兄が自閉症の妹と母親を撮った映画「ちづる」

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2012.05.11

兄が自閉症の妹と母親を撮った映画「ちづる」

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■ 映画:兄が自閉症の妹と母親を撮った映画「ちづる」
■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・2
■ グッズレポート:「はみがき」
■ イベント:第5回ヴァラエティカフェ
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■ 映画:兄が自閉症の妹と母親を撮った映画「ちづる」
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世界自閉症啓発デー2012 in横須賀で、映画「ちづる」を見ました。成人近い知的障害のある自閉症のちづるさんを、お兄さんの赤崎正和さんが映画監督として撮影し、自身も映像に登場して率直な心情や迷いを含めて表現した鮮烈な映画でした。

ちづる公式ページはこちら>> (紹介映像あり)

大学卒業を間近にするまで、ずっと他の人に妹のことを口外できなかった自分と決別する意味もあって卒業制作でこの映画を作ったといいます。その言葉どおり、妹の行動、それに対する母親の対応に真摯に向かうことで、整理できていなかった自分の気持ちや現状を受け入れる心、将来の職業や生活観が変わっていく様が映像として記録されています。

おそらくこれまではできなかった、障害をもって生まれた娘との生活についての気持ちを正面から母親に尋ね、それに対する回答を得てから、赤崎さん自身の制作への取り組みも変わっていったように感じたのは私だけではないでしょう。自閉症をもつ人について、その兄弟について、親について、これほどストレートに現実を提示され、また、登場人物と一緒に様々なことを考えさせられた作品は初めてです。機会があれば、ぜひとも視聴されることをお勧めします。

京都近くに在住の方は、5月19日(土)にハートピア京都で自主上映会が開かれます。申込は10日までとなっていますが、200名の定員が予約で満員にならなければ当日入場も可能と思います。料金は1000円、京都府自閉症協会他の主催です。

監督の赤崎正和さんの講演会も映画上映後に実施されます。詳しい情報は下記ページをご覧ください。

京都府自閉症協会『ちづる』自主上映会の詳細はこちら>>

それ以外でも、福岡、静岡、富山など多くの場所で自主上映会が開かれます。下記ページが継続的に更新されていますので、ご活用ください。
『ちづる』自主上映会カレンダーはこちら>> 

 

■ 連載:自閉症のトムくんの成長物語・2『トムくんとの出会い』
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トムくんと初めて会ったのは2009年7月のことでした。ブログで虹色教室を知った、トムくんのお母さんが「ここなら療育機関や習い事とは別のフレームで伸ばしてやるべき何かがあるのではないか」とおっしゃって、遠路はるばる家族で教室にいらしてくださったのです。

わたしは自閉症の専門家ではありません。療育としての専門的な知識は、本を読んで知っている程度です。とはいえ、子どもの遊びや学び方を観察してきた経験がありますから、それを生かして、自閉症の専門家とは別の角度から、「トムくんの知力、能力、意欲を引き出す」方法を探れないかと考えていました。

当時のトムくんからは、「自分」というものや「自分の意志」というものが全くと言っていいほど感じられませんでした。まるで、催眠術にかかって眠りながら歩いている人のように、言葉にならない声を発しながら、教室の中をただぐるぐるまわっているだけでした。

この日、トムくんは一度だけ、トムくんという存在を感じられるような行動をしました。教室のイージーチターというハープの一種や木琴に興味を示したのです。その瞬間、「この子のなかには、近いうちに自我や自分の意志というものが目覚めてくるかもしれない」と感じたのを覚えています。

それから1年の間に、トムくんには急速な勢いで自我が芽生えてきました。それまでは見られなかった自分から「~したい」という意志や欲求が生まれ、言葉も増えてきました。文字の読みや書きもできるようになってきました。が、そうしたトムくんの急成長にともなって、

「やりとりを教える困難さ」
「教えることで、嫌いになるものも出てくる矛盾」
「急成長の今、十分伸ばしてあげられているかという焦り」

などにぶつかって、それまでとは別の悩みも増えてきたという話をお母さんからうかがいました。

2010年5月、わたしはトムくんとの再会を果たしました。感覚過敏があるトムくんの負担を考えて、今度はわたしがトムくん宅に泊まりがけでレッスンにうかがうことになりました。それ以来、数ヵ月ごとにこうした形でトムくんへのレッスンを続けています。

それでは、2010年5月、トムくん宅をわたしが初めて訪れた日の話を書かせていただきますね。

学校から帰宅したトムくんは、2階の天井から吊ってあるブランコで遊び始めました。
わたしはブランコにぶつかるような位置にすわって、トムくんがブランコを前にこぎだすたびに、「こわいこわい」と言いながら後ろにさがり、再び前に出ては、ブランコが来たら「こわいこわいとさがってみせました。すると、他の場面では常にあらぬ方向を見ていたトムくんの目が、ブランコが揺れている最中は、わたしをしっかり見ていることに気づきました。こぎだしてきたトムくんのつま先を手の平でトンッと受け止めると、次には、手を目がけて、足を当ててやろうという意志が表情に浮かびました。

そこで、こちらも積極的に、ブランコが後ろにさがる時に「まてまて」と足先を手でたたくふりをして追いかけて、ブランコがこちらにきそうになると、サーッと後ろにさがって「こわいこわい」とオーバーにしてみました。

この遊びがとても気にいったらしいトムくんの表情には、こちらの次の行動を期待したり、期待通りで面白いという笑顔が浮かびました。それでふざけっこをやめたとたんに、自分から手をつき出してわたしの両手をにぎり、「もっと遊ぼうよ」という目で見上げました。

わたしが滞在していた2日の間に、トムくんはびっくりするような進歩をいくつか見せてくれました。ひとつは、「トイレはどこ? 教えてください」という頼みごとの意味を理解し、私の手を引いて、トイレまで連れて行ってくれたことです。その当時は、親御さんたちも周囲の人々も、トムくんにそうしたことを期待する気持ちを持っていませんでした。読み書きなどできることが増えてきたとはいえ、人と関わる力や双方向のコミュニケーション能力は極端なほど伸びてはいなかったのです。

確かにトムくん宅に着いた最初の日には、わたしの目にもそれを今のトムくんに教えるのは不可能なように映っていました。トムくんは人の声のする方へ注意を向けるのが難しい上、他人と自分の区別がはっきりしていないようでした。ですから、他人の要求を察して動くなど、まだ到底できないことのように思えたのです。

その時の滞在を振り返り、自閉症の子がそれまでできなかったことをしようとする動機となるのは何なのか、何がトムくんに響き、トムくんが新しい行動を身につけるのに役立ったのか、気づいたことと滞在中に起こった出来事を綴っていきたいと思います。
(未来奈緒美)

 

■ グッズレポート 「はみがき」
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はみがきの仕方を教えてくれるiPhone、iPadアプリ、お子さんが好きなジェル、いやがりの原因の可能性の高い感覚過敏を押さえるリップ・マッサージなど、yoshikoさんのお勧めです。

グッズレポート「はみがき」はこちら>>

おまけ:発達障害のお子さんが、歯医者さんの適切な対応で歯科治療が受けられるようになっていく実写映像がブログで紹介されています。

ブログ「マサキング子育て奮闘記」5月8日はこちら>>

 

■ イベント:第5回ヴァラエティカフェ
※終了しております。
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前回に続いて、2カ月連続で豊島区での開催です。継続した人的ネットワークを作る母体となれることを目指して、今回は平日午前に開催します。

「大人の発達障害の生き辛さとは?」と題して、ヴァラエティカフェ・メンバーで、成人発達当事者会イイトコサガシ代表の冠地情さんが自らの経験を語ります。自らのアスペルガー症候群の特性を社会に適用できるようにしたコミュニケーション・トレーニングのノウハウを、他の成人当事者にも役立ててもらう活動を全国展開するまでになった経緯は、障害をもつお子さんの保護者にきっと参考になると思います。

主催:ヴァラエティカフェ推進委員会
日時:2012年5月21日(月)午前9時30分~12時
場所:豊島区心身障害者福祉センター 西武線椎名町駅から徒歩7分
費用:500円
詳細と申込はこちら>>

 

■ あとがき
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「DXな日々-美んちゃんの場合」が厚生労働大臣から児童福祉文化賞受賞を授賞されました。ディスレクシア(読字障害)を描いたドキュメンタリー映画です。5月19日から大阪・十三シアターセブンでロードショーとのこと。
『DXな日々』公式ページはこちら>>

「ちづる」に続いて、お薦めしたい発達障害に関する映画を今後、何回かに分けて紹介していきたいと思います。

次回メルマガは、5月25日(金)です。

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