身につけていけることは事実です。しかし、発達障害の特徴は、それぞれの脳の構造から発生しているものなので、それ自体を治そうとすることは別の問題を引き起こす可能性があります。
Wiki:「SST」はこちら>>
特に、じっとしているのがにがてなADHDの特徴を、いたずらっ子を父親が厳しいしつけで治すような行動は絶対にとらない方がよいとのことです。父親のいるところでじっとしているようになった場合、それ以外の場所ではその反動で、さらに特徴が強く出たり、ストレスにより別の困り感が出てくることが多いそうです。
3.ADHDの子が不適応になるパターン:ほめないで育てるリスク
注意不足や多動は目につきやすいので、親や周りの人はそれをしてはいけない、と要求することがたびたびあります。しかし、それを守ることはADHDの子にはとても難しいことです。結果として、しかられることが多くなってしまいます。本人としても、しないようにしようと思ってできないことが多く、自己嫌悪に陥ることが多くなります。
また、いろいろとよい行いをしても、前述のことにばかり大人の目がいくためにほめられることが少なく、自分はだめな人間だと、自己効力感(self-efficacy)が低く成長していくことが多くなります。
Wiki:「自己効力感」はこちら>>
編者注)self-esteem という言葉も発達障害関係でよく使われます。意味的には両方を指す場合が多いようです。
Wiki:「self-esteem」はこちら>>
そのことで、だんだんと社会に出ることを避けるようになったり、反社会的な行動をとるようになったりすることがあります。
ですからADHDの子には「ほめる」ことが大切です。しかし、ほめるには技術が必要です。ADHDのペアレント・トレーニングに関する本等で、子どものほめ方を学ぶことを推奨します。
4.PDDの子が不適応になるパターン:心の理論の成立した後のリスク
自分が得ている情報が、他の人にとっては異なる情報である可能性がある、ということを理解するのを「心の理論」といいます。つまり、他人が話したり、行動をしている内容は、他の様々な情報を集約して違う意味だと判断できるようになることです。
Wiki:「心の理論」はこちら>>
普通の子では、4~5歳で心の理論が成立することが多いですが、PDDの子は、8~9歳あるいはもっと上の年齢になって成立することがあります。成立が遅くなればなるほど、数多くの出来事を経験しています。それらを思い返し、考え直してみると、自分が信頼していた周りの人が、自分に対して悪意を持って行動していたことに気がつくことがあります。
PDDの子は、思春期にそんな状況になることがあることを理解し、人間不信、社会不信にならないように配慮することが大切です。
編者注)心の理論の成立のタイミングを見分ける方法や、そういった状況になった子にどのように対応すべきかを、残念ながら斎藤先生に質問することができませんでした。多分、質問しても快刀乱麻の解答は得られなかったのかもしれません。今後の課題です。
余談)編者は最近でこそ Twitter で多くの人と交流がありますが、以前はわずかな人だけとの交流でした。フォロアーが急増するきっかけになったのが斎藤万比古先生の講演についての連続 Tweetでした。それ以来、5千人以上の方にフォローしていただくことができましたから、その意味からも斎藤先生は大恩人といえます。2年ぶりの講演は、感慨深いものがありました。
2010年5月19日編者Tweet(nakano.tumblrまとめ)はこちら>>
(以上、斎藤先生の講演に基づき、五藤がまとめ)
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・12
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『数値ではなく心で感受できる成長 (2011年11月の記録)』
数ヶ月ごとに自閉症のトムくんに会いに神奈川まで出かけています。今回、お母さんのyoshikoさんから「この数ヶ月、成長を感じるものの、どこがどう伸びているのか漠然としていてわかりません。そのため次の課題が見えにくいです。」「パターンによる会話する能力はずいぶん伸びています。でも、これなあに? とたずねるなど自発的に質問しようとする態度が生まれてこないことが気になっています」というご相談をいただいていました。
そこでこの2点を心にとめながら、トムくんとの遊びを楽しむことにしました。すると、とてもうれしい発見と変化がいくつかありました。
ひとつの物事に長い時間、注意をとどめておけるようになったトムくん。そのため時間の流れにそって起こることを観察していて、何かが起こったときにその原因をつきとめたり、うまくいかない事態を改善したりすることができるようになっていました。また、まだまだ潜在的なものとはいえ、コミュニケーションの上での新しい大きな成長の可能性が芽生えていました。
会話をするときに、スイッチを押すと言葉をしゃべる機械のように場面に反応して訓練された言葉を復唱するように見えたトムくんが、言葉を告げた後で相手の反応を期待してわくわくとした待ち構えるような表情で見つめるようになっていました。
以前はちょっとでもじらされると集中がとぎれてプイッとどこかに消えてしまったのですが、「大丈夫かなぁ、どうかなぁ?」という表情でこちらをうかがう根気があります。妹のジェリーちゃんの動向を観察している時間がとても長くなっただけでなく、その表情からは理解力の向上も見てとれました。
自分が何を期待されているのか読み取ろうとする強い意志が感じられ、どんな小さな指示でも、自分で理解できるものは必ず実行しようとするようになっていました。
「先生におふとんを出してあげて」「ジェリーをドリンクバーに連れて行ってあげて」といった複雑そうな指示でも、すぐに了解して、きちんとやりとげることができるのです。以前はよくしていた不安的になるとほっぺたを両手でペチペチ叩いたり、身体を反るようにして突っ張らせて、あごを突き出して威嚇してみせたりする癖が全くといっていいほどなくなっていました。
そのように、目で見て、数値で見比べることができない「人がコミュニケーションを取りながら、できるできないを心で感受していくような分野」での飛躍的な成長が見られたのです。
S.グリーンスパンとS.ウィーダー共著の『自閉症のDIR治療プログラム』という本では、自閉症の子に他の人の考えや感情を理解させることを発達させるための遊びを提案しています。
実生活に関連する玩具を用意し、興味や関心にそって自発的に遊ばせ、身近な人は適度に子どもの遊びの世界に介入して、それを深めていく手がかりを見つけます。シンボリックで空想的な活動や身振りやおもちゃを通じて表現されるので、子どもの要求に応えるだけでいいそうです。
編者注)DIR治療プログラムはメルマガ・バックナンバーをご覧ください。
No.35 はこちら>>
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トムくんの場合、そうしたシンボリックで空想的な活動をうながすために、何を準備したらいいでしょう?
トムくんは食べることが大好きで、料理する過程にも強い興味を覚えています。豆類や麺類が好きで、麻婆豆腐の作り方やそうめんの作り方などは、最初から最後まで暗記しているようです。材料がどこにあるのかも、途中で何をどのように鍋に入れるのかも知っていますし、袋を開けるなどのお手伝いができます。
ですから、トムくんの普段使っている台所道具とそっくりで少し小さいものや、マーボー豆腐などが入っていた袋や箱を再利用して作るおもちゃを用意したら、トムくんの遊びの世界が広がるかもしれないと思いました。
調理場の一部には、できれば、段ボールに銀色のシートを貼って、できるだけ実際のある姿に色を似せてみるといった工夫と、木製の引き出しをつけて、調理道具を入れておくといいかもしれません。
トムくんは、そうした引き出しと調理道具に強い親しみを抱いているからです。そのおもちゃには妹さんが近づくのを制限して、安心して遊べるようにしてあげる必要があります。水道の部分には、ポンプ式のシャンプーの空き容器を取りつけて、押して、水を出しているような感触を楽しむことができるようにするのもいいかもしれません。
そのようにして現実の料理への関心を、お料理ごっこという空想遊びに進化させることができるようになれば、想像の世界で言葉を使うことができるかもしれないし、他の見立て遊びに広がるかもしれませんね。
そうめんの束や豆腐、納豆など、トムくんが大好きな食材のままごと道具はなかなか売っていないでしょうから、豆腐でしたら、スポンジを本物の豆腐の空き容器に入れるとか、納豆なら空き容器にポンポンのついた毛糸を着色して入れるといいかもしれません。また、そうしたおもちゃの道具で、いつもの料理の過程を実演してあげることも大切かもしれません。そうした環境作りで、想像力を使って遊ぶというのはどういうことなのか、理解するきっかけがつかめたらいいなと考えています。
(未来奈緒美)
未来さんのブログ:虹色教室通信はこちら>>
■ あとがき
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千葉県福祉機器展が10月19日20日に我孫子駅前で開催されます。多くは高齢者介護や身体障害の人向けのものですが、レデックスもタッチパネル機と、こども脳機能バランサー for iPad を展示します。20日午前11時からはミニセミナーで「認知症の早期発見と予防」をテーマにお話しさせていただきます。更生施設等のショップや屋台も多数出店されますので、お時間があればお立ち寄りください。
福祉機器展の詳細はこちら>>
ミニセミナー(無料) の詳細はこちら>>
(上記イベントは終了しております)
次回メルマガの発行日は10月26日(金)です。来月発売予定の新製品「ビジョントレーニングII」をレポートします。ご期待ください。
斎藤万比古講演:大人がもつべき視点とは
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